第4節
~登場人物紹介~
道上 準貴:本作の主人公、高校一年生。夏は嫌い。暑いから。
小室 江美:主人公の隣の席のクラスメイト。夏は嫌い。日焼けするから。
喜田川 友哉:主人公の親友。夏は好き。川でバーベキューを計画中。
棚木 美月:準貴のクラスメイト。夏もバイト戦士。
4
あれから約一時間。あるだけの材料を使いながら、たこ焼きパーティーは順調に進んだ。
美月に教えてもらいながら俺と江美でプレートの上に注ぎ込まれた生地をくるくるっと回し、焦げ付かないように慎重にやっていたのが二回目。そして次の三回目であらかじめ作った生地が無くなり、これで結構な量を作り、そしてそれをすべて平らげたことになる。途中で友哉がチョコレートや激辛タバスコ、挙句にはわさびやからしを入れたいなどと言い出して、美月と江美に止められたりといった事件もあったが。(個人的にはチョコレートくらいならありだと思う)。最初はどれだけ食べられるか、と思っていたが、先に生地が無くなってしまい、少し惜しまれながらもたこ焼きパーティはお開きとなった。そして俺は喜田川家のキッチンで洗い物と後片付けをしている。ただ、満腹感的な意味合いで物足りなさを感じているのは俺だけのようで、3人共たらふく食べたと言って今はリビングで横になっている。
「結局何個食ったんだろうな」
「別にそんなのどうだっていいじゃない。それにしてもおなかいっぱい。おまけに片付けもしなくていいなんてもう最高ね」
「最高・・・」
三人はリビングで思い思いの形でくつろいでいた。居間には大きな白いソファーがあって、そこから対面式のキッチンになっており三人が寝転がっているのが見える。
「江美。あんたは凖貴のとこ行って少し手伝って来なさいよ」
「いいよ、いいよ。もう少しで終わるし」
俺も一応口では断っておく。洗い物を含め家事全般は嫌いじゃないから別にいいけど、手伝うならもうちょっと早く言ってほしいんだけど。
「ほら、準貴君もこう言ってるし。うち行ったところできっと邪魔だし」
「そんなことないって」
俺が洗い物を終えたと同時に、ソファーで横になっていた美月がすっと立ち上がる。
「さて、じゃあ帰りますか」
「えぇ。せっかく来たんだしさ、なんかみんなで遊ぼうぜ美月ちゃん」
美月が重そうな腰を上げながら帰る準備をするのを見て友哉が軽く止めにかかる。そう言ったところでなにをして遊ぶのかは知らないが。
「なにして遊ぶのよ」
「ゲームとか?」
そう来るだろうなとは思っていたけど。江美はゲームと聞いて少し嬉しそうだが、美月はあまり乗り気じゃなさそうに見える。
「江美はともかくとして・・・、準貴はどーするのよ」
美月はニコニコしている江美をチラッと横目で見たあと、俺の方に向き直って訪ねてきた。
「そうだなぁ。まぁ、このくそ暑い中帰るのも正直ダルいし、もうちょっとお世話になれればラッキーかなって」
現在時刻は午後の4時を回ったところ。だが今日は今年一番の暑さ、と天気予報で言っていた通り、夕方でも外はまだまだ暑そうなのが見てとれる。もう少しで8月に差し掛かるところでそろそろ太陽が本気を出してきているようにも感じた。
「・・・わかったわ、じゃあもうちょっとだけ。冷房もあるし友哉のうちは快適だしね」
「よっしゃ、じゃあ美月ちゃんも遊んでいくことに決まったし、いま俺の部屋からゲーム機持ってくるからちょっと待ってて」
友哉はそう意気揚々とした足取りで自分の部屋がある二階へと駆け上がっていった。
「・・・元気だなあいつ。あと冷房当たりすぎると体調崩すから気をつけろよ」
「わかってるわよ。でもあと少しだけ」
しばらく冷房の効いたリビングで待っていると、ドタドタドタと友哉が二階からせわしなく降りてきた。
「で、なにやるんですか?」
江美が友哉にそう尋ねた。
「そりゃあ四人いるんだから、みんなで体を動かそうぜ!」
「・・・お前さぁ」
友哉が自分の部屋から持ってきたのは、リモコンの形をしたコントローラーで身体を動かしながらプレイする置き型のゲーム機だった。いまたこ焼き食ったばっかりだっていうのに、ゲームで運動をするというのか。
「いまたこ焼き食ったばっかりだっていうのに、これやるの?」
