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1484 青春白書  作者: 吉倉 光希
 第5章 「夏のお弁当大作戦」
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第1節

~登場人物紹介~

道上 準貴:本作の主人公、高校一年生。オタクで小柄。料理上手。

高橋 遥 :主人公の幼馴染。元野球部マネージャーで現在諸事情で入院中。

石川 彩音:同じ高校の一つ上の先輩。近所のスーパーでバイトをしている。


道上 将貴:主人公の父親。料理は下手だが仕事ではそこそこ偉い人。

道上 智子:主人公の母親。主人公が中学二年のときに交通事故で他界している。


※この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。※


 次の日、七月七日の土曜日。俺が昨日、夜空に「空気読め」と言い放ったのが功を奏したのかは分からないが、じめじめしていた天気は一変、今朝の天気は久しぶりの快晴だった。昨日は帰宅後、お菓子の袋詰めをし、その後冷蔵庫にあった残りの食材で晩飯を済ませた。そして今は、遥の弁当の食材を買い求めるため、自転車で近くのスーパーへ向かっていた。小さな店だけど、営業時間は確か朝の十時からだった気がする。その開店ギリギリをを狙って自転車を漕いでいた。親父は俺が起きた時には既に家を出ており、顔を合わせることはなかった。親父は朝家を出るのが早い日はおおよそ帰りの時間も早い傾向にあった。まぁ傾向と言っても五分五分くらいだから絶対とは言えない。まぁ一応二人分の晩飯の食材も買って用意しておこう。そんなことを考えながら少し夏らしくなった風を楽しみながら自転車に乗っていた。


 スーパーへ着いた後、弁当の具材を購入するため、ポケットにくしゃくしゃに入れたメモを確認する。まずは唐揚げのための鶏肉、あとはパスタのためのトマトソース、得意の切り干し大根のための油揚げと、遥リクエストの黄色いふりかけくらいか。そう思いながら店内に入り、お目当てのモノたちをかごの中に入れていく。朝早くだというのにお店の中にはそれなりの買い物客がいる。ほとんどがおじいちゃんおばあちゃんだけど。店内にいる若い人ってのは俺と、あとあのレジに立っているあのお姉さんくらいのものだ。もし車があれば少し遠いながらも大規模なスーパーに行ってそこで買い物を済ませたほうが安いし、品揃えもいいだろう。ここをわざわざ利用する人というのは、車がなかったりするお年寄りたちが中心なのだ。店側もそれを分かってるのか、商品のラインナップもだいぶ渋めで、仏花や和菓子、あとは焼酎などの品ぞろえも豊富だ。だが相対的に若者向けのスナック菓子やデザートなどは少なめの傾向にある。俺はそんな店内分析をしつつ、カゴの中身を何度も確認しながら、その若いお姉さんのいるレジへと進んだ。


 「いらっしゃいませ、ってなんだ。後輩くんか」


 そこにいたのは態度の悪い店員だった。なんだこいつ、店長呼べ、店長!と心の中で思いながらもチェッカーのいるはレジはここしかないので俺はここに並ばざるを得ない。


 「なんだってなんですか。一応お客さんですよ、俺」


傍から見れば少しガラの悪い不愛想なお姉さんだが、俺は彼女が石川先輩だということを知っている。ってかこのお姉さん怖い、子供が見たら大泣きするぞ。昨日の俺と一緒に帰った顔と全然違い、どっちかっていうとあのお泊りした日の寝起きの先輩の顔に近い。


 「先輩、勤務態度どーなってるんですか。見た感じちょっと怖いヤンキー上がりのお姉さんですよ」


髪も茶色いし、まゆげはないし、声も低いし。もうほんとおっかない。彼女のこのONモードとOFFモードの切り替え具合にはびっくりする。この姿、写真に撮って彼氏さんに見せてやりたいくらいだ。


 「実は私、起きたの三十分くらい前なんだ。起きたてほやほやだよ」


 「俺のほうが早起きじゃないですか・・・。ってか先輩、昨日の夜もシフト入ってましたよね。・・・人手足りてないんですかこの店」


 「もしかしたらそうなのかも。私よくわかんないけど。バイトしたかったら後輩くんどう?家近いし、店長優しいしオススメだよ」


まぁ募集しているなら考えなくもない選択肢だが、アルバイト募集の張り紙もなにもないのだから応募のしようがないだろう。先輩が黙々とカゴのなかの商品のバーコードを読み取り、一通りのお会計を済ませる。


 「これ遥ちゃんに作ってあげるお弁当の食材たち?」


 「まぁそんなところです。これから作って届けに行きます」


 「仲良いねー二人とも。でも付き合ってないんでしょ?」


 「付き合ってないです。ってか先輩、後ろのおばあちゃん困ってますから」


先輩が俺と喋ってるばかりに後ろでレジ待ちのおばあちゃんがオロオロしていた。なんかほんとに申し訳ないです。先輩には頑張ってください、とだけ告げてその場を後にした。彼女は「はいよー」と言って眠そうな目を一生懸命見開きながら単純作業のようにレジを打っていた。態度は悪いにしろ、仕事のスピードは速そうだったのできっと貴重な戦力なのだろう。それに、このおっかない姿は彼氏さんの趣味に合わせてるとか言ってたし、見た目は眉毛がなくて怖くても、性格まで悪い人ではないと思う。むしろここまで一途に想い、頑張ってる女性という方が今どき珍しいのではないだろうか。短期間ながら先輩と接し、話してきてそう俺は分析していた。まぁいろいろとぶっ飛んでるところもあるのも確かだけど。先輩と同じく家も近いし、俺もこのお店ででバイトできれば近くていいんだけどな。


