第1節
~登場人物紹介~
道上 準貴:本作の主人公、高校一年生。イケメンだがオタク。
高橋 遥 :主人公の幼馴染。元野球部マネージャーで現在諸事情で入院中。
石川 彩音:二年生の先輩。1つ年上の彼氏がいる。
小室 江美:主人公の隣の席のクラスメイト。パソコン部。
※この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。
何故か紹介された江美の家から徒歩で五稜郭駅に向かう。来た道をただ帰るだけなので、そんなに時間はかからない。そう思っていたが、ここら辺の道が意外と複雑で、どうやら俺は道に迷ってしまったようだ。自分自身、方向音痴ではないつもりでいたんだけど。
「あれ、ここさっき通った覚えないぞ・・・」
やばい、本当に迷子になってしまう。俺は手遅れにならないよう、早めにスマートフォンの地図アプリを出し、五稜郭駅まで案内してもらう。確かに、さっきは江美と二人で話していたから、道を覚えるどころじゃなかったのだ。そして結局、五稜郭駅に着いた頃には六時をだいぶ過ぎていた。駅のベンチで学校帰りモードの石川先輩が座ってスマホをいじっている。俺が少し小走りで駆け寄ると、先輩は膨れっ面でこちらを睨んでくる。
「後輩くん、遅い」
「すみません」
「とりあえずもう電車出ちゃうから。急ご」
電光掲示板を見ると、あと二分ほどで電車が来るらしい。おぉ、ナイスタイミング。と思いながら急いで改札口に定期を通し、階段を駆け上がる。
「後輩くん先行って!」
「なんでですか!」
「私が前だとスカート覗くでしょ!」
ならスカート短くしなきゃいいのに、そう思いながら、列車が来る五番ホームへと急ぎ、なんとか電車には間に合った。
「ふう、疲れた」
遅れて先輩が電車に乗ってくる。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・。後輩くん、速いね。ちょっとびっくりしちゃった」
「だって、だいぶギリギリでしたからね・・・。急ぎましたよ」
電車は俺らを待っていたのか、すぐに扉が閉まり、五稜郭駅を出発する。この時間帯の電車には乗ったことがないので少しだけ新鮮だ。あまり見慣れない顔、見慣れない制服の人たちがちらほらといる。
「はぁ・・・、座っていい?」
「いいですけど・・・」
そう言いながらも、中の座席は学生たちでいっぱいだ。デッキの小窓から中の様子を確認し、彼女はその場にふらふらっとしゃがみ込んでしまった。
「・・・」
「具合悪いですか?」
「うん・・・、ちょっとね」
そういうので、とりあえず俺が彼女の持っているカバンを持ち、彼女両手を手すりに握らせる。その後俺がカバンを二つ背負いながら窓を見つめていると、彼女がおもむろに立ち上がる。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫、ちょっとふらっときただけだから」
「ならいいんですけど・・・」
と言いながらも、顔色はあまり良くなさそうだ。次の駅では、それなりに降りた学生がいたので、空いた席に座らせてもらう。
「・・・」
「すみません、無理させちゃって」
「大丈夫だよー、そんな暗い顔しないで」
だが、さすがにその青い顔をで言われてしまうと、あまり説得力がなく、罪悪感を感じずにはいられない。俺が少し暗い顔をしていたのか、先輩が横腹を突いてくる。
「ずいぶん遅かったね。どしたの?」
「ほんとすいません。その、部活長引いちゃって」
「へぇ、何部に入ってるの?」
「パソコン部です」
「へぇ、聞いたことないなぁ・・・」
「そうですか?」
「私、普通科だから。パソコンの授業も一年生で終わっちゃったし」
なるほど、そういえば部長さんもそんなことを言っていた気がする。確かにパソコンを触る授業というのは、普通科にはあまりないのかもしれない。
「パソコン部ってそんな厳しいの?」
「いや、部活自体はむしろゆるいくらいです・・・。今日はその、遥のことについて担任の先生に色々と聞かれてたんで」
その際、ちょうど担任の先生が部活の顧問であるという説明も付け加える。
