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Das Heldenlied   ヘルデンリート 20 Die Hymne  作者: Siberius
シエルの章
12/59

シエル――オリヴィア

クヴィンツ初等学校襲撃事件から一週間後、セリオンはクヴィンツ教会に戻ってきた。

「あら? セリオン、いいところに戻ってきたわね」

セレネがセリオンを見た。

「これ、あなた宛ての手紙よ。もっとも差出人は不明なのだけれど……」

セレネが手紙をセリオンに渡した。

「なんだ、これは? 差出人の名前はなしか……住所も記載がない」

セリオンはまず開けてみることにした。

それは招待状だった。

「聖地モルガナ(Morgana)にあなたを招待いたします。お時間があるならぜひ、おこしください」

そう書かれていた。

「聖地モルガナか……確かに一度行ってみたいと思っていたところだ。クヴィンツからそれほど離れていないし、この機会に行ってみるのも悪くないな」

「でも、セリオン。これが何かの陰謀でなければいいのだけれど」

セレネが懸念を口にした。

「? というと?」

「最近はサタン教団との戦いに入ったわ。教団が何を考えているかはわからないけれど、あなたが聖地へ行ってクヴィンツを空けるというのもどうかと思うの」

「つまりセレネは俺がいなくなって非常事態に対処できなくなる恐れがあると言いたいんだな?」

「ええ、そうよ」

「俺にはこの招待状自体がサタン教団とかかわっていると思うんだ」

「あなたの考えではそれは教団からのものということ?」

「俺はそう思う」

「そう……なら止めはしないわ。あなたがいないあいだ、私は教団について調べてみるわ」

「そっちこそ、危なくないか?」

セリオンは心配そうな顔をした。

「任せて。私たちは今まで一方的に教団にやられてきた……今度はこちらから仕掛けてみるつもりよ」



とセリオンはバイクで走行中にセレネとの会話を思い出していた。

今セリオンは道路を走っている。

道路があるのはすごいことだ。

舗装されることによって、道として有効に機能するようになる。

何より道路は人の往来を促進させる。

道路があれば人も物も有用に移動させることができる。

道路はそれ単体だけではうまく機能しない。

ネットワーク化し、街道網として形成することで、道路は血管のようになっていく。

そして何より軍隊を自由に動かすことができる。

もっともメリットしかないわけではない。

デメリットは「敵」もこの道路網を使えることになる。

便利なら犯罪にも悪事にも使われる。

セリオンはそんなことを考えながら道路をバイクで走っていった。

聖地へはバイクで一時間かかった。

聖地モルガナは中心に聖域と呼ばれる領域があって、さらにその周囲を囲むように、店が乱立していた。

つまり、聖地に来る人からおカネを落としていいただくのだ。

ビジネスはギブ・アンド・テイクである。

互いに利益が得られるならそれにこしたことはない。

宿屋なら特に需要がある時期もあるだろう。

「それでは、フランクフルトを一本もらおう」

「まいど!」

一人の女性がフランクフルトを一本注文した。

「ベラトリクス? 電光のベラトリクスか?」

「え? 君はセリオン?」

ベラトリクスがこちらに目を向けた。



ベラトリクスはフランクフルトを食べ終わると、セリオンと話をしようとした。

「まさか、聖地で君と会うとはな。人の出会いや縁はわからないものだな」

二人はベンチに腰掛けて話をした。

「まさか、ここで君と再会するとは俺も思わなかった」

「今日は『光復節こうふくせつ』だ。聖地で一年に一回開かれるイベントなんだ。君も光復節のためにきたんじゃないのか?」