「まぁ、とりあえず、な?」
そう言って友哉から一人一つずつコントローラーが手渡される。自分の家に据え置きのゲーム機がない俺にとって、コードレスのコントローラというだけで当時は衝撃的だった。その後、友哉がテレビに向かってポインターを向けながらポチポチっと設定を進めていく。
「みんなでテニスですね!負けませんよ!」
江美が引き締まった表情をしてソファーから立ち上がる。友哉が選んだのは2対2に分かれて行うバーチャルテニスゲーム。自分の持っているリモコンがラケット代わりになり、画面を見ながら玉を打つやつ、・・・だと思う。俺はテレビのコマーシャルでしか見たことないけど。
「これがラケット代わりなのよね?」
「そうそう」
「えっ、あとこれってボールが来たところに走らなきゃダメなの?」
「いやいや、うちそんな広くないから。キャラクターが自動的にボールのところに行ってくれるから、あと美月ちゃんはリモコンを振るだけで当たるはずだよ。ちゃんとタイミングよく振れよ?」
俺と同じくゲーム初心者の美月がそんな説明を受けていた。そしてまず一回戦、いつの間にか男子チーム対女子チームに分かれ、試合がスタートしていた。3ゲームのうち2ゲーム先取すれば勝ちという恐らく一般的なテニスのルールだ。
「いくぜー、ほいっ」
そう言って友哉がボールを自分の頭上に上げ、相手コートにサーブを打ち込む。
「それっ」
そのサーブをゲーム慣れしている江美が綺麗に打ち返す。そして次のボールが目の前に来たので俺がコントローラーを前に振ってみるが、何故かラケットにボールは当たらず、後ろに転々と転がる様子だけが映し出される。そして、女子チームに1点が入る。
「・・・よしっ」
江美がリモコンを握りしめたまま小さくガッツポーズをする。江美が決めたリターンエースがそのまま女子チームの得点となった。
「おい、ふざけるなって。手加減とかしなくていいから」
「ふざけてないし、手加減もしてないから」
友哉が俺の方を睨んでくるが、俺にはどうしよもできない。確かに振ったはずなんだけど。タイミングが絶妙に難しい。
「じゃあ次は美月ちゃんがレシーブだな。優しく打つから」
「あんた、初心者の私に本気出したらぶっ殺すわよ」
そう友哉が言いながらボールを頭上に上げ、先ほどと同じようにサーブを打ち込む。そしたらなぜか先ほどとは違い、ゲーム内から「シューッ」という音とともに速度のついたサーブが美月を襲う。当然そんな早いサーブを打ち返せるはずもなく、ボールは後ろへ転々と転がっていく。
「あんた、ぶっ殺されたいの?あんなの打てるわけないじゃない」
「わざとじゃないから、めんごめんご」
「・・・絶対許さないから。私、こう見えても負けず嫌いだから。ゲームだろうがなんだろうが関係ないからね」
美月の場合、見たまんまじゃねーか、と咄嗟に思ったが、そこは苦笑いだけで我慢しておいた。続いても同じく友哉がサーブを打ち、そこから何回かラリーが続いた。テレビからパシューン、パーンとボールが打ち返される音が聞こえ、おのおののキャラクターが一生懸命にボールを追いかけている。友哉がサーブを打つ都合上、俺のキャラクターが前で、友哉のキャラクターが後ろになる。俺は下手に打ち返さないようそっとその試合の行方を見守っていた。横目で女子二人を見ると、江美は楽しそうに軽くリモコンを振っているのに対し、ゲーム慣れしていない美月はリモコンを強く握りしめ、力いっぱいに振りぬいていた。そこから彼女の負けず嫌いとうまく出来ない怒りが伝わってくる気がする。
「なんで当たんないのよ、壊れてるんじゃない?」
「美月ちゃん落ち着いて、壊れてないから」
「ふんっ、ふんっ!」
しかし、テレビ画面のラケットにボールは当たらなかった。
その後バーチャルテニスを続けていた俺たちだったが、男子チームが(というか主に友哉が)2ゲームを先取し、ストレート勝ちとなった。まぁ持ち主だしね、と思ったが美月は心底悔しかったようで、いま江美と一緒にシングルで猛特訓をしている。それを俺ら男子二人が後ろのソファーで眺めているといった具合。
「あのね、きっとリモコン振るのが速いんだよ美月ちゃん」
