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1484 青春白書  作者: 吉倉 光希
 第1章 「遅刻ですよ」
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第1節

~登場人物紹介~


道上 準貴:本作の主人公、高校一年生。イケメンだがオタク。小柄。

高橋 遥 :主人公の幼馴染。元野球部マネージャーで現在諸事情で入院中。

石川 彩音:二年生の先輩。一つ上の彼氏がいる。


※この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。※

 どれくらいの時間が過ぎたのだろう。目を覚ますとそこには見慣れない天井が広がっていた。最初に俺が感じたのは、自分の家とは違った柔らかな匂いと、全身を支配する筋肉痛のような痛み。


 「って、冷静に分析してる場合かよ」


そして俺は焦ってその場から起き上がる。部屋の時計を見ると現在午前五時過ぎ、窓の外を見ると少しだけ明るくなってきているのが分かる。実はここは自分の家ではない。というのも昨日、とある人物の家でご飯をごちそうになった後、遥のことについて色々と情報交換をしたのだ。具体的には彼女がなぜ線路に落ちたのか、そもそも自殺なのか、それとも事故だったのか。そんな話から始まり、最終的には遥本人が目覚めるのを待って事情を聞いてみるしかないという結論に至ったのだ。そうは言っても何も話が進まなかった、というわけではない。ある程度、そのとある人物と二人で事件の憶測は既にしており、きっと、野球部の仕事が辛かった、ということと、俺にメールを送ってきたくらいなのだから、自殺なのだろうという予想まではできている。その後、何故かとある先輩の卒業アルバムを見ようということになり彼女の部屋まで来た後、なんやかんやで、俺が部屋で寝てしまったのまでは覚えている。どうやら俺はそのまま起こさることなく、今に至っているらしい。自分にはぐーたらしているクマのキャラクターが描かれた女性モノの毛布がかけられていたようで、一応だが近くには枕もある。だがさすがにカーペットの上で寝たせいか、動くたびに全身が悲鳴をあげている。そして昨日、俺と散々お喋りをした挙句、俺を起こさず、今、隣でスヤスヤと柔らかいベッドで寝ている彼女が石川彩音先輩だ。当然だがここは彼女の部屋で、俺は一晩彼女の部屋で寝泊まりしたことになる。彼女は北高の普通科出身で現在高校二年生、俺たちの一つ上の先輩にあたる。なぜ石川先輩が遥の事故について興味をもっているかというと、先輩の彼氏さんが野球部のキャプテンで、遥とは間接的ではあるが(マネージャーと選手という形で)先輩、後輩という関係にあるのだという。そして、その彼氏さんのために、情報収集をしてあげたく、まずは幼馴染である俺に話を聞こうということらしい。そして昨日、俺から聞いた話は既にメッセージで先輩にある程度伝えているらしい。

結局、あの後先輩は一階に下りたまましばらく戻ってこなかったのだろうか。俺自身も疲れていてすぐに寝てしまったというのもあるが、一体彼女は俺を置いて一階で何を話していたのだろう。


 「先輩、起きてください」


ベッドの中で体を丸くして静かに寝ている先輩に最初は声をかけたのだが、あまり起きる様子がないので、俺は遠慮なく先輩の被っている布団をつかむ。


 「・・・んっ」


何度か彼女の体(というより掛布団か)を揺すると目が覚めたようで、先輩が不機嫌そうにゆっくりと起き上がってくる。


 「・・・おはよう、後輩くん。今何時?」


 「五時過ぎです」


とりあえず先輩がこちらに気が付いて目を覚ましてくれたようだ。起きたばかりでぼんやりとしている様子なので少しだけじーっと待ってみたが、黙っていると再び二度寝しそうな感じだった。


 「先輩、起きてください」


 「起きてるよー」


といいつつ、声は明らかに寝ているようだった。彼女はピンク色の可愛らしいパジャマを身に纏っていた。そして激しく主張しているのはその上からも分かるくらいの大きな胸。昨日部屋に干してあったブラジャーを見て少し面喰ったのを覚えている。というかそのブラジャーが今はもうないってことは、今先輩が身に着けているのか? そんな想像をしてしまう。しかしそれよりも俺が気になるのはやっぱり彼女の顔。


