ノエル――ブレンタ・マジェンダ
セリオンが教会に戻ると、そこにはアンジェラだけでなくスラオシャもいた。
「スラオシャ! 来ていたのか?」
「やあ、セリオン。久しぶりだね」
スラオシャが手を上げた。
「ノエルがブレンタにさらわれた」
「わかっているよ。ノエルは人質にされただけだ。その命を取られる心配はない」
「セリオン、あなたはどこにたどり着いたの?」
アンジェラが尋ねた。
「ああ、驚くべきことに、国の機関だったよ。王立錬金術アカデミア――そこがブレンタの研究所だったのだろう。例の宝石魔獣とも決着をつけてきた。もっとも、ジェルデボーゴが施設を破壊してしまったけどな」
「国の機関……なるほど……怪物の出どころは国だったわけですか。まあ、戦争用の生体兵器だったんでしょうか。アレッシア王女はこのことは?」
「ああ、知らないようだ。知ったら驚くだろうな」
「セリオン、ブレンタは何と?」
「この黒い宝石が案内してくれるそうだ。ブレンタは『闇の邪園』にいると言っていた。
セリオンは例の黒い宝石をスラオシャに見せた。
「これは……おそらく魔力を流すと起動するのだろう。これは『闇の邪園』へのパスポートというわけだ」
スラオシャが黒い宝石をセリオンに返した。
「いくのか?」
「ああ。ノエルを連れ戻しに」
「神の祝福がおまえにあるように」
「ありがとう。じゃあ、行ってくる」
「セリオン、必ず帰ってきてね」
「もちろんだ、アンジェラ」
セリオンが宝石に魔力を注ぎ込む。
宝石が黒い輝きを放った。
セリオンはその光の中に消えていった。
気づくとセリオンは青い草原の上に立っていた。
「ここが『闇の邪園』……どうやら一種の亜空間のようだな」
「その通ーりー! よくここまでたどり着いたねー! それは褒めてあげるよー!」
「おまえは?」
セリオンの前に大きなボールに乗った道化師が現れた。
「ふっふっふ! ぼくはピシュカ(Pischka)。悪魔ピシュカさ。ブレンタ様のところに行きたいようだけど、そいつはさせないよー! このぼくを倒してから行くんだねー!」
「おまえを倒せばいいのか。なるほど、シンプルでわかりやすい。いいだろう。おまえの相手になってやる」
セリオンは大剣を構えた。
「これでもくらえー!」
ピシュカが石の槍を投げつけた。
それのはかなりのスピードがあった。
「なめるな!」
セリオンは硬石槍を叩き落す。
ピシュカは両手を前に突き出して、硬石槍を連発してくる。
石の槍がセリオンを襲った。
セリオンはそれらを大剣ではじき飛ばしていく。
「なかなかやるなー! これならどうかなー?」
ピシュカの岩石弾。
岩石がセリオンに向けて飛来する。
万一くらうようなことがあれば、岩石に押しつぶされるだろう。
それらの岩石をセリオンは蒼気の刃で叩き斬った。
岩石はすべてセリオンによって斬り刻まれた。
「くらえー!」
ピシュカの土衝波。
ピシュカは土の波動をセリオンに向けて放った。
土衝波は地面を盛り返していく。
セリオンはすばやくこの攻撃の範囲を見破って横によけた。
「どくどくだー!」
ピシュカの毒弾。
ピシュカは毒の弾をセリオンに発射した。
それをセリオンは蒼気の刃で斬り裂いた。
「石をたくさん出してやるー!」
ピシュカの多弾・石弾。
初級魔法だが頭にくらったりしたら致命傷になる。
セリオンは飛来してくる石弾を膨大な蒼気で迎撃した。
ピシュカの獄門。
闇の門が開き、生命エネルギーを吸い取ろうとする。
セリオンは光の大剣で獄門自体を斬り捨てた。
「うわっ!? あぶないなー! これならどうだー!」
ピシュカは多くの毒の槍を形成した。
「毒の槍で串刺しになっちゃえー!」
ピシュカが叫ぶ。
セリオンは飛来する毒の槍を光の大剣で次々と斬り払った。
