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1484 青春白書  作者: 吉倉 光希
 第3章 「塞翁(さいおう)が馬」
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第5節

~登場人物紹介~


道上 準貴:本作の主人公、現在高校一年生。家事全般が得意。

高橋 遥 :主人公の幼馴染。元野球部マネージャーで現在諸事情で入院中。

小室 江美:主人公の隣の席のクラスメイト。パソコン部。ポニーテール。

喜田川 友哉:主人公の親友。黒縁メガネ。妹がいる。

棚木 美月:準貴のクラスメイト。江美の親友。

 函館病院から出た俺たちの面持ちは当然ながら暗いものだった。それでも友哉が「とりあえずマックでも行く?」と言って俺たちを誘ってくれたおかげで、いま、こうしてなんとか四人で席に座れている。普段なら男女で買い食いなんてリア充か、俺たち。なんてことを言っているのかもしれないが、今ははっきり言ってそれどころではなかった。


 「なぁ、遥ちゃんどうしちゃったんだ?」


 「・・・びっくりです。てっきり前と同じような明るい遥ちゃんを想像していたんでちょっと、その、ショックでした」


注文を終え、椅子に座り早々友哉と江美がそう言って顔を見合わせた。でも確かに二人の言う通りだった。何が原因なのかも分からず、とりあえず今、俺たちはお見舞いに行ってしまった後悔の念だけが残っているような気がする。別に遥だって拒んでいただけではないだろう。しかし、一緒に話して笑い合えた一ヵ月ほど前の雰囲気ではなかったのは確かだ。彼女の幼馴染の俺がこう言うのだ、知り合ってまだ数か月の彼らにとってみれば今日の状況は面喰ったに違いないだろう。


 「・・・その、遥ちゃん。きっと何かにすごい悩んでるんだと思うの」


そう切り出したのは江美だった。


 「きっと、私たちには想像もできない悩みなんじゃないかな。だって会ってびっくりしたもん。どうしたの?って言うくらい目腫れてたし」


 「なんというか、全身がもう彼女じゃないみたいだったわね。でもそれは間違いなく遥ちゃんで、見ていて辛かったわ」


やっぱりみんな思うところは一緒で、とりあえずあの見た目の変化に一同驚きを隠せなかったようだ。俺としては、あの遥が、あの大食いの遥が食欲を落としているということが何よりも驚きだった。


 「でも、遥ちゃんに直接聞くわけにもいかないしなぁ」


 「・・・」


彼女自身に、「どうしたの?なんか辛いことでもあったの?」と聞ければ早いのだが、ということを友哉は言っているのだろう。俺だってできるのであればすぐにでも聞きたかった。でも事態が事態だ。なにかあって悩んでいるに決まっているだろう。そんなの、きっと今日の状況を見れば百人中百人がそう答えるに違いない。ただそれを俺たちが聞いていいのかどうか、そこに悩んでいるのだ。この二週間で彼女は驚くほど変わってしまった。その原因を知らなければ解決は難しい。


 「やっぱり、その、自分から命を絶ったことについてなんでしょうか。私も最初、会ったら遥ちゃんになんで駅のホームから落ちたのかを真っ先に聞こうと思ってました。でも、あの姿を見た瞬間、頭が真っ白になっちゃったというか・・・。あと準貴が後になって聞くかなぁ、とも思ったんですけど、結局聞けずじまいでしたね」


 「そうだな。俺も聞こうとは思ってたんだけどな。けどなんかそういう雰囲気でもなかったからさ。俺もあいつのあんな姿見るの初めてで少しびっくりしたよ」


 「・・・これはさ。もしかすると俺らで解決できる問題じゃないのかも」


友哉がそう言って自分のジュースが入っていた紙コップのストローに口をつける。しかしもう既に飲み切っているようで、氷の隙間の空洞を吸う空気の音だけが虚しく聞こえてくるだけだった。


 彼女が悩んでいるのは分かった。それでは次にその悩みについて、俺たちが首を突っ込んでいいものなのかという話だ。江美が以前言ったように、これは多分、事故ではなく事件なのだ。今日の姿を見てしまった今、遥はもしかして、生きていることすら後悔しているのではないだろうかとさえ思えてくる。自殺だとすればいま自分が病院で寝ていることは紛れもない過去への自分の否定。結果的に上手くいかなかっただけだとしても、それは彼女にしてみればさほど問題ではないのかもしれない。彼女はこれからも生きていかなければいけないという絶望、そして周りからの視線を気にしながら日々の生活を送らなければいけないというのはどう考えても自明だった。


 「俺たちにしてやれることってなにかないかな?」


俺が三人にそう問いかけるも、一同は俯いたままだった。そして友哉が最初に重そうな口を開いた。


 「うーん、どうなんだろう・・・。遥ちゃんになにかしてやることが最善の方法とも限らないのかもな。なんかその、言っちゃ悪いけど少し俺たちを鬱陶しそうにしているようにも見えたし、今はあんまり関わってやらない方がいい気がする。彼女自身が時間をかけてゆっくり解決することだってあるだろ」


 「まぁそれもそうよね。どっちにしろ、このままだと、次のお見舞いなんかとてもじゃないけど行きづらいわよ・・・」


友哉の意見に美月が乗っかる。そして美月の言葉を最後に一同は沈黙し、議論は煮詰まってしまう。なにかヒント、手掛かりはないかと思い立ち俺はスマホを開き、彼女とのメッセージ交換の履歴を見る。そうすると、一番下に出てくるのは、当然俺と遥が昼頃に行ったやり取りだ。


 『別に、来てもいいけど、びっくりしないでね』


 『分かってるって。そしたら、なんか急に変更があったら連絡するから』


 「びっくりするなよってそういうことだったのか」


遥から送られてきたものの意味をやっと理解し、そして勝手に自分に腹を立てている自分がいた。なにが分かっていたのか。なにを分かっていたつもりでいたのか。これを見た遥の気持ちを考えれば考えるほど、過去の自分を蹴り飛ばしてやりたくなった。そして、なにか自分にできることはないか、彼女の力になってやれることはないか。自分が行ったことへの罪滅ぼしではないがそんなことばかりを考えてしまう。


 しかしその思考は袋小路になっており、ただ思考がその場を堂々巡りすることしかできないのであった。


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