 「ってか、いつ折り畳み傘返してくれるんだろ。聞けばよかった」


ちなみに昨日、五稜郭駅で先輩に貸した彼女の色々なところを全身くまなく拭いたであろうタオルは『全く意識することなく』速攻で洗濯機に突っ込んでやった。


 その後、家に着いた俺は、お弁当を作るべくエプロンをしてキッチンに立った。そして冷蔵庫を開け、重大な事実に気が付く。


 「・・・卵ねぇ」


お弁当の定番、卵がない。厳密にはあるのだが、一玉しかない。遥のリクエストに卵焼き(甘いやつ)と書かれているのは忘れていたわけではないのだが、卵を買わなければならないということはすっかり頭から抜けてしまっていた。なんのための買い物リストメモだったんだよ・・・。さすがに一玉で厚焼き玉子は苦しいので、結局エプロンを脱ぎ捨て、急いで先ほどののスーパーへ向かった。レジ打ちをしていた石川先輩には「また来たの?」と呆れられてしまったが仕方がない。ついさっきは心地よかった夏らしい風も、二度目は全然爽快じゃないから不思議だ。陽もたいぶ高い位置に昇りはじめ、もう半袖一枚でも外に出られるほどの気温にはなった。急いで帰宅した俺は、とりあえずまたお弁当づくりをするためエプロンをしたのだが、居間にある掛け時計を見ると既に十一時を指していた。


 「・・・米はあと炊飯するだけだから良いにしろ、唐揚げと卵焼き、スパゲッティか・・・。これ、昼飯には間に合わないな」


全てが予定通りに出来上がったら恐らく十二時過ぎくらいにはなる。そこから私服に着替えて電車に乗ったとしても、着くのはどう頑張っても十三時を過ぎてしまう。そんな半端な時間にお弁当を持って行ってもどうなのだろうか。という考えに至り、結局家に残っている家事を優先にしてやることにした。具体的には部屋の掃除機がけ、お風呂・キッチン・トイレなどの水回り掃除、あとは前々からやろうと思っていた庭掃除と草むしりだ。普通は母親や父親がやることなのだろうけれども、自分はこういった作業が地味に大好きで、まぁ家庭の事情もありそれらの仕事は一手に引き受けていた。


 「♪~」


呑気に鼻歌なんか(ちなみにアニソン)を歌いながら電動草刈機で庭の芝を刈る。ってかなんで俺の家こんな無駄にデカいんだよ。生前の母の趣味がガーデニングだったということもあり、家の前はコンクリートでもなければ砂利石でもない、天然芝がそこそこ大きく広がっている。そして家の傍に少しだけ花壇があり、母は生前、そこで花を植えたり、野菜の苗を植えたりしていた。母がいなくなってからは誰もそこをいじらなくはなったのだが、その花壇には毎年何故だかチューリップが咲くようになっている。男二人の家の花壇にチューリップというのは少しシュールな画だが、毎年わざわざ咲いているのを刈り取るのもしのびないので、そのほかの雑草取りだけして、それ以外はあまりいじらないようにしていた。花壇以外の家の前に広がる芝生は、伸びきってしまう前に丁寧に整えるようにし、雑草畑になるのだけは避けるように心掛けていた。今日は七夕で子供たちが来るのだから、家の周りも多少は見栄えを気にしたほうがいいだろう。


 「あっ、七夕・・・」


俺が夕方に出かけたら誰がお菓子配るんだよ・・・。まぁいいや。最終手段は段ボールにお菓子を突っ込んで「一人一つまで!」って書いておけば子供たちが勝手にお菓子を取っていくだろう。ここら辺ではそうやってる家々は少ないが、函館に出ればよく見かける光景だ。どうせ俺が玄関先に出て小さな子供たちにお菓子を配っても「背の小さい変なお兄ちゃん」としか思われないだろうし、こっちのほうがむしろ子供たちもきっと楽でいいだろう。


 そして、最後の仕事であるトイレ掃除を済ませた頃には十五時を過ぎていた。早速お弁当づくりに取り掛かるのだが、その前にふとポッケにしまってあったスマホの画面を見ると、三件電話が来ていた。嫌な予感がしながら一応相手を見てみると、案の定、遥からだった。そしてメッセージも同じように三つ受信していた。


 『おなかすいた(顔文字)』 13:00


 『おなかすいたんですけど?(怒顔文字)』 13:20


 『今日来ないの?』 14:20


あっちもやっぱり昼ご飯にお弁当を食べる予定だったのか、お腹をすかせていたようだ。スマホを見ずに家事に集中していたため、なんだかんだで最初の連絡から二時間近く放置したことになる。


 『お弁当は晩御飯になります。五時過ぎに行く』


やばいな、これはたぶん怒られる。そんな嫌な予感を背に、少し急ぎながらお弁当作りを始めた。


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