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1484 青春白書  作者: 吉倉 光希
 第3章 「塞翁(さいおう)が馬」
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第2節

~登場人物紹介~


道上 準貴:本作の主人公、現在高校一年生。家事全般が得意。

高橋 遥 :主人公の幼馴染。元野球部マネージャーで現在諸事情で入院中。

小室 江美:主人公の隣の席のクラスメイト。パソコン部。ポニーテール。

喜田川 友哉:主人公の親友。黒縁メガネ。妹がいる。

棚木 美月:準貴のクラスメイト。江美の親友。

 時はさかのぼり、その日のお昼休み。いつも通り、俺と友哉は俺の席で昼飯を食べ、隣では美月と江美が同じように昼ご飯を食べていた。


 「ねぇ準貴。遥ちゃんのお見舞い行くのって今日よね?」


 「そうだな」


隣の席で江美と一緒にいる美月からの質問に、そう俺は答えた。部室でのお見舞いの計画から二週間が経過し、もう暦は七月を指す頃にまで突入した。今年もう既に半分が過ぎ去ってしまい、あと少しで夏休み、というところまで来てしまった。変わったことと言えば少し夏らしくなった、気がする。しかしまだそこまで暑くはないのであまり実感は湧かない。目に見える変化は学校の制服が冬服から夏服へと移行しつつあり、いまはちょうどその移行期間なのだ。そのため、教室には夏服と冬服の男女が入り混じっている少しだけ奇妙な風景である。来週の月曜日から完全夏服が適用される予定だ。


 「そう言えばお前、遥ちゃんに連絡したのか? 今日お見舞い行くぞって」


爽やかな半袖で既に夏服に移行完了をしている友哉が、恐らく確認の意味を込めたものを俺に質問してくる。


 「だいぶ前にきちんと言ってあるよ。天気が良い、晴れた日の授業終わりに四人で行くって言ってある」


遥とはあれ以来、スマホでメッセージの交換をしており、再来週くらいの晴れている日にお見舞いに行きたいということは既に連絡済みだ。ここのところ雨続きで、結局今日の今日まで日程がずれ込んでしまったのだ。彼女が目を覚ましてから今日で二週間が経過したが、精密検査で大きな異常は見られなかった話しまでは聞いている。しかし、体が無事だった、ということではなく、彼女は駅のホームからの落下の際、左手と左足を骨折してしまったため、暫くの間は入院生活が続くということは既に分かっていた。


 「だけど、骨折ねぇ・・・。学校来られるまでは相当時間かかりそうだけど」


友哉がそうぼそりとつぶやく。自殺であれば確かに命が助かってよかった、と言えるところだが、誤ってホームから落下し、その結果骨折というのであれば、きっとそれは不運な部類だろう。ホームから線路までの高さはおよそ一.二メートルほどだろうか。結局、自殺なのか、事故なのか、というのは俺も、先生も、三人も、まだ誰も聞いていないはずだけど。


 「骨折ってどのくらい入院すれば治るんですかー?」


江美が俺らにそう聞いてくるものの、俺だってその答えを知っているわけではない。むしろこっちが聞きたいくらいだ。江美の質問に友哉が顔をしかめる。


 「うーん。高校生だし、骨がくっつくまでそんなに時間はかからないと思うけど。でも骨折の場合、本人のリハビリの努力次第ってのもあるからなぁ。一概にどのくらい、とは言えないけど・・・。足だけだとだいたい半年もすれば退院できるんじゃないか?」


 「半年かぁ・・・」


その言葉に、江美も、俺も同じような顔をする。半年、となるとだいたい退院の目安としては年明け前後になるだろう。


 「半年後・・・。冬休み明け、ってもう三学期だよな?」


 「そうね。もう少しで二年生になるところよ」


俺のつぶやきに美月が答える。そうなってくると、遥と一緒に進級というのはもう、ほぼ絶望的と言っても過言ではないだろう。


 「・・・遥ちゃん、超頑張って超人的なスピードで治るって有り得ないかな?」


 「あんたね。遥ちゃんはサイボーグじゃないんだから・・・」


あいつの場合、なんとなくそういうことはやってのけそうだけどさすがに無理か。あいつキズの治りとかめちゃくちゃ早かったし。確か小さいころ、転んでケガしても次の日にはケロっとして体育で徒競走やって一位だった記憶がある。まぁ昔の話だけど。


