ノエル――海賊
セリオンは朝ノエルと朝食を食べていた。
食べていたのはパスタとハムエッグだった。
朝の優雅なひと時をセリオンとノエルは過ごしていた。
そんな時である。
バタンと入口のドアが開けられた。
「大変だ! 港が海賊たちに占拠された! フォエニ(Phoeni)海賊団の連中だ! 危険だから港には行くな! 自警団に任せておくんだ!」
「海賊か……」
「セリオンさん?」
「海賊が悪事を働いているのなら俺が止めに行かなければならない。ノエルは部屋で本でも読んでいてくれ」
「うん……」
海賊たちはシュラクーザに対して、身代金を要求した。
町を襲わない代わりに、カネを出せ、というわけだ。
現在、海賊たちと自警団が武器を取ってにらみ合っていた。
フォエニ海賊団のボスはアンニバーレ(Annibale)と言って、ノヴァ―ルの軍隊にいた経験があった。
それゆえ、軍事学の知識を海賊行為に応用できたし、その戦闘技術も海賊の荒くれ者どもを率いるには必要だった。
フォエニ海賊団の戦いはシンプルだ。
まず港を占拠して封鎖、それから民衆を恐れさせて身代金をいただく――これである。
「ククク。民衆を恐怖に陥れればカネはすぐにでも上がる! こざかしい自警団は腕力でねじ伏せる! 完璧な計画だ」
アンニバーレは自画自賛した。
「ボス! 領主の館に行ってきた連中がかえってきたっス!」
「おう、それで、領主の奴は何と言ってきた?」
アンニバーレの赤い髪に、赤いあごひげが揺れた。
アンニバーレは一目でボスとわかるよう、赤い服を着ていた。
「ボス! ただ今帰りやした!」
「よく帰ってきたな! 身代金を用立てているか、領主はよ?」
報告に戻ってきた海賊たちが困った顔をした。
「それが……領主ミケーレ(Michele)は一文足らずもカネを払うつもりはないと言いました」
それを聞いてアンニバーレは激怒した。
「なんだと!? 温情のあるこの俺にも我慢の限界はある! 自警団を皆殺しにした後で、町に火を放て! そうすれば領主もカネを払うだろう! そしておまえたちには略奪を許可する!」
「「「ヘイ、ボス!」」」
自警団の面々は港一帯を封鎖したものの、海賊たちは動きを見せないでいた。
自警団には海賊からの要求……身代金の支払いをしろと迫られていた。
もし、支払わないなら町に火を放ち、町を略奪するとも。
自警団が封鎖している最前線を一人の青年がジャンプして越えていった。それは鮮やかだった。
「おい! 戻ってこい! 一人で海賊に立ち向かうなんて無理だ!」
「命を無駄にするな!」
自警団員が声をかける中、青年は走り去っていった。
海賊の船は港に停泊していた。
港へは板で渡されていて、移動することができた。
セリオンは海賊の船の前に現れた。
「なんだあ、おまえは?」
「くくく、そんなに死にたいのか?」
「バカな奴だなあ?」
「おい、こいつを見せしめにしようぜ?」
海賊たちが剣でセリオンに斬りかかる。
しかし、この四人は一撃で斬り伏せられた。
まさに一撃。
ザコでは戦いにならない。
セリオンにとってはたやすいことだった。
セリオンは海賊船に乗り込んだ。
「おまえたちの命は俺が持っている。死にたくなければこの町から去れ」
「ギャハハハ! 何言ってんの?」
「頭がおかしいんじゃねえか?」
海賊たちはセリオンをバカにした。
いっせいに海賊たちが襲いかかってきた。
セリオンは大剣を振るった。
その剣はまるで美しい舞のようだった。
次々と海賊たちは倒され、斬殺されていく。
セリオンの圧倒的戦闘力に生き残った海賊たちはおじけづいた。
「ひいいいい!?」
「なんだ、こいつ!? 強すぎんぞ!?」
「おまえたち、死にたくないならしゃべれ。おまえたちのボスは……!?」
セリオンはとっさに危険を感じて大剣でガードした。
大剣にナイフが当たっていた。
ナイフが落下する。
「はあ? この俺様のナイフを防いだだと? これでも俺は元軍人! ナイフの達人だ! その俺の攻撃を防ぐとはぼうず、やるじゃねえか」
そこにボスのアンニバーレが姿を現した。
「おい、手下ども! こいつの相手はこの俺がする! おまえたちは離れていろ!」
海賊たちはボスの命令に忠実にセリオンから距離を取り始めた。
アンニバーレの腰元には一振りの剣があった。
それはサーベルだった。
アンニバーレはサーベルを抜いた。
そしてセリオンに突き付ける。
「さあ、勝負と行こうじゃないか、小僧! 俺のかわいい部下どもを殺してくれた礼をさせてもらうぜ!」
アンニバーレはサーベルで突きを繰り出した。
その突きは速くかつ洗練されていた。
