狂戦士の言い分
「これはどういうことだよ!」
と怒鳴りこんで来たのは、龍田だった。自分が勇者候補に選ばれるとでも思っていたらしいが、そんなことはなかったという現実がそこにあった。
『一緒に転生してきた奴に【勇者】がいるみたいだが、どう考えても【狂戦士】の俺が最強らしい』みたいななろう系の話でも夢想していたのか、かなりご立腹のようだった。
「そいつよりも俺の方が強いだろう?」
部屋の中央にいて紅茶を飲んでいた【王女】は怒鳴りこんで来た龍田に、リアクションをすることなかった。
「いえ、あなたが達が来る前からわたくしの【勇者】はエースでしたわ」
「はあ?ゴブリン狩りを頑張ったのは俺だろうが?」
「そうですか」
【王女】は短く答えて、龍田を冷たい瞳で見た。
「ご存知ではないようですが、あなた方が入り込んだゴブリンの巣穴を、単身で調査された方があなた方のお仲間でいるようですよ」
「はあ?」
初めて聞く話に龍田が目を点にした。
「王国からの指名依頼で冒険者ギルドに所属されている方があなた方のお仲間にいて、その方が事前に潜り込んで、30体ほどとリーダー格を一人倒したようですね」
「馬鹿な。あんな穴にそんなゴブリンがいるはずが・・・。入り口に別の誰かが入った様子はないって・・・」
龍田が戸惑いを隠せない様子だった。リーダー格とまともに戦って勝てるようなものではなかったような気がした。
【勇者】たちと協力してようやく倒せたのだ。
「では、その方が裏口から入ったと考えるべきでは?」
そんなものの存在を聞いたことがなかった。確かに奥の方に戦いの後があったが、それがそんなことになってるなんて思わなかった。
「なんで、騎士団はその情報を隠していた」
「それは当然では?無茶な依頼を騎士団がしていたのです。この依頼はあなた方のお仲間さんを殺すには十分な依頼では?」
「確かに」
「けど、そんな依頼を乗り越えて、あなた方の取り分をしっかりと残していた。そういうお仲間さんがいらっしゃるのです。そういう方を差し置いて、あなたを特別に扱うのはその方に失礼では?」
「・・・いったい誰だ?そいつと戦いたい?」
「ということは、その方を倒してどうなると?」
「俺が強ければ、あんたから【勇者】の称号をもらえるってことだろ?」
「・・・そういう考えでしたか・・・。ならば、私からあなたに情報を与えることはないですね。私は私の【勇者】を【勇者】にしたいんです。それを阻むようなことをわざわざ私からすると?」
【王女】は馬鹿にするように返した。
「ふざけるな!」
龍田が一歩足を踏み出そうとして、その足が止められた。メイドが前に立ちふさがったのだ。
「これ以上、近づくのはやめて頂きたいのですが?」
メイドが静かに言った。その目にはさっきのようなものが込められていた。
「おいおい、たかがメイド如きが俺の道を阻むつもりか?」
「姫より、【聖騎士】を頂きました。【騎士】としても、微力ながら力を蓄えていた所を【聖騎士】を頂きましたから、易々と倒せるとは思わないことですね」
「メイドが【騎士】だの、【聖騎士】だぁ」
龍田が驚きの声を上げた。とんでもない話を聞いた気がした。
「つい先日頂いたばかりで、戸惑うことばかりですが、まあ、あなたには十分でしょ」
「ふざけるな!」
龍田が一歩踏み出そうとしてメイドが同時に足を進める。
二人の距離が近距離で近づいて、龍田の拳をメイドの小手がそれを止める。そして、一瞬メイドの小手が光を放ったと同時に龍田の体が吹き飛んで壁に叩きつけられた。
「見事な<パリィ>と<カウンター>ね」
「どちらも【騎士】のスキルでしたが、【聖騎士】のスキルとしても使えるのですね」
メイドが特に笑みをこぼすようなこともなく、静かに言った。さも当然といった風である。こうした輩を退けるのも彼女所の仕事だといいたげである。
「馬鹿な俺がカウンターだと?」
驚いて戸惑っているのは龍田の方だった。まさか、こうもあっさりやられるとは思ってもいなかっただろう。
