ノエル――サラマンダー
セリオンとノエルは港町をぶらぶらと散歩していた。
海は穏やかで、潮の香りが漂い、陽光は南国の暖かさと共に照り付けていた。
カモメたちが空を舞う。
港ではカモメの声がよく聞こえた。
そんな穏やかな日のことである。
セリオンは一人の少年が悪意を持って近づいてくるのを感じた。
セリオンは相手の意図に乗ることにした。
少年はセリオンに近づいてわざとぶつかった。
セリオンは少年の手をつかんだ。
「スリだな?」
少年はセリオンの手を払い、逃げようとした。
しかし、それも子供のスピードである。
セリオンにはのろく見えた。
セリオンにはノエルに宿に帰るよう伝えて、少年の後をつけた。
少年はきょろきょろと周囲を見わたした。
明らかに挙動不審である。
セリオンは少年にばれずに入った建物に近づいた。
そこは孤児院だった。
その建物は木造で、茶色に塗装されていた。
セリオンは近づいて、扉をノックする。
「はい、ただいま。あっ、どちらさまですか?」
中から出てきた女性は茶色いみつあみの長い髪をしていた。
家事をしていたのかエプロンをつけている。
年齢は30代くらいだろうか。
「こちらの家に入った男の子が私にスリをしまして」
「ええ!?」
女性は凍り付いた。
大変なショックを受けているようだ。
セリオンは室内を見わたした。
セリオンはスリの少年と目が合った。
「あそこにいる黒い髪の少年です」
「ラファエーレ(Rafaele)! あなたまさか本当にスリなんかしたの!?」
女性が詰め寄る。
「……だって、おカネが必要なんだろ、ウチの孤児院には?」
少年はためらいながら言った。
「ラファエーレ、いくら何でもスリは悪いことでしょう? それくらいわかるわよね?」
「……」
「どうやら少しばかり事情がありそうだな。まだあいさつしていませんでしたね。私はセリオン・シベルスク。シベリウス教の騎士です」
「私はガブリエーラ(Gabriela)。このドゥランテ孤児院の施設長を務めております。少し、説明させていただくために、家の中に入っていいですか?」
「ええ、もちろん」
セリオンは孤児院の中に案内された。
そしてテーブルにつき、お茶を入れてもらった。
セリオンはガブリエーラとラファエーレと対面して座った。
「それにしても、どうしてセリオンさんからおカネを盗もうとしたの?」
ガブリエーラがラファエーレを詰問する。
「だって、姉ちゃんは孤児院の経営が苦しいって言ってたろ? それで少しでもカネの足しになるんだったらと思って……」
ラファエーレはうつむいた。
「それで俺からスろうとした、そういうことか?」
「うん、そうだ、あんちゃん」
「孤児院は経営的に苦しいのか?」
ガブリエーラは顔をそむけた。
「ええ、経営的に良いとは言えませんね。領主様から毎月寄付がありますが、年々、切り詰められるばかりで……一人当たありのおカネも足りているとは言えません」
「よければ俺が大口の寄付をしようか?」
「え?」
「これも何かの縁だ。俺はモンスターハントもやっている。カネになるモンスターを狩って、おカネに換金すれば、一時的には経営は持つはずだ」
「しかし、見ず知らずの人にそこまでしてもらうわけには……」
「かまわない。俺はカネに困っていない。それに俺は騎士だ。弱きものを守るのもその務めだ。この仕事、俺が請け合おう」
セリオンは夜、宿屋の部屋ノエルのもとを訪れた。
「明日は出かけてくる。モンスターハントをやりうと思っているんだ」
「そっか……わかった。シュラクーザの町でも見てくることにするよ」
「すまないな、ノエル。どうしてもやりたいことができたんだ」
「? どうかしたの?」
「ああ、それが……」
セリオンは孤児院がおカネに困っていいることを話した。
「ふーん、そうなんだ。なんだか、セリオンさんらしいね」
ノエルは笑顔を向けた。
「ありがとう、ノエル」
「ううん、いいんだよ。じゃあ、セリオンさん、おやすみ! Gute Nacht!」
「ああ、おやすみ。Gute Nacht!」
セリオンはノエルのほおにキスをすると、ノエルの部屋から退出した。
セリオンはそれから明日のことを考えた。
シュラクーザの近くには火山島アイトナ(Aitna)がある。
アイトナには宝があるといううわさがある。
おそらく、魔力結晶を腹に宿したドラゴンなどが生息しているはずだ。
セリオンは昼にアイトナのパンフレットを見たが、危険なモンスターとして、「サラマンダー(Salamander)」が生息していると載っていた。
「おそらく、サラマンダーを倒せば火竜石をだすだろう。それをカネに換金すれば、孤児院の経営はしばらくは持つだろう。もっとも領主に知られないようにやる必要があるが……」
領主が多額の寄付をされた聞いたら、寄付金を少なくする可能性があった。
