勇者の言い分
「これはどういうことですか?」
倉田が笑顔で訪ねた。その笑顔には明らかに怒りのようなものが潜んでいるが、それを必死に表に出さないようにしていた。
それがピクピクと動く口端に出ていることでその怒り具合がわかった。
「そういうことです」
そんな彼の心情を察していたとしても彼女の返事は変わり映えしなかった。
「意図がわからないのですが、僕らが呼ばれたのは魔王を倒すためですよね」
「ええ」
「だから、あなたが僕を勇者として扱うのでは?」
「とはいえ、婚約者くらい自分で決めたいではありませんか?私もそういう歳ですから?」
「なるほど・・・」
「私、個人として【勇者】を支援していくのでつもりであって、国としてあなた方を支援しないつもりないですよ」
「ほう」
「あなた方が我々よりも戦いにおいて優れているのはよく存じておりますので、現地点で私の【勇者】があなた方に勝てても未来永劫そうであるとは限らないですから」
「・・・なるほど」
「ええ」
「ところで」
「はい」
「戦いが優れている点をどこで存じあげるように?騎士団長よりも評価はまだ低いはずですが?」
「【狂戦士】の方と戦いましたから、倒しても倒しても気持ちだけで立ち上がってこられましたよ」
それを聞いて倉田の顔色が変わった。
「アレに勝ったんですか?」
「もちろんです。でなければ、彼を任命しなければならなかったでしょうね」
「そうですか・・・アレに勝てるということが信じられないですが」
「そうですか?【勇者】の初期スキルで勝ったみたいですよ。あなたも使えると思いますが・・・」
使いこなせるとまでは言っていない。
「そんなスキルがあったんですね。あれに勝てるようなスキルが・・・ちゃんとチェックしておきますよ」
「それがいいと思います」
【王女】は笑顔で返した。
「我々の支援を辞めないのはどういう理由ですか?」
「理由が必要になりますか?あなた方は姉の犠牲の元にこの世界に来られたんです。姉の代わりと私は思っていますよ」
「王はそう思っているんですか?」
「王はお手軽に手に入れた強い兵士候補。【狂戦士】の方のように恐ろしい方もいれば、【偵察者】の方のように便利な方もいますから・・・」
意外な名前が挙がった気がした。彼のことを知っているのかと思ったくらいだ。倉田ですら気にしてない特別な扱いを受けている彼のことだ。
「あれが役に立っているのですか?」
「少なくとも、この国ために頑張っていますよ。この城の中にとどまっているあなた方よりも・・・あなた方の特に【狂戦士】殿の横暴が許されているのも、彼のおかげと思った方がよろしいですよ」
それを聞いて倉田はため息をついた。
「僕らよりも役に立っていると?」
「ええ、害虫駆除をよくしてくれるそうで」
「たかが、害虫駆除でしょ?」
「ですね」
「それがそんなに重要ですか?」
「そうですか。今からねずみ、一匹を見つけるのにあなたなら何時間かかります?」
「はあ?」
「いますぐ、ネズミを見つけて殺してきてといって、どれくらい時間がかかると?」
「何を言っているんですか?」
「彼ならそれを1時間もかけることなく達成します・・・だから役に立っているんですよ」
それを聞いて倉田は奴の異常性に気が付く。獣をとりがどれほど大変なのか、それを可能にするチートに近い何かを持っているのだ。
「それは・・・」
「あまり彼をいじめないように。そして、さっきのことは内緒です」
さっきのこととはおそらく、【偵察者】の実力についてだ。
「彼は何者ですか?」
「わかりませんが、とんでもない能力を持っていると思った方がいいと思います。【勇者】方にもそういう方がいると思うので、そういう方をお探しになれた方がよろしいかもしれません」
「【偵察者】を渡す気はないと?」
「わかりません。彼は気まぐれですから・・・まあ、私の目的は達成されようとしてますから、彼の力を借りる気はもうないですが・・・」
「なるほど、俺に力を貸してくれるとかは?」
「彼に聞くべきでは?」
「・・・・・・」
倉田は少し考え込むそぶりを見せた。SPYの可能性もある。大きく見せて、実はというのも考慮しなければいけない。
現状、彼が必要になっている状態ではないのである。仲間も順調に育っている。
龍田のようなものもいるが、【勇者】が別の者であっても本来は問題ないはずだ。
「彼が身内に実力を隠している奴がいるということが気に食わないが、あんたの話は大体飲み込めた。おめでとうと言っておこう」
「理解が早くてありがたいです。あなたはあのわからずやの彼とは違う様で、安心しました」
