第5節
~登場人物紹介~
道上 準貴:本作の主人公、高校一年生。イケメンだがオタク。
高橋 遥 :主人公の幼馴染。元野球部マネージャーで現在諸事情で入院中。
「・・・暑い」
「・・・いい天気じゃねぇか」
午後十四時というのは一日の中で一番気温が高くなりやすいとはよく言ったものだ。本格的な夏の到来を予感させる、そんな雰囲気を感じ取れるほどだった。北海道の中で特に函館というのは北海道の中では比較的過ごしやすいと言われている。傍に海があり、また北海道の南側にあるということから冬は雪が少なく、夏はそこまで暑くならないという「いいとこどり」をしたような場所でもある。・・・他の場所に住んだことないからよく分からないが自分は勝手にそう思っていた。いや、でも内陸の旭川とか、最北端の稚内とか、気象情報を見ていて同じ北海道とは思えないくらいの違いを感じたことはあった。
入り口を出て、ほんの少しだけ歩くと、病院の敷地内に大きな庭のようなところがあった。庭というより芝に遊歩道が敷かれてある大きめの公園の方が正解かもしれない。ちょっとした遊具などもあり、子供たちが楽しめるスペースなのかもしれない。天気もいいことなので、たくさんの人たちが外に出て、日光浴を楽しんでいるところだった。
「やだ、結構人いるのね」
「なにが嫌なんだ?」
「・・・もういいわよ、あんたに気遣いは求めてないから」
なんのことかさっぱり分かっていない様子の俺に、遥は大きなため息をもらした。
「ってか勝手に外出て良かったのか?」
「あんたが連れてきたんじゃない」
「いや、そうじゃなくて。その、ご両親と話してたところだろ」
今頃遥を探し求めて病院じゅうを駆け巡っていなければいいけど。俺がラーメン作っているあいだ、どこに行って、なにをしていたのだろう。
「また喧嘩して。ほんとどーしよもねぇな」
「うん・・・。ごめんね巻き込む形になっちゃって」
「・・・なんもそんなことはいいんだけど。俺が来る前どんな話してたんだ?」
しょんぼりとしている遥には少し気が狂いそうになる。早く軽口叩くようになってくれないだろうか。そんなことを考えていた。
「・・・ねぇ。あんたってさ、私がなんでこうなったかって気にならないの?」
「質問を質問で返すなよ・・・。っていうとお前が自殺した理由ってことか?」
「・・・私、あんたに自殺って言ったっけ?」
やっぱり以前の会話は彼女に自覚がなかったのか、少し驚いた表情をしている。別にエスパーとかじゃない。彼女が前に口を滑らせただけだ。確か一昨日くらいだった気がする。そんなことを思い出しながら俺は公園中央の空いているベンチに腰掛け、遥も車いすを降り、片足でケンケンんしながら俺の隣へと座った。危ねぇよ、と言ってはみたものの、彼女は全く耳を貸さなかった。
「自覚はないかもしれないけど言ったんだよ。昨日か一昨日くらいに」
「・・・そっか。で、気にならないの?」
「お前が自殺した理由か?まぁ気にならなくはないけど」
「うん」
「でも人間言いたくないことの一つや二つあるだろ。それに、無理に聞き出したところでそれがお前のためになるとは思えないからさ」
「・・・それがさっきの答えよ」
というと、これが両親と話していたこと、ということだろうか。俺は遥の言っている意味がよく分からず、彼女に追加の説明を求めるように促した。
「私がなんでこんな状態になったのかってのをずーっとあっちが聞いてきているだけよ」
「・・・っていうと、お前は今までずっと、駅のホームから意図的に落ちたのか、事故的に落ちたのか問われてたわけか?」
「そうよ」
「それで、なんにも話が進んでないってことは、お前は黙り続けていると」
「・・・正解」
これはとんでもなく反抗的な娘だな、と少し苦笑いする。事故が起きてから一ヵ月ほどが経過しているが、その原因とやらを両親に全く話していないということになる。
「なんで教えてやんないんだよ」
「・・・」