たかが、メイドと侮っていたのがバレバレである。だが、たかがメイドとはいえ、王族の護衛に近いポジションにいるものだ戦闘もこなさなければ、いけないのも当然と言えば、当然だ。
「おそらく、戦士系のスキル、<スラスト>を拳で放とうとしたところを<パリィ>で消して、<カウンター>を入れさせてもらいました」
ざっと、メイドがいらん解説を入れる。龍田を煽るために言っているようなものだ。まあ、十中八九煽るために言っているのだろうが・・・
そんな煽りをうけ、龍田が地面に拳を殴りつけて立ち上がろうとする。
「ふざけんな」
「護衛の一人も用意せずに殿方を部屋に招き入れるとでも?」
龍田が何とか立ち上がろうとしたが、その言葉で一瞬止まる。そこにメイドが冷たく言い放った。
「あなたは自分が強いと思っているようですが、技やそのつながりなどが非常に稚拙です。それでは私が【聖騎士】でなくても【騎士】として倒せますよ」
はっきりとしたものいいだ。龍田のプライドを傷つけるためなら、どんなことでもしてやりそうな空気を持っていた。
それだけ、姫に手を出そうとしたことが彼女には許せないということの現れだろう。
「なめるなよ。俺はもう誰にも負けない、負ける気なんてないんだからな」
龍田がそういうと龍田の体から煙のようなものが出てきた。
「おいおい、あんた如きに俺の本気を出すのは嫌だったんだが、しょうがねえ。見せてやるよ。俺の、【狂戦士】の本気を!」
「これは?」
「気をつけなさい。危険な香りがします」
「死ねや」
龍田の姿が消え、メイドが吹き飛んだ。逆に壁に叩きつけられて、気絶をした。
「おっせえな。おせえよ」
龍田が嬉しそうに言った。その笑みが狂気じみていた。
「おいおい、俺様の本気を見て、引いたんじゃないか?どうだ、化け物じみてているだろ?」
「心が怪物の間違いでは?」
「案外落ち着いているな。その顔を早く絶望に変えたいぜ」
龍田が姿が消え、姫の目の前に立つ・・・はずだった。龍田の予定では・・・
だが、龍田の前に空気の壁ができて、それが龍田の動きを鈍らせらせた。龍田が一瞬姿を見せ、そのまま姫の前まで行こうとするが、カーペットがめくりあがり視界を塞ぐ。
「ざけんな!」
龍田がそのカーペットをぶっ飛ばそうとして殴った。
途端に地面が動いた。龍田の下にもそのカーペットが繋がっていて、それが阻んでいたのだ。少し転びそうになる。
態勢を立て直して、姫の方を見たが姫は少し動いていた。カーペットの壁に巻き込まれないように動いていたのだ。
龍田はイラつく気持ちのまま、殴りに向かうと、その龍田の眼前に虹色に輝く剣が浮いていた。
「あん?」
龍田が剣の先を見ると、そこにはそこそこ顔のいい、イケメンというような感じはないが、かっこいい感じはある男が立っていた。
「何してんだ?」
「エース!」
その名を聞いて、こいつが勇者かと、龍田は心で呟きながら、距離を置いた。いつのまにか現れたので、どうやってそこに立ったのかわからなかったが・・・
龍田は姫の方に集中していたので、周りが見えていなかったのいけなかったのだがろうと結論付けた。
「全く、のんきにトイレにも行けねえじゃねえか?」
顔の割には随分と粗暴なしゃべりをする男だと思った。【王女】の前なのに随分な口の利き方だ。
それだけ慣れているともいえる。
「てめえが、【勇者】か?」
「らしいな。不本意だがな」
かったるそうにその男は返した。どうみても、この国の騎士団長よりも戦えそうな空気はなかった。殺気などはなかった。
本当に【勇者】であることが不本意のように思えた。
「なめるなよ」
と拳を振ろうとして“何か”に阻まれた。同時に、龍田の体が吹き飛ばされた。
再び、壁に叩きつけられることになる。何が起きたのか理解できない。さっきの女の時は何をされたのか分かったが、今はなにをされたのかすらわからなかった。
「<スラスト>だよ。<パリィ>からのね」
剣を振ったような様子は見られなかった。それほどにレベル差があるということだろうか?