「そっかー、それで、色々質問攻めに合ってたんだね」
「・・・まぁ、そういうわけでもないんですけど」
実際、質問攻め、というか遥のことについて先生に尋ねられた時間は三十分程度だろう。問題はこの後が少し長かった、というだけだ。
「・・・じゃあなにしてたのさ」
「いや、まぁちょっと色々ありまして」
「なによー、正直に話してみなさいよ。もしや、その後、女の子と遊んでたんだな?」
後輩くんも隅に置けないなぁ、などと言われているが、実際間違ってはいないのか。少なくとも女子とはいたので、半分は当たっている。
「まぁ、当たらずとも遠からずって感じです」
「・・・冗談で言ったのに。遥ちゃん以外にも仲のいい女の子がいるのか。すごいな後輩くん」
「そんなんじゃないですよ、クラスメイトです」
「じゃあクラスメイトちゃんとなにしてたのさ」
「そこまで言わなきゃダメなんですか」
「むしろここまで言ったなら、全部言っても同じでしょ。私より大事な用事だったんだよね?」
「まぁ、大事でしたね・・・」
先輩が少しだけ目を細くしてこちらを見てくる。
「えぇ、話さなきゃダメですか」
「・・・」
「わかりましたよ」
彼女からの無言の圧力と、俺が先輩に無理させてしまったという罪悪感もあり、仕方がないので概要を話すことにする。
「その、先生に遥のことをいろいろ聞かれた後、そのまた色々あって、俺と一緒に話を聞かれていたクラスメイトの子が泣いちゃったんですよ。というか泣かせちゃった、の方がいいかな。それでそのお詫び、と言ってはなんですが家まで送っていたら遅くなっちゃった、って感じです」
「よくわからないけど、とりあえず後輩くんが悪いっていうのはわかったよ」
「だから説明したくなかったんですよ」
案の定、先輩には誤解をされるような伝え方になってしまったが、一応事実ではあるだろう。
「でもその子、前触れもなくいきなり泣いちゃったの?そうだとすると女子から見てもちょっとだけめんどくさいかな」
「それを彼女にいったら、準貴くん、ひどいって言われましたね」
「それはひどいよ、本人に直接言っちゃダメだって。ってか私の気遣いを返してよ」
ごもっともである。俺もしかしたら江美に相当ひどいことを言ったのかもしれない。
「やっぱり、悪いのは後輩くんみたいだね」
「まぁ、自覚はあります」
「そして、さらに私を貧血に追いやったと」
「言い訳の言葉もないです・・・」
俺は別に急がず、次の電車でも良かったんだけど。とは思っても言わないでおく。でもそうなると、七時の電車になってしまうので、あまり良策とは言えなかったのか。
「・・・もしかして君って顔はそれなりにいいのに、意外と残念な人?」
「それ、遥にも言われたことあります」
そう言うと、先輩はよほどおかしかったのか電車内であることもお構い無しに、青い顔でケラケラと笑ってみせる。
「そっかー。でもちゃんと女の子を家まで送ったのは偉いよ」
「送ってってよ、って本人に言われたんで・・・」
「・・・その女の子も、結構大胆なことするね。それにクラスメイトを家まで送って、私との約束の時間に遅れた結果がこれだから」
もう返す言葉もない。今日、俺、ついてなさすぎじゃないかな。あるいは身から出た錆とでも言うべきなのか。
「いや、ほんとすみません。反省してます」
「そういう謙虚なところはいいのに、なんでひどいこと言っちゃうかなぁ」
「えっ、俺先輩にひどいこと言いました?」
「そうじゃないって。・・・きっと君の彼女は苦労するだろうなぁ」
そんなくだらない話をしていると、もうすぐ上磯駅、というところまで電車が来てしまっていたことに気がつく。二人とも電車の窓から外を覗いて呆然とする。
「・・・ねぇ、私、体調はだいぶ良くなったんだけど」
「・・・遥のこと、全然話進んでないっすね」
なぜこうなったのだろう。とりあえず着いてしまった電車から降り、自転車置き場に向かう。
「先輩も自転車ですか」
「さすがに乗るのは不安だから、押していくけど、いい?」
「もちろん、大丈夫ですよ」
もう外は暗くなりはじめている。そんな中、家まで自転車を押して帰ることにする。そして、流れ的にやっぱり一緒に帰ることになる。