「毒紋をくらえー!」
セリオンの足元に毒の紋章が描かれた。
紋章から毒が吹き出る。
「はっ!」
セリオンは毒の紋章に光の大剣を刺して、紋章を消した。
セリオンはピシュカに光波刃を放った。
光の刃がピシュカを斬る。
「うわああああ!? 痛いー!?」
セリオンは大きくジャンプして、ピシュカに光の大剣を突き付けた。
「がああああああああ!? なっ!? まさか!? このぼくが!? そんな……!?」
ピシュカは青い粒子と化して消えていった。
セリオンは邪園の奥にある研究施設風の建物に目を向けた。
「あそこに建物があるな。あそこにブレンタがいるのか?」
セリオンはその建物に向かって歩いてみた。
しかし、ふしぎなことに、いくら近づいても建物に近づくことができなかった。
「これは幻術か?」
建物はまるで蜃気楼だった。
青い草原と白い大地がどこまでも広がっていた。
「まずいな……この幻術を破らない限り、永遠にこの邪園から出られないぞ。なら、試してみるか!」
セリオンは神剣に光の力をまとわせた。
そしてその光の刃を何もない空間に放ってみた。
すると、ガラスの割れる音がした。
「幻術は破られた、か」
気が付くと、セリオンは建物の前にいた。
鏡のような扉を開ける。
室内に入ると、レンガのフロアの中にいた。
そして三方に絵がかかっていた。
「ここはブレンタの研究所だろうか? だとしても、ブレンタはどこにいるんだ?」
セリオンは目の前にある絵のもとに行った。
そこには玉座に座るブレンタが描かれていた。
セリオンはその絵に触れてみた。
すると、セリオンは吸い込まれて別のフロアに移動した。
セリオンは格闘場のような場所にやってきた。
そこにはブレンタが立っていた。
「ブレンタ!」
「フッフッフ! よくここまで来たねえ! ほんとによく来れたものだよ。全ての事件の黒幕のあたしのところまでねえ」
「ブレンタ、俺はおまえを許さない!」
セリオンは大剣を出した。
「アッハッハ! ならどうするんだい?」
「すべてはおまえの命で支払ってもらう! 俺はお前を殺す!」
「アッハッハッハ! できるかねえ!」
ブレンタは背中についていたメイスを取った。
「それじゃあ、ぼちぼちと始めようじゃないか! 行くよ!」
ブレンタはセリオンに急接近してきた。
ブレンタは大きく振りかぶってメイスでセリオンを打撃する。
セリオンは間合いを正確に読んでブレンタの攻撃をかわした。
セリオンの斬り。
今度はブレンタがガードする。
ブレンタはセリオンの攻撃をメイスでガードした。
ブレンタはセリオンにメイスを叩きつける。
セリオンは後ろに跳んで回避した。
さらにブレンタは踏み込んで、メイスを横に薙ぎ払う。
セリオンの大剣とブレンタのメイスが交差した。
今のところ二人は様子見だった。
二人とも相手の力量を測るために、攻撃を繰り出している。
二人はいまだ身体強化すらしないで戦っていた。
「少し強く、行くよ!」
ブレンタがメイスで突きを放った。
セリオンはスライドするかのようにブレンタの攻撃をかわした。
セリオンの反撃。
セリオンはあえてブレンタにガードさせるよう斬りつけた。
ブレンタはガードする。
これもセリオンの狙い通り。
セリオンはブレンタの脚を狙って大剣を振るった。
ブレンタはバックステップでセリオンの斬りを回避する。
セリオンが追撃する。
セリオンの鋭い斬撃がブレンタを襲う。
ブレンタはメイスで防いだ。
「うっ!?」
ブレンタは自分のメイスを見た。
メイスに傷ができていた。
「やるじゃないか……このメイスに傷をつけるなんて……さて、じゃあ、少し本気を出すとしようか! あんたも様子見はやめておきな!」
ブレンタがメイスに魔力を送り込む。
「はっ! 力砕撃!」