「ふざけるな」
早すぎて何があったのかわからなかった。すると、【勇者】の姿が消え、目の前に立っていた。【狂戦士】のスキル<狂乱>でも追えない動きだ。
<狂乱>は魔法が使えなくなり、視界が少し狭まる代わりに、反射スピードと筋力がグンとあがるスキルである。これはかなり特殊なスキルでこれを使えば、【勇者】なども圧倒できるスキルである。
【勇者】よりも龍田が強かったのはこのスキルがあったためだ。
こいつはいったい何をしたのだろうか?龍田は心の名で思わずボヤく。
「ふーん」
【勇者】がやるのなさそうに言った。俺に触る。瞬間に龍田の体を電気のようなものが走った。
「<ライトニングブレイド>が便利すぎるだろう。移動力上げるだけではなく、小さな雷を与えるなんてな」
これがスキルでできるらしい。
「あの方のスキルほどではないですが、エースにぴったりですね」
【勇者】のことなのに【王女】が自分のことのようにうれしそうにした。それだけで、【王女】がこの男をどう思っているかすぐにわかる。
「くそう・・・お前ら・・・」
完全に<狂乱>の効果が切れ、しかも<ライトニングブレイド>の雷のダメージも受けている。
「いま、雷の初級を使ったんでしょ」
「まあな。けど、こんだけの威力が出るとはな」
今のが初級魔法らしい。おそらく、スキルとの相性で強化されたのだろう。一気に体力を持っていかれた。龍田がすぐに立てないことに気がつく。
そして、同時に絶望的な気分になった。
明らかに手加減をされていた。そう、自分は手加減をされて、倒れているのだ。
「新しい発見があってよかったですね」
「あんまりうれしくないが」
ニコやかに二人が話を進める。明らかに仲がいい二人だ。この二人の仲を壊そうとしたのだ。
いや、壊したくなるほど、今の【王女】はかわいいのだが・・・だが、同時にこの男のモノということがよくわかった。
「くそが」
あまりの悔しさにモッテいかれそうな意識を取り戻すことに成功。なんとか立ち上がった。
「気持ちはすげえな。あんた、根性は認めるよ」
「まあ、根性があろうが、なかろうが【勇者】ではないんですけどね」
横からそんなひどいこと言ってしまう【王女】様だった。
「ひでえな。うちのオヒメサマは・・・」
「相性で呼んでくださいませ。リーとかメルとか・・・」
「ヒメでよくね。今更、小恥ずかしい」
「もう困った人ですね。でも、そういうところが・・・かわいい」
【王女】が一人、両頬を両手で押さえながら、プリプリ体を動かしていた。現在、エースをダシに妄想にふけっているようだ。
「お前らこんなのがいいのか?」
気心が知れすぎているのか、こんなの扱いである。それが二人の仲を表しているようで、龍田の心に苛立ちに薪を入れる形になる。
二人を壊したくなる。そんな気持ちが龍田を支配する。
「お前ら・・・」
「殺気がやばいぞ」
「えーちゃん。そうやってすぐに人を怒らせて・・・」
「ええ?俺が原因?お前、こんなんがいいのか?そんな殺気を飛ばすほど?」
「こんなんなんて、酷い。酷いわ、マイダーリン!」
「てめえ、わざと煽ってやがんな!」
「ざけんな!」
二人の仲をまざまざと見せつけられ、怒りの炎に薪を大量投入された龍田は怒って立ち上がった。怒りで、我を忘れていた。
「【勇者】様の本気が見たいな!」
「さり気にバフをかけんな!というか、わざわざ、煽るなよ!」
「大丈夫、私の【勇者】様がこんなところで負けるわけがないから!」
「そこは育ててくれた恩人のことを忘れんな!」
龍田が何かをしようとしたが、何もできなかった。【勇者】の姿がそこにあったはずなのに、別の場所に立っていた。
ふざけるな!
心の中で龍田が叫ぶが、すでに遅かった。
龍田の意識は一瞬で失われていた。頭部に強い衝撃と殺気より強い電撃が走り、それと同時に意識が消えていた。
それが後頭部へのハイキックだったのを後で知ることになる。
それが【王女】の【勇者】と自分の力の差だとありありと教えられた瞬間だった。