そう言って、俺も結局ご両親と同じ質問をしているということに気が付く。彼女の沈黙は彼女が答えるつもりがないということの表れだろう。でも、多分そんな難しい話じゃない。彼女は言いたくないから言わない。それだけなのだ。それを誰もが聞こうとするから反抗して、喧嘩になったというわけか。
「・・・お前、じゃあこのことってのは一生黙って、墓場にまで持っていくつもりなのか?」
「・・・そのつもりよ」
彼女の答えに一瞬めんどくせぇこいつ、とも思ったが、彼女の目は真剣そのものだった。目は口ほどにものを言う。その言葉を痛感する彼女の眼差し。
「・・・分かったからその怖い目やめてくれ。ほんと誰のせいか知らんけどさ。大変なんだなお前も」
彼女の鋭い眼光に恐怖を感じた俺は、とりあえず降参とばかりに肩をすくめた。
「実をいうと半分の半分くらいはあんたのせいなのよ?」
「えっ」
その意外な言葉に少し鳥肌が立ったが彼女は何故か笑っていた。
「でも許してあげる。ご飯美味しかったし、いっぱいお見舞い来てくれたし。お人よしっていうか、暇なのね」
そう言ってにっこり笑った遥の表情はとても明るかった。でも怖い、俺のせいなの?中途半端に言われたけど、ちょっとは責任感じた方がいいのか俺。
「なぁ、野球部の部活内で色々あったって俺は思ってたんだけど、俺のせいでもあるのか?」
「・・・あんた、どっからそんな情報聞いてきたのよ」
俺の質問に遥は不機嫌そうにそう答えた。その後、俺は色々なツテでそこまでたどり着いた、とは言ったものの、石川先輩や、その彼氏さんのことは敢えて口には出さなかった。具体的には、遥がもしかしたら先輩たちからいじめられていて、それで自殺したのではないかという憶測まではできているということをここではじめて正直に話した。
「そこまで知ってるのね」
「で、合ってるの?」
「どんなツテか知らないけど正解よ。まぁまだ核心には辿り着いてないって感じかしら」
「・・・」
そこまできたなら教えてくれよ、とも思ったのだが、彼女はそれ以上のことは教えてくれなかった。
「なぁ、悩んでることがあるなら相談してくれてもいいんだぞ?俺に相談しろって言ってるんじゃなくてさ。その、頼れる友達的なやつに」
「あんたにも、誰にもこればっかりはどうしよもできないことよ。私にだってどうしよもできないんだから。だから気にしないで。時間が経てば勝手に私自身で解決するから。それまで待ってて」
そう言ってこの話題は打ち切りになってしまった。結局のところいじめがあったことまでは認めた形にはなるが、これでいいのだろうか
「なぁ、それじゃあお前、先輩からいじめられてたことを認めることになるんだぞ?いいのかそれで」
「いいのよ。今回の件は全面的に私が悪いから。確かにいじめられてはいたけど、悪いのは私なの」
「でも、お前が先生たちにでも『いじめを受けていました』って一言いえば、それで済むんじゃないのか?」
「そんなこと言ったら、正しいことしている先輩たちが可哀想じゃない」
なにを言ってるのかいよいよ分からなくなってきてしまった。いじめってのはどんな理由があろうとも加害者が悪いものだと思っていた自分にとって、彼女の発言は信じられないものがあった。
「だからずっと黙ってるのか?」
「まぁそれもあるわね」
遥は結局、先輩を、自分をいじめたやつらを庇うためにずっとこうやって黙秘を貫いているということなのだろう。
「じゃあなんで自殺なんかしたんだよ」
そうなると、結局最初の質問に戻ってくるのは自明だ。自分が悪いのだったら、死ぬことだってなかっただろうに。だけどこの手の質問だ。また遥は黙ってやり過ごすのか、とも思ったが、遥はあっけらかんとしながらこう答えた。
「・・・そうね。自分に嘘をついていることに気が付いたのと、あと強いて言うなら『プライド』かしら」
「・・・はぁ」
遥がそう言って、俺は考えるのをやめた。何言ってんだこいつ。彼女のプライドとやらを俺は理解できる気がしなかった。遥が多少負けず嫌いなのは知っていたが、それのために命を絶つなんてのは正直わけがわからなかった。
