ノエル――アルトゥーロ
「暗部が戻ってこないだと!?」
正教の高官たちは愕然として言葉を出した。
「あの三人は暗部の中でも飛び切りの者たちだった。我々の有効なカードが……」
「なぜだ!?」
「少しは落ち着け!」
「大神官様……」
大神官は部下たちの動揺を抑え込んだ。
「暗部による秘密裏の暗殺は失敗した。これは冷厳なる事実だ。我々はこれを受け入れなばならない。次の手を考えるべきだ。我々は団結しなければならない。一つや二つの失敗で道や志を曲げるわけにはいかぬ」
「し、しかし、これ以上シベリウス教と戦うのは犠牲が多すぎます! 末端の部下からは不満が出ております!」
「いいではないか」
「は!?」
大神官ピエトロは立ち上がった。
「これは通常の戦いではなく、シベリウス教との戦争だ! これは聖戦なのだ! 正規の神官を呼べ!」
「はっ!」
会議室に、二人の神官が呼ばれた。
「お呼びでしょうか、大神官猊下?」
彼はエルコレ(Ercole)。
彼は神官の中でも武術に秀でている。
髪は赤だった。
「ただ今参上しました、大神官猊下」
彼女は神官ローザ(Rosa)。
紫色の長い髪をし、杖を持っていた。
彼女からは理知的な雰囲気を感じ取れた。
彼女は主に風と、光の術を使う。
ピエトロが発言する。
「今まで一般の神官には伝えていなかったが、我々正教はシベリウス教と敵対している。今まさに、シベリウス教との聖なる戦争を宣言したところだ。シベリウス教は我々正教にとっての脅威となった。ゆえに国外に追放しなければならない。そこで君たちの力を借りたい。力を貸してくれるかね?」
「はっ! 聖職に一身をつくすつもりであります!」
とエルコレ。
「はっ! 勅命を拝命いたします!」
とローザ。
「うむ、それでは実戦部隊の指揮を二人にゆだねる。よいか、失敗は許されんぞ?」
エルコレとローザは会議室を去った後、二人で会話した。
「やれやれ、結局上の連中の失態は俺たち実戦部隊に押し付けられるのか……けっ! 会議は踊る、か」
「つまるところ、正教のお偉方が気にしているのは自分たちの特権ではないでしょうか? 貴族が民衆を支配するということが無条件で認められると思っているのですよ」
「けっ! やってらんねえなあ! 連中は保守とか言っても実態は貴族主義ってことだろ? 俺は平民だ。だから貴族のために戦うなんてバカバカしいね。おまえはどうするんだよ、ローザ?」
「私は……これも時代の流れだと思っています。もはや貴族が没落する日が来たのかもしれません。歴史上の存在は移ろいますから。万物が流転するように……あなたには正教に殉ずる気はありますか?」
エルコレはいかにも忌々しそうに。
「今の正教にはもうついて行けないね! どうする? 任務をこのまま遂行するか? 正直俺にはやってられないぜ」
エルコレが悪態をついた。
「私は迷っています。生まれは正教徒ですが、シベリウス教にも魅力は感じます」
「なんだ? 改宗でもする気か?」
「まだ、そこまでではありませんが。ですが、正教を捨てるいい機会かもしれませんね」
神官エルコレは部隊を教会前の広場に展開した。
まずは広場への入口を封鎖する。
神官戦士たちが広場を占領した。
民衆はこれを見て不安になった。
民衆は貴族が考えているほど愚かではない。
真に教育の機会が与えられていないがゆえに、その真価を発揮できないのだ。
歴史的には貴族による平民への抑圧が、平民が権利を獲得し、貴族が特権を失う端緒となった。
正教が歴史上、シベリウス教と敵対し、平民の自由や人権、権利を圧殺しようとしたことが、正教の終わりの始まりだった。
セリオンはこれを見て、正教が本格的に動き出したと思った。
神官は正教の聖職者だ。
今まで暗殺という方法を使ってきたのは正教のせいだと事が露見するのを防ぐためだったはずだ。
それが今や、正規部隊を投入してくるとなると、本格的にシベリウス教を潰すつもりなのだろう。
「どうやら本気で正教と敵対したようだな。裏の仮面を取り去ったか」
「シベリウス教徒よ、聞こえるか? 私は神官エルコレ」
「同じくローザ」
「我々はシベリウス教の者と交渉したい! 返答はいかに!」
「アンジェラ?」
セリオンがアンジェラを見た。
「ええ、応じましょう! 会議は教会でいたしましょう!」
アンジェラが大声で言った。
神官エルコレと神官ローザは武器を捨ててシベリウス教との会議に臨んだ。
