21話 イヤナオモイデ
薄暗い地下室には冷たいコンクリートの壁しかない。
一人の少女が転がっていた。
満足に洗ってもらえず垢まみれの少女は、ただじっと堅い床の上で寝そべっていた。
そうしたいからしているのではなく、自分の意志ではもう体が動かなかったからだ。
「まだ生きてんのかよ」
下品な笑い声と共に地下室に入ってきたのは貧相な体つきの男だった。今にも死にそうな青白い病人じみた顔をしている。
よたよたしながらも、陰湿な歩き方で少女に近づいた。
「子供のクセに、白髪だらけなんて、ほんっと不気味だよな」
男は少女の腰まで伸びた真っ白な髪を無造作に掴むと、ぐったりとしている少女の顔がよく見えるように引き寄せた。
少女は抵抗しない。されるがままだった。
「この真っ赤っかな目は血みてぇだなぁ。マジ気持ちわりーよ」
「もうやめて、カナタさんっ。もう何もしないって約束したじゃない!」
地下室に別の女が入ってきた。
必死に男を止めようとしたが無駄だった。
鼻血が出るほどの強烈なビンタを食らい、床に投げ出された。
女は泣いている。
男は白髪の少女を、サンドバックのように何度も何度も殴り蹴り、張り倒した。
「やめて! 死んじゃう!」
再び女は止めようとした。だが、やはり殴られただけだった。
「うるせっー! ミライ、てめぇ……いっつもこいつが邪魔だっつってんだろーがよー。こんな時だけ母親面すんじゃねーよ。つーかオレの楽しい時間を邪魔すんな。おめぇは上行っとけっつーの。出てかねーとお前もボコるぞこらぁっ!」
女は自分と娘の命を天秤にかけた。
頭痛がするのか、ずっとこめかみを押さえている。
決心が付いたのか、しぶしぶ部屋を出て行く。
「わかりゃーいいんだよ、わかりゃー。だいたい、こんなおもしれぇオモチャとセットでなけりゃ、だれがお前みたいな金目当ての女と結婚するかっつーんだ。いい加減気づけよ、ばーか。くそババア!」
狂ったような笑い声をあげながら、男は白い少女への暴行を再開した。
腹を蹴る。
顔を殴る。
少女はただ苦痛を噛みしめ、されるがままだった。
「うわっ、血ぃでちったよ」
ふと気が付くと、少女の両耳から大量の血が流れ出ていた。
男の殴る蹴るの暴行で鼓膜が破れたのだろう。
「やっべーやべー。すぐ死んじゃったらつまんねーじゃん。今日はこんくらいにしといてやるわ。せーぜー長生きしてくだせぇよ。オレが飽きるまではよ」
男は豪快に笑って地下室を出て行った。
扉が閉まった時、初めて少女は声を上げた。
「————」
それは残された命をすべて注ぎ込んだ断末魔の叫びだった。




