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Das Heldenlied   ヘルデンリート 20 Die Hymne  作者: Siberius
ノエルの章
32/59

ノエル――ミレーナ

「私は神を信じます」

「私は神を信じます」

ミレーナとローザが信仰告白した。

「おめでとう、ミレーナ、ローザ。あなたがたは晴れてシベリウス教の兄弟姉妹の一員です」

そうアンジェラが言うと、拍手が沸き起こった。

信仰告白は重大なイベントだ。

この日のために教会にシベリウス教の兄弟姉妹が集まっていた。

そこにはノエルもいた。

ルドミラはまだ改宗しようか迷っているようだった。

信仰告白の時には一種の祝宴が開かれる。

質素だが、軽い食事とワインが提供される。

「ミレーナさん、ローザさん、よろしくお願いします!」

ノエルが二人に握手を出した。

ミレーナとローザもノエルと握手した。

「よろしくお願いします、ノエルさん」

「こちらこそ、ローザさん」

それをセリオンはほほえましく見ていた。

ノエルがセリオンに近づいてきた。

「? どうした、ノエル?」

「うん、ミレーナさんのことなんだけど……」

「彼女がどうかしたのか?」

「うん……たぶん、あの人も貴族だと思うんだ」

「貴族、ね」

セリオンはアンジェラと話をしているミレーナを見た。

「どうしてそう思うんだ?」

「だって、あの人の立ち振る舞いは気品があるもの。あれは生まれ育った時からのものだよ」

「なるほど、確かにな。そういう見方もあるのか」

セリオンは目を細めた。

「おや? どうかしたのですか?」

「ローザ?」

そこにローザが現れた。

手にはワイングラスを持っている。

「そういえば、ローザはどうして改宗したいと思ったんだ?」

「私は貧しい家庭で育ちました。父と母は早くから病気で亡くなり、祖父が育ててくれたのです」

「嫌なことを聞いたか?」

「いえ、別に気にしないでください。父と母のことを私は覚えていません。その代わり、祖父からたっぷりと愛情を受けて育ちました。私は祖父からたくさんのことを学びました。特に他者を愛すること、人は皆同胞であり、仲間であると教えられました」

「その思想はシベリウス教の思想、特に強調される兄弟姉妹愛に通じるな」

「そうですね。私には正教を信仰することはできませんでした。私が神官になったのは聖職につけば、貧しい人々を救えるのではないかと思ったからです。ですが、それは幻想にすぎませんでしたが……」

