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1484 青春白書  作者: 吉倉 光希
 第1章 「遅刻ですよ」
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第2節

~登場人物紹介~


道上 準貴:本作の主人公、高校一年生。イケメンだがオタク。

高橋 遥 :主人公の幼馴染。元野球部マネージャーで現在諸事情で入院中。


※この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。

 駅までの道のりの途中でコンビニに寄り、今日の昼ごはんになる予定のおにぎりを適当に選び、購入する。さすがにあの睡魔のなか、お弁当を作る気力は湧いてこなかった。それに学校ではすでに授業が始まっているのだ、お弁当を悠長に作ってる暇などあればさっさと授業を受けに行けという話だろう。俺が駅まで自転車で走っていると、ちょうどゴミ収集車が住宅街をまわり、忙しそうにごみを集めているところだった。お仕事中のおばさんたちからは「なんでこんな時間に制服を着た学生が自転車に乗って走っているのか」と疑問に思われたことだろう。さすがにこの時間に学生服は少しだけ目立つ。今日が多分、一生で最初の最後の朝帰りになるんじゃないかな。

そんなわけのわからないことを考えている間に自転車は上磯駅へと到着した。自転車を降り、何気なくスマホを見ると、メッセージが来ていた。送り主は友哉で内容は概ね「なんで学校休んだ?皆心配してるぞ?」的な内容だった。俺は適当に「寝坊した」とだけ入力し、送信する。学校のやつらは遥の目が覚めたことを知っているのだろうか。まぁ知らないのであれば俺が学校に行って教えてやればいいだけの話だ。階段を上り、列車の時刻表を見る。次の列車が出発するのはおよそ二十分ほど先のようだ。(電光掲示板?何それ美味しいの?)駅のホームにはまだ列車はいないので、恐らく函館駅から来る列車の折り返し運転なのだろう。駅の待合室は自分以外誰もいないため、とても閑散としている。学生はともかく、おじさんやおばさんもいないというのは少し珍しい。そんなことを考えながら俺は時刻表を後にし、とりあえず待合室の椅子に座る。今時間は通勤時間に比べて頻繁に電車が出ているわけではないので、俺が乗るべきは十時の早い時間に発車するこの一本のみだ。でもそれに乗れば授業の三時間目には間に合うだろう。そんなことより、と俺は再びスマホの画面を開き、明け方に来た遥のメールをもう一度確認する。


 「・・・遥、ホントに目を覚ましたのか?」


ふとそんな疑問が浮かび上がる。確かに今朝早くにメールは来たのだが、もしかしたら誰か別の人物が遥のスマホからメールを送った可能性だってある。まさか、誰かが偽装しているなんてことはほとんどないだろうけど、だけどまだ彼女の肉声や姿を確認したわけではない。

 そう思い、迷惑ではないかと考えた挙句、時間もあるので彼女に電話をしてみることにした。遥の名前を電話帳から探し、早速緑の受話器ボタンを押す。


 「・・・病院だから、もしかしたら電源切ってるかも」


しかし、そんな心配は無用だったようで、三コールほどで電話は繋がった。


 「・・・もしもし」


 「もしもし、俺だけど」


 「分かってるわよ、そんなこと。あんた、スマホの着信画面知ってる?」


スピーカーから聞こえてきたのは罵声のようなそんな言葉だった。電話の声というのは約二千五百種類の声の音から、話し手に一番特徴が似ている声が選択され、再生されているらしい。しかしこの抑揚のない、気だるさそうな感じ。それは受話器の向こうにいるのは遥本人である、ということの紛れもない証拠になった。


 「・・・あんた学校は? っていうか今どっから電話してんのよ」


 「上磯駅の待合室だよ。今日は学校遅刻だ」


 「何してんのよ・・・。あんたらしくもない」


昨日の晩、先輩の家にお泊りをして寝坊、なんて知ったら彼女はどう思うだろう。いや、あるいは何も思わないのかもしれない。だけどとりあえず今は黙っておこう。


 「それよりよく生き返ったな。心配したんだぞ」


 「・・・なによ、私はずっと生きてたわよ。・・・でもごめん、心配かけて」


そう言って珍しく彼女の方から謝ってきた。今回の件に関してはいつも強気の彼女でもさすがに思うところがあったのだろう。


 「いや、別にいいんだけど。それより、身体はどうだ?」


 「うん、これから細かい検査やるみたい。それより先に朝食だって言って、いまご飯食べてるところ。・・・でもとりあえずしばらくは入院生活って感じね」


 「・・・そっか。痛くはないのか?」


 「痛いわよ、痛くないわけないじゃない。でもお腹は空いてるからとりあえずご飯食べてるの。悪い?」


 「別に悪いなんて誰も言ってないだろ」


受話器の向こうの彼女が何故か少しだけ不機嫌になったのかは少し分かりかねるが、だけどあの大食いの彼女が、数週間も飲まず食わずだというのだから、今彼女は一体どういう状況なのか、俺には想像もつかない。


 「・・・今朝、目覚めたのか?」


 「ううん、ホントは深夜にぼんやりと目は覚めてたんだけど、そのあとにまた寝たのよ。そのあとは早朝に起きてナースコール呼んだって感じ。だから学校にはまだ連絡してないと思う。お母さん今日の昼過ぎ頃には電話するって言ってたし。今お母さんお家との往復でてんやわんやしてるんだ。私の服持って来たり色々してるの」