「いや、俺は聖地に来るよう紹介されただけだ。光復節のことは初めて知った。俺はヴェルテ共和国の市民じゃないからな。このあたりの文化や習慣には詳しくないんだ」

ベラトリクスが目を大きく開いた。

「セリオンはどこの出身なんだ?」

「俺はツヴェーデンの出身だ。より正確に言えばツヴェーデンにあるシベリア人の共同体『テンペル』の出身だ」

「テンペル……聞いたことがある。シベリア人の信仰共同体だそうだな?」

「俺はクヴィンツに出向してきているんだ。いろんなところに行くと自分の見識が広がるな。ベラトリクスはなぜ旅をしているんだ?」

セリオンが話題を変えた。

「ああ、私には姉妹がいてね。その姉を探すために旅をしているんだ。それと同時に剣の修業を兼ねている」

「そうか。それにしても、人があふれてきたな」

「光復節は午後からだ。まだしばらく時間があるな。どうだろう? 君の力を頼んで一つアイディアがあるんだが?」

ベラトリクスはにこやかに笑った。

それは少し意地悪い笑いだった。

「近くの森で、今、盗賊団がいて、賞金がかけられている。盗賊団の名は『傷目盗賊団』、ボスは傷の目をした男だそうだ」

「なんだかわかりやすいネーミングだな」

「この盗賊団を狩りにいかないか?」

「まあ、時間もあるしいいだろう」

「報酬は山分けだ」



セリオンとベラトリクスは森の中を歩いていた。

「そろそろだ。近くに傷目盗賊団が出てくるだろう。戦いの準備をしておけ」

とベラトリクス。

「ああ、わかっている」

セリオンはベラトリクスの後ろを歩いていた。

武器を出していつでも戦えるようにしておく。

「!? なんだあ!? なんでこんなところに人がいる!?」

「どうやら出てきたようだな」

とセリオン。

セリオンたちの周囲には何十人もの盗賊たちがいた。

「男はいらねえ。殺しとくか。女はやった後、売り払おうぜ」

「出てきたな。準備はいいか、セリオン?」

「ああ! できている!」

盗賊団がセリオンたちに襲いかかってきた。

セリオンとベラトリクスは互いに背を向け合って戦った。

二人には信頼関係ができていた。

「くっ!? なんだこいつら!? むちゃくちゃ強いぞ!?」

盗賊たちがおじけづく。

「くそ! こんなことは計算外だ! ここはいったん逃げ……がっ!?」

一人の盗賊がある女性に斬られた。

この剣筋は見事で、一撃でその盗賊を殺した。

「なっ、なんだあ、この女あ!?」

「ひいいいい!?」

その女は金髪の長い髪、エルフの耳、水色のワンピースに白のマントを着用し、片手用の剣を持っていた。

女は盗賊たちを無差別に殺戮していった。

「まさか、オリヴィア(Oliwia)か!? 私だ! 妹のベラトリクスだ! あなたはオリヴィア姉さんなんだろう!?」

「確かに私はオリヴィアだ。私は我があるじの命によっておまえを殺しに来た、セリオン・シベルスク」

「俺を相手にお望みのようだな。いいだろう」

セリオンは大剣を構えた。

オリヴィアはダッシュしてセリオンの間合いに入ると、セリオンの首を狙って剣を振るった。

セリオンは身をかがめてこの攻撃をよけた。

オリヴィアの剣が魔力を可視化させる。

鋭い刃がその場に現れた。

「セリオン・シベルスク、私はおまえを殺す!」

オリヴィアが剣で突きを放ってきた。

セリオンはそのすべてを大剣で受け止めた。

「……その剣はただの剣ではないな。聖剣か? 名はなんだ?」

「これは聖剣クリームヒルト(Kriemhild)だ。おまえの命を狩るにはちょうどいい」

オリヴィアが魔力を込めた斬撃を繰り出してきた。

セリオンは蒼気の刃でオリヴィアの攻撃を防いだ。

セリオンは、オリヴィアの剣からふしぎな声を聞いた。

「!? なんだ? 何か聞こえる?」

セリオンはオリヴィアと剣を結び合った。

剣と剣がぶつかる中で、何かの声がふしぎに大きくなっていく。

それは何かを訴えているようだった。

(助けて……助け、て……)