 「なぁ友哉。半年で退院できるって何が根拠なんだ?」


 「えっ?根拠か?前に妹がキャンプ行った時に同じようなケガをしてだいたい入院してたのが半年くらいだったから、そんくらいかなぁって」


 ふーん、と友哉の言葉に耳を貸しながら弁当のおかずに手を付ける。


 「妹って、いくつ年下なんだよ」


 「妹って言っても俺と同い年だよ」


 「・・・お前、双子だったのか」


 「まぁ、そうなるな」


・・・なんか羨ましいような、そうでもないような少し複雑な気分だ。俺の中のイメージの「妹」というのは、いくつか歳が離れていて、自分のことを「お兄様」とか「お兄ちゃん」とか「クソ兄貴」なんとか言って慕ってくれるようなそんなイメージだ。容姿が可愛いかどうかはともかくとして、同い年の双子の妹というのはあまりピンとこない気がする。・・・まぁでも、よく考えればあのライトノベルの主人公とその妹も、双子ではないにしろ、早生まれの兄と遅生まれの妹というのもあるから有り得なくはないのだろう。・・・さすがですわ、お兄様。なんて一回でいいから言われてみたいな。もう俺には絶対に叶うことのないそんな夢だけど。・・・まぁでも、正直言って諦めているわけではない。親父が再婚したりすれば有り得ない話ではないからだ。再婚相手に連れ子がいて、それが義理の妹になる。その場合、俺は立派な兄になるのだ。そんなマンガやラノベも・・・、あったな。でも貞操帯付けてる妹はちょっと特殊すぎるし。あと、男装して弟だって言われても、俺、きっとわかんないだろうな。まぁでも、妹さえ、いればいい。っていうのは確かに一理あると思う、これだけでグッと惹きつけるなにかは確かにある。一人っ子の妄想を掻き立てるなにかが。


 「はぁ・・・。いいよな、一人っ子は」


俺が妹論争を一人脳内で繰り広げている中、友哉がそんな発言をする。正直言ってこれは聞き捨てならななかったので、俺が当然のごとく食って掛かる。


 「お前、一人っ子がどれだけ大変か分かってないからそんなこと言えるんだぞ」


 「それを言うならお前だって、双子がどれだけ面倒かってのも分かってないよな」


そう言って友哉が俺に箸の先端を向けながら話を続ける。


 「例えばだぞ、お前が親戚からお年玉を一万円貰ったとする。でもな、双子だとそれが単純に半分ずつになるんだよ。相手からすれば喜田川家の子供あげる額は一万円で一緒でも、こっちは貰う額が半分の五千円になるって、卑怯だと思わないか?」


 「・・・それは確かにちょっと嫌だな」


 「それにだ。妹なんてちっとも可愛くもなければただ邪魔なだけだ。面倒事は俺に押し付けて、得することは全部俺より先に済ませちまう。それに親や親戚なんかはあいつが女だからって理由だけで妹ばっかり贔屓しやがる。・・・兄妹ってそんなもんだよ」


 「・・・俺の夢を壊すようなことはやめろよ」


それはできれば聞きたくない話だった。俺も薄々は気が付いていたけどさ。ただ、やっぱり一人っ子の考えがあるってのも確かだ。今はもうないかもしれないが、小さいときであれば兄妹二人でお留守番なんてこともあったかもしれない。そうなると、やっぱり一人より二人の方が楽しいし、心細くないだろう。あとはそうだな、二人で同じゲームを買って通信プレイで遊んだり、テレビゲームを一緒にやったりできるのも兄妹の特権なんじゃないかって思う。まぁそんなことを言っても、俺には兄妹のいる生活というのは体験できないし、また、友哉は一人っ子の生活というのがどういうものなのか分からない以上、これ以上話してもどうしよもないのか。きっとこれが俗に言う「隣の芝生はなんちゃら」ってやつなんだろう。


