ノエル――宝石師
「おまえがセリオンだな?」
「? 誰だ? おまえたちは?」
「ククク、俺は騎士ドメニコ(Domenico)」
「俺は騎士ジュゼッペ(Giuseppe)」
セリオンはルブリアナ支部教会にいた。
「で、騎士のおまえたちが俺に何の用だ?」
「昨日から、ノエル・シュタンツが家に帰っていない」
「なんだと!?」
「そこで最後に彼女と接触した人物、つまりおまえに疑いがかかった」
セリオンは大剣でこの二人を斬り殺そうとも考えたが、思案の末おとなしく捕まることにした。
「事情聴取だ。おとなしく捕まるんだな」
セリオンはドメニコとジュゼッペに連れていかれた。
二日間の尋問――というより暴行の末、セリオンは解放された。
これは一時的な釈放であって、正式な逮捕ではないだけだった。
「まったく、とんだ目に遭ったよ」
「大丈夫?」
セリオンとアンジェラが教会で会話していた。
セリオンは傷はポーションで直していた。
「俺のことはいい。それよりも、ノエルだ。本当にノエルが誘拐されたらしいな」
「そう……あなたがいないあいだにこんな手紙が送られてきたわ」
「手紙?」
セリオンはその手紙を受け取って中身を読んだ。
そこには……
「ノエルを返してほしければ、一人でドゥエンナ(Duennna)の森に来い、か……罠だな」
「そうね。私もそう思うわ」
「しかし、罠に乗ってみるのも事態の解決につながるかもしれない。あえて行こう」
セリオンは手紙に書いてあった通り一人で森にやってきた。
そしてそこで騎士ドメニコと騎士ジュゼッペと再会した。
セリオンは露骨に嫌な顔をした。
「へへ! そんな顔をするなよ、大将!」
「それにしても、どうして一人でこんな所を歩いているんだ?」
「ここは、ノエル・シュタンツがさらわれた所なんだよ」
「つまり、そういうことか?」
とセリオン。
「犯人はおまえだ。セリオン・シベルスク!」
セリオンは大剣を出して、騎士ドメニコの首をはねた。
ドメニコの体が倒れる。
「ひ、ひいいいいいい!? 何しやがる!?」
「おまえたちのようなやからは生かしておく価値もない」
「いいのか!? 俺たちを殺したら、おまえが真っ先に疑われるぞ!?」
「ならば話せ。これは誰が仕組んだ策略だ?」
「へっへへ! それはトビアス様だ」
「トビアス?」
「そうだ! トビアス様は闇の力を手に入れた! その力は絶大だ! おまえごときじゃ、今のトビアス様には勝てないぞ!」
セリオンは大剣をジュゼッペの首筋に近づけた。
「ひいっ!?」
「口のきき方には気をつけろ。もういい。行け!」
「へっへへ!」
騎士ジュゼッペは森の奥へと消えていった。
発信機がつけられていたとも知らずに。
「これでいい。あとはあいつを泳がせておけば、事件の真相がわかるだろう」
セリオンはジュゼッペを泳がせると、なんと国の機関にたどり着いた。
「ここは……王立錬金術アカデミア?」
セリオンは国の闇を見たような気がした。
「ここは何らかの研究機関なんだろうが、いったい何のために存在しているんだ? それにしても、ノヴァ―ル王国はなぜこんな機関を?」
セリオンは内部を見た。
そこは驚くべきことに小型の宝石魔獣を製造していた。
「!? あれは宝石の付いた魔獣!? 驚いたな。まさかあの魔獣を作ったのも、国民を襲わせたのも国だったのか……」
この王立錬金術アカデミアは魔獣の製造工場でもあった。
「ぎゃああああああ!?」
奥で悲鳴が聞こえた。
「!? こっちか!」
セリオンは悲鳴が聞こえたところへと急いだ。
そこにはアドリアーニ先生とノエル、斬られたジュゼッペがいた。
「ノエル、こんなところにいたのか! アントニオ・アドリアーニ! 何をしている!」
セリオンが詰問した。
「やあ、セリオン君。トビアス様の言いつけを守れなかった愚か者を始末しているんだよ、私は」