「早くないわよ、ちゃんとボールきたときに振ってるじゃない!」
「あのね、もっとこうゆっくり・・・」
ゲームが得意そうな江美が美月にたまに怒られながら指導をしていた。これはどっちが教える側なのか見ているとわからなくなってくる。もう少し上手になったら再びバトルするという約束でかれこれ30分近くが経過しようとしているが、未だに再戦できる雰囲気になりそうにない。友哉と俺はそんな二人の様子を後ろでニヤニヤしながら(俺はニヤニヤしていないけど友哉はニヤついていた)眺めていた。
「美月はリモコンを速く振りすぎなんだよ。相手は機械なんだから、もっと丁寧に、のんびり振ってやんないと認識してくれねぇっつの」
「・・・それ、俺の隣でボソッと言うんじゃなくて、本人に直接言ってやれよ」
「いや、見てたほうが面白いじゃん?」
「・・・クソ野郎だなお前」
「ひでぇ言い方。あとあんだけやればきっと明日筋肉痛確定だな」
「・・・それは同感」
とりあえず美月には肩の力を抜くっていうのを教えてあげたいところだが、いまそれを言っても火に油を注ぐだけだろう。ここは黙って彼女の好きなようにやらせるのが良いと思う。
「ところでお前の家、入ったときから思ったけどずいぶん広いな」
「そうか?まぁ確かに広い方の部類かもな。でも5人家族ってこと考えればこんなもんじゃねぇか?」
「5人?」
先ほどまで家にいたのが友哉のお母さんで、あとはお父さん、そして妹がいると言っていたからこれで四人。
「あとひとりは?」
「あと一人?あぁ、おばあちゃんだよ。父親の母親がこの家にいるはず、・・・なんだけど」
「???」
そう言って友哉が少し遠い目をしていた。なんかまずいことを言ってしまったかと思い少し動揺する気持ちを隠しながら、友哉の次の言葉を待った。
「・・・きっと今頃東京とかでアイドルの追っかけでもしてるんじゃないかな。ここ数日。いや、数週間は顔を見てねぇわ。『若いやつらには負けていられねぇ』って言って結構前に旅行バッグ持って家を飛び出したっきりよ」
「お元気そうでなによりですね」
ただの杞憂だった。でも、何歳になってもそういった生きがいがあるってのはすごいいいことだと思う。ただ金はかかりそうだけど。・・・ってか友哉の家が妙に金持ちの家っぽかったのはそういった理由からなのかもしれない。けれども今回それを友哉本人に聞くのはよしておいた。
「よしっ、お待たせしたわね。勝負よ!」
そう言ってテニスゲームの特訓を終えた美月がビシっとこちらにリモコンを突き出してきた。額にはうっすらと汗をかいており、心なしか部屋の温度も少しだけ上がっている気がする。
「・・・隣で江美が死んでるんですけど、それはいいんですかね」
「じゃあまず手始めに準貴とシングルで勝負よ。これで勝ったら友哉と決勝戦ね」
そう意気揚々と楽しそうに語る美月の隣でもう教え疲れた江美がぐったりとソファーに腰を下ろした。
「準貴バトンタッチします・・・。あとは頼みました」
なんだか遺言みたいになってしまっている美月から力なくリモコンを受け取り、二人でシングルスの対決をすることになった。諸々の設定を終えたら早速ゲームが始まった。
「さて、勝負よ!」
「お手柔らかに、ね」
まず最初に美月のサーブだ。普通通りのサーブから、俺が普通に相手のコートへと返す。
「・・・」
「・・・」
基本的にキャラクターが自動的にボールに追いついてくれるのであとは自分がタイミングよくリモコンを振るだけなのだが、先ほどと比べて美月が格段に上達しているのは試合をしてすぐに分かった。彼女が打ったボールが際どくラインぎりぎりに入り、それを俺が辛うじて打ち返すもそれは相手コート手前のネットに引っ掛かってしまう。
「・・・おっと、やるじゃん美月」
「へへん、伊達に特訓したんじゃないのよ?」
そう言いながら彼女は三連続で鋭いショットを決め、第1ゲーム40‐0で次、美月が点を決めれば1ゲーム目勝利となる。
「美月ちゃん、スマホ光ってるよ?」
美月のマッチポイントがかかったところで、美月のスマホになにか着信が来たようだ。
「あぁ、別にいいから。放っておいて。あと、今忙しいから話しかけないで」