 「先輩、化粧落とすと別人ですね。まゆげないですよ」


 「・・・誰だって化粧とればこうなるの」


というか、そんなの比較的どうだっていいんだよ。今はそんな話をしている場合ではない。先輩のすっぴんの顏ってのは意外と貴重なのかもしれないが、それよりも話すことがあるだろう。


 「って、先輩。なんで起こしてくれなかったんですか」


そう俺が訪ねると、先輩が眠たそうな声で答えてくれた。


「私お風呂からあがってきたら、後輩くん、寝ちゃっててさ」


 「なんでお客さん置いてお風呂入ってるんですか! せめて一言下さいよ」


 「まぁいいじゃん」


俺が小声で先輩に抗議する。


 「三十分ぐらいお風呂入った後、後輩くんなにしてるかなーって思って部屋に戻ったらさ、寝てるんだもん。起こそうか迷ったんだけど、なんか別にやましいことをしているわけじゃないしいいかなって。お母さんにも話したら、『あんたがいいならいいんじゃない?』っていうから」


 「もう完全にアウトですね。まぁ靴が出てる時点で先輩のお母さんには気が付かれているとは思ってましたけど。ってか俺、先輩の彼氏さんに目つけられたりしないですよね?」


 「大丈夫。言ってないし、恭ちゃんも家帰ってすぐ寝る人だから。それに浮気とか絶対しないし」


 「だからそれ俺に言ってどーするんですか」


前も似たようなセリフを言っていた気がする。それについてはよほどの自信なんだろう。そんな『先輩超愛してます宣言』を俺にされても・・・、どうしていいものやら。


 「ごめんね。起こした方が良かったかな?」


 「いや、謝られるのも違いますよね。俺の方こそ色々すみませんでした。普通に人の家で寝ちゃって」


そう言って俺は頭を下げる。とりあえず帰らないといけないので、隣に置いてあった自分のカバンを背負う。


 「・・・ところで後輩くん、なんか夢見てた?」


 「えっ、なんでですか?」


先輩の突然の質問に対して、俺も少しだけ寝ていたときのことについて思い返してみる。しかし、これと言って思い出せることは特になかった。


 「いや、なんでもない。覚えてないならいいや」


 「うーん・・・。なんか悪い夢ではなかった気はするんですけどね」


 「そう?逆じゃない?」


 「???」


俺が不思議そうにしていると、先輩が「なんでもない!」と言って、その話題は終わってしまった。


 「なんか後輩くん疲れてたみたいだし、起こしたくなかったんだよ」


 「別に起こしてくれても良かったのに。でもなんか変な気を遣わせちゃったみたいですね、ほんとすみません。とりあえず今日は帰ります」


と言って急いで帰る支度をする。ポケットに入りっぱなしだった携帯を確認すると、父親から連絡は来ていないようで、どうやら親父もまだ家に帰っていないらしい。だが親父とは違う、別の人物からメールが届いていることに気が付く。


 「誰だよ。迷惑メールなら間に合って・・・」


と思いかけたところで、俺は言葉を詰まらせる。なんと、メールの送信者のところに高橋遥と表記されている。気になるメールの内容はというと、

  題名:無題

  本文:心配かけたね。生きてます。(絵文字)

