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コトノハ猫の空曜日  作者: トロ
26/27

26話 タマネギの匂いが目に染みる

 闇を通り抜けた後、気が付いたら、キッチンに仰向けで倒れていた。


「うぉぉぉっ、びっくりした! なんだ、ナオト、いつからそこにいた?」


 皇帝ペンギンのアップリケがついた、可愛いエプロンをつけて料理をしていた学園長が、振り向きざまに十センチほど飛び上がった。ちなみに、学園長は強面の顔をした中年のオッサンである。


「ん……あれ……」


 ナオトは見覚えのあるキッチンの風景を、何度も確認するようにじっくりと見渡す。


「よかった……ちゃんと……戻れたんだ」

「ちゃんと戻れたって、何言ってんだ? 学校から帰ってきただけのくせに、何を大層なことを……」


 手に包丁を持ったままエプロン姿の学園長は不思議そうに見ている。

 ナオトは思わず立ち上がり、いきなり学園長に抱きついた。


「おぉぃ、包丁危ないっつーの。つーか、なんだ、なんだ? どした、いきなり」

「……ただいま」


 ナオトはその言葉を噛みしめるようにつぶやいた。


「おぉ……おかえり」


 今までの自分なら絶対にしなかったであろう行動に、ナオトは自分自身驚いていた。

 ふと我に返り、あわてて照れくさそうに学園長から離れた。

 台所のカウンターには、タマネギやミンチ肉、卵やパン粉などが所狭しと並んでいる。


「……料理中だったんだね……邪魔して……ごめん」


「おぉ、いいぞー。別に。それにしても……お前も自分からハグをするような年頃になったのかー。子供は成長するのがはぇーなー。おっさんは年取るばっかだってのに、不公平だねー」


 ニッコリと笑ってから、学園長はタマネギをみじん切りにする作業に戻った。タマネギの匂いが目に染みたのか、感慨深くて涙ぐんでいるのかはよくわからなかった。


「あっ、そうか、今夜はお前の好きなハンバーグだからって、そんなに鬼ダッシュで学校から帰って来たのか?」

「え、まだ今日なの?」

「まだ今日ってどういう意味だ? 今日は今日だろ、普通」


 長いようで短かったあちらの世界での生活も、こちらの世界ではほとんど時間が経過していなかったようだ。


「ほんとに晩ご飯ハンバーグ?」

「ほんとにハンバーグだ! 学園長特製ハンバーグだぜっ」


 エプロンをつけた学園長が包丁を天にかざし、ビシッとちょっとばかし古くさいバージョンの仮面ライダーらしきポーズを決める。今にもペンギンのマークが回って飛び立ちそうだ。


「うっし!」


 おっさんのダサかっこわるい姿に見て見ぬふりをしながら、ナオトは小さくガッツポーズを決め、満面の笑顔になる。


「おぉっ、少年よ。なかなか良い笑顔だな。無表情王子はようやく卒業か?」

 学園長は微笑ましそうに、ナオトを見つめた。


「でも、そうやって笑ってるとこ見ると、ほんと最近似てきたな……」

「え? 似てきたって……誰に?」


「あぁ、マサナオだよ。お前の父親」

「えーっ! いやだよ。ボク、ハゲたくないっ!」


「ハゲ? 何いってんだ。髪の毛フッサフサだったぞ。オレが知ってるマサナオは」

「見たもん。実際に、ハゲてたし」


「何言ってんだ、お前……」

 学園長が混乱するのも無理はない。


 だが、事実なのだ。

 父親がハゲていたのは。

 残念なことだが……。


 ナオトは、ふとポケットに忍ばせていた予備のキューブのことを思い出した。


「じゃあ、ちょっと学校行ってくる」

「は? 帰ってきたばっかりだろ? また行くってどういうことだ?」

「ご飯までには戻ってくるからっ!」


 手に触れる冷たいキューブを感じながら、ナオトは今までにないくらいの全速力で学校へ走り去っていった。





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