「なによ、変な顔しちゃって」
「そりゃこんな顔にもなるわ・・・。要するに、お前には何か人には言えない『プライド』があって、それを汚されそうになったから、そうなる前に自殺したってことか?」
「・・・そうね。合ってるわ」
「・・・」
自分がますます変な顔になっていくのが分かった。
「んなことで人困らせてんじゃねぇよ・・・。どれだけ心配したと思ってんだ」
「だから謝ってるじゃない。でもね、私だっていろいろ考えがあったんだから」
彼女はそう言ったが、俺が言いたいことはそういうことじゃなかった。
「謝るべき相手が違うだろうが。俺に謝られたって痛くも痒くもないわ。お前の心配をして、病院代を払って、毎日?なのか分からんけどお見舞いに来て、お前のパジャマを毎日洗濯して、お前の病院代を汗水垂らして稼いでいるのは誰だ?」
「・・・そうよね」
「まぁ遥にだって言いたくないことがあるのは分かるさ。だったらちゃんとそれを言わないと。『心配かけてすみません。今は自殺した理由は言えないけれど、いつかきっと言える日がくるまで待ってください。頑張ってすぐ退院して学校行くので見守っててください』って。そうすれば両親だって少しは待ってくれるんじゃないのか?」
誰もが少なからず自分だけのる信条やプライドというものがあるだろう。しかしそれを他人が理解してくれるとは限らない。自分の親ですら分かってくれないことだってある。子供だから、黙って親の言うことを聞きなさいと言われるかもしれない。でも子供だっていつまでも子供のままじゃない、子供なりの考え方ってのがある。だからこそそれを大人たちにしっかりと伝えるってのが子供の役割だと自分は思っていた。
「・・・でも、私まだ自殺だってことすら言ってないのよね」
「はぁ?いや、そうか。そうだよな」
「・・・むしろ、あんたにしか多分自殺だって言ってないかも」
「じゃあもう事故ってことにしておけよ、めんどくせぇ。誤ってホームから落下して運悪く骨折したってことにしときゃ誰も不思議に思わねぇよ」
「あんた、今めんどくさいって言った?」
「・・・チッ」
「あっ、今舌打ちした」
「分かったよ。じゃあこうしよう。お前が自殺したってことは二人だけの秘密だ。両親にも、先生方にも事故ってことにしておけよ。その方が都合がいいんだろ?」
「秘密って、それ聞こえの良いように言い換えただけじゃない・・・」
だけど遥はこの案を否定はしなかった。それもそのはず、彼女自身もその方が都合がいいからだろう。自殺となると学校の方で原因とやらを調べなければならない上に、五稜郭駅側や警察にも多大な迷惑がかかることになる。となると遥が取り調べを受けるのは明白で、既に何回かは警察の人が会いに来たと遥も言っていた。そこでさらに黙秘を続ければ、面倒なことになるのは明らかだ。彼女のよく分からんプライドとやらもきっとそれの影響を受けることになるだろう。
「じゃあ俺のさっきの説教も要らなかったんだな」
「二人だけの秘密ね・・・・」
「おい、ぼけっとすんな」
遥は何故だが少し浮かれているようにも見えた。・・・本当によく分からん奴だ。
しかしそう。これは言ってしまえば気が付いてしまった俺の方が悪いとさえ言える。彼女さえよければこれは事故になったのだ。真実を知り過ぎればろくなことにならないという良い経験だった。
「じゃあなんも隠すことないよな。これでお父さんとお母さんと仲直りだ」
「・・・いいのかしら、こんなので」
多分、良くはないだろう。俺自身も何の解決にもなっていないことは分かっている。だけど論理的に考えてこの案が多分、一番丸く収まると判断したのだ。臭いものに蓋、なかったことにしただけ。根本的な解決には至っていない。しかし遥自身がこれに反対しないのが何よりもベストだという証拠ではないだろうか。・・・賛成もしていないのかもしれないけど。本当のことを話せば面倒なことになる。だったら最初から嘘をついて、その嘘を真実にしてしまおうというわけだ。
「じゃあ、私は結局事故ってことにすればいいわけ?」
