第3話 序章
~登場人物紹介~
道上 準貴:本作の主人公、高校一年生。夏は嫌い。暑いから。
高橋 遥 :主人公の幼馴染。元野球部マネージャーで現在諸事情で入院中。
小室 江美:主人公の隣の席のクラスメイト。夏は嫌い。日焼けするから。
喜田川 友哉:主人公の親友。夏は好き。川でバーベキューを計画中。
棚木 美月:準貴のクラスメイト。夏もバイト戦士。
7月27日金曜日。いま、俺たち全校生徒は一同体育館に集められ、壇上にいる校長先生の話を思い思いに聞いていた。まだ午前中だというのに夏の日差しが体育館の窓から強く差し込んでいる。今日は今年一番の暑さになると朝、テレビの天気予報でそう言っていたのを思い出しながら、早く終われと心の中で何度も壇上に向かって罵声を吐いた。そう、今日で長いようで短かった一学期が終わり、明日から25日間、高校生活初めての夏休みが始まる。これを聞いて夏休みが短いと思う人もいるかもしれない。北海道の小・中・高校は総じて夏休みが二十五日、冬休みも同じく二十五日。計五十日というのが相場で決まっている。地方によっても若干差異はあるらしいが、北海道はそう決まっていた。本州など基本的には夏休みというのは冬休みよりも長めに設定されているらしい。そんな長くてどーする、と最初聞いたとき俺は思った。北海道は雪が多いため、冬休み期間を長めに設け、登下校の際の生徒の負担を少しでも減らそうという意図があるらしいが、詳しいところは俺もよく分かっていない。それならいっそのこと雪降ってる間はずっと休みにしてほしいんだけど。
その後、終業式が終わり、あとは大掃除をクラス全員で済ませたら今日の学校はおしまいとなる。暑く蒸した体育館を出た俺たちは、現在ジャージに着替え、教室の掃除へと取り掛かっていた。男子はもっぱら普段は掃除しないところ担当で、俺はとりあえず窓ガラス拭き担当だった。そんなに汚れていないし、掃除なんてする必要ないだろ・・・。そう思いながらも霧吹きをした後、丁寧にそれをふき取り、その後別の雑巾で乾拭きを繰り返していく。
「・・・なぁ、これやる意味あるのか?」
俺の隣で同じように愚痴をこぼしながら掃除をしているのが俺の数少ない親友喜田川友哉。ひょろっとした細い体つきをしているが、学校指定のジャージ姿が微妙に似合っていた。今流行の細マッチョというやつ。
「全然汚れてないけどさ。多分掃除することに意義があるんだよ」
「そんなもんなのか」
掃除する意味について愚痴りながらも丁寧に窓ガラス拭きを続け、それが終わると今度は教室のドアのガラス部分や、机磨きなどもやらされた。・・・まぁ他の男子は下駄箱掃除やら体育館の床磨きやらに駆り出されているのを考えれば比較的楽な部類だろう。教室に男子は俺と友哉と他数名しか残っていなかった。
「・・・もういんじゃね?」
「大方終わったっぽいな」
一通りの仕事を終え、うっすら汗をかいた二人は、自分たちの掃除した窓際で休みながら、ぼーっと教室を掃除している女子たちを眺めていた。
「なんで女子は普段通りの掃除なんだよ。卑怯だろ」
「そこはまぁ、いいだろ別に」
友哉がそこらへんの女子をみながら文句を言った。確かに、ジャージを着ているのは男子だけで、女子は普段の制服のまま。それに掃除もいつも通り、箒とデカいお掃除ワイパーみたいので床をすいすい滑らせているだけのようにも見えた。
「良くねぇよ。なんだよあの掃除。やる気あんのか」
「・・・まぁ確かにそうだけど。でも制服姿で床の雑巾がけとか女子にさせるわけにもいかないだろ」
「なら最初からジャージ持ってくればいいだろ。なんで男子だけジャージ持参でこの仕事内容なんだ。おかしいだろ」
「それはまぁ、確かに」
二人でそんな話をしていると、教室のドアから見知った顔の女子が教室に入ってきた。
「あら、準貴に友哉。お疲れ様、二人は掃除サボってるの?」
「二人とも、お疲れ様」
そう話しかけてきた二人の女の子も俺たちと同じクラスメイトだった。最初の少しトゲのある方が棚木美月、あとの方で少し苦笑いをしているのが小室江美だ。二人とも恐らくどこかの掃除を終え、いま教室に帰ってきたといったところだろう。
「サボってねぇよ。もう終わったんだよ。美月ちゃんこそ終わるの少し早すぎじゃない?」
「私たちは女子トイレ掃除だから。そんな個数もないし、そこまで時間はかからないのよ」
「お、おう・・・」
「なによ。サボってる自覚あるならさっさと働きなさいよ」
「・・・」
おい、友哉もそこで弱気になっちゃダメだろ。俺たちはやることをやって終えてるんだから別に悪いことをしているわけじゃない。あと制服でやるトイレ掃除なんて恐らく大したことはしてないだろう。きっとトイレをブラシで軽くこすって掃除しました程度だ、そんなに弱腰にならなくてもいいのに。そうは思ったがそれを女性陣に言うのはよしておいた。色々言い寄られたら後々めんどくさいからな。
「今日で学校おしまいだねー」
「そうね、あっという間に一学期も終わっちゃったわね」
そう女の子二人がしみじみと語った。確かに入学から夏休みまではあっという間だった。 入学早々ちょっとした事件もあったが、学校は現在、少しずつ平穏を取り戻しつつある。遥の事件について、時が経つにつれ少しずつ忘れられているというのも確かにあるかもしれない。しかし、これが恐らく本来の学校というものだろう。三十九人の学級は少しだけ物足りなさを感じることもあったが、時間は彼女を待ってくれることはなかった。
「みんなは夏休みどっか行く予定とかあるのか?」
俺が三人に向かってそう尋ねた。
「俺はまたキャンプにでも行くんじゃねぇかな。予定はまだ立ててないけど」
友哉はいつも通り、というか予想通りだった。
「私はバイトと、あとはお盆におばあちゃんうちに行くくらいかな」
「うちもそんなかんじ。おばあちゃんうち行って、あとは家でゴロゴロしてると思う」
女の子二人がそう答えた。美月は相変わらずバイト戦士で、江美はというときっと俺と同じようなゴロゴロ引きこもり生活だろう。勝手にそう想像した。
「準貴はどっか出掛けたりするの?」
俺が勝手に彼女たちの生活を想像していると、江美がそう訪ねてきた。
「そうだな。多分江美と一緒で家でゴロゴロしながら引きこもり生活だよ」
「・・・うち、引きこもりなんて一言も言ってないんだけどなぁ」
「多分、準貴にはあんたが引きこもりに見えてるのよ」
「えぇー。まぁ間違ってはいないけどさぁ」
さんさんと照りつける太陽が、俺たちに夏の始まりを告げようとしていた。