「先輩、おうちはどこらへんなんですか?」
「えっと、このまま行って、セメント工場あたりの住宅街だよ」
「そうですか、俺の家と近いかもしれませんね」
俺の家も先輩と同じセメント工場近くの住宅街と呼ばれているところで、それなりの数の住宅が密集している。遥もそこに住んでおり、住宅街とは言っても、規模がそこそこ大きいので、必ずしも家が近いとは限らない。俺と遥の家は同じエリアにあっても、距離はそれなりにある。
「で、何の話でしたっけ」
「遥ちゃんのことについて色々聞きたかったんだけど・・・。なんかもう心折れそう」
確かに、なんだか話が全然進まなかった気がする。主に悪いのは俺なんだけどね。上磯駅から歩いて家までは、すぐ着くわけではないにしろ、話が満足にできるほど離れてもいない。
「私が貧血起こしちゃったせいで、ごめんね」
「そんな、先輩のせいじゃないですよ。・・・すみません、俺、先輩に無理させていたみたいで」
「いいの、いいの。彼のためもあるし、ちょっとは無理しないと。でもね、昔はもっとひどくて、これでも良くなった方なんだよ」
その後、少しだけ先輩が自分のことについて話してくれた。自分は小さい頃から体が弱くて、貧血なんか日常茶飯事だったらしい。
「でね、高校も中学校みたいに休みがちなのかなぁって思いながら入学式に行ったら私、学校の中で迷子になっちゃって。そこを恭ちゃんに助けてもらったんだ。それでその後も色々あったんだけど、いつの間にか恭ちゃんのこと好きになっちゃってて。ちょうど去年のこの時期くらいかな、勇気出して告白したら、即オッケー!って、感じ。嬉しかったなぁ・・・。それ以来学校は一回も休んでないんだよ、私偉くない?」
人を好きになったから、体調が良くなったとでも言いたいのだろうか。それはさすがに気のせいだと思うけど。それに入学式の日に出会って、六月の半ばに告白、しかもそれが上手くいってお付き合いまでしてしまうとは、どれだけ猛アタックしたんだよ。すごいなこの先輩。とは言っても、見た感じ確かに彼女は胸はあっても体つき自体は華奢で、到底頑丈そうには見えない。その少し儚げな姿に先輩の彼氏さんは惹かれたのだろうか。
「そうだったんですか・・・。本当にすみませんでした。気、遣えなくて」
「だから大丈夫だって、後輩くん。謝りすぎだよ」
彼女の顔色はだいぶ良くなったものの、後ろめたい気持ちというのはすぐには消えない。
「・・・それにしても階段駆け上がるの速かったね、なんか部活やってたの?」
「そうでしたか?一応中学の頃は野球部だったんで」
「えっ、そーだったんだ。もしかしたら体格いいのも野球部だったから?」
「まぁ、その頃のものですね、きっと」
「そっかぁ。どおりで恭ちゃんと似てるわけだ」
といいながら、先輩が舐め回すよな視線で俺を全身くまなく見ていく。
「・・・もしかして、現役時代、ピッチャーだったりする?」
「・・・先輩。ちょっと気持ち悪いですよ」
「えっ、当たっちゃった?」
確かに俺は投手だったが、それを一発で、しかも出会って間もないにも関わらず当ててしまうのは、少しだけ気味が悪い。けどあるいは適当に言ったら、たまたま当たったのかもしれない。というかピッチャーくらいしかポジションを知らない女子もいるだろうし。きっと、そういうことなんだろう。
「なんというか、その、指のゴツゴツ具合が・・・、似てるなって」
「先輩、だいぶ気持ち悪いですね」
「ひどい!これは恭ちゃんへの愛故なんだよ!後輩くん」
「いや、俺結構ガチで引いてますよ」
「・・・ほんとひどいね、後輩くんって」
と言いながら、なんだかうれしそうだ。マゾなのかこの人。まぁ、きっと俺が偶然にも先輩の彼氏さんと同じポジションだったのだろう。決して彼女が気持ち悪い才能を持っているからじゃないと信じたい。だけど体格が良いからと言って、良いことばかりがあるわけではなく、むしろそのせいでほかのスポーツもできるのではと勘違いされたり、服のサイズが合わなかったり、色々と困ることだってある。背が小さい俺なんかだと、腕とか肩がキツいんだけど、丈は長い、なんてことはざらにあり、あまりいい思いをしたことはない。