ブレンタの力を加えた打撃がセリオンに叩きつけられた。
セリオンはそれをガードした。
「くっ!?」
セリオンの体に圧力が加わる。
セリオンの足場はひびが入って砕けた。
セリオンは身体強化でブレンタの攻撃を受け止めた。
生身のままではブレンタの圧力でつぶされていただろう。
「まさか、これを受け止めるなんてねえ! でも、こいつはどうだい?」
ブレンタがメイスに炎をまとわせる。
「火炎棍!」
ブレンタが炎のメイスを叩きつけた。
セリオンは氷結刃を出して、ブレンタの火炎棍を相殺する。
力の強さではセリオンのほうが上だった。
セリオンが力でブレンタのメイスを押しのける。
「ちいっ!」
ブレンタは不利と思ったのか、セリオンと距離を取った。
セリオンは大剣に蒼気を送る。
セリオンは蒼気の刃を飛ばした。
「蒼波刃」である。
「フン!、そんな攻撃など!」
ブレンタはメイスに炎をまとわせる。
ブレンタは炎の刃を蒼波刃に向けて放った。
二つの斬撃が飛ばされた。
二つの斬撃はスパークを発生させながら、爆風を引き起こした。
ブレンタは炎熱棍――熱量を持つメイスでセリオンを攻撃した。
セリオンはブレンタの攻撃を見切ってすばやくかわした。
「まだ、まだ、続くよ!」
ブレンタはメイスを持って、炎をまとい、くるくると回転し、上昇した。
ブレンタの技「火竜昇」である。
セリオンはそれをガードした。
さらにブレンタは落下の際、炎を下方に向けて放つ。
ブレンタの技「火竜墜」である。
セリオンはこれも大剣で防いだ。
「クックック! 楽しいじゃないか! これでもくらいな! 炎撃!」
セリオンに炎が襲いかかる。
セリオンは神剣の魔法を斬る能力を発動し、炎撃を斬った。
「なっ!? 魔法を斬っただって!? なんだい、その力は!?」
ブレンタが驚愕した。
「だけどそれだけじゃあ、あたしの魔法は止められないよ!」
ブレンタは左手の上に火球を形成した。
「アッハッハ! 生徒の火球よりもっと威力も洗練さもあるよ! これをくらうがいい!」
セリオンは火球に斬りつけた。
そしてセリオンの姿は爆炎に呑まれる。
「アッハッハッハ! バカだねえ! 火球は爆発こそ、真骨頂なのさ!」
しかし、爆発の中から無傷のセリオンが現れた。
「なっ、なんだって!? 無傷!? そんなバカな!?」
「俺には氷の上位技がある。それならおまえの炎に対抗できる」
「そんなまぐれは効かないよ! くらいな! 火炎槍!」
炎の槍をブレンタはセリオンめがけて放った。
「氷星剣!」
セリオンは氷の輝く刃でブレンタの炎を迎撃し、斬り払った。
「くっ!? なら、こいつを使うまでさ! 火竜爆転撃!」
ブレンタは垂直にジャンプすると、炎のメイスを回転させて、セリオンに投げつけた。
蒼気を緻密にかつ細く鋭く形成すると、その刃でブレンタのメイスを斬り裂いた。
ブレンタのメイスが高い音を立てて落下する。
「……底が見えないねえ、あんたは。いいじゃないか! あたしも本気の自分を見せてあげるよ! より苦しく死ねることを光栄に思うんだね! はああああああああ!!」
ブレンタは全身の魔力を高めた。
ブレンタは全身を変質させた。
ブレンタの体が青くなり、顔は獣のようになった。
獣魔・ブレンタである。
「があああああああ!!」
ブレンタの咆哮――セリオンを威圧する。
ブレンタは両手に炎を形作った。
ブレンタはセリオンに火炎弾を二発放った。
セリオンは飛来する火炎弾を氷星剣で斬り払う。
「これで、死にな!」
ブレンタは火炎槍を投げつけた。
「無駄だ!」
セリオンは氷の剣で火炎槍を迎撃した。
「あたしも魔力の出し惜しみはしないよ! くたばりな! 魔炎撃!」
ブレンタは大きな炎の塊をセリオンに向けて出した。