「そうか」

「ですが、私は今でも貧しい人々を救いたいと思っています。その考え自体は捨てていません。私たちは無知と貧困から人々を救えるはずです」

「すばらしい信仰だな」

そう語るローザのほおは上気していた。

「今度、スラムに行く予定があるんだ。よかったらいっしょに行かないか?」

「はい! ぜひごいっしょさせてください!」

ローザがニコリとほほえんだ。

「ねえ、セリオンさん。私もそれに出ていい?」

「ああ、いいぞ。俺も出るからいっしょに行こう」

「うん!」

「セリオン、ちょっといいか?」

「? どうした、オッタヴィアーノ?」

そこに来たのは騎士のオッタヴィアーノだった。

「面倒なことが起きているんだ」

「面倒なこと?」

「ああ、広場にいる男が自分の娘を返せと言ってしつこくてな。おまえが対応してくれ」

「わかった」

セリオンは教会前広場に行った。

するとそこにはいかにも貴族らしい、上品で高級な服を身につけた男がいた。

その男の後ろには馬車があった。

「おまえがこの施設の責任者か?」

開口一番、男はセリオンを見下して言った。

「直接の責任者ではないが、俺は責任ある立場にあるな」

「ちっ、話にならんな」

男は舌打ちした。

「だいたい、おまえこそ何者だ? ここは公共の空間だ。市場いちばもある。馬車など邪魔なだけだ。即刻撤去してもらおう」

セリオンが詰め寄った。

しかし、男はセリオンの忠告など聞いていなかった。

「おい、人の言葉をきいているのか?」

シベリウス教では、神のもとに公正、公平にビジネスをやることが認められている。ビジネスは善であり積極的に行うべきことでもある。

特に市場いちばは商業の中心的場所でもあった。

集まった富は共同体に還元すべきだという考えがある。

「ミレーナ!」

男がミレーナの名を呼んだ。

ミレーナは教会の入口にいた。

ふとミレーナが振り返る。

「お、父様?」

ミレーナが目を大きく見開く。

男はずかずかと教会に近づいてきた。

それを見て見張りの騎士たちが互いに槍を交差させる。

「それ以上の侵入を認めない!」

「立ち去れ!」

騎士たちが警告してきた。

「私はアルフォンソ・デスタ(Alfonso d'Esta)! エスタ家の者だ! 私の娘を返してもらおう!」

そこのアンジェラが現れた。

「これはいったいどういうことですか!? あなたはいったい何がしたいのですか?」

「おまえは誰だ? この施設の責任者を呼べ!」

「私が責任者です!」

「なんだと!? バカな!?」

アルフォンソはまじまじとアンジェラを見た。

「その言葉に偽りはないだろうな?」

「私はアンジェラ。この教会シベリウス教ルブリアナ支部の司祭です!」

「何い? おまえが聖職者だと!? 女が聖職者とはな……」

「女では何か話の相手としては不都合だと?」

「……フン! まあ、いい。そこにいるのは私の娘だ。娘を返せ!」

「失礼ですが、ミレーナさんは逃亡しました。そこを私たちが保護したのです」

「保護だと!? そんなバカなことがあるか! さっさと娘を、ミレーナを返せ!」

アルフォンソはものすごい剣幕でアンジェラをにらみつけた。

「お断りします! 彼女は私共が保護しましたし、今は彼女はシベリウス教徒です。引き渡しなど拒否します!」

アンジェラは堂々と言い切った。

「……おまえは平民か?」

アルフォンソが質問を変えた。

「私は平民出身です! それが何か?」

「平民の分際で貴族の私に逆らってただで済むと思っているのか? 娘の保護権は私にある! このような事態のために貴族法院に訴えてもいいのだぞ?」

アルフォンソは露骨にアンジェラを見下した。

「ノヴァ―ルの法では15歳以上は人格権が認められています。つまりミレーナさんが15歳以上であれば彼女に意思決定する権利があります。彼女は16歳でしたね? もはやあなたの支配を甘受する必要はありません! ミレーナさんは私たちの同胞です! 私たちはミレーナさんを見捨てません!」

「はあ……いくらだ?」

「はい?」

「いくら支払えば娘を返してくれると聞いているのだ」

「何をバカなことを! おカネの問題ではありません! もう話はいいでしょう! お帰りください!」

「くっ、おのれ……このままでは済まさんぞ! ここは剣の力で……!?」

アルフォンソが剣を抜こうとしたとき、とっさに大剣が首筋に当てられた。

「それまで、だ」

「なっ!? 反応できなかった!? この私が!?」

「もう、帰れ。ミレーナはおまえの所有物じゃない」

セリオンが冷厳に突き付ける。

「くそっ! 覚えていろ!」

アルフォンソはきびすを返して馬車に乗った。

そしていなくなった。

ミレーナは涙を流していた。

「すいません。私のせいで……」

それをアンジェラは優しく抱きしめる。

「ありがとうございます、アンジェラ司祭……」

「ええ、もう大丈夫よ」

「ちょっといいか、アンジェラ?」

「何?」

セリオンとアンジェラは教会の奥に移動した。

「あの男、アルフォンソは本当に貴族法院に訴えるかもしれないぞ? この国では貴族が権力を握っている。わいろでも送って判決をねじ曲げるかもしれない。厄介なことにならなければいいが……」

セリオンが懸念を口にした。

「大丈夫よ。もしもの時はあなたがいるでしょう?」

アンジェラがいたずらのような顔をした。

「最悪のケースも想定しておく。でもな、俺はノヴァ―ルに出向している身だ。いつツヴェーデンに帰ることになるかも限らない。俺をあまりあてにしすぎるなよ?」


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