25話 達者デナ
「いろいろ世話をかけたな。では、達者でな、ナオトよ」
人の姿を取り戻した王妃とシロ王は、肩を寄せ合うように帰っていった。
王妃と王の後を追うように、銀色猫の姿のままでアヲもついていく。ふと立ち止まり、ナオトを振り返った。
「みな人の姿になってしまって、我だけが猫のままというのは、何か仲間はずれのような気持ちで、多少寂しくはあるが……。まぁ我はもともと猫だったのだから、仕方がないのだがな。では、ナオトよ。元気でな」
アヲの姿が見えなくなった時、ナオトの側にはシオンと博士だけが残された。
「ワタシも行かネバならん。コウ見えても、一応王女の身でアルのでな」
アルビノの姿をしたシオンは、イタズラっぽい笑みを浮かべ握手を求めた。ナオトは思わず視線を下に落とす。
「シオン……ボクは……」
「ソンな死にソウな声を出すな。ホラ、早く父上にキューブをモラって、元の世界へ戻ルノだろうが。今度はワタシはついてイカぬ。自分一人で帰ルノだ。ソンなことではまた、言い間違いをシテ、別の所へ飛ばサレてシマウぞ!」
「それは……いやだ」
ナオトは首をブンブンと横に振った。
「おーおー。さっそく尻に敷かれてるな。青少年よ」
博士はニヤニヤとしながら見ている。
「まぁ、とにかく、お前たちが生きていてくれてよかったよ。シオンもほんとうに、ナオトをいろいろ助けてくれて、ありがとうな」
博士がシオンと堅い握手を交わした瞬間だった。
ぷーぅ。
博士の絞り出すような屁に、ナオトは撃沈した。
今のところ爆笑確率は百パーセントだ。
ただし、今までのような、無表情な顔で口を隠すような笑いではない。
全てを取り戻した今は、心の底からわきあがってくるような笑顔だった。
吹き出すナオトを博士は幸せそうに見つめている。
「もしお前が元の世界に戻ってしまっても、また、今日のことを思い出せば寂しくないよ。屁さえ聞かせれば、爆笑してくれるおかしな息子のことをな」
「……父さん」
少し遠慮気味に、それでいて強い意志を持った眼差しで父親を見つめた。
「さぁ、気をつけておかえり」
「父さんも一緒に……」
博士は首を横に振った。
「オレはもう死んだ身だ。ここにいたほうがいい」
「でも……だったら、ボクも……」
ナオトはちらりとシオンのほうを見た。
「ダメだ。お前は帰りなさい。お前を待っている人がいるだろう? さっさと死んじまったオレやトワのかわりに、お前をしっかり育ててくれた人を悲しませるんじゃない」
ナオトは唇を噛みしめた。
「早く、行きなさい。なーに、二度と会えなくなるわけじゃない。お前がオレのことを思い出せば、いつでもどこでも会えるさ、ここでな」
博士は頭を指さした。
「お前にモノを考える力があるかぎり、オレはお前の頭の中にいやでも住み続けてやる。時には小言をいったり、ウザイことを言うだろうけど、追い出そうったって無駄だからな。覚悟しとけよ」
ナオトは頷いた。
少し涙ぐみそうになっていた。
上を向いた。
涙がこぼれ落ちないように。
シオンや父親にばれないように、必死に目をシバシバさせて、涙を乾燥させようと苦労していたようだ。
「よし、いい子だ。じゃあ、このキューブを使え。こっちは予備だ。やり方はわかってるな。怪我しないように。元気でな」
博士がナオトに予備も含めて二つのキューブを手渡す。
「さらバダ、ナオトよ。達者デナ」
シオンが手を振る。
涙で目が曇るのを必死にこらえながら、ナオトはキューブを握りしめ、星空学園の学園長を思い浮かべ、名前を口にした。
やがて、初めてこの世界に来たときと同じように、闇に殴られながら体がねじれて伸びていくような感覚に包まれながら気を失った。




