第4節
~登場人物紹介~
道上 準貴:本作の主人公、現在高校一年生。家事全般が得意。
高橋 遥 :主人公の幼馴染。元野球部マネージャーで現在諸事情で入院中。
小室 江美:主人公の隣の席のクラスメイト。パソコン部。ポニーテール。
喜田川 友哉:主人公の親友。黒縁メガネ。妹がいる。
棚木 美月:準貴のクラスメイト。江美の親友
買い物を終え、病院に着いた俺たち四人は、受付で予め本人から聞いておいた遥の病室の場所尋ね、そこへと向かうため、大きなエレベーターに乗り込んだ。
「・・・久しぶりですね、遥ちゃんとお話しするの」
「そうね、だいぶ懐かしい気がするわ」
女の子二人は、久しぶりの再会に少しだけ興奮気味な様子なのが観てとれる。俺はちょくちょく電話で話をしていたりしたので、あまり久しぶり感はないのだが、それでも少しだけ肩に力が入る。物静かなエレベーターが少しずつ上昇していき、遥のいるという六階に到着する。病室は東西南北+番号で振られており、遥のいる病室はすぐに分かった。病室の前へ来ると、「高橋遥」という綺麗な字で書かれたネームプレートの部屋があった。あいつ、一人部屋なのか、と比較的どうでもいい感想を抱きながらその引き戸を数回ノックする。
「遥さーん・・・?道上です」
「・・・どうぞー」
返事はとてもけだるそうだった。重たい扉を開け、足を一歩踏み出すとタイルの色は廊下の水色から病室の黄色へと変化していた。俺はいつもの調子でお構いなくズコズコと侵入する。そして数歩歩いて、やっと遥の顔を拝むことができた。
「よぉ。久しぶり」
「久しぶりね」
「遥ちゃん・・・、お久しぶりですー」
「お邪魔しま、す」
「お邪魔しまーす・・・」
遥が続けて入ってきた江美、美月、友哉とも軽く挨拶を交わす。
「「・・・・・」」
その後の長い沈黙。きっと四人全員がそう思ったのだろう。誰がどう見ても分かるほどの彼女の変化に俺は心底驚愕した。左足と左手に包帯、というかギブスが巻かれている、そのことではない。顏の頬は痩せこけ、赤く腫れた目元に薄黒いクマ、束ねられた髪はハリツヤを失い、そして見るからに数キロは痩せ細っていた。俺が横目で三人の様子を見ると、美月と友哉も同じように言葉を失っていた。
「・・・遥ちゃん、いつぶりですか、ね。二週間くらいでしょうか?」
美月が慎重に選択しながら言葉を絞り出す。
「えぇ、そうね。ごめんね、わざわざ学校帰りに来てくれたのになんももてなしてあげられなくて」
と遥が俺らに視線を合わせないようにそう言った。
「・・・別にいんだよ俺らが勝手に来ただけなんだから」
「・・・」
俺がそう言っても、遥は何も言わず、ただ下を向いているだけだった。
「そうだ、少しだけど果物買ってきたから、よかったら食べて」
そう言いながら美月が紙袋の中から先ほど買ってきたいちごとりんごを取り出す。
「ありがとね、皆。悪いけど美月ちゃんそこ置いておいて」
遥が差したその先にはたくさんの彩り鮮やかなくだものがたくさん置かれた大きめのテーブルだった。
「わかった、ここ置いておくわね」
そう言って美月が静かに紙袋を置いた。
「・・・」
見ていて悲しくなったのはその置かれたものの量だ。学校机二つ分くらいあるテーブルに山のように積まれているお見舞いの品。そのほとんどが手つかずでそのまままるで放置されているかのようだった。部屋に入ってすぐに香った果物独特の匂いと消毒液の匂いが入り混じった香りの原因だった。
「・・・」