「助けて? オリヴィア、それが君の本心か?」

セリオンがオリヴィアに尋ねた。

オリヴィアは何も答えなかった。

オリヴィアは急に手を胸の中心に置き、苦しみだした。

「ぐう……」

オリヴィアは憎らし気にセリオンをにらんだ。

「どうやらオリヴィアは操られているようだな。おまえのあるじは誰だ?」

オリヴィアは答えなかった。

オリヴィアは「聖門」を開いた。

その中にオリヴィアは入り、姿を消していった。

「オリヴィア……」

ベラトリクスは力なくつぶやいた。



ナルシウス邸にて。

司教ナルシウス(Narsius)の邸宅。

オリヴィアはナルシウス司教の前にひざまずいていた。

ナルシウスは口に白いひげを蓄えた太った男で、白い法衣をつけていた。

ナルシウスもまたサタン教団の審問官だった。

「なんだと!? 抹殺に失敗しただと!?」

ナルシウスの怒気が邸内に響き渡る。

ナルシウスは右手でオリヴィアを殴りつけた。

「あっ!?」

オリヴィアが短く声を出す。

「このバカ者! 抹殺に失敗してただで済むと思っているのか!」

ナルシウスはオリヴィアを蹴りつける。

オリヴィアは抵抗しなかった。

ナルシウスは怒りが収まったのか、蹴りをやめた。

「まあ、いい。次の機会を私はおまえに与えよう。わかっているな? 次こそはセリオン・シベルスクを殺せ!」

「はい、ナルシウス様……」



光復節が始まった。

聖地のドームには人々がつめかけていた。

「今日は光復節当日です。本日がみなさんにとって良き日となることを心から祈ります」

すると、紫の膜がドーム全体を包み込んだ。

そして、緑色の悪魔ネクローマ(Nekrooma)が現れて人々を襲った。

人々はパニックに陥った。

「くっ!? 魔物か!」

セリオンは中央の段へと足を踏み入れた。

「私も出る!」

ベラトリクスも同じ行動をした。

「クックック! よく現れたな、セリオン・シベルスクよ。私は審問官ナルシウスだ」

「審問官……つまりおまえもサタン教団の幹部か?」

「その通りだ。セリオン・シベルスクよ。もうあきらめろ。おまえはもはや死が避けられぬ。教団に逆らったことがどんなに愚かだったか、それをきさまにこの私が思い知らせてやろう。出てこい! オリヴィア!」