 「・・・そっか」


 「それと、その・・・」


と遥がスピーカーの向こうで歯切れを悪そうにしている。


 「どした?」


 「・・・ありがとね、鶴」


 「・・・おうよ」


遥がお礼を言ったそれは恐らく彼女の病室に飾られているであろう千羽鶴のことだ。いまどういう状態であるのか俺には分からないが、遥がこう言うということは、少なくとも今見えるところにはあるのだろう。


 「まぁ俺一人で作ったわけじゃないからな。言うならクラスの皆に言わないと」


「・・・そうなんだ。じゃあみんなに伝えておいて」


 「俺が言うのかよ」


千羽鶴は遥のために、と言って事故の翌日にクラスの皆で折ったのだ。もちろん俺一人でも、俺と俺の友達だけでもきっと完成は不可能だった、クラスのみんなが協力してくれたからこそ立派に完成し、遥に贈ることができたと自分は思っている。だからこれのお礼はクラスの皆にするのが正解だろう。


 「それにしても、私、千羽鶴なんて初めて貰ったわ。ほんとにこれって数えたら千羽いるの?」


 「いや、そんなにいないはずだ。実際は七百くらいか?」


 「・・・手抜きじゃないそれ」


 「ちげーよ。千羽鶴は千羽いなくてもいいんだよ。たくさんいればそれは千羽鶴なの」


 「なんかいい加減ねそれ。あとあんたが残り三百羽折ればいいだけの話じゃない」


 「お前・・・。どれだけ折るの大変だったか分かってるのか?」


 「冗談よ。・・・ありがとね、作ってくれて」


 「なんか調子狂うなぁ・・・」


と言いながら、彼女のその軽口には内心はホッとしていた。実際、彼女に聞きたいことは山ほどある。なんで線路から落ちたのか、本当に自殺だったのか。自殺だったとしたらなにが原因なのか。でも今は彼女の意識が戻った、それだけで他にはなにもいらない、そんな気持ちだった。それに、そういった込み入った話を聞くのはもっと先でもいいだろう。今は彼女の無事を素直に喜ぶことしか頭になかった。


 「でもこれはこれ、それはそれよ。あと三百羽も待ってるから」


 「・・・遥さん話聞いてました? もうそれは完成品なんですよ」


 「知らないわよ。私こういうのはきっちりするタイプだから。これじゃあまだ三分の二しか出来上がっていない未完成品なんでしょ?」


 「だからなんで未完成なんだよ。しかもちょっと割合減ってるし。そこをきっちりしろよ」


 「うるさいわね。三分の一も三十パーセントも同じくらいじゃない。とりあえず残り、頑張ってね。早く折らないと、私、未完成のまま退院しちゃうんだから」


 「なんなんだよ・・・」


と俺は遥の傍若無人な態度に少しだけ呆れる。まぁこれはこれで元気そうで何よりか。


 「分かったよ。前向きに検討しておきます。電車来るからそろそろ切るぞ」


 「ふふっ、わかった。それじゃあね。また」


彼女がそう言って、お互い電話を切ろうとした瞬間、向こう「待って!」という声が聞こえてきた。


 「もしもし?まだちょっとだけ時間大丈夫?」


 「いきなりどうした?電車の方はまだ大丈夫だけど・・・」


 「お母さんがあんたと話がしたいって。はい、お母さん」


 「えっ」


いや、ちょっと待ってくれ。遥の突然の言葉に俺は少し気後れしてしまう。じゃあ要するになんだ。遥の隣にはお母さんがいて、さっきからずっと隣で電話を聞いていたってのか。そう思った瞬間、俺はいまのやりとりのなかでなにか失礼なことを言っていないかと一瞬で過去の会話に思考を巡らせる。そして俺が返事をするよりも先に、スマホから遥ではない、別の声が聞こえてきた。


 「もしもし、準貴くん?」


 「あ、どうもおはようございます」


聞こえてきた声はとても遥に似た、けれども少しだけ大人な感じ。すぐに遥のお母さんが話していることは分かった。俺も突然の出来事に、ぎこちない言葉遣いになってしまう。


 「ごめんね、うちの遥が心配かけて」


 「いえ、とんでもないです」


大人の人と電話をする、というだけで少し肩に力が入ってしまう気がする。しかし聞こえてくる声はとても朗らかで、優しかった。


 「あと隣で聞いていれば遥がむちゃくちゃなこと言ってるみたいで。準貴くんは気にしなくていいからね」


 「分かってます。いつものことなんで」


と言って電話越しに苦笑いをする。お母さんはやはり先ほどから遥の隣にいたみたいで、声は優しさと少し呆れが混じったそんな感じだった。


 「それじゃ、これから学校だったわね。ごめんね引き止めちゃって」


 「大丈夫です、まだ電車に乗ってないんで」


 「よかったらお見舞いに来てあげて。厚い出迎えはできないかもしれないけど・・・、きっと遥、これから暇するだろうから」


 「わかりました。時間が見つかれば是非。それでは失礼します」


そう言って俺は電話を切った。まったく、まさか遥のお母さんと話しをすることになるとは思わなかった。遥の両親とうちの両親は昔から仲が良かった。小学校の付き合いというのと、俺が野球部で遥のお父さんが野球の指導者だということもあり、随分と長い付き合いになる。俺の母親が亡くなってからは少し疎遠気味ではあったが、とてもお世話になったのは間違いないだろう。遥の母さんは、遥をそのまま大きくしたような姿で、声がすごく似ているというのは昔から変わらずだった。遥の様子も気になることだし、事が落ち着いたらお見舞いにでも行ってやろう。きっと遥のやつ、お母さんの言う通り病院のベッドで暇してるだろうし。今度四人で遊びにいこう。俺はたった今ちょうどホームに滑り込んできた函館からの折り返し列車に乗り、学校へと向かった。


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