暫くお互いがなにも話すことなく沈黙が続いた後、俺は遥と他三人の姿があまりにも見ていて居たたまれなくなったので、痺れを切らし、大袈裟に備え付けのパイプを遥のベッドにまで移動させた。
「・・・美月、そこにあるナイフと買ってきたりんご一個くれ」
彼女にそう言った。美月は戸惑いながらもナイフとりんごをこちらに渡し、遥の様子を伺っている。遥はというと、少し驚いたものの、いまだに顔はうつむいたままだ。
「・・・この部屋紙皿もないのか。友哉、おつかい頼める?」
「わかった、任せとけ」
俺がそうとだけ言うと、友哉はなんの文句も言わず、病院の売店へと走っていってくれた。
「・・・」
江美と美月が物静かに見守るなか、俺は備え付けの手洗い場でリンゴを水洗いし、ゆっくり時間をかけて螺旋状に皮をむいていく。
「さすがに上手ね」
「・・・すごい、切れないんですね皮」
二人に見守られながらゆっくりと作業を進め、リンゴを裸にしていく。さらに手を切らないように真ん中で切り、中央のタネをとって、食べやすい大きさにまで小さくする。
「・・・食べるか」
「・・・いい、ごめん」
俺が差し出した八分のにカットしたリンゴを遥がそう言って拒んだ。
「・・・わがままだなぁ。ほら、半分」
「・・・いい」
その八分の一のリンゴをさらに中央で二つに割ったリンゴを渡すも、さらに拒絶される。
「・・・はぁ」
俺がそうため息をつき、仕方がなく自分の口へと放り込む。その後、友哉が病院の売店で買ってきてくれた紙皿の上に適当に切ったリンゴをのせていく。
「ほら、みんなで食べようぜ。早くしないと酸化して美味しくなくなっちまう」
俺がそう言うと、買い物から帰ってきた友哉、そして江美と美月が顔を見合わせ、しばし目で牽制し合った後、それぞれ一つずつ口にする。
「・・・美味しい」
「うん、うまい」
「美味しいです。なにか剥き方にコツとかあるんですか?」
最後にそう尋ねてきたのは江美だった。
「剥き方にコツはないよ。ただ練習するしかないな。まぁ、なんか参考になるとしたらりんごの選び方かな。でも皮むいちゃったしもう説明できないんだよ。とりあえず迷ったら重いリンゴ選んでおけ。あともっと冷蔵庫とかで冷やせばうまいんだけど」
そう説明しながら、俺は紙皿に置かれたりんごを一つ手に取り、半分の半分、殻つきの落花生一粒ほどのサイズにカットする。そして新たに紙皿を取り出しそれを遥の目の前にまで持っていく。
「ほら、あとは右手で食べるだけだぞ。あーん、なんてしてやれないからな。恥ずかしい」
「・・・」
そう言うと、遥は無言でその小さなリンゴの欠片を右手で掴み、一口で食べた。遥の表情は不服というか納得のいかないそんな表情だったが、江美も美月も友哉もほんの少しだけ嬉しそうだった。もちろん、俺だって、ほんのちょっぴりだけ嬉しかった。
「どうだ」
「・・・美味しいわよ」
その一言に俺らはホッと肩を撫で下ろす。だけどもこの後、続いていちごも食べますか、という雰囲気には当然ならず、むしろこの後はぎこちない会話をし、気まずい時間だけが過ぎていくだけだった。しばらくすると、病院内で夕食の時間だということもあり、今日のところはお開きとなった。その後、廊下に出た俺たちは忙しそうに働いている看護師さんたちとすれ違う。その隙間から見えた病院食というのはあまりにも味気ないものばかりだなぁ、と俺は思った。プラスチックのお皿に盛られた食材たちは、彩はそれなりに鮮やかだが、決して美味しそうとは言えない、そんなものだった。
「ま、ここはホテルじゃねぇんだから、仕方がないのか」
そう一人でつぶやき、一行は函館病院を後にしたのだった。