それも普通の人間には反応できないレベルだった。
しかし、セリオンは簡単に大剣でガードする。
「ほう……俺の突きをガードしたか……だが、本番はこれからだ!」
アンニバーレはいくつかの部位を狙ってセリオンに突きを放った。
アンニバーレの突きはことごとくセリオンに防がれた。
アンニバーレはいら立ってきた。
セリオンは軽く横なぎに大剣を振るった。
「おっと!」
アンニバーレは冷静に後退してそれを回避する。
アンニバーレはナイフを取り出して、セリオンの顔を狙って投げつけた。
常人では反応できないスピード。
だが、セリオンには通じなかった。
セリオンは大剣で顔をガードした。
「これもガードされたか……どうやら小僧の実力を認めないわけにはいかねえな」
アンニバーレはセリオンから距離を取り、水の弾を形成した。
水属性初級魔法「水泡弾」である。
不定形の水の弾をアンニバーレはセリオンめがけて投げつけた。
「無駄だ」
それをセリオンは大剣で斬った。
「なんだと!? いったい何があった!?」
アンニバーレは自分の魔法がかき消されたことに対して驚愕した。
「これならどうだ? 水泡槍!」
アンニバーレが左手から水の槍をだす。
水の槍は鋭く形作られ、セリオンに向かって飛んでいく。
セリオンは水の槍を迎え撃った。
まともにくらえば体に穴が開く、この攻撃もセリオンは大剣を振るってかき消した。
アンニバーレはこの事態に恐れおののいた。
いまだかつて自分のナイフや魔法をここまで無力化できた者はいない。
だが、アンニバーレもまだすべての力を出したわけではない。
「今ので終わりか?」
氷のように冷たい声でセリオンが戦いの終わりを告げる。
「俺の大剣は魔法を斬る能力がある」
「ふざけるな! 俺の実力はこんなものではない! これが、俺の最強の技だ! 水蛇!」
アンニバーレは剣に水を集中し、強烈な水の突きを繰り出した。
常人では防ぎきれない威力があった。
力強く、速く、そして美しかった。
だが……
セリオンは蒼気の刃を形成し、アンニバーレの水蛇を迎え撃った。
技同士のぶつかり合いはセリオンが制した。
アンニバーレ甲板をバウンドした。
「ぐっ!? まさか、これも通じんとはな……」
「まだやるか? 命があるうちにあきらめろ」
「ふっ、俺には切り札がある! それを今使わせてもらう! いでよ! 海竜バルカ(Barca)!」
「アオオオオオオオン!!」
海の底から声がこだまする。
海から何か質量のあるものがやってくる。
それは姿を見せた。
それは水色の竜だった。
竜がアギトを開ける。
「ハッハッハ! どうだ! この威容は! これが海竜バルカだ! さあ、バルカよ! こやつを抹殺せよ!」
「アオオオオオン!」
バルカが口を開けた。
強力な水しぶきの息だ。
まともにくらったら船の外に吹き飛ばされるだろう。
まともにくらったらの話だが。
セリオンは蒼気を出した。
蒼気は水しぶきを一刀両断にしていく。船に乗っていた海賊の一部が水しぶきに当てられて船の外に落ちた。
アンニバーレはまったく気に掛ける様子はない。
セリオンは蒼波刃を出した。
二つの刃がバルカに向かう。
交差した傷がバルカののどにつけられた。
「オオオオオン!?」
バルカが叫び声を上げる。
バルカは怒りの目でセリオンを見た。
バルカの口に氷の力が集約する。
バルカは船の上に氷の光線を吹き付けた。
巨大な氷が船の上に発生する。
「とっとっと!? おい、バルカ! 主人の俺様を殺す気か! もっと加減して攻撃しろ!」
氷の塊が突如切断された。
セリオンの斬撃だった。
セリオンの攻撃は氷の塊をバターのようにたやすく斬り裂いた。
「強力な攻撃を持っているな。だが、味方までも巻き込んでいるぞ。それとも味方とは思っていないのか?」
セリオンは不敵な笑みを浮かべた。
アンニバーレは言葉でバルカを罵倒し続けていた。
バルカの目がギロリと光った。
その瞬間、バルカの体が伸び、アンニバーレに喰らいついた。
「なっ、なぜ、この俺様を……!?」
バルカはアンニバーレを海へと投げ捨てた。
どっばーんと水しぶきが起こる。
「主人を殺したのか? いや、最初から主人とは思われていなかったんだな」
バルカが今度はセリオンに目を向ける。
バルカは口を開けてセリオンにかみつこうとしてきた。
その時だった。
美しく蒼くきらめく刃がセリオンの大剣にともった。
セリオンはその刃でバルカの口を斬り払った。
「アオオオオオ!?」
バルカが絶叫を上げる。
バルカは海に倒れこみ、沈んでいった。
生き残った海賊たちは自警団に拘束された。