今の領主ミケーレはカネにケチとのもっぱらの評判だった。
次の日、セリオンはノエルと朝食を済ませて、漁師のイサルコ(Isarco)と交渉し、船をアイトナまで出してくれるように頼んだ。
セリオンはイサルコに三日後に迎えに来てくれるように頼んだ。
「ここが、火山島アイトナ……ん?」
その時セリオンは大地が揺れるのを感じた。
地震だ。
「なるほどな。火山の近くでは地震があると聞いていたが、これがそうか」
アイトナはまさに原始の森、原生林のパラダイスのようなところだった。
今だ、こんなところが存在したのか、セリオンはそう思った。
なんでも、島には半魚人が住んでおり、シュラクーザと商取引もしているらしい。
まったくの閉鎖的種族ではないようだ。
セリオンはまず半魚人の村に行くことにした。
半魚人の村に行くのは簡単だった。
標識が各地に建てられていたからだ。
セリオンは一時間ほどで、標識通りに歩いて集落についた。
集落は原始的で、木造の柵や門が作られていた。
それも開放的な作りであり、他種族を拒んでいるようには見えなかった。
セリオンが門をくぐる。
「おや? ニンゲンかいナ? ニンゲンがこんな所まで来るとは珍しいこともあるナ」
一人の半魚人んがセリオンに声をかけてきた。
「すまない。俺はサラマンダーを倒しにこの島に来たんだ。だれかサラマンダーの情報を知っている人はいないだろうか?」
「そういうことなら、族長に尋ねるといいんだナ。オラが族長の所に案内するゾ」
「ありがとう」
村の中はテントがいくつも建てられてあった。
半魚人たちは工芸品にも優れているようだった。
セリオンはほんの五分ほどで族長のもとに案内された。
「族長! 話をしたいっていう人が来たから連れていたゾ!」
「どれどれ……こりゃーたまげタ! 人間がわしらの集落にくるなんてナ! ちょうどいいところに来タ。わしらのところで飯をくていケ」
「いいのか?」
「旅人をもてなすのがわしらの文化ダ。さあ、入っタ、入っタ!」
「ありがたく頂くとしよう」
セリオンはテントの中に入って、族長と食事を共にした。
食事は焼き魚だった。
「おまいさんは何の目的で、この島に来たんダ?」
族長がフランクに聞いてきた。
「ああ、実はサラマンダーを倒すためにこの島に来たんだ。サラマンダーがどこにいるか知っているか?」
族長の表情が「サラマンダー」という単語を聞くと厳しく変わった。
「サラマンダーか……火竜だナ」
「ああ、そうだ」
「サラマンダーの居場所は知っていル」
「本当か!」
「サラマンダーは北の洞窟を根城にしていル。集落の者は危険なため、あえて近づこうとしなイ」
「北の洞窟か……ありがとう、行ってみる」
「まあ、待テ」
立ち上がったセリオンを、族長が呼び止める。
「どうかしたのか?」
「これは旅人をもてなす慣習からの忠告ダ。悪いことは言わなイ。サラマンダーは強イ。島から帰ることをお勧めすル」
「俺にはどうしてもやらなくてはいけないことなんだ。安心してくれ。俺はこれでも、何体もの竜を倒してきた」
「……どうしてもというのなら止めはしなイ。気をつけロ」
「ああ、魚をありがとう。おいしかった」
「よかっタ。客人や旅人はむげにはしなイ。それがわしらの伝統ダ。じゃあナ。幸運を祈ル」
セリオンは半魚人の集落から出ていった。
向かうのは北の洞窟だ。
セリオンはさっそく北の洞窟に行った。
北に向かう道は火山へと上がる坂道にあった。
「ここが北の洞窟か……? ん? 中から音が!」
セリオンはとっさに大剣を出した。
洞窟の中からは大型生物の歩く音が聞こえた。
サラマンダーの違いない。
そしてサラマンダーが姿を現した。
火竜と言われているだけあって、赤い体が目に入った。
サラマンダーはセリオンの前に出現した。
サラマンダーは全身でセリオンを威圧してきた。
しかし、セリオンには効果がない。
サラマンダーはそれをふしぎそうに眺めていた。
サラマンダーは炎の息をはいた。
セリオンは蒼気の刃で炎を斬り裂く。
セリオンはサラマンダーを一撃で仕留めることにした。
セリオンは雷光剣を出した。
戦いに緊張感はつきものだ。
それは実力の高低にかかわらず必ず発生する。
セリオンにとってサラマンダーは獲物だった。
サラマンダーの知能は低い。
そのため、隙さえあればいつでもセリオンは攻撃を仕掛けることができた。
「今だ! 雷光剣!」
セリオンは収束した雷光の一撃をサラマンダーの頭に叩き込んだ。
サラマンダーは一撃で沈んだ。
サラマンダーは赤い粒子と化して消滅する。
「さて、赤い宝石が出てくるはずだが……」
セリオンの予想通り、しばらく待つと赤い宝石が出現した。
「よし、思った通りだ。あとはシュラクーザで換金するだけだな」
セリオンは残りの二日間を半魚人の族長のもとで過ごし、帰りの船が来るとそれに乗ってセリオンはシュラクーザに戻った。




