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1484 青春白書  作者: 吉倉 光希
第1章「短い夏の始まり」
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第3節

~登場人物紹介~

道上 準貴:本作の主人公、高校一年生。夏は嫌い。暑いから。

高橋 遥 :主人公の幼馴染。元野球部マネージャーで現在諸事情で入院中。

小室 江美:主人公の隣の席のクラスメイト。夏は嫌い。日焼けするから。

喜田川 友哉:主人公の親友。夏は好き。川でバーベキューを計画中。

棚木 美月:準貴のクラスメイト。夏もバイト戦士。


          3


 見慣れない住宅街をしばらくのあいだ歩いていると、目の前に一際目を引く大きな家が姿を現した。スーパーで様々な食材を買って、そこから歩くこと約3分。閑静な住宅街の中に友哉の家はあった。


 「ほい、到着。遠慮しないで入ってくれ」


 「おじゃましまーす」


家主である友哉に先導され、先頭の美月に続き江美と俺が喜田川家の玄関へと入り込んだ。外観は普通の一軒家ではあるものの、緑色の三角屋根にクリーム色の壁はとてもおしゃれで、どこか高級感を醸し出していた。そして何よりも驚いたのは外に一台、真っ白なキャンピングカーが停まっていたこと。


 「・・・なんかすげぇな、お前の家。それに、キャンピングカーってそこそこ値段するんじゃねぇのか?」


 「あぁ、あれか?それでも中古の中古、俺たち家族が三代目の所有者らしいからな。そこまで高いわけじゃなかったみたいだぞ」


 「へぇ、そうなのか」


そして俺たちが案内されたのは家のど真ん中にある大きなリビング。たこ焼きを焼くのにさすがに彼の部屋では無理だということだったので、キッチンの隣にある冷房付きのここを堂々と占拠し、使わせていただくことになった。入るとどことなく友哉の面影を感じる彼のお母さんがソファーに座って雑誌を読みながらお出迎えをしてくれた。


 「あら、いらっしゃい」


 「ここでたこ焼き焼こうと思ってるんだけどいいか?」


 「別にいいわよ。私これから出かけるから準備はできないけど、それくらいあんたたちでできるでしょ?」


 「オッケー。じゃ、さっそく準備すっか。準貴、頼んだぜ」


 「迷わず来たな」


そう言いつつも、袋から材料を取り出しつつ、下準備をする気満々でいた俺を見て江美も美月が陰でこそこそなにか話をしている。


 「準貴の女子力・・・」


 「えぇ。魅せつけてきたわね」


わけのわからないことを言っている二人はさておき、とりあえず友哉の家のキッチンを借り、下準備をするため念入りに手を洗う。と言ってもたかがたこ焼きの生地作りだ。一からなにか料理を作るほど難しくはない。たこ焼き粉に水と卵とみじん切りしたキャベツを入れて、あとはごちゃっと混ぜ合わせればすぐに完成だ。(一応たこ焼き粉の後ろにある作り方にはそう書いてある)そしてあとはきっと女子たちが美味しく焼いて作ってくれるのだろう。


 「ところでさ。なんで美月にたこ焼き焼いてもらうなんて言い出したんだ?」


俺が対面キッチンから居間でくつろいでテレビを見ている三人に声を掛ける。とりあえず流れに任せてここまで来てしまったのだが、なぜ友哉の家でたこやきパーティーをやることになったのかというのはよく理解していない。部室の掃除をして、先生からいただいたお金で、昼ご飯を一緒に食べようという話になったのだが。それがなぜたこ焼きなのかが一番の疑問だ。


 「うちがたこ焼き屋でバイトしてるから、ってことでしょ友哉?」


 「まぁそういうこと。プロのお手並みを見せて頂こうかと思ってね」


 「へぇ。そうだったんだ」


美月のバイト先がたこ焼き屋だった、というわけだ。どこのお店なのかはよく分からないが、俺も手作りという意味でたこ焼きを自宅で食べるのは初だし、友哉もさっき俺は食べる専門だとか言ってたぐらいだ。今回は美月に一任することにしよう。ってかそこでくつろいでないで美月が生地から作ってくれればいいのに、とは一瞬思ったが、言わないでおいた。