セリオンはそれが着弾する前に、氷の剣でそれを斬り裂いた。
「これもダメかい! なら、くびり殺してあげるよ!」
ブレンタは口を開き、口に熱エネルギーを収束した。
「があああああああ!!」
咆哮と共にブレンタは口から熱戦をはいた。
熱線が室内を薙ぎ払う。
セリオンは床に倒れこんで、熱線を回避した。
「一撃技が通用しないかい! ならば、数で攻めようじゃないか!」
ブレンタの多弾・火炎弾。
数多くの火炎弾がセリオンに迫り来る。
「アッハッハッハッハ! さあ、逃げ場はないよ!」
セリオンは火炎弾を引き付け、それを蒼気の斬撃で迎撃した。
「えーい、これでもくらいな!」
ブレンタの火炎噴。
炎がセリオンの足元から噴出する。
セリオンは一歩後退してこの攻撃をかわした。
「炎がだめなら闇で行くよ! 闇力!」
ブレンタの闇力。
紫のドームがセリオンを包み込む。
セリオンは消えたかに見えた。
「はっ! しょせんはこの程度……!?」
闇力の中から、セリオンが姿を現した。
セリオンは光の大剣を持っていた。
「ええい! 忌々しい! とっとと失せな!」
ブレンタは闇黒槍を出した。
セリオンは光波刃を出して闇黒槍を防いだ。
「死にやがれ、大火球!」
ブレンタが大きな火球を出した。
学院の生徒ではひねり出すこともできないだろう。
大火球がセリオンに向けて撃たれた。
セリオンは蒼気を収束する。
それから蒼気の刃を鋭くして大火球を斬り裂いた。
「がーおー!!」
ブレンタが口から炎の息をはいた。
セリオンは氷結刃でそれを切断する。
さらにブレンタは灼熱の息を出してきた。
これは炎の息の上位版だ。
それがまるで火炎放射のように発射された。
セリオンは氷星剣を出して、この息も無力化した。
「今まで、よく生き残ったとほめてあげるよ。でもね、こいつでフィナーレさ。こいつがあたしの最強の魔法だよ! 魔封剣!」
ブレンタの上空に巨大な剣が現れた。
この剣は闇をまとっていた。
「さあ、死にな!」
魔封剣がセリオンに向けて発射された。
セリオンは全力の蒼気で魔封剣に立ちはだかった。
セリオンは全力の蒼気を叩きつけた。
魔封剣にひびが入った。
「なっ!?」
ブレンタが驚愕する。
「はああああああ!!」
セリオンは徹底的に蒼気を叩きつけ魔封剣を砕いた。
「そんな……そんなバカな!?」
ブレンタの目が大きく見開かれた。
「これまで、か?」
セリオンが大剣をブレンタに見せる。
「くっ!? なめんじゃないよ! あたしのさらなる闇を見せてあげようじゃないか! はあああああ!!!」
ブレンタの体が膨れ上がった。
ブレンタは赤紫の巨大な牛のような姿に変身した。
「ガアアアアアア!」
鬼獣・ブレンタである。
ブレンタの目から光線が出た。
ブレンタの目が妖しい光を出し、光線を出したのだ。
セリオンはすばやくよける。
ブレンタの闇の息。
セリオンは大剣に光をまとわせ、光の大剣で薙ぎ払った。
ブレンタの熱線。
ブレンタは口から熱戦をはいた。
セリオンは大きくジャンプしてかわした。
セリオンは光の力を集めた。
そして、ブレンタに連続で斬りつけた。
セリオンの天地神気斬である。
ブレンタの体は次々と乱れる斬撃によって斬り刻まれていった。
セリオンはとどめとばかり、光子斬を放つ。
致命傷だった。
ブレンタは元の姿に戻った。
ブレンタは死んでいた。
「ブレンタは死んだか。そうだ、ノエルは?」
ブレンタの体から緑の宝石が出てきた。
緑の宝石は割れて、ノエルを中から出した。
「ノエル!」
「うーん……」
「ノエル……どうやら無事のようだな」
セリオンはノエルを背負った。
すると亜空間に激震が走った。
「この空間が崩壊しようとしている」
ブレンタの亜空間「闇の邪園」はこうして崩れ去った。