光のゲートが開いた。

その中から美女オリヴィアが姿を現した。

「クックック! この私がオリヴィアのマスターだ! オリヴィアは闇の術によってその心を操られているのだ! さあ、やれ、オリヴィア! セリオン・シベルスクを殺せ!」

オリヴィアは鋭くセリオンに斬りこんできた。

セリオンは相手の実力を確かめるように剣を繰り出していく。

オリヴィアは強力な身体強化でセリオンに迫った。

さらに魔力を加えて、強い斬撃を放ってくる。

セリオンも身体強化を使い始めた。

二人は激しい攻防を繰り広げた。

「セリオン・シベルスク! 今度こそ、私はおまえを殺す!」

「……哀れだな」

セリオンはオリヴィアに対して反撃した。

セリオンの強烈な攻撃がオリヴィアを襲う。

そしてまた共鳴が起きた。

セリオンはオリヴィアの剣を通して、オリヴィアの心に触れることができた。

おそらく聖剣クリームヒルトがそうさせるのであろう。

オリヴィアの心は助けを、救いを求めていた。

再びオリヴィアが斬りこみの構えを取る。

セリオンはあえてオリヴィアの間合いで戦うことにした。

セリオンとオリヴィアの武器がぶつかり合う。

セリオンは気づいた。

オリヴィアの目から光るものがこぼれ落ちた。

それはオリヴィアの涙だった。

「私を、殺して」

「なっ!?」

ナルシウスは唖然あぜんとした。

まさかおのれの術が破られるとは思っていなかった。

オリヴィアは本気を出してきた。

オリヴィアが光の技を発動する。

オリヴィアは光の刃を伸ばし、一刀のもとセリオンを斬りつけた。

オリヴィアの「光明一刀斬」である。

セリオンは光輝刃を出してこの攻撃をガードした。

これは光と光の戦いだった。

オリヴィアは左手に聖光球を形成した。

セリオンに向けて発射する。

セリオンは光輝刃で叩き斬った。

オリヴィアは光を剣にまとわせる。

オリヴィアの光の剣とセリオンの光の大剣がぶつかり合う。

オリヴィアの聖光剣とセリオンの光輝刃。

オリヴィアは後退すると、多くの光の槍を放った。

多連・光明槍である。

セリオンは光波刃で次々と迫り来る光の槍を無力化していった。

オリヴィアが光の突きを繰り出した。

光閃突こうせんとつ」である。

セリオンはこれも光の大剣で無力化した。

オリヴィアの目から大粒の涙が流れる。

セリオンは自分の心を伝えるように、オリヴィアに大剣をぶつけた。

(君の心を俺は救ってみせる!)

剣とはただ戦う者ではない。

それは対話であり、心と心の通い合いでもあった。

オリヴィアはセリオンと距離を取った。

オリヴィアの剣に光が集まる。

間違いなくこれはオリヴィアの最強技だ。

オリヴィアの「覇光剣はこうけん」である。

オリヴィアは剣を地面に突き刺した。

全周囲に光の衝撃があふれる。

「光子斬!」

セリオンは光子をまとった斬撃を衝撃波に叩きつけた。

覇光剣は敗れた。

セリオンはその隙を、突いた。

セリオンはオリヴィアに近づいた。

今のオリヴィアには反撃能力はない。

セリオンはオリヴィアの闇の呪法を断ち斬った。

オリヴィアは倒れた。

「なっ!、バカな!? あのオリヴィアが倒されただと!?」

ナルシウスは驚愕した。

「くそっ!」

「終わりだ!」

セリオンは一刀のもとにナルシウスの首を斬り落とした。

ナルシウスが死んだことで、ネクローマも消えた。

ベラトリクスはオリヴィアのもとに来た。

「姉上……」

ベラトリクスはオリヴィアの頭を膝に乗せた。

かくして聖地でのイベントは終わった。



「それで、聖地モルガナではどうだったの、セリオン?」

セレネがセリオンにコーヒーを入れて渡した。

「ああ、審問官ナルシウスを倒すことができたし、オリヴィアという女性も救うことができた。ベラトリクスの旅の目的も一つ果たすことができた。いい収穫だったよ」

セリオンはコーヒーカップに口をつけた。

「それにしても、サタン教団か……教団は表の世界にもそのネットワークを作っているようだな。

司教の中にも、審問官がいたくらいだからな」

「そうね。ところでセリオン、例の調査のことだけれど……」

「何か進展があったのか?」

「どうも、アンゲラ(Angela)商会が教団とつながっている可能性があるの」

「アンゲラ商会といえば国際的大企業じゃないか。それが教団とつながっているというのか?」

「ええ、そうよ。私が調べられた範囲では教団の資金団体である可能性が高いの。より正確に調査しようとしたら、これが来たわ」

セレネは便りをセリオンに差し出した。

「これ以上我々にかかわるな。命が惜しければ近づくな」

「これは……」

そこには脅迫文が書かれていた。

「こんなものが来ること自体、セレネの推測が当たっている証拠か」

「…………」

セレネは押し黙った。

「私ではこれ以上の調査は不可能ね。それで続きをあなたに頼みたいんだけどいいかしら?」

「ああ、わかった。俺がその仕事を引き継ごう。アンゲラ商会を探ってみることにする」

セリオンは再びコーヒーを口につけてカップの残りを飲み干した。

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