 「美月ちゃん、働いて何か月だっけ?もうお客さんに作って売ったりするの?」


江美が目を丸くしながら美月に尋ねた。


 「4月に新人として入ってもう三か月は経ったわよ。私も最初はレジ打ったりするだけかなぁって思ってたんだけど、初日にいきなりたこ焼き作る練習させられて、もうびっくりしたわ」


 「へぇ。入って三か月でもう戦力なんだな」


美月の答えに俺と江美が感嘆する。


 「そこのバカがよくうちの職場を覗きにくるのよ。ガラス越しにガン見されるとこっちも作りづらいわよ」


 「ちゃんとお客さんとして行ってるんだからいいじゃーん。まぁ最初は休日に偶然会ったんだけどさ。それ以来常連みたいなもんよ」


そう言って友哉が俺と江美に向かって誇らしげに胸を張った。


 「あんた、うちの先輩に『最近よく来る黒ブチメガネの人』って顏覚えられてるわよ」


 「えっ、マジ?もうそんな有名人になっちゃった?」


 「有名人って・・・。そりゃあ毎週土曜日と日曜日に顔出してればね」


 「まぁいいじゃん。俺も買い物のついでだったりするんだしさ。ってか俺が様子を見に行くとほぼ100パーセント美月がいるってのも面白いんだよなぁ」


 「私は全然面白くないから」


 「俺もそろそろアルバイト考えないとなぁ・・・。なんだかんだでもう1学期が終わっちまったし」


親父は俺のアルバイトに対して、「してもしなくてもどっちでもいい」とは言っていたものの、自分で買いたいものとかがきっとこれから先出てくるだろう。そのとき親から貰う小遣いだけじゃちょっと心許ないと思っていたところだ。急な出費がある場合、親父に言えば大抵の場合少しは援助してくれるんだけど、まぁきっと俺は高校を卒業したら就職するだろうし、社会経験も兼ねて、というやつだ。


 「江美とか友哉はアルバイトしたりしないのか?」


 「うちはただでさえ成績悪いし、きっとお母さんが許してくれないかなぁ。『アルバイトする暇があるなら勉強しなさい』とか言われそう」


 「あんたはそうね。まぁどうせ勉強もしないんでしょうけど」


 「勉強なんてしたってどうせ社会に出たら使わないって」


 「・・・なんでそんな誇らしげなのよ」


なんだか江美が少しだけかっこよく見えた気がするが、彼女のその自信は一体どこから来るのだろう。言ってることは結構どうしよもないのに。


 「友哉はどうなんだよ、アルバイトとか」


 「うーん、俺は別にいいかなぁ。買いたいものとかも特にないし」


と、そんなぼんやりとした返事が返ってきただけだった。まぁこいつの場合、きっとお金には困ってないんだろう。あとは本人のやる気次第、といったところだが、それも微妙そうだ。


そんな話をしているうちにたこ焼きの生地が出来上がったので、予めダイニングにセットしてくれていた大きなたこ焼きプレートに電源を入れる。生地はお好み焼きの生地をもっとトロっとさせたようなやつになった。これでおよそ120個ほど焼けるらしいが、こればっかりは実際に作ってみないと分からないだろう。友哉と美月にも生地の具合を確認してもらったので多分大丈夫だと思う。