「お前さえよければな。あとどっちにしろ両親にはちゃんと謝るんだぞ?」
「あんた、ずる賢いっていうか・・・」
「論理的思考に長けてるんだよ」
「・・・なんかあんたと話してたら悩んでるのがバカバカしくなってきたわ。私、今までなにを悩んでいたんだっけ?」
「それは見なかったことにした方が皆のためだ。もとはといえばお前が言う『先輩からいじめられる原因』を作ったのが悪いんだからな。自業自得だ」
「・・・だから、それはあんたが原因なの」
遥が笑いながらそう言ったが、それも俺は聞こえないふり、というか聞こえなかった。聞こえなかったのなら仕方がないだろう。
「はぁ。でもなんかちょっと嬉しいかも」
「なにがだよ」
「なんか肩の荷がふっと軽くなったみたいで。これでよかったのよね?」
「・・・知らん。これが良かったかなんて後になってからじゃないと分からねぇよ。キャッチャーの配球と一緒だ。試合に勝ったら、あるいはヒットかホームランを打たれなければその配球が良かったって判断できるだけであって、配球自体には成功も失敗もないんだよ」
「ふーん。そんなもんなの?」
「そんなもんだよ」
遥を無理矢理納得させた俺は、とりあえず広大な青空に向かて大きく背伸びをする。
「んー、疲れた。で、お前これからどーするんだ?」
「これから?そんなの私に聞かれても分からないわよ。普通に骨がくっついたら退院して生活するわ」
「先生方も、両親も心配してるぞきっと」
「・・・してないわよ。周りの大人はホームから落ちたのは事故なのか、自殺なのか、そればっかり。私の心配なんて全然よ。先生方は学校の評判のため、親は自分の周りの生活のために私のもとにお見舞いに来てるだけなのよきっと」
そのひねくれた考え方はどうなんだよ。と彼女に言ってやりたいところだったが、俺は言い出しかけたところで咄嗟に口をつぐんだ。何故なら本当に心配してくれる人がほんとあともう少し居たのなら、きっと彼女の考えがこんなにも荒むことはなかったのではないだろうか。誰も彼女の心配をしてやらなかったから、今の遥を心配してやる人がいなかったから、こうなってしまったのかとつい考えてしまう。身体のケアは病院側がしてくれるだろう、それが仕事なのだから当然と言えば当然だ。しかし心のケアというのは病院だけではどうしよもない、家族、友人、先生方が協力してやってはじめてうまくいくのかもしれない。初めてお見舞いに言ったあの日、と言っても三日前の出来事だが、遥の憔悴し切った顔。それは彼女の心のケアが十分にされていない表れだったのではないだろうか。
「・・・心荒んでんなぁ、お前」
「・・・嫌よね、こんな女子」
「お前が悪いわけじゃないだろ。まぁお前にも頑固すぎるところがあるにしろ、親たちだってそんな強引な方法で聞かなくてもいいだろ。三日前お前の顔見てゾッとしたぞ」
「・・・池田先生はね、ただ高そうなお土産持ってきて私のご機嫌とって、毎日毎日放課後にやってきて事故なのか、自殺なのかはっきり教えてくれって一ヵ月近くいっつもいっつもいっつも。私あの先生嫌いだわ」
それに私、生クリーム大っ嫌いなのよ、と付け加えた後、遥の悪口はさらに加速する。
「先生だから、仕事だから仕方がないってのも分かるわ。でもそれは明らかに私の心配じゃなくて学校の心配じゃない?」
「・・・そうだな」
「親は親でさ、『先生を困らせるんじゃない』って言って先生が帰った後にいっつも私を説教。親たちも結局大人、先生の味方だったのよ。なにか間違ってる?」
「・・・いや、お前は正しいよ」
