第1話 終章
その日、俺は少しだけ夢を見た。それは俺が子供の頃にみんなと遊んだ近所の公園から家までの帰り道。俺の隣には遥がいて、二人で並んで歩いている。二人ともまだ幼く、きっと小学校低学年くらいだろう。
「ねぇじゅんき。あそこまでどっちが速いか競争しようよ」
遥がそう言いながら二本先の電信柱を指差す。
「いいよ、じゃあいちについて、よーい、どんね」
「わかった。じゃあこの線からスタートしよ」
二人がスタート位置につくと、俺の方はかっこよく、腕を振って、走る体制をとってみせる。
「「よーい」」
「「どん!!!」」
彼らが息の合った掛け声と同時に、勢いよく走りだす。昔の俺だって運動神経は悪くはなかった。だが、遥の方が昔から徒競走が得意で、足の速さも女の子の中ではクラスで一番だった。そのため男女の違いはあれど、足の速さはほぼ同じくらいだった。
そのまま二人は横並びで走っていたのだが、ゴールの手前で遥が石に足を引っ掛けてしまい、ものすごい勢いで転んでしまった。俺は慌てて立ち止まり、遥の方に掛け寄る。下はアスファルトなので、遥の履いていたタイツの膝の部分は破け、先に地面に着いた右手からは血がいっぱい出ている。
「・・・はるか、大丈夫?」
「うえええええん」
もちろん、転んで痛かったようで、子供の遥は泣き出してしまう。
「はるか・・・」
転んだ遥を見て、俺も少しだけ泣きそうになっている。だけど彼は一緒に泣き出すということはせず、とにかく遥が泣き止むように声をかけている。
「大丈夫だよ。ツバでもつけておけば治るって、お父さんが言ってたから」
「ほんと?」
「それにほら、ティッシュあるからこれで押さえておけば血止まるよ」
「うん、ありがと・・・」
彼がズボンのポケットからティッシュを一枚取り出し、遥に渡す。
「痛かったか?」
「うん」
「大丈夫だよ。すぐ血止まるから」
「うん」
涙をボロボロと流している遥を子供の俺は少しでも元気づけようと、いっぱい、とにかくがむしゃらに話し続ける。
「大丈夫か?具合悪くない?」
「うん」
「家帰ったら、お母さんにちゃんとしょーどくしてもらうんだぞ?」
「うん」
「バイ菌入ったらダメだからな」
「うん・・・」
「・・・」
「・・・」
立ち上がれない遥の隣に座り、彼はずっと遥を見守っている。その後も彼女が泣きやむまでずっと隣で待ってあげていた。
しばらく隣で遥を見守っていると、彼女も落ち着いたようで、泣きじゃくった顔でこちらを向いて、ニコッと笑ってみせる。
「ごめんねじゅんき。ありがと」
「もう転ぶなよ?」
「うん」
そう言って俺は、彼女の小さな左手を力強くぎゅっと握り、再び歩き始めたのであった。
つづく