「じゃあ俺が代わりに、っと・・・」
そんな江美と友哉の声が聞こえてきたが、ラリーはまだ終わらない。マッチポイントということもありお互い激しい攻防が続いている。打っては打ち返され、なかなか勝負が決まらない。
「・・・スマホロックかかってるじゃん。えっと、美月ちゃんの誕生日って」
「ええと、確か1月10日だった気が」
「ほぉほぉ、0110っと・・・。あれ、違うな」
「えー、じゃあ四桁じゃないのかな?」
「なるほど、じゃあ」
「ちょっと、なに、やってるの、よっ!」
そして、俺が打ち返したボールは、美月のラケットを掠めることなく、後ろに点々と転がっていく。これで15‐40だ。
「って、勝手に人のスマホいじるな!」
勢いよく美月が振り向くが、江美は自分のスマホをいじっており、友哉はこちらを見てニヤニヤしているだけ。美月のスマホはさきほど置いてあったテーブルの上から1センチも動いていない。
「いじってないけど?」
「死ね!あとこっち見んな」
「美月ちゃんって意外とスカート短いよね」
「だからこっちみんなって!」
「もうちょっと肩の力抜かないと明日筋肉痛になるよ?」
「あんた、ぶっ殺されたくなかったらちょっと黙ってなさい」
美月の罵声では、友哉はただニヤニヤするばかりだった。若干気持ち悪い友人をよそに、そのあとは健闘もむなしく、あっさりと1ゲームを先取されてしまった。そして、2ゲーム以降は先ほどよりもさらにラリーが続いた。お互い決め技を持っていないのでとにかくボールを打ち返し、集中力の切らした方の負けという試合だった。俺も美月もたまーにミスをしたり、俺がまぐれでスーパーサーブを決めたりもしていたため、その後もなかなかに接戦となり、2ゲーム目は俺が先取、最終ゲームは美月が勝ち取り、試合は2対1で美月の勝利に終わった。
「なかなか強かったわね。でも勝利はいただいたわ」
爽やかな汗をかきながら美月がグッと親指を立てた。結構子供っぽいところもあるんだなと思いながら勝てた喜びを本当に実感している様子でもあった。・・・ゲームだけどね、これ。
「美月こそ。さすがに練習の甲斐あってか上手だったよ。次頑張ってあいつ倒してこい」
「言われなくてもそうするわよ」
そう彼女が言い残し、リモコンを決勝相手だという友哉にバトンタッチする。
「茶番はこれまでよ。さぁ、俺が存分に打ち負かしてやるぜ」
友哉が妙に厨二臭いセリフを吐きながら美月との対戦が始まった。俺は先ほどまでぐったりしていた江美の隣へと腰かける。江美は先ほどよりはだいぶ生気を取り戻しているようで、俺たちの試合もちゃんと見ていたらしい。
「お疲れ様」
「おう、そっちの方が疲れてるだろうに。お疲れ様」
「えへへ。ところで準貴」
「ん?」
そう言って江美が「ここだけの話」と言いながらぐっともたれかけていた背中を起こし、迫ってきた。
「ちょっと、手加減した?」
「・・・まぁ、素人なりには、多少」
「ふふっ、優しいんですね」
そう言ってニコッと笑いながら満足そうにソファーに再び身を預けた。
「さすがに決勝あるっていうのに勝つのもどうかと思ってさ。それにある程度は本気でやったって。ちゃんと相手のいるところに返して、いいのが決まったなって思ったら大袈裟に変なタイミングで打ったりしただけだよ」
「それを手加減とか接待って言うんですよ、知ってますか?」
「・・・それくらい知ってるっつの」
江美がドヤ顏で説明をしてきたのを軽くあしらうように返した。でも手を抜いたのも、こうやって分かってくれる人がいると少しだけ嬉しい。それに、きっと俺が勝とうが負けようが、友哉がきっとどうにかしてくれるだろう。そう思いながらテレビの方に目をやると、ちょうどレシーバーの友哉が、40‐0から美月のコートにジュドーン、という轟音と共にスーパーショットを決めていた。これで1ゲーム目は友哉のストレート勝ちで終わった。
「んー、美月ちゃんも少しは強くなったかな?でも、まだまだひよっこだぜ・・・」
「はぁ?!なんなのよいまの。ナシよ、ずるだからそういうの。有り得ないから」
次の試合も手加減することを知らない(あえてやらない)友哉がストレートで勝ったのは言うまでもない。




