第6節
~登場人物紹介~
道上 準貴:本作の主人公、高校一年生。イケメンだがオタク。小柄。
小室 江美:主人公の隣の席のクラスメイト。パソコン部。
※この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。
ドアが完全に閉まったのを確認し、江美のもとへと詰め寄る。彼女はというと、泣き腫らした目で天井を仰いでいた。
「こんにちは、準貴くん」
「はい・・・」
とりあえず、俺のノートとかそういう類のものは江美のカバンに突っ込んで持ってきたので、それなりに重くなってしまった。
「戻ってきてくれたんですね」
「カバンを取りに行っただけだからね」
俺は少しだけ嘘をついて、彼女の隣に座る二つのカバンはとりあえず足元に置いておくとしよう。
「なんで、私を置いて行っちゃったんですか」
「違うって。カバンをこっちに持ってきて一緒に帰ろうって思っただけだよ」
俺の背中を冷や汗が伝う。俺の選択はマジで間違っていたらしい。女の子という生き物は本当によく分からない。そして部長さん他先輩、先生方には感謝しても、感謝しきれないな、これ。
「ほんとですか?」
「うん・・・」
もうここまできたら、最後まで嘘を貫き通すしかないだろう。しかし、江美も今ので少し安心したのか、こちらを向き少しだけニコッと笑う。
「良かったです。私、めんどくさい女だって思われたんじゃないかって、違う意味で泣こうと思っていました」
「そんなバカな」
「本当ですよ。自分の性格に、少し腹が立ちます」
「・・・」
と言って、彼女はまた再び天を仰いでしまう。俺が黙って江美の隣に座っていると、彼女がぼそっと、話し始めた。
「私、なんだか先生の前だと緊張しちゃって、全然うまく話せませんでした。自分のことが嫌いになりそうです」
「大丈夫だよ。俺だってお喋り下手くそだし、それにちゃんと、先生にはきちんと伝わっていたはずだよ」
「準貴くんはお話をするのが上手ですよね・・・、全部任せっきりになっちゃいましたね。言い辛いところも全部話してくれて。私よりも全然大人って感じがします」
「なんでだよ。同じ高校一年生だろ? それに俺のトーク力の無さは、江美が一番知ってるはずだけど?」
あれほど、残念な初対面の挨拶は俺が生きてる中で初めてだったと思う。よく、友達になれたな、と今でも少しだけ感慨深い。
「ふふっ、そうですね。そういえばそうでした」
「だから、江美はなんも悪くないさ。まぁ確かに泣き始めたときはちょっとめんどくせぇなって、思ったけど・・・」
「ひどいです、準貴くん。女の子に向かってめんどくさいなんて。私傷つきました」
「そういうとこがめんどくさいんだよ・・・」
「ほんと・・・、容赦ないですね」
「でも、それでいいんだよ。それが自分なんだから。俺のこと遠慮なく小柄だって言うところだって、江美の自分らしさなんだよ」
「もう・・・」
と彼女は呆れたのか、嬉しいのか少しだけ笑ってくれた。
「だから自分のことを嫌いって思うのも悪いことじゃないって。上手にしゃべれない自分のことを殴りたくなることだって、なんかよく分かんないけど泣いちゃうのだって、自分らしさの表れだと俺は思うよ」
「・・・準貴くん、言ってて恥ずかしくないんですか?」
「うるせぇ。突然そういうことを言うな」
俺も話してて死にたくなったが、もう言えるだけのことは言ってやった。
「ごめんなさい、辛いところ、全部、準貴くんに言わせちゃって」
「気にするなって。それにあいつは絶対に目を覚ます。大丈夫、俺には分かるんだよ」
「仲が良いんですね、二人とも・・・。少し憧れちゃいます」
「・・・、もう部室には戻らないだろ?もう少しゆっくりしたら帰ろうぜ。緊張して疲れちまった」
「そうですね・・・。帰りましょっか。私、目真っ赤ですけど」
彼女が言う通り、目の周りが真っ赤に腫れて、目も充血している。
「あんまり可愛くないんで、見ないでください」
「そんな気にしなくても顏見ないって。大丈夫」
「・・・ほんとに。準貴くんは」
彼女のセリフは適当に流しつつ、バッグを江美に渡す。
「重いです・・・」
「俺のノートも全部入れておいたから。家に持って帰って、ゆっくり写してよ。重いのは我慢して」
「わかりました、ありがとうございます」
と、二人で帰る支度ができたので、準備室と廊下をつなぐ扉から外に出る。
