第3節
~登場人物紹介~
道上 準貴:本作の主人公、高校一年生。イケメンだがオタク。小柄。
高橋 遥 :主人公の幼馴染。元野球部マネージャーで現在、意識入院中。
小室 江美:主人公の隣の席のクラスメイト。パソコン部。
喜田川 友哉:主人公の親友。黒縁メガネ。読み方は『ともや』
棚木 美月:準貴のクラスメイト。江美の親友。毒舌。
※この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。
学校に着いて、四階の一年E組の教室に入ると、なにやら友哉と棚木さんが、小室さんの席で談笑していたようだ。
「おー、おはよう準貴」
「おはよ。みんなして何話してたんだ」
「まぁ、色々ね」
と友哉がはぐらかすように答える。
「なんだよそれ、全然答えになってないぞ」
「ああ、いや。遥ちゃん、今日で一週間だなぁって、さ」
「あとは待つだけだからな。どうしよもないっしよ」
と言っても、やれることはやった。先日、完成した千羽鶴は先生が車で彼女の病室まで運んでくれたようだ。あとはただひたすら無事を祈りながら待つことしかできないだろう。
「みんなでさ、お見舞いとか行かない?」
と小室さんが少し戸惑いの表情をうかべながら、そう提案する。
「函館病院か・・・。少し遠いんだよな」
「そうか?自転車で行けばすぐだろ」
「俺は歩きなんだよ」
函館病院は学校から自転車で約十分、歩きだと二十五分、といったところか。函館病院という名前だが、最寄の駅は五稜郭駅だ。まぁ二十五分で着くなら、大したことはないのだが・・・。
「俺は遥の目が覚めた後に、お見舞いに行くかな。行っても話せないなら、意味がない気がしてさ」
「お前のその理論はよくわからんが、まぁ寝てる遥ちゃんを見ても、どうしよもないか」
「お見舞いの品を置いて、帰るくらいしかできないでしょうしね」