 「このホットプレートで、一度に何個焼けるんだ?」


 「さぁ。四十個くらいじゃね?」


 「・・・あんた持ち主でしょ?」


 「へぇ。そんなにいっぱい焼けるんだね。食べ切れるかな?」


 「一度にたくさん焼けたって生地の量は決まってるからさ・・・。ってか中に入れる具材は?」


 「「まだなの?」」


 「・・・お前ら。ちょっとは『手伝うか?』とかあってもいいんだぞ?」


そう俺が軽く嘆いたあと、再びキッチンに戻り具材となるウインナー、チーズ、あとは主役のタコ、友哉が入れるとうまいとか言ってた切餅など、たこ焼きの具材となるものを袋から取り出していく。スーパーで買ったものは基本的にはたこ焼きの具材と生地のみ。ソースやマヨネーズ、あとはかつお節や青のりなんかは友哉が「家にあるから」と言って買わなかったので、お会計は1000円ほどで済んだ。コスパも良いし、皆で楽しめるたこ焼きって素晴らしいな。・・・俺の家で親父と二人でやるのはちょっと寂しい気もするけど、もしかしたら小さめのたこ焼き器を買うのも悪くないかもしれない。そんなことを考えながら俺が一つ一つ丁寧にまな板の上で具材たちを切っていると、突然キッチンのすぐ隣の部屋の扉がガラッと開いた。


 「友哉、私出かけるからね」


そこから顔を覗かせてきたのは先ほどリビングで雑誌を読んでいた友哉のお母さん、そしてその呼び声にダイニングから友哉が応えた。


 「俺はこっちだよ。実の息子を間違うんじゃねぇ」


 「あら失礼?・・・ってかあんた。お友達に下準備任せっきりってどういうことよ。・・・本当にごめんなさいね、うちのバカ息子が。あなたが道上くん?」


 「はい、どうも・・・。すみません、こちらこそ台所を勝手に使わせてもらってます。・・・後でちゃんと綺麗に片付けますんで」


突然顔を出してきた友哉の母さんに、俺が包丁を持つ手を一旦止め、軽く会釈をする。


「なんもいいのよ。こちらこそお友達にお出迎えもしてあげられなくて本当にごめんなさいね。・・・それにしても包丁の使い方上手ね。うちの息子にも見習わせたいくらいだわ」


そう言ってお母さんは自分の息子のことをカラッと笑い飛ばした後、リビングにいる友哉のところへ向かい、何かを伝え、そのまま出かけてしまった。


 「ねぇ美月ちゃん」


 「どうしたのよ」


友哉の母さんの車の音がだいぶ遠くなった後、江美がちょっと深刻そうな顔で美月とこそこそと話をしだした。


 「私たち、準貴にお料理任せっきりでリビングでくつろいでるってまずくない?ってか絶対友哉のお母さんになんか思われたっぽいじゃん?ほら、一応うちらも女の子だし」


 「私はこれからここで『たこ焼き焼く役』に徹するから別に」


なんだよ、たこ焼き焼く役って。普通に焼く人とかでいいだろ。・・・いや別にそんなのどうだっていいけど。


 「でも、うちなんもやることないし美月ちゃんだってうちと一緒でグダグダしてるだけに見えてたよきっと?」


 「・・・それは、確かにそうかも」


江美の言葉に珍しく美月が言葉を詰まらせる。二人ともそう思うならちょっとは手伝ってくれよ。・・・だいだい具材を切るのは終わっちゃったんだけどさ。とりあえずその具材サイズに切ったものたちは近くに適当な皿に移した。これでたこ焼きパーティの準備はすべて整った。


 「ま、別にいいじゃない。とりあえず私は焼くの頑張るから」


 「じゃあ私は食べるの頑張るね」


 「・・・たこ焼きって、意外と太るのよ?」


 「・・・じゃあ頑張らない」


いいからさっさとやりませんか?


 「よし。それじゃあ美月ちゃん」


友哉がよろしく、と美月に声をかけた。彼女が熱したプレートに慣れた手つきで油を塗り、そのくぼみの中に生地を流し込む。ジューという音と共にプレートから湯気が立ち込める。