「「トビアス、様!?」」
セリオンとノエルの声がハモった。
「ひっひいいい!? お許しを、アドリアーニ様!?」
ジュゼッペが懇願する。
それをアドリアーニは低俗なものを見つめるような目で剣を振るった。
ジュゼッペの首と胴体が離れた。
「それにしても、こんなところまでよく来てしまったね、セリオン君?」
「ノエルから離れろ。さもなくば」
「さもなくば?」
「死んでもらう」
「ほう……」
「セリオンさん! 助けて! ぐっ!?」
「ノエル!」
ノエルの腹にアドリアーニの拳がめり込んだ。
ノエルが倒れる。
「私も剣と共に生きた人間だ。立ち合えば、相手のことはわかる。君が強いこともね。まったく手間をかけさせてくれたよ。あの時キマイラにやられてしまえば、こんな面倒なことは起こらなかったのにね」
「!? あの魔物もおまえの差し金か!」
「そうだ。わざわざおまえを殺すために招き入れたのだ。あのお方の言った通り、おまえは邪魔になるとね」
「あのお方? 誰だ、それは?」
「ククク……私たちの盟主のことさ。さあ、君と私は剣を交えようじゃないか!」
アドリアーニが剣を抜いた。
アドリアーニの剣がセリオンを襲う。
アドリアーニは歪んだ笑みを浮かべる。
しかし、アドリアーニの剣は空振った
アドリアーニの背後にセリオンは立っていた。
アドリアーニは驚愕する。
アドリアーニは動けない。
「で、この程度か?」
「なっ、なめるなあ!」
アドリアーニが斬りかかる。
それをセリオンはあっさり大剣で受け止める。
アドリアーニが斬り結ぶ。
それらをセリオンはあっさりと回避する。
「く、くそっ!」
この時ほどアドリアーニが苦戦したことはなかった。
彼はいつもさわやかな顔で余裕で剣を振るうイケメンだった。
戦いではいつも余裕で勝ってきた。
彼の弱点は苦しい戦いを経験したことがないことだ。
それはいつも格下の相手とばかり戦ってきたということだ。
セリオンの一撃。
アドリアーニは剣で受け止めようとするが、剣をはじき飛ばされる。
アドリアーニが壁にぶつかった。
「ぐっ、おのれ!」
アドリアーニが醜い顔をさらす。
彼にとっては屈辱だった。
アドリアーニが斬りつけてくる。
セリオンは軽々と斬り返す。
強い――これが青き狼。これが剣聖。
「ちいっ! よもやこれほど力の差があるとはね! だが、これまで、だ! これを使えば、私は最強に至る!」
アドリアーニはある薬品を飲み干した。
アドリアーニから闇の力があふれだす。
邪悪な力が増す。
「さあ、大いなる闇の力を見せてやろう!」
アドリアーニがすさまじい魔力斬撃を繰り出した。
アドリアーニの闇黒斬である。
セリオンは光の斬撃で反撃した。
光と闇がぶつかり合う。
セリオンの斬撃がアドリアーニの剣をはじき飛ばす。
「なっ!?」
アドリアーニは目を大きく見開いた。
セリオンの斬りがアドリアーニを襲った。
「がっ、がはっ!?」
アドリアーニは倒れて死んだ。
セリオンは倒れているノエルを見た。
ノエルの服装は白い襟もとに赤いワンピース、そして赤いブーツだった。
「ノエル、しっかりしろ!」
「う、うん……」
ノエルが目をゆっくり開ける。
「? セリオンさん?」
「ああ、俺だ!」
「セリオンさん! 怖かったよう!」
ノエルはセリオンに抱きつき泣き出した。
「ああ、安心しろ。もう怖いことはない……」
セリオンは優しくいつくしむようにノエルを抱きしめる。
「なんだ、アドリアーニ先生はやられたのか……以外に大したことないなあ……」
「!? トビアス!?」
ノエルがいっそうセリオンに抱きついた。
「ノエル……ぼくの愛しのノエル……そんな怖がらないでおくれ……ぼくは君を助けにきたんだ。その男から助けに、ね。君はだまされているんだよ」
「トビアス、おまえがノエルを誘拐させたのか?」