「なるほど。俺は奴とは違って自分が【勇者】であることをある程度の疑問は持っている。だが、それ以上に自分が【勇者】にふさわしい存在であることを自覚している。自覚して行動をしているつもりだ」
「そうですか」
「故に、ここではあまり騒がないが、君たちの動きには疑念が残ったと言っておこう」
「すみません。王国も一枚岩ではないですし、そもそも、【勇者】に関しては私も思うところがあるので・・・」
「俺が【勇者】であることに疑問が?」
「いえ、あなたが【勇者】であることと、少々恥ずかしいのですが、私の【勇者】は違う話だと思いませんか?」
「・・・なるほど。あんたは俺が俺の道を行くのを構わないと?」
「ええ、そんなつもりはないですよ。ただ、」
「ただ?」
「私の【勇者】の道を阻むなら、戦いたいとは思いますわ」
【王女】はにこやかに言った。【勇者】はそれを睨みつけるようなまなざしで返した。
「ただの女だろ?」
「私は【騎士】や【聖騎士】のジョブを人にあげることのできる【王女】ですよ」
すっと、後ろに立っていたメイドが前に出た。
「彼女は【聖騎士】のジョブを持つメイドです。私はやたらにジョブを上げるつもりないですが、護衛には必要でしょ?」
「なるほど、【騎士】の上位互換である【聖騎士】をもつということか・・・。回復魔法も強化されるジョブだ。護衛としては十分だな」
「ええ、役に立ちますわ」
「なるほど、奴が乗り込んで負けるわけだ」
「安心してください。【狂戦士】殿は私の【聖騎士】には勝ちましたよ。ただ、私の【勇者】様には勝てなかっただけです」
「へえ、どうやってそこまで強くなったのか気になるな」
「それは内緒ですわ」
「随分ともったいぶるな」
「私の【勇者】様より簡単に強くなられては困るのでね」
「そういうことか」
「そういうことです」
バチバチに火花を散らすと、倉田は背を向けて歩き出した。
「彼に聞こう」
「聞ければよいですね」
「聞けないとでも?」
「さあ、どうですかね」
「彼もあなたの手の打ちということですか?」
「さあねえ、どうなんでしょうね」
「?」
「私も、あなたも、彼の駒に過ぎないかもしれません」
【王女】の言葉に倉田は大きく目を開いた。意外な言葉に驚きを隠せないようだった。
「それは意外だ。それほどまでに奴は・・・」
「力があるのでしょうね」
倉田は少し考え込んだ。意外な落とし穴にはまってしまいような気分になった。だが、それを今は振り払う。
「ふむ、今は触れないでおく。俺はもっと強くならないといけないらしい」
倉田はそういうとそこから出て言った。
そのとたん、すっと一人の男が姿を現す。それは【勇者】であるはずのエースだった。
カーテンの隠れ、姿を<偽装>していたのだ。【狂戦士】のこともあり、何かあれば、すぐに出ていくつもりだった。
「さすがに俺には気が付いていなかったようだな」
「どうですかね。あの人にとってはどちらでもよかったのでは?」
「というのは?」
「私と現地点で戦うメリットはないですし、彼としてはリーダーとして、支援が切られる方が【勇者】よりも重要ですから・・・」
「ってことは、アレよりも使えると?」
「少なくとも、王国名でギルドに依頼を出すような真似はしないでしょうね」
「確かに、質の悪いことはしなそうだ。じゃあ、支援はつづける方向で?」
「逆にしないのですか?彼にはそれ以上の恩がありますのに?」
「あいつらを援助することはカレを援助することにつながるからな。仕方ねえな」
「ええ、それにカレのように有効活用すれば、支援金以上の働きをしていただけるのは確かのようですしね」
「どう使うかが悩みどころだが・・・」
「【勇者】になられたのですから、あなたが騎士団長として働いてもらいますわよ」
「貴族どもから反発がありそうだな」
「知ってますか?正史では貴族どものせいで【勇者】が追い詰められ、負けたのですから・・・」
「なるほどな。あんたは正史を見れる権限があったな。そういえば・・・」
「私は特別のようですね」
「いずれにせよ。俺が騎士団を引っ張ることは確定か・・・だるいな」
「そういって、受けてくれますよね」
「だな。まあ、レベル上げのためにツリー共を狩りに行くか」
「それは心強い。私も一緒によろしいですか?」
「俺が許可をもらうわけではないが・・・<偽装>すればいいか」
「大好き!」
「まあ、あんたの無茶に付き合ってきて、十年以上だからな。今更か」
「ふっふふ、照れるなてれるな」
「今のどこに照れる要素が・・・まあ、やってやるよ。俺がこっちについたんだ。人間側を勝利に導いてやる」
「頼りにしている」
「任せろ」
【勇者】は【王女】の言葉に力強く答えた。




