第4節
~登場人物紹介~
道上 準貴:本作の主人公、高校一年生。イケメンだがオタク。小柄。
高橋 遥 :主人公の幼馴染。元野球部マネージャーで現在諸事情で入院中。
石川 彩音:二年生の先輩。
※この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。
家の中央にある大きな階段をのぼり、すぐ右の部屋に先輩の部屋はあった。
「ささ、遠慮せずにどうぞ、どうぞ」
「ほんと、へんなものとかないですよね?」
俺が少し警戒しながら部屋の中にお邪魔する。部屋のなかはいたってシンプルで、勉強机にベッドと、クローゼットがあり、中央には丸い絨毯とテーブルが備え付けられていた。
「女の子の部屋、の割には普通よりちょっとアレな感じはしますが、ヘンなものはなさそうですね・・・。もっと可愛いぬいぐるみとか、素敵なベッドとかがあると思ってました」
ほかの女性の部屋には入ったことはないのだけれども、きっとこんなもんで評価は合っているだろう。
「後輩くん、のっけから失礼全開だね」
だがその後もよく部屋を見回してみると、なんというか。机には教科書やら参考書やらが天高く積まれており、中央のテーブルには鏡と化粧道具なのかな?あとはコンタクトレンズや髪留めなどが乱雑に置かれてあった。
「これで、片付けた?」
「後輩くん、はいアルバム。あんまり女の子の部屋じろじろ見ないの」
とは言っても、女の子の部屋に抱いていたイメージが変わった、というか俺は少しだけ女の子の部屋に幻想を抱きすぎていたのかもしれない。さらによく見ると床には脱ぎっぱなしのストッキングやTシャツ、あとは漫画本なんかが散乱している。一応片づけた形跡はあるものの、部屋の隅っこにごちゃっとまとめられているだけだ。
「先輩、よく見たら部屋汚いですね」
「だって、今日人来るとは思ってなかったんだもん。下着はちゃんと片づけたから」
「・・・じゃあその物干しにぶら下がってるのはなんだろう」
と俺が小さな声で指摘したのは、洗濯ばさみで吊るされてある下着だ。下着、と言ってもさすがにパンツはしまったようで、釣り下がっているのは女性用のブラジャーだ。
「もういいや。アルバム見ますね」
とりあえずブラは無視して、先輩からもらった中学の卒業アルバムを開く。
「えっとね、私これかな」
「えっ、誰ですかこれ」
「だから私だって言ってるじゃん」
先輩が指をさしたその写真の顔の下には確かに「石川彩音」と書かれている。俺が先輩の顔をもう一度確認し、再び写真に目をやる。だがどう見ても同一人物には見えない。
「へぇ、全然違いますね」
「まぁね。撮影した時期を考えれば、だいたい二年くらい前だもんね」
その後は、後ろにある体育祭や学校祭のとき写真や、修学旅行で撮られた写真を眺め、石川先輩や、俺の野球部の先輩などを見つけはその話で少しだけ盛り上がった。
「写真見て思ったんですけど、・・・先輩、太りました?」
「・・・確かに太ったけどさ。面と向かって言われるとショックだよね」
「あぁ、いや、悪い意味じゃなくて、幸せ太りってやつですかね?」
「・・・それ、悪い意味じゃないの?」
と先輩が少しだけ目を細くしてこちらを睨んでくる。そういうことを言いたいんじゃないんだけどな。
「なんていうか。やっぱり写真の先輩は体弱そうに見えるんですよ。今の先輩はちょっと無理してるにしても、普通の高校生って感じなんで」
「そうかな。やっぱり体調自体も良くはなってるんだよね。後輩くん、今の私とこの頃の私、どっち可愛いと思う?」
「・・・どっちも石川先輩ですしね。どっちも可愛くないです」
「・・・」
先輩が「その解答は受け付けない」と言わんばかりにアルバムを上にふりかぶり、俺を殴る素振りをみせる。
「5・4・3・・・」
「えぇ、どっちか選ぶとしたらですか・・・。うーん。俺、料理上手な女性は好きですけど、部屋の汚い人は男女問わず嫌いなんですよ・・・」
「見た目で選んでよ、私のそういうとこは今回はなしにしてさ」
「うーん、それならやっぱり今の先輩じゃないですか?普通に元気な方が可愛く見えますし、彼氏としても嬉しいですし」
「そっか」
と言って彼女はアルバムを下におろしてくれた。殴られるのは回避できたようだ。その後俺は、少しだけ気になるページがあったので、それを探すためにとりあえずアルバムのページをめくってみる。
「・・・あった。野球部。やっぱりいますね」
「へぇ、これが後輩くんか。全然気が付かなかったよ」
俺が二年生の頃、まだ一応野球部には所属していたので、映っているかな?と思ったのだが、ちゃんとアルバム写真には載っていたようだ。当時、一年生から三年生までがグラウンドに集合して撮影したのをいまでも覚えている。
「俺、二年のときに野球部やめちゃったんで、俺にとってはこれが最後の集合写真なんですよ」
「そっか、自分のアルバムには後輩くん、載ってないんだ」
「そうなんですよ。まさか自分でもこれが最後になるとは思ってませんでしたし」
「なんで野球、やめちゃったの?」
「母親の事故死が原因なんですけど、まぁ色々あったんで」
「そっか、後輩くんも色々大変なんだね」
と先輩は何も聞かず、大げさにうなずいてみせる。
「・・・それにしても後輩くん、背番号一番だったんだ。ってあれ?うちの中学、三年生にピッチャーはいなかったの?」
「いや、いたんですけど・・・。まぁ、」
「えー、なにそれ。まさか後輩くんの方が上手だったの?」
「・・・」
ちょっと言いづらいので、俺が適当に愛想笑いをして次のページをめくろうとすると、先輩がパシッとページを野球部のところに戻してしまう。
「ウソ、それって後輩くんがめっちゃ上手だったってこと?」
「そんなんじゃないですよ。たまたまです。たまたま」
「・・・これは恭ちゃんに報告せねば」
「ちょっと、やめてくださいよ」
そう言いながら先輩が少しわざとらしくスマホをポケットから取り出す。
「あ、でももし恭ちゃんより後輩くんのほうが上手だったら、後輩くんにレギュラー取られちゃうよ、どうしよ」
「先輩の彼氏さんはもう三年生でしょ、もうじき引退なんですから。それに俺は野球部には戻りませんから、言っても無駄ですよ」
と先輩に一応説明をしておく。
その話をしていると、玄関の方から「ただいまー」という声が聞こえ、下のほうでガサガサと物音がする。
「あっ、お母さん帰ってきた。後輩くんちょっと待ってて」
「えっ、はい」
と言いながら、先輩がものすごいスピードで部屋から出ていってしまった。俺はというと、部屋にひとり取り残されてしまったので、アルバムを見ながら先輩が帰ってくるのを待つ。しかし、ベッドの枕元にある目覚まし時計をみると既に十一時近くになっており、それを見ただけで心なしか少し眠くなってきた。
「もうこんな時間か、疲れたな・・・。今日は色々あったし」
と先輩の部屋のカーペットに横になる。見えるのは天井と、窓際にかかっている先輩の洗濯ものだけだ。
「先輩、何カップなんだろ」
そう思いながら少しだけ全身の力を抜く。先輩はまだ帰ってこないので少しだけ寝ても怒られないだろう。今下に降りてもいいが、きっと先輩が部屋に帰ってくれば、俺が帰る流れになるだろう。そのときに帰ればいいか。そう思いそっと目を閉じる。




