第3節
~登場人物紹介~
道上 準貴:本作の主人公、高校一年生。イケメンだがオタク。
高橋 遥 :主人公の幼馴染。元野球部マネージャーで現在諸事情で入院中。
「落ち着いたか?」
「・・・」
泣き止んだ彼女にそう話しかけるが返事はなかった。既に俺が病院に到着してから時計の長針は一回りしているだろうか。俺はここに座ってなにもせず、ただひたすらこの状況をどうにかできないかと考えていただけだった。
「・・・ごめん準貴。最悪よね」
「まぁ、いい気分じゃねぇけどさ」
俺はそう正直に告げた。目の前で家族喧嘩を見せつけられた挙句、その原因の一部が俺自身なんて経験はそうないだろう。彼女も悪いことをした自覚はあるのか、バツが悪そうだった。
「・・・ほんとごめん。今日は帰ってもいいわよ」
「そうだな。・・・今日はこれ作ったらさっさと帰るよ。せっかく持ってきたし」
そう言って俺は例のキャリーケースを開け、床に新聞紙を敷き始める。次にガスコンロを二台取り出し、以前に果物の山が置いてあったテーブルにそれをセッティングする。そして中からさらにジッパーに入った麺と、その他具材を取り出す。
「・・・あんた、なにやってるのよ」
「すぐに分かるよ」
そう涙ぐんだ声で遥が訪ねてきたが、俺は黙々と作業を進めた。
その後片方のガス台で大量に入れた水に鍋に火をかけながら、もう片方のガス台でスープ用の少量の水を火にかける。
「あんた・・・、なに、やってるの?」
「すぐ分かるって。焦るな焦るな」
「いや、もうなに作るかは見てれば分かるんだけどさ・・・」
その後、大量の沸騰したお湯の方に手持ち付きのザルに入った麺を投入し、ほぐしながら、隣の方に温かくなったスープをどんぶりに移す。その後茹であがった麺を床に敷いた新聞紙の上で勢いよく湯切りし、どんぶりへと移す。その後、タッパーに入っていたメンマ、チャーシュー、ナルト、微塵切りされたネギを上に乗せて完成だ。
「はい、完成。温かいご飯食べたいって言ってたからさ」
「・・・これ、ラーメンじゃない」
「そうだけど?」
「そうだけどって・・・」
蓮華れんげと割り箸を取り出し、ベッドの備え付けテーブルへと持っていく。
「いただきます」
「・・・」
呆気にとられている遥を尻目に、とりあえず一口。うまい。ちょっと麺が硬い気もするが、火力不足だったのかもしれない。さすがに家のコンロとカセットコンロでは同じものは出来ないということか。
「・・・ちょっと、それ、私にくれるんじゃないの?」
「えっ、お前食べるの?このくそ暑い日に?その顔で?」
「食べるわよ。当たり前じゃない。ってか顔はいま関係ないでしょ。それに、そのためにここまで運んできてくれたんでしょ?」
眼を充血させている遥が強引に箸を奪い取り、どんぶりを自分の胸元に寄せた後、ズズズッっと麺をすする。
「・・・」
「・・・」
無言で食べ続ける彼女に、黙ってそれを見ている俺。とりあえず後片付けしないと。そう思い使い終わったカセットコンロやら、菜箸やらをキャリーケースの中に仕舞う。そして小さな洗面所にこぼさぬようゆっくりとラーメンの茹で汁を捨て、その鍋は濡れないよう大きい袋に入れ丁寧に縛った後にキャリーケースにしまう。俺が簡易台所セットをだいたい片づけ終わった後、彼女の方を見るとどんぶりは空で、既に完食していた。
「・・・食うのはやっ」
「あんた、キチガイだわ」
「なんだよ突然」
キチガイ。確かにその言葉が一番ピンと来るかもしれない。遥は俺が飯を作っている間じゅう、ずっとキャリーケースを引いて歩いている俺を「なんだこいつ・・・」と見ていたすれ違いざまの人たちと全く同じ目をしていた。
「だって、いきなりカセットコンロ出し始めたと思ったら二台あって、それに、鍋に大量の水入れ始めて、何作るのかと思えばラーメンって・・・」
そう言う彼女の声はちょっとだけ震えていた。
「バカ通り越してキチガイよ。頭おかしいんじゃないの」
「・・・」
このなんだろう、涙を浮かべながら罵倒される新ジャンルは。
「でも・・・、美味しかった。久しぶりに本当に美味しいって。今まで食べたもののなかで、今まで食べたご飯の中で一番美味しくて、温かくて・・・。なんでなんだろう」
もう泣いていてなんて言ってるのか分からなかった。
「今までのご飯が全部嘘みたいで。戻しちゃうかもって思ってた自分がバカらしくて。それくらい嬉しかった。なんなのよ、ほんと。悩んでる自分が一番バカみたいで。うちらしくなかったなって。ありがとう・・・。ほんと・・・。バカだけど・・・、うれしい」
支離滅裂ながらも彼女の言葉はちゃんと伝わってきた。彼女の思いの内をほんの少しだけ垣間見ることができた気がした。