と最後にピースサインの絵文字が書かれてあった。受信したのはついさっき、二、三分ほど前だ。


 「遥・・・!」


 「えっ、どうしたの?遥ちゃんからメール?」


 「ほら、見てくださいよ!」


と俺は少しだけ興奮気味になりながら、先輩にメールの画面を差し出す。


 「へぇ・・・、ほんとだ。そっか、目覚ましたんだね、遥ちゃん!」


 「はい、ありがとうございます! って俺がお礼を言うのもわけわかんないですけど」


 「それもそうだね」


そう言って二人で少しだけ笑い合う。よかったね、と先輩も寝起きの顔でそう言って微笑んでくれる。


 「きっと後輩くんの思いが通じたんだね」


先輩が眠そうな顔でそんなことを口にする。 


「なんですかそれ。まぁ無事でありますように、とは思ってましたけど」


確かにいろんな形で無事は願っていたけど、通じたかどうかは俺には分からない。それに、俺は思いが通じるとか、心の声が伝わるとかそういった非科学的なことは信じない主義だ。あくまで理論的でないと。占いの類なんかもそうだ。あれはあくまで生きる上で一つの指標にするためのものであって、あれだけがすべてではない。そこを履き違えてはならないのだ。じゃあなんで千羽鶴なんて作ったのかって?・・・それは俺にも分からん。


 「でも後輩くん『絶対目を覚ますから安心しろ』とか色々話してたじゃん」


 「それ俺のマネですか?似てないんでやめてくださいよ」


先輩のモノマネのクオリティの低さにツッコミを入れながら俺は続ける。


 「アイツはこんなところでくたばるヤツじゃないとは思ってましたから。なんかこう・・・、とりあえずそう思っただけです。ってか恥ずかしいんであんまりそういうこと言わないでもらえます?」


 「いいじゃーん。もう、二人の以心伝心の凄さは分かってるんだから」


 「はぁ・・・。もういいです」


俺がどう説明しようが、もう意味がないと判断し、自分から話題を打ち切ってしまう。


「でもよかった、これで一件落着ですね」


 「そうだね、後輩くん。でも、喜んでいる最中に悪いんだけど、今日も普通に学校あるからね?」


 「・・・うぇ。てっきり俺の部屋で今日は休日感覚でしたよ」


先輩からの指摘を受けがっかりする。遥が目覚めたからといって学校が休みになるわけもなく、俺らは当然今日も学校だ。ってか今日体育とかなかったっけ?体バッキバキに痛いけど大丈夫か。しかしそんなことを考えても仕方がない、とりあえず早朝ではあるが、さっさと家に帰って学校の支度をしなければ。この先輩と話してると、どうにも話が長くなってしまってしょうがない。


 「すいません、ご迷惑をおかけしました。とりあえず帰りますね」


 「なんもうちなら大丈夫だから。それより帰るなら玄関まで送るって」


そう言い、先輩が布団から出てくる。その後、先輩のおぼつかない足取りを追って部屋から階段を下りて、玄関へと進む。その足取りを見ていると、先輩低血圧なのかな、とか思ってしまう。それと、まだ時間が時間なので、先輩のお母さんは寝ているようだ。今挨拶するのもおかしいので、いずれ会った時にご挨拶でもしよう。そう思いながら玄関で靴を履き、自分の家に向かう。帰り際、先輩に「学校遅刻しないようにね!」と言われたが適当に返事をした。今日は自分で弁当作るのはやめて少しでも寝よう。そう思いながらほど近い自分の家へと足を運ぶのであった。


その後、眠たい目を無理矢理見開きながら、やっとの思いで自宅に辿り着いた俺はシャワーを浴びるのも億劫だったので、とりあえずベッドで寝た。このときは学校のことなどなにも考えていなかった。そして目を覚ますと時刻は九時ちょうどあたりを指していた。もちろん今から学校へ行っても当然遅刻で、きっと担任の池田先生に色々と遅刻の理由とやらを問いただされること間違いないだろう。と言っても、あの状況で寝たら遅刻するというのは火を見るよりも明らかで、この際いくら遅れようが変わらないか。そう思いゆっくりとベッドから起き上がり、自分の家の浴室へと向かったのだった。


 のんびりとシャワーを終え身支度を整えた後、学校に行く前に俺は和室にある仏壇の扉を開けた。そして蝋燭に火を灯し、少しせかすように鈴(りん)を三回鳴らす。

 「母さん・・・、ありがと。遥生きてるって。本当にありがと」

そう小さな写真に語りかける。きっと母さんはなにもしていないのだろうけれど、お礼を言わずにはいられなかった。これでまたいつも通りの日常へと戻ることができる。そう思いながら俺は自分の家を後にし、駅へと出発する。


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