だけど先生たちだって必死だ。もし遥が自殺だと分かったらその原因はなんだ、いじめか?だとすると担任は一体何をやっていたんだ。担任を出せ、その学校の校長を出せ。教育委員会は何をやってるんだ。そうなったら学校の信頼問題になってくる。少子化が進む現代では、公立高校でさえ生徒の確保が難しくなってきている。そうすると定員割れ、規模の縮小、果てには廃校を余儀なくされる。しかも問題はそれだけじゃない。高校から企業への就職、大学への進学を含めて生き残りの時代だ、ひとたび問題が起これば周りだってうちに不信感を持つに決まっている。特にうちのような長年続いている大規模な学校であればあるほど、そういった問題責任の所在というのは重要な意味を持ってくる。池田先生だってきっと必死に問題解決に向けて頑張っていたのだ。ただ少し、遥からしてみれば自分に対する心配りが足りなかったというだけ。両親だってきっとそうだ。遥の心配はしているのはもちろん、自分の子供を心配しない親なんていないはずだ。ただ、ほんの少しだけ遥に対する心配が学校の先生に対する心配に振り分けられてしまったために、遥が不満をもってしまった。ただそれだけのことでしかない。
結局のところ、この問題は『重要なことの優先順位』が食い違ったために起こっただけなのだ。遥はもちろん『自分(の心や身体の)心配』をしてもらいたい。だけれど先生や両親は、どうしても『社会の心配』を優先してしまった。それに遥が反発し、上手くいっていないだけなんじゃないか。もちろん遥だって先生の言い分は理解してるし、先生たちだって遥の心配をしていないわけではない。両者ではその『優先順位』がほんの少しだけ違うだけでしかない。
そこで次に考えるべきは何だろう。遥に前述の考えを伝えるのも選択肢の一つだ。だがそれは最良ではないと思う。なぜなら遥は自分自身の心配を優先してほしいに決まっているからだ。彼女からしてみれば社会の心配など比較的どうでもいい話で、自分の悩みについて皆が真剣に向き合ってほしい、そう思うはずだ。じゃあ両親や先生方にもっと遥のこと真剣に悩んでやってくださいと伝えるか。言ったところで「心配していないように見えるか?」と言われておしまいだ。「一番に心配してやって下さい」と伝えるか。多分どの大人も「遥のことを一番に心配している」と答えるに決まっている。大人は自分のいる社会を明確には認識していないのだ。だから休日にしかお見舞いに来ない父親、仕事終わりにしかお見舞いに来ない母親に遥は腹を立てる。それは全て『社会』を一番に置いていることを無自覚のうちに意識させてしてしまっているから。学生だって本当は社会の一員のはずなんだけど、きっとそれは遥自身も社会を明確には意識していないからだろう。そこに俺や友哉たちが放課後に来て腹を立てずとも、両親や先生方が来て怒る理由があると俺は思う。
「・・・どうしたよの、急に黙っちゃって」
「あぁ、悪い悪い」
不自然な俺の黙り具合に、遥が顔を覗き込んでくる。少し顔が近くてドキッとしたのは秘密だ。
「お前は結局どうしてほしいんだよ?」
そう問うのは少し愚問だろうか。多分彼女は一番に自分の心配をしてほしいと思っているはずだ。
「うーん。わかんない」
「・・・だよな」
そうなるのは分かっていた。彼女が自分の心配を一番にしてほしい、と言うはずもない。恐らく誰でもそんなこと言わないだろう。理由は簡単、恥ずかしいからだ。
「でもね」
「???」
「あんたはこのまま、少しずつでもいいからお見舞いに来てくれれば嬉しいかな。多分準貴は本当に私のことを元気づけて、慰めてくれているような気がして。大人たちは自分のことばっかりだからさ。準貴が来てくれれば少しは嬉しいから。なんでだろう」
そう言って彼女はにっこりと微笑んだ。やめてくれよ、俺だって自分の生活が一番に大事だ。そんなこと言ってもらえるほどすごくなんか、ないのだ。ただ学生だから、大人と違って時間が余っていて、頻繁に来ることができるだけで、結局はお前のことを一番なんかに考えてはやれない。こんなことをごちゃごちゃ考えている、理屈っぽい、ずるいやつなのだ。今だけは、彼女のその笑顔はとても心苦しかった。
「・・・分かった。俺もできる限りのことはする」
「どうしたのよ急に・・・。でもありがとね」
自分は彼女に少しでも伝わればと思い、傷心的になってみたが、結局彼女にこの気持ちが伝わったかどうかを判断することはできなかった。