「我々はシベリウス教に投降するためにやってきた」
エルコレが言った。
会議にはセリオン、アンジェラ、エルコレ、そしてローザが臨んだ。
「私たちはもう正教の思想と決別したいと思っています」
「それは……つまりシベリウス教徒になるということですか?」
「我々の思いは一つ。それは貴族も平民も区別なく生きられる国だ。ノヴァ―ルはそうあってほしい。しかし、現に貴族制度は存在する。これを廃止するのは難しいだろう。現実的には平民が権利を獲得するのが一番だ。貴族とは共存していくことになるだろう」
「私はシベリウス教に改宗したいと思っています。私は正教にはもはやついて行けません」
「つまり、エルコレは投降、ローザは改宗希望、それでいいか?」
とセリオン。
「その通りだ。そこでなんだが、部下たちの命も保証してもらいたい。我々はシベリウス教との戦いを望んでいない」
「私の身はシベリウス教に預けます。今後の交渉はエルコレに一本化してください」
エルコレはローザを抱きしめると、別れの挨拶を述べて外にいる神官部隊に向かって行った。
神官戦士たちはエルコレの説得を受け入れた。
セリオンがエルコレのもとにやってきた。
「話は済んだか?」
「ああ、みな貴族のために死にたいとは思わなかったようだ。俺も、部下を見捨てるわけにはいかんからな」
「こうして共存していけるのが一番いいと俺は思う」
「そうだな、異なる宗教とはいえ互いに敬意は持てるはずだ」
その時非情な刃が振るわれた。
その刃は何人かの神官戦士たちの命を奪った。
「いけないなあ、敵と交渉するなんて……敵は滅殺すべしと言われていたのに」
「おまえは?」
とセリオン。
「ぼくは勇者アルトゥーロ(Arturo)上層部からエルコレとローザの監視のためにやってきた。これは聖なる戦争だと上層部は言っていた」
「アルトゥーロ閣下!?」
「エルコレ、君はもう異端認定された。君はもう正教徒ではない。ただの異端者だ。ゆえに君にはここで死んでもらうよ」
アルトゥーロという男は黒髪、黒目で白い服に白いマントをはおり、白い丸が胸元についていた。
「フッ、死ぬがいい!」
アルトゥーロの刃がエルコレに迫った。
セリオンはそれを大剣で受け止めた。
「君は?」
「俺はセリオン・シベルスク。シベリウス教徒だ」
「ああ、シベリウス教の敵、敵の中の敵。青き狼、そして剣聖だったね。へえ、ぼくの攻撃を受け止めるとはね」
「彼らは投降した。もはや戦う意思はない。それを殺すのが正教のやり方か?」
「フフフ……その通りさ。敵に投降するなど許されていいことではない。全員、死に値する!」
アルトゥーロがイナズマの突きを放った。
セリオンはそれを大剣で受け止めた。
「へえ、やるじゃないか。ぼくの突きを受け止めるとはね。でも、これはどうかな?」
アルトゥーロはイナズマの刃をセリオンに飛ばしてきた。
飛来する刃がセリオンを襲う。
アルトゥーロの攻撃は強力だ。
セリオンは光波刃を出して、イナズマの刃を無力化した。
「もっといくよ!」
アルトゥーロは次々とイナズマの刃を発射してきた。
セリオンもそれに対抗して、光波刃を出す。
いつつきるともしれぬ斬撃のやり取りだった。
とっさにアルトゥーロは間合いをつめてきた。
イナズマの斬りを放つ。
セリオンはバックステップでそれを回避する。
アルトゥーロはイナズマの力を剣に収束させた。
そしてすさまじい突きとして繰り出した。
セリオンは蒼気を出した。
あらぶる蒼気があふれる。
セリオンは蒼気の刃でイナズマの突きを迎撃した。
「くっ!? これさえ受け流すか!? だがこれならどうだ? ぼくの最強の魔法だ! 雷光竜!」
イナズマが竜の姿を取っていく。
イナズマの竜はアギトを開けると一直線にセリオンに向かって飛んでいった。
「蒼気凄晶斬!」
セリオンは蒼気の技を出し、雷光竜に対抗する。
二人の力はぶつかり、スパークを生じさせた。
やがて明暗が出てくる。
セリオンの技がイナズマの竜を破った。
「そんな!? このぼくの最強の魔法が!?」
セリオンはダッシュしてアルトゥーロに近づくと、蒼気の刃で斬りつけた。
アルトゥーロは剣を前に出して防ごうとした。
セリオンの刃はアルトゥーロの刃を砕き、斬撃で斬りつけた。
「があっ!? そんな……このぼくが……勇者アルトゥーロが死ぬというのか……」
アルトゥーロはばたりと倒れた。