 「おぉ・・・」


 「なんだよお前。そんなに感動する場面でもねぇだろ」


 「いや、なんかすげーなって」


 「なんだよそれ」


 「すごーい。美味しそう」


江美も俺と同じく手作りたこ焼き初心者のようで、美月の様子を目を輝かせながらじーっと見ていた。


 「ってか美月って左利きだったのか」


 「えっ、今更?」


 「おい準貴。俺ら一応4月に出会ってもう3か月だぞ?」


 「いや、気が付かないことだってあるだろ。じゃあお前は気づいてたってのかよ」


 「だいぶ前・・・、っつか学校で4人で飯食ってるときにすぐに気が付いたわ」


そう言って友哉が肩をすくめる。美月も左手におたまを持ちながら少し呆れている様子だ。


 「まぁどうでもいいわよ。ほら男子、そんなことよりたこ焼きの具材入れて」


 「うちやる!うちやりたい!」


 「分かったわよ。じゃああんた入れて」


 「えっ、でも失敗とかしたら怖いからやっぱやめた」


江美のその様子はなんとなく好奇心旺盛な小学生みたいで少し面白かった。


 「具入れるのに失敗もくそもないわよ。早くしないと焦げちゃうから」


そう美月が言うと、江美がタコやらチーズやらを一つ一つ慎重につまみ、穴の中にゆっくり、そーっと入れていく。


 「あっち」


跳ねた生地が彼女の指につき、彼女は咄嗟にペロッとそれを舐めた後、再び具材を穴に入れていく。その様子をみたあと、友哉がじっと俺の方を見つめてきた。


 「・・・」


 「・・・なんだよ」


 「・・・いや。なんでもない」


俺たちの会話を聞いてか、美月がジト目でこちらを見てきた。


 「いっぺんあんたらは死んだ方がいいわよ」


 「なんで複数形なんだよ。俺なんも言ってねぇし」


 「???」


男子の残念さに美月が呆れ果てていた。江美はなんのことかよく分からないと言わんばかりに首をかしげているが。・・・同い年の同級生のはずなのだが、その様子はさながら小さい子が一生懸命お料理の手伝いをしているようだったのでよしとしよう。その一つのたこ焼きを目で追いながら俺は密かにそう思った。


しばらくすると、居間には香ばしいにおいが充満し、それはとても美味しそうなたこ焼きが完成した。


 「はい、完成」


 「わーい」


それぞれの皿に盛られたたこ焼きが熱い湯気を立てていた。あとはお好みでソースとかマヨネーズをかけて食べるだけだ。熱々のたこ焼きの上で踊るかつお節がそう言っている気がした。


 「いただきまーす」


一足先に江美が丸々一個たこ焼きをつかみ、口の中に入れる。


 「あっ、あんたそんな一気に食べたら」


 「あっふ、あっふ! みふ、みふ」


とりあえず江美は口をパクパクさせながらなにかを叫んでいた。・・・そりゃあたこ焼き一個そのまま口の中に入れたらこうなるわな。その後、美月からお茶を手渡され涙目になりながらそれを飲み干した。


 「・・・ふぅ」


 「バカじゃないの」


 「バカじゃないもん」


そんなやりとりを見た後なので、とりあえず俺は崩すのが勿体ないとは思いながらもそのまん丸のたこ焼きを二つに割り、口に入れる。


 「・・・お店とかでよく食べるのとはまた別な味で、なんつうかその、うまいな。見た目も超きれいだし。さすが美月」


 「ありがと。まぁ生地作ったのは準貴だし」


 「プレート準備したのは俺だしな」


 「あんたは出しゃばるなって」


昼ごはんがなかったことも相まって手作りたこ焼きはとても美味しく感じた。中には溶けたチーズが入っており、それがまたタコとは違った美味しさがある。これが手作りの良いところなのかもしれない。


 「次は準貴たちも焼いてみれば?」


 「そんな簡単にできるもんなの?」


 「大丈夫よ。竹串ならしたのプレートを下手に傷つけることはないし、仮に傷つけたとしても友哉のだし。焼くこと自体はそんなに難しくないわよ」


 「おい、ちょっと待て。なんか聞き捨てならないワードが聞こえた気がするぞ」


 「うちもやりたい!」


 「わかったから、ちょっと落ち着きなさい」


そして最初に焼き終わったたこ焼きをほどよく食べ終わったところで、二回目となる生地をプレートに流し込んでいく。美月曰く、一回目より二回目以降のほうが油が染み込んでいて焼きやすいらしい。


 「さて、どんどん焼いていこうか!」


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