「失礼ですけど、先輩こそもっとギャルギャルした人かと思ってたら、意外とか弱いところもあるんですね」
「本当に失礼だね。まぁ私の場合、運動オンチだし、本当はこんなスカート履くキャラじゃないんだけどさ」
と言いながら彼女は自分のスカートをひらひらと触る。
「彼氏さんのためですか・・・。俺は朝の格好みたいな、少しだけお洒落な先輩の方がいいと思いますけど」
今の彼女は、以前、俺がスーパーで会ったような服装をしている。化粧はばっちり濃いめでスカートは短く、カラーコンタクトをしているのか、瞳の色が朝とは違う。だけど、セーラー服の内襟はきちっと付けている。きっと学校で先輩と会って話でもしていたのだろう。
「えっ、ちょっと、そのセリフって、もしかして私を口説いてるの?」
「違いますよ。ケバいのが嫌いなだけです。それに取り繕ったところで、いつかはバレるじゃないですか」
「それでもいいんだよ。今が楽しければそれでいいって思ってるからさ、私」
「ま、考え方は人それぞれですよね」
「そゆこと」
先輩と話していると、少しだけほのぼのとしてしまう。ここまで一途に思ってくれる女性がいる彼氏ってのは、さぞ幸せなんだろうなぁ、と心の中で思う。まぁ俺がこんなのを毎日だったら、疲れてしまいそうだが。
「なんか最初はさ、後輩くん、遥ちゃんの尻に敷かれてるなぁって思ってたんだけど、遥ちゃんもそれなりに苦労してるんだな、って後輩くんと話して分かった気がするよ」
「どういう意味ですか・・・。ってか俺たちってそんなに目立ってます?」
「そりゃあね。いちゃいちゃしながら学校登校してくるし、電車ではいつも一緒だし。君たち美男美女ってのもあって、北高のちょっとした有名人だよ。でも彼女じゃないんでしょ?」
「違いますよ。でも確かに、二人で喋りながら教室入ったら、最初、クラスの皆にぎょっとされたのは覚えてます。目立ってたんですね俺たちって」
今まで気が付かなかったが、俺らは先輩たちから認識されるほど、目立っていたのかもしれない。まぁ、小学校からの仲だし、隠す必要もないと言えばそれまでだ。
「でも遥もあれですごい優しいやつなんですよ。俺と一緒に話してくれるくらい、いいやつですよ」
「そうだね。少しだけ羨ましいかな。こう、取り繕わない関係ってのも」
と言いながら、彼女が少し遠くを見つめる。
「先輩だってそんな、カマトトぶらなくたって。普段通りの先輩もきっと可愛いですよ」
「それは褒められてると受け取っていいのかな?」
彼女が微妙な顔でそう言う。俺としては精一杯の褒め言葉だったのだが、あまり上手に伝わらなかったのかもしれない。
「まぁ、そうですね。というか、遥の話聞きたいんじゃなかったんですか?」
「・・・そーだった」
「こんなもんでいいでしょ?」
「ダメだよ!ってかなんも話してくれてないじゃん!なんで雑談しちゃうかなうちら」
「先輩がどうでもいい惚気話するからでしょ」
「違うよ!ってか惚気じゃないし。まだ全然遥ちゃんの話聞けてないよー」
「そう言ったって、もう家、着きますよ」
そうこうしているうちに、もう俺の家の前だ。
「えー、じゃあうち来なよ。すぐ近くだし。そうすればゆっくりお話できるよね?」
「・・・それはさすがにまずいでしょ。一応彼氏いる人の家にお邪魔するなんて」
「いいんだよ。それに私、浮気とか絶対しないから」
「それ、俺に言っても仕方がないでしょ」
「・・・もとはといえば、遅刻してきた君が悪いんだけどね」
それを言われてしまうと、俺も返す言葉がなくなってしまう。たかが二十分ほど、約束に遅れただけなのに・・・。ここまで言われないといけないものなのだろうか。色々言いたいことはあるが、そうは言わせない、と言わんばかりに先輩がこちらをじっと睨んでいる。
「もしかして、お母さんに怒られたりする?」
「いえ、母親はいないんで。親父も今日はたぶん帰ってはこなですけど・・・」
「ならいいじゃん!ほら早く!」
「・・・嘘だろ」
こうして、初女子高生の部屋にお暇するという高校生の初々しい初イベントはクリアしたのだが、相手は遥ではなく、出会ってわずか数日の、石川先輩の部屋だった。