「そうとも言えるし、そうでないともいえるね。それは我が主の望みゆえ、ね」
「おまえの主だと? トビアス、これは警告だ。これ以上ノエルにかかわるな。でなければ、俺がおまえを殺す」
「おおー、怖い、怖い。だけれど、そんな脅しなんてぼくには効かないよ。ぼくはね、あれから闇の力を手に入れたんだ!」
トビアスの顔が歪んだ。
「すばらしいよ、闇の力は! こんなすばらしい力があったなんて、ぼくは何も知らなかったんだ!」
「……頭がおかしくなったようだな。闇の力で最強に至る道はない」
「さあ、見せてあげよう! この内から働くすばらしい力の真価を!」
トビアスが剣を出し魔力を高めた。
トビアスの闇力。
闇が円形をかたどり、包み込む。
闇力はセリオンを呑み込んだ。
「フッハハハハハ! どうだ! これが力だ! これが闇だ! これこそ、闇の力のすばらしさだ!」
しかし、闇力が消えると、無傷のセリオンが姿を現した。
「なっ、何!?」
セリオンの大剣・神剣サンダルフォンが輝いていた。
セリオンの光輝刃である。
「この光の剣が消されない限り、あらゆる闇の力はこの俺にダメージを与ええることはできない」
セリオンが冷厳に言う。
「なら、これはどうだ! 闇黒槍!」
闇の槍をトビアスがセリオンに放った。
闇黒槍も中級の闇魔法である。術者の魔力によっては強力な魔法だ。
逆のことを言えば、これは術者の魔力を測るバロメーターでもある。
セリオンは光の大剣で闇の槍を斬り払った。
「どうした、トビアス? これがおまえの力か?」
「なめるなあ! 今までのは小手調べさ! これがぼくの真の闇だ! それを見せてやる!」
トビアスは剣に闇をまとわせた。
闇の力が刀身に集まる。
「まずは試し斬りだ!」
トビアスがセリオンに斬りかかる。
セリオンは軽くトビアスの攻撃を受け止めた。
「フッ! まあ、試し斬りはこんなものか! だが!」
トビアスの闇の剣が禍々しさを増していく。
トビアスはさらに闇の力を高めて闇を剣に注ぎ込む。
「これをくらうがいい!」
先ほどより、闇の剣の圧力が増した。
セリオンに闇の剣が振り下ろされる。
しかし、セリオンは明らかに強力な一撃を軽々とガードして見せた。
「おのれ! なら力の出し惜しみはしない! ぼくの全力の闇を見せてやる!」
トビアスの剣が闇をまとい、膨れ上がった。
あまりに禍々しい刃にセリオンも警戒心を抱く。
「おい、トビアス! それ以上闇の力を行使するのはよせ! どんな反動があるかわからないんだぞ!」
セリオンはトビアスに警告した。
「ハーハハハハハハ! そんな戯言など信じるか! 体中を闇が駆け巡る! 闇の力であふれる! ぼくは闇を信じる! ぼくは闇を求める! 闇こそ真理だ!」
トビアスが闇の刀身を振り下ろした。
すさまじい闇の一撃だった。
セリオンは光輝刃であえてこの攻撃を受け止めた。
光と闇がぶつかり合い、火花が生じる。
セリオンは押された。そのまま倒れそうになる。
「ハッハッハッハ! これが真理だ! 闇の前に光など無力! さあ、闇の深さを思い知れ! あぐわっ!?」
「どうした?」
トビアスに異変が生じた。
「力が……力が失われる! なっ、なんだ、これは!? なぜだ!? 闇は真理のはず……」
トビアスがよろける。
これが闇に頼った報いだった。
トビアスは闇から裏切られたのだ。
これが闇の力を信じた者の末路だった。
トビアスはセリオンへの嫉妬で動いていた。
トビアスはセリオンに嫉妬した。
トビアスの嫉妬が彼を闇へと向かわせ、そして彼を破滅へと導いたのだ。
「ウソだ! こんな、こんなはずじゃ!? がああ!?」
トビアスは背後から闇の槍で貫かれた。
「いい加減に見苦しい真似はおやめ」
「せ、先生!? な、なぜ!?」
そこにはふっくらとした人物が立っていた。
