ノエル――ハヤブサ
セリオンは工場に爆弾を仕掛けた。
この工場をこのままにしておくわけにはいかなかったからだ。
それ以外にも、セリオンはこの工場から出ている列車がどこに向かうのか、それに興味があった。
おそらくベルツェブル教団のアジトにつながっているのであろう。
セリオンは武器のレーンが運ばれる製造ラインをたどって、列車へとたどり着いた。
爆弾はリモート・コントロール仕様になっている。
いつでもリモコンで操作可能だ。
セリオンは列車の上に乗った。
セリオンが乗っった列車は工場から出て、青い空のもとに姿を現した。
セリオンはリモコンのスイッチを押した。
とたんに工場の各区から爆発が起き、工場は爆破、炎上した。
後は騎士団が出て、爆破された工場を調べるだろう。
セリオンはそう思いつつ、工場の跡を見送った。
列車は特に何もなく走っていた。
「きさまが工場を爆破したのか?」
「おまえは?」
セリオンの前に黒豹の亜人のような男が立っていた。
彼は腕を組み、獰猛そうな目をセリオンに向けている。
「俺はフラウロス(Flauros)。この列車の責任者だ。きさまは我らに敵対するようだな?」
セリオンは大剣を出して構えた。
「やはり、あの工場や製造していた武器はベルツェブル教とかかわっていたのか!」
セリオンが弾劾する。
「フッ、ベルツェブル教の存在を知ってしまったか。ではきさまを生かすことはできなくなったな。悪いが、ここで死んでもらうぞ!」
フラウロスが両手の爪を伸ばした。
戦闘態勢を整える。
フラウロスは両手に雷の球「雷球」を形成した。
「はっ、! くらうがいい!」
雷球二発がセリオンめがけて飛んでくる。
セリオンは何の技も使わず、その雷球二発を大剣で斬り裂いた。
「なにっ!?」
セリオンの大剣・神剣サンダルフォンに魔法は通用しない。
この神剣は「魔法を斬る」能力を持っているからだ。
「なら、これならどうだ! 風刃!」
フラウロスが風の刃を両手から発した。
風の刃がセリオンめがけて飛来する。
セリオンは大剣を振るった。
セリオンの神剣はあっさりと風刃を斬り裂いた。
「無駄だ。その程度の魔法など俺には通じない」
「おのれえ!」
フラウロスが爪でセリオンに攻撃をしかけてきた。
「邪連爪!」
鋭い爪の攻撃がフラウロスから放たれる。
セリオンはそれを大剣でガードした。
フラウロスは大きくジャンプすると、そこからケリを出した。
セリオンはそれをダッシュでくぐる。
互いの位置が入れ替わった。
フラウロスが両手に魔力を収束させる。
「死ぬがいい! 魔交斬!」
フラウロスが大きな爪の一撃を放った。
セリオンは蒼い闘気を出した。
セリオンは蒼気の斬撃で魔交斬を打ち破った。
「なっ!?」
フラウロスは驚愕した。
セリオンはその隙に、フラウロスに接近し、蒼気の強烈な斬撃を放った。
「がっ!? ウソだろ!? この俺が!?」
フラウロスは黒い粒子と化して消滅した。
ノエルは自分の部屋にいた。
シュタンツ男爵邸である。
シュタンツ家はノヴァ―ルでは新米の貴族だった。
それゆえに父フェルナンドは名誉や功績に飢えていた。
シュタンツ家を当代で伯爵家まで格上げすること――
それがフェルナンドの野心だった。
ノエルは粛々と荷物の整理をしていた。
ノエルは両親には何も言わずに出ていくと決めていた。
そんな事を言ったら絶対に監禁されるに違いないと思っていたからだ。
ノエルはもうシュヴェスターとして生きていくと決めていた。
遠い地に、ツヴェーデンにいくのだ。
言葉の問題があったがノエルは大丈夫だった。
ノエルは幼いころから、ツヴェーデン語とノヴァ―ル語のバイリンガル教育を受けていた。
それゆえ、日常会話に不自由を感じることはない。
それにもともとノエルには語学学習が好きなのだ。
テンペルではシベリア語が公用語なので一から学ぶ必要があったがそれもノエルにとっては不安よりも楽しみが勝った。
そんなことを思っていた時のことである。
「おまえがノエル・シュタンツか?」
「誰?」
ノエルは叫んだ。
そこにはマスクをつけた東洋風の男が立っていた。
男はシノビだった。
「我はベルツェブル教団のシノビ、名はハヤブサ。ノエル・シュタンツ、おまえに用があってきた。いっしょに来てもらおうか?」
「嫌ッていたら?」
「嫌でも来てもらう。我が主がおまえを必要としているのでな」
その瞬間ハヤブサが消えた。
そして。
「あ!?」
ハヤブサはノエルのみぞおちに深々とパンチを繰り出した。
ノエルは倒れた。
ノエルの意識が闇に沈んだ。
セリオンは列車に乗って地下に入った。
黒い闇を照らす光に導かれてセリオンは、ベルツェブル教団のアジト「地下神殿」に入った。
