第2節
~登場人物紹介~
道上 準貴:本作の主人公、北高商業科一年生。りんごの皮むきが得意。
高橋 遥 :主人公の幼馴染。元野球部マネージャーで現在諸事情で入院中。
石川 彩音:普通科二年生の先輩。スタイル・性格が良い故、彼氏もいる。
七月六日。布団のなかでスマホのツイッターを見た後、起き上がり窓の外を見ると昨日の天気予報通り、外は生憎の空模様だった。しかし天気はどうであれ、学校はいつも通りにあるのだからいけ好かない。雨の日は休みにまでしなくていいから少し開始を遅くするとかしろよ。そう思いながら嫌々ベッドから起き上がる。その後階段を下りトイレを済ませキッチンで朝食の準備をしていると、脱衣所からシャワー上がりのおっさんが姿を現す。親父、朝シャン多いな。俗説では朝シャンしすぎるとハゲるらしいからな。本当かどうかは知らないけど。
「おい」
「なんだよ、飯は今から作るよ」
「そうじゃなくて」
「???」
なんだ、今日は飯作らなくていいのか、と疑問に思っていると、父親が居間に掛かっている大きなカレンダーを見ながら深刻そうに語り始める。
「今日七月六日だぞ」
「それがどうした?」
「・・・お前、七夕のお菓子準備したか?」
「・・・忘れてたわ」
今日は七月六日、となると明日は七月七日、そう皆が知っている七夕祭りである。一般的には七夕というとただ夜空に天の川が見れればいいね、と言いながらそうめんなどを食べたり食べなかったりするのが一般的だろうか。だが北海道、特に道南あたりでは「ローソクもらい」という自治体総出の行事がある。具体的には小さな子供たちが、浴衣などを着て夕方から夜にかけて各家々にお菓子を貰いにいくという習わしだ。昔テレビ番組で少しだけ紹介されたことがあるのだが、地元では俺が小学校の頃から当たり前のようにやられているほど慣れ親しまれた行事だ。たぶん、明日夕方から日が沈むくらいにかけて家に続々と子供たちがやってきて
『竹ーに短冊七夕祭り 大いに祝お ろうそく一本頂戴な』
という歌を歌い、お菓子を貰いにくる。それが毎年恒例のイベントなのだ。(ちなみに歌は地方によって若干違いがあるらしいのだが、俺はこの歌しか知らない。あと「ローソクもらい」と言って、本当にろうそくを渡したら子供たちは心底がっかりする。とりあえずよく分かんないという人は七夕の七月七日の日に家を周ればお菓子が貰えるという行事、近年のハロウィンを想像してくれればいいだろう)
そのため、子供たちが訪ねてくる家では当然ながら、子供たちに渡すお菓子を用意しなければならない。うちは集合住宅地ということもあって、毎年約三十セットほどのお菓子を用意して、無くなったらおしまい、という形をとっていた。(昔はさらに倍ほどを用意したのだが、少子化の影響で近年はむしろ足りないというより、用意したものが残るという場合の方が多い。)例年であれば適当にう○い棒とか蒲焼○さんを買っておいて袋詰めまでしておくのだが、今年はまぁ遥の件で色々あったこともあり、後手に回ってしまっていたようだ。
「なんだよ、道上家は貧乏だから今年はお菓子なしか」
と居間の隣の部屋から親父がケラケラ笑う声が聞こえてくる。着替えでもしているのだろう。
「・・・無しってわけには、いかないだろ」
・・・別に無しなら悪いというわけじゃない。この行事にはなんも強制力はないのだ。別にやりたくなければやらなきゃいいし、居留守したけりゃすればいいし、本当に出かけていれば子供たちだってインターホンを押すだけ押して帰っていくだろう。だけど、自分が小さい頃、いろんな人たちからたくさん貰ってきたのだ。あげる側になった途端にやめるというのも少しおかしな話だろう。何度も言うがこれは町内会の強制行事ではない。だが、子供たちはそういうのお構いなしに「あそこの家は去年も貰えたし、多分今年も貰える」といったノリで突撃してくるのだ。用意しないわけにもいかない。
「そうか、じゃあ今年も用意するんだな。お菓子は昨日やった駄賃で足りるか?」
「足りる足りる。じゃあ今日適当に買ってくるよ」
親父、駄賃って言葉遣い何年前の人だよ。それはさておき昨日、親父から遥のお見舞い代として臨時収入を貰ったので、それで適当にお菓子でも買ってくるとしよう。そう俺が思っているのも束の間、親父はいつの間にかスーツ姿に着替え、既に家を出る支度を整えていた。
「コーヒー紙コップに入れてくれ」
「・・・はいよ」
「あと今日も飯要らんわ。じゃ、行ってくるぞ。鍵しっかりかけてな。あと雨降ってるから車には気をつけろよ」
ほんとに文句の多い親父である。そう言って親父は耐熱仕様の紙コップに注がれたコーヒー、そしてオーブンで少し焦げ目をつけたクロワッサンを持って家を出ていってしまった。俺はというと、騒がしい文句の多い親父もいなくなったので、のんびりとトーストを焼き、目玉焼きを作って、それと同時進行で昼用の弁当も作ってしまう。親父が出た瞬間から経過する時間のスピードがのんびり過ぎて怖い。社会に出るってことは時間に追われるってことなんだろうな。大変そうだ。
「・・・そういえば昨日寄ったスーパー、もう一回行きたいな」
弁当におかずを詰めながら、昨日俺がはじめて目にしたあの大型スーパーのことを思い出す。あそこで七夕のお菓子も買うことができれば近くの商店で買うよりかは安く済むだろう。この時期になると店側も七夕でお菓子がよく売れるということを知っているので、業務用や普段は取り扱っていない大型パックのお菓子も売り場に置いているのだ。じゃあ今日はあそこのスーパーに寄って帰ることにしよう。俺はそう今日の予定を着々と固めながら学校に行く準備をするのであった。