「おまえは、ブレンタ・マジェンダ! おまえがトビアスに闇の力を与えたのか!」
「アーッハッハッハッハ! おもしろいショーを見せてもらったよ! ほんと、見ていて楽しかったよ! 嫉妬のあまり暴走する小僧を見ているのはね! 実に愉快だったよ!」
「ブレンタ・マジェンダ! おまえはいったい何者だ!」
「フフフ……いいじゃないか……ここまでたどり着いたご褒美に教えてあげるよ。あたしは宝石師ブレンタさ」
「宝石師だと? まさかジェルデボーゴを操っていたのも、国境紛争で恐竜を召喚をしたのも、革命闘士が自決したのも、アドリアーニを動かしていたのも、すべて……すべておまえのしわざだったのか!」
「アーッハッハッハッハ! その通りだよ! すべての事件の黒幕はこのあたしさ! 実に愉快だったよ。なにせすべてがあたしの手の平の上で踊ってくれたんだからねえ?」
「ブレンタ! 俺はお前を許しはしない!」
セリオンは大剣を構えた。
「フン! でもまずはバカから始末しようじゃあないか」
ブレンタは闇力でトビアスを攻撃した。
「トビアス!」
セリオンは叫んだ。
トビアスの体は消滅していた。
「アッハッハッハッハ! ほんと愚かな坊やだったよ、あいつはね! かませ犬くらいの価値しかなかったんだからねえ! さて、次は」
ブレンタが緑色の宝石を出した。そしてそれをノエルに向けた。
ノエルへと宝石から光線が放射された。
「ノエル!?」
ノエルは宝石に吸収された。
「きさま、ノエルをどうする気だ!」
「フフフ……この小娘はあたしが預かった。返してほしければ『闇の邪園』に来な!」
そういうとブレンタは黒い宝石をセリオンに投げつけた。
セリオンはボールのようにそれをキャッチした。
「そいつが闇の邪園への道しるべになってくれるよ。でも、その前に……」
ブレンタは白い宝石を上にかかげた。
「さあ、おいで! ジェルデボーゴ・改!」
白い宝石から白いジェルデボーゴが現れた。
「それではセリオン・シベルスク、あたしは先に邪園にいっているよ。そいつは改良型のジェルデボーゴさ。そいつと遊んでから、あたしのところに来るんだね! それじゃ。チャオ!」
ブレンタは闇の渦の中に消えた。
セリオンの前にジェルデボーゴ・改が立ちはだかった。
ジェルデボーゴが精神エネルギー吸収光線を突起から出した。
セリオンはそれをかわす。
ジェルデボーゴはセリオンに光線を連発する。
しかし、そのうちどれ一つセリオンには当たらなかった。
ジェルデボーゴは違う攻撃に切り替える。
ジェルデボーゴは口から熱戦をはいた。
ところがジェルデボーゴの攻撃は施設まで破壊してしまう。
「もう、この施設もブレンタには用済みということか」
ジェルデボーゴが熱線で薙ぎ払う。
セリオンは熱線を回避に努めた。
ジェルデボーゴは口に炎をたくわえた。
ジェルデボーゴの炎の息である。
ジェルデボーゴは炎の息をはいた。
セリオンは蒼波刃で、炎の息を斬り裂いた。
ジェルデボーゴは両目を光らせた。
ジェルデボーゴの眼光である。
これには精神破壊攻撃という特徴があった。
セリオンは気息を高めた。
それによってこの攻撃を耐える。
気息は精神の上位領域であり、自発的活動の源だ。
「無駄だ! そんな攻撃は俺には通用しない!」
ジェルデボーゴはくるりろ回転し、尾による打撃を試みた。
セリオンンはそれをジャンプしてかわした。
ジェルデボーゴの爪。
ジェルデボーゴは鋭い爪で斬りつけてきた。
それをセリオンは大剣で斬り落とす。
ジェルデボーゴが再び炎の息をはいた。
セリオンは蒼気の刃で炎の息を斬った。
セリオンは雷の力を大剣に集中した。
セリオンは雷光の大剣を、ジェルデボーゴの額の宝石に叩きつけた。
「ギシャアアアアア!?」
ジェルデボーゴの宝石は砕かれた。
ジェルデボーゴは白い粒子と化して消滅した。