「・・・私、ほんと泣くとブサイクなんで、私を隠してください」
「前歩けってことか?まぁいいけど」
俺が前を歩きながら生徒玄関に着く。恐らくここで、お別れなのだが、時刻はまだ五時少し前だ。先輩との約束があるからまだ帰れないなぁ、と思いながら靴を出し、玄関を出る。
「・・・、一つ、わがままを言っていいですか?」
「ん?」
「バス停まで送ってください」
「はぁ・・・、まぁいいけど」
「ふふっ、ありがとうございます」
まぁ確かに、俺には泣かせた責任はあるので、俺は彼女をバス停まで送ることにする。しかしバス停と言っても、俺はバスには普段全然乗らないので、場所がよくわからない。
「バス停ってどこだ?俺、五稜郭駅の方向以外は全然行かないから分からないぞ」
「いいんです、とりあえず出て左行ってください」
左というのは、五稜郭駅とは反対の方向だ。とりあえず、出て左に行ったところで、彼女の方を振り返ってみると、もう既にいつもの調子に戻ったらしく、ニコニコとしながらこちらを見ていた。
「落ち着いたか?」
「はい、ごめんなさい。取り乱しちゃって」
「なんもいいよ、気にするな」
「あの恥ずかしいセリフ、録音しておけばよかったかな、失敗です」
と彼女は少しだけおどけてみせる。まぁでも軽口を叩けるくらいには元通りの調子になった、ということで良さそうだ。
「ふざけんな。そんなことしたら俺が自殺しなきゃいけなくなるだろ」
というか、もう過去のことをむしかえすのはやめてくれ、って言っても彼女は聞いてはくれなさそうにないな。でも俺も彼女の少し違った一面を見れたので、等価交換と言えば、そうなるのかもしれない。
「ごめんなさい。なんか準貴くんに辛いこと押しつけている、ってのと、あと遥ちゃんがこのまま目を覚まさずに死んじゃったら・・・、ってこと同時に考えてたら今までで一番悲しくなっちゃって。泣いちゃいました」
「あと、自分が泣いていることに恥ずかしくて、さらに泣いちゃったんだろ?」
「・・・ほんと意地悪ですね、準貴くんって」
図星だったらしく、彼女が怒ったように頬を膨らませ、唇を尖らせている。だけども目が腫れているせいか、全然怖くない。
「でもこれで、少しだけ準貴くんの好感度上がりましたよ」
「なんだよ、ギャルゲーみたいだな」
「・・・準貴くん、ギャルゲーとか分かる人なんですか」
「まぁ一応はな。やったことはないけど、アニメとかなら見たことくらいはあるよ」
「そうなんですか。じゃあ普通にオタクなんですね」
「まぁ、オタクっちゃオタクだけど・・・」
「じゃあ朝読書のとき、ちょっとニヤニヤしてたのは、ラノベでエッチなシーン見てたからなんですね」
「・・・、俺そんなニヤついてた?」
「そりゃあもう、少し気持ち悪いくらい」
今までで一番の衝撃だった。俺としては完璧ポーカーフェイスで呼んでいたつもりだったのだが、どうしてもヒロインのラブシーンとか、ツンデレなシーンとかを読んでいるときは表情に出てしまっていたらしい。俺としては心の中で留めておいたはずなのだが。
「まぁ、私も人のこと言えないですけどね。結構そういうの読んでますし」
「ちょっと際どい挿し絵のラノベとかは、学校で読むには合わないかなぁって思って持ってこないようにはしてるんだけどね」
「そのドキドキ感がいいんじゃないですか」
「・・・変態だな、江美は」
「違います、スリルですよ」
「変態はよくスリルを求めたがるんだよ」
変態の話をしながら、学校を出て、なんだかんだ二十分ほど歩みを進める。
「なぁ、バス停ってまだなのか?」
「もうすぐですよ」
江美って、学校から家近かったような気がする。間もなくすると、とある住宅街の一つの家の前にまで来てしまう。
「着きました、私の家です」
「俺は結局、家までお見送りさせられたってことか」
「違いますよ。好感度が上がったので、おうちを紹介してあげたんです」
「そりゃあどうも」
江美の対応に半分呆れつつ適当に返事をする。俺はこれから来た道を引き返さないといけないっていうのに。
「今日は本当に色々とご迷惑をおかけしました、ありがとうございます。ノートは明日、できれば返しますね」
そういって彼女はこちらを振り向く。
「はいよ、じゃあな」
「はい、お気をつけて」
と言って、彼女とはそこでお別れをする。時刻にはまだ余裕があるので、俺はのんびりしながら駅へと向かうのであった。