 「まぁいいや。ってか話がだいぶ逸れたけど、妹さんはもう大丈夫なのか?」


 「もう、って言ってもだいぶ前の話だけどな。その時は半年くらいで退院したよ」


なるほど。そうなると遥もだいたい半年くらいで退院すると友哉は予想しているわけか。


 「お前こそ。遥ちゃんにいつごろ退院になるかとか聞いてないのか?」


 「まぁ、一応聞いたけど」


彼女とメッセージのやりとりをしているときにその件はそこはかとなくは聞いたのだが、答えは「私も全然わかんない」ということだけだった。目途が立ったら話はすると言っていたものの、遥自身、あまり退院のことを考えていないのか、日常生活にある程度支障が無くなったら退院できるんじゃない?という曖昧な答えが返ってきただけだった。


 「・・・わかんないなんて、少しおかしくないか?」


 「まぁそういうこともあるんでしょ。退院の予定なんて、予定でしかないんだから、実際にどうなるかは分かんないってことなんじゃない? それより準貴、一応、今日の放課後に行きたいってこと、今、遥ちゃんに伝えておいた方がいいんじゃないかしら?」


今までの話を一通り聞いていたのか、友哉の疑問に美月がそつなく答える。俺も美月の意見とだいたい同意見で、まぁ分かったら教えてくれればそれでいいんじゃないか程度に思っていたところだ。・・・ところで、今日行くってまた連絡する必要あるのか?以前に言ってるんだからいいんじゃね?


 「今日天気が微妙だし、遥ちゃんからすれば私たちが来るかどうか微妙な天気なんだから一応言っておいた方がいいに決まってるでしょ。それに、遥ちゃんも女の子なんだから一応気遣ったりするでしょ。・・・準貴、頼んだわよ」


 「・・・はいよ」


美月に促され、仕方がなくスマホの液晶をつける。確かに今日の午前中は一日中曇り空だった。これから夜になると少しずつ天気が崩れるとは言っていたものの、まだ雨が降っている様子はない。明日の予報が雨だということを考えると、病院に行くのは今日が恐らくベストだろう。俺はメッセージで遥の画面を開き、送信する文章を入力する。


 『今日、雨降らなさそうだし、放課後お見舞い行こうと思うんだけど大丈夫か?』


親父に送信する文章ではないので、細心の注意を払って数回、読み返し送信する。遥も俺の中では一応女子だ。幼馴染とはいえ、そういうところには念のため気を付けるようにしている。今流行の歌手東野ナナさんも歌のなかでそんなことを言ってたしな。女の子らしく扱えとかって。・・・それはちげーか。ってか東野さんも、女の子らしく扱えって、その方法を具体的に教えてくれよ。そう考えながら送った画面を眺めていると、すぐに既読が付き、遥から返信が帰ってくる。


 『あんまり気乗りはしないけど・・・来るんでしょ?(顔文字)』


と、唇を尖らせた絵文字付きでメッセージが届く。気乗りしない、とは一体どういうことなのだろう。俺にはさっぱり見当もつかないが、とりあえずダメ、ではないらしい。ニュアンス的にはあまり来てほしくない的な雰囲気も含んでいそうだが。


 『今日無理なら断ってくれてもいいんだぞ?でも明日雨だっていうから、今日のうちに四人で行ければいいなって話をしていたんだけど』


そう、俺が送り返すと、送った瞬間既読が付き、ものの数十秒で返事がくる。


 『別に、来てもいいけど、びっくりしないでね』


びっくりってどういうことだよ・・。俺らが病室に入った瞬間驚かされる仕掛けでもあんのか。まぁきっと遥のことだ、怪我の具合を見て驚かないでねってことなのだろう。多分ベッドに寝たきり、とまではいかなくとも足を骨折しているのだ、包帯でぐるぐる巻きになってる遥の姿は容易に想像できる。俺もそれくらいで驚いたりはしない。そう半ば強引に決めつける。


 『分かってるって。そしたら、なんか急に変更があったら連絡するから』


と入力・送信し、最後に適当なスタンプを送り付ける。この文章を見た遥の気持ちなんてこのときは想像すらできなかった。

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