ノエル――ベルツェブル
ルブリアナ市街地はベルツェブルによって壊滅状態に陥っていた。
セリオンはベルツェブルの攻撃を警戒し、側面から近づくことにした。
ベルツェブルは正面に対しては圧倒的なアドバンテージを誇る。
そのベルツェブルに正面からバイクで近づくのは危険だった。
ベルツェブルが再び破壊光線を出した。
光線が建物をぶち抜き、破壊していく。
ベルツェブルは軍と交戦していた。
ベルツェブルは王宮に居座ったまま動きを見せていないようだ。
軍は正面から攻撃したら全滅すると考えて左右二つに分かれて挟み撃ちにする作戦をした。
弓兵が矢をつがえてベルツェブルにダメージを与えようとする。
矢はベルツェブルに刺さったものの、ベルツェブルの体はすぐに再生した。
「くそ! 弓矢も効かないのか……これではまったく勝ち目がないではないか……」
将官が言葉を漏らした。
「悪いが先に行かせてもらう!」
セリオンはバイクを降りてベルツェブルの側面に現れた。
ベルツェブルはいまだにセリオンを認識していなかった。
「おい、やめろ! 民間人が下手に手を出すな!」
「あいにくとこちらはこの手の事件の専門家だ。あんたたちこそ手を出すな」
「何!?」
「黙ってみてろと言ったんだ。こいつは俺が相手をする」
セリオンは大剣を出すと、ベルツェブルに光の刃「光波刃」を放った。
ベルツェブルの左手が切断された。
「ギガアアアアアアア!?」
ベルツェブルが悲鳴を上げる。
ベルツェブルは斬撃を放った主に目を向けた。
セリオンの目とベルツェブルの目が合った。
ベルツェブルは左手を再生させた。
「あれほどの傷でも再生できるのか」
ベルツェブルはセリオンの方を向いて右手でセリオンを押しつぶそうとしてきた。
セリオンは後方に跳んでよける。
ベルツェブルはセリオンに対して次々とパンチを繰り出した。
地面や舗装された道路がそのたびにはじけ飛ぶ。ベルツェブルは口から闇の息をはいた。
セリオンは光の大剣で闇の息を斬り裂いた。
ベルツェブルが再び口にエネルギーをためる。
「破壊光線か!」
セリオンはベルツェブルの攻撃を予測した。
ベルツェブルはセリオンを狙って破壊光線を出した。
地面が爆ぜて砕け散る。
セリオンは大げさによけていて助かったが、軍の半数は消滅した。
確かにベルツェブルの破壊光線は強力だ。
だが、その分次の攻撃に移るのに時間がかかるという弱点があった。
破壊魔ベルツェブルは知性や理性を持たない。
それも無視しえぬ欠点だった。
セリオンはこの両方の弱点をすぐに見破った。
セリオンはベルツェブルが隙を見せるのを待っていたのだ。
セリオンは大きくジャンプすると、ベルツェブルの頭に蒼気凄晶斬を叩き込んだ。
ベルツェブルの頭に大剣の刃がめり込む。
ベルツェブルは即死だった。
ベルツェブルはうつぶせに倒れると、膨大な闇黒粒子まき散らして消えていった。
「見送りはここまで、かしらね」
アンジェラが言った。
セリオンとノエルはツヴェーデン行きの列車に乗る前だった。
「ああ、ありがとう、アンジェラ。そして君と出会い、いっしょに過ごした日々は決して忘れない」
「私こそあなたと同じ時間を共有できてうれしいわ。半年間ありがとう」
アンジェラはノエルに目を向けた。
「ノエルさん、ツヴェーデンに行ったらツヴェーデン語とシベリア語の学習に励んでくださいね。テンペルではシベリア語が公用語ですから。私が基礎を教えましたが、応用は現地で学んでください」
「はい、アンジェラ司祭に教えていただいたことは決して忘れません」
ノエルはベルツェブル教団にさらわれたことで、死亡扱いとなっている。
ノエルが生きていることを知っているのは一部の人間だけだ。
「ノエル……もう会えないかもしれないけれど、あなたの親友で私は良かったと思っているわ。私はいつまでもあなたの親友よ」
そうルドミラが言った。
「セリオンさん、ノエルをお願いしますね」
「ああ、任せておけ。見送りありがとう、ルドミラ」
「ルドミラちゃん、元気でね」
「うん、ノエルもね」
二人は互いに抱きしめあった。
ルブリアナ中央駅でアナウンスが流れる。
ルブリアナ~シュヴェーデ行きの列車が間もなく出発するとのことだった。
「じゃあ、二人とも、見送りはここまでだ。さあ、ノエル、行こうか」
「はい、セリオンさん」
セリオンとノエルは指定席に座り込んだ。
そこは窓ガラスの席だった。
ノエルは涙を流した。
ルドミラもアンジェラも涙を流した。
セリオンはほほえんだ。
これからのノエルの希望が楽しみだったからだ。
列車は発車した。
ルドミラはノエルが見えなくなるまで手を振り続けていた。
セリオンはノエルを連れて、ツヴェーデンにあるテンペルに帰ってきた。
ヴェルテで半年、ノヴァ―ルで半年、計一年間の出向だった。
「ようやくここに帰ってくることができた。なんだか感慨深いな……」
セリオンはノエルと手をつないで歩いていた。
「セリオン!」
「エスカローネ!」
セリオンはエスカローネの姿を、エスカローネはセリオンの姿を互いに見つめた。
そしてすぐに近づく。
二人は抱きしめあった。
「エスカローネ、会いたかった。シエルを連れてきてから半年ぶりか……」
「ええ、セリオン。おかえりなさい。ずっとずっと、私はあなたを待っていたわ」
エスカローネのいい匂いがセリオンを刺激した。
「お兄ちゃん!」
「シエル!」
そこに修道服を着たシエルがいた。
「シエル、俺がいないあいだはどうだった?」
シエルはセリオンに抱きついた。
「うん、さびしかった! でもエスカローネさんがいろいろと教えてくれたの」
「セリオンさん、この人たちは?」
「ああ、放っておいてすまないな、ノエル。まずは自己紹介しようか。この子はノエル。ノヴァ―ル王国から連れてきたシュヴェスターだ」
「ノヴァ―ル王国から? また私たちの兄弟姉妹が増えるのね」
「こっちの金髪のお姉さんはエスカローネ。俺の恋人だ。そしてこっちの子はシエル。ヴェルテ共和国から俺が連れてきたシュヴェスターだ」
「ノエルです。よろしくお願いします」
ノエルはぺこりとおじぎした。
「私はエスカローネよ。よろしくね、ノエルちゃん」
「私はシエルっていうの。よろしくノエルちゃん」
「本当ならこれからノエルを案内したいんだが、スルトやアンシャルに報告に行かねばならないんだ。そこでシエル、ノエルを連れて、テンペルの案内をしてくれるか?」
「私が?」
シエルは目を見開いた。
そしてノエルを見る。
ノエルは襟元が白で、赤いワンピースを着ていた。
「うん、わかった。私がノエルちゃんを案内する」
セリオンはエスカローネと共にスルトがいる聖堂執務室まで行った。
シエルとノエルが残された。
これがこの二人の初めての出会いだった。
「シエルさん、よろしくお願いします」
「ノエルちゃん、シエルでいいわよ? テンペルでは名前で呼び合う決まりなの」
「シエル、ちゃん?」
ノエルは少し困惑しているようだった。
当然だろう。
初めてテンペルを訪れたのだから。
「ノエルちゃんも、お兄ちゃんに連れられてきたの?」
「え? シエルちゃんも?」
「うん、私もお兄ちゃんに連れてきてもらったんだ」
「お兄ちゃん?」
「セリオンさんのこと。ノエルちゃんもそう呼んだら?」
「お兄ちゃん、か……」
この二人はこの時から友人になった。
そしてこの二人を合わせたのはほかならぬセリオンなのだ。
この二人はすぐにうちとけて親友になった。
これがシエルとノエルの物語である。
いかがだったでしょうか。これがセリオンとシエル、そしてノエルが出会った物語です。
いろいろと書きたいことがあってノエルの章は長くなってしまいました。これだけの物語になるということはシエルやノエルの可能性がとても大きいものだと実感します。シエルやノエルに焦点を当てているためエスカローネはあまり目立っていません。これは宗教的に生きたい人を描いた物語です。宗教的に生きるとは聖なる生き方をするということです。現代の日本では宗教的に生きたい人は圧倒的少数派でしょうが、絶無ではないと思います。……だと思うのですが……
私自身は芸術家的な生き方を模索しています。生き方とはその人の本質が問われるのでしょう。この作品では宗教的な生き方が描かれていますが、それも多くの選択肢の一つだと思います。この作品をご覧になった方は自分の生き方に自覚的でしょうか、それとも無意識的でしょうか? このような問いは哲学的かもしれません。生きている意味とは客観的な答えはないと思います。つまりすべての人間の数だけ答えがあるのでしょう。これは別に偉大な生き方をする必要があるわけではありません。誰もが日々労苦をしながら生きています。人によっては会社員として、また公務員として、アーティストとして生きている人もいるでしょう。私自身は工場の労働者として日々働いています。ほぼ毎日夜に作品を入力する日々が続いています。この作品は人に生き方を考えさせるかもしれません。私はアマチュア作家としての生き方を追求しています。セリオンたちの物語がどこまで続くか私にもわかりません。セリオンが存在し続ける限り、希望と未来はあるのだと思います。なぜなら、彼は不滅の英雄なのですから。なお、今後ヘルデンリート・ノイとしてリメイク版を書く構想があります。もうすでに第一章は書き終えているので、近いうちに皆様に見せられると思います。興味がある方はぜひご覧になってください。ヘルデンリートはセリオンを主人公とした叙事詩です。まだ注目されていない人物もいるのでいろいろ描いていく予定です。それでは最終章セリオンの章をお読みください。