この神殿の地下に、破壊魔ベルツェブルが封印されているという。
地下神殿は古代の遺跡を思わせた。
荘重なレリーフで内部の装飾はなっていた。
セリオンは列車から降りて地下神殿の内部に足を踏み入れる。
「ここは少し、暗いな……たいまつが周囲を照らしているのか? それも魔石を使われたたいまつが……」
神殿は白一色で統一されたようだった。
セリオンは背後に宇宙を模した背景の部屋に足を踏み入れた。
「ようこそ、セリオン・シベルスク」
男は金髪、紅瞳で豪奢な髪をしていた。
彼は黒いスーツの上に、紅の法衣をまとっている。
その隣にノエルがいた。
「ノエル!」
「セリオンさん!」
「きさま、ノエルをどうするつもりだ?」
「何、何も心配はいらない。彼女は巫女としてここにいるだけだ。私たちは君が来るのをずっと待っていた。青き狼セリオンよ。私の名はウラヌス(Uranus)。ウラニアの兄だ」
「ひさしぶりね、青き狼?」
「おまえは……」
そこに奥の扉から一人の美女が現れた。
彼女は長いベージュの髪に、黒いスリットの入ったイブニングドレスを着ていた。
「ウラニアか!」
「よく私の名を覚えていましたね。ほめて差し上げますわ」
と、ウラニアは妖艶な笑みを浮かべた。
「ウラヌス、ウラニア! おまえたちの目的は何だ?」
「フッ、決まっていることだ。私たちはこれからベルツェブルの復活のため、神殿最下層に行く。ノエル嬢の血を使って、ベルツェブルを復活させ、ルブリアナを廃墟に変えるのだ」
「俺もルブリアナに着て半年たった。友人や知り合いもいる。ルブリアナに愛着もある。俺はここでおまえたちを倒し、ベルツェブルの復活を阻止する!」
セリオンが強く言い放った。
「まあ、君はそう来ると思っていた。そこでだ、ハヤブサ!」
「お呼びでしょうか、我が主?」
そこに一人のシノビが現れた。
そのシノビはひざまずき、ウラヌスにこうべをたれる。
「ハヤブサよ、我々が儀式を終えるまで青き狼の相手をしてくれ」
「御意!」
ハヤブサは立ち上がって、セリオンの方を向いた。
そしてハヤブサは両手でやや短めの刀を抜いた。
「ではここは任せたぞ、ハヤブサよ。私たち三人は地下へと赴くのでな」
「セリオンさん!」
「ノエル! 待っていろ、今助けて……」
そこにすさまじいスピードでハヤブサが斬りつけてきた。
「くっ!?」
セリオンは大剣でハヤブサの攻撃を防御した。
「そうはさせぬ! 我がシノビの技、とくと思い知らせてくれる!」
ウラヌスたちは地下へと姿を消した。
ハヤブサがセリオンと間合いを取った。
ハヤブサはシュリケンを取り出してセリオンに投げつける。
それは回転を加えた投擲だった。
セリオンはシュリケンを大剣で弾き飛ばした。
それでもハヤブサは執拗にシュリケンを投げてくる。
セリオンは斬撃で応酬した。
「この攻撃は汝には効かぬか……ならば我が忍術の技、とくとご覧あれ!」
ハヤブサは両手を組み合わせて忍術を繰り出した。
「イカズチの術!」
青いイカズチが現れてセリオンを薙ぎ払う。
セリオンは後退して、イカズチの術をかわした。
今度はハヤブサは上からイカズチを落とした。
セリオンはとっさに横によけてかわした。
「ドトンの術!」
セリオンの足元に土煙が生じた。
セリオンはすぐさま横にステップして回避する。
「ホムラの術!」
火炎の波がセリオンを襲う。
セリオンは大剣の刃を凍らせると、氷の刃でホムラの術を斬り裂いた。
「リュウスイの術!」
ハヤブサが水の流れを呼び出した。
ホースから放たれるように流れる水がセリオンに迫る。
セリオンは水のスピードを見切って、最少の動きでかわした。
「フウマの術!」
セリオンの周囲に風の刃が生じる。
風の刃はセリオンを斬り刻もうとする。
セリオンは退くより、前に出た。
そして大剣でハヤブサを攻撃する。
「ぐうっ!?」
ハヤブサが苦悶にあえぐ。
セリオンの大剣の重量がハヤブサを追いつめる。
後退したのはハヤブサだった。
「よもや我が忍術をやり過ごすとは……さすが青き狼よ! だが、我が刀の円舞! 思い知らせてくれるわ! 影槍!」
黒い影がセリオンまで伸びた。
すると影から槍が上へと出現した。
セリオンは冷静に後退してそれをやり過ごす。
するとハヤブサの姿が消えていた。
ハヤブサは影から突然出現して、セリオンを斬り刻もうとする。
セリオンは大剣ですべてのハヤブサの攻撃を防いだ。
セリオンは大剣に蒼気をまとわせる。
蒼気の刃、蒼波斬でセリオンはハヤブサを斬りつけた。
ハヤブサはガードしようとしたが、セリオンの斬撃のスピードが上回った。
「ぐっ!? がはっ!? 不、不覚! ウラヌス様、お許しを!」
ハヤブサは叫ぶように言うと仰向けに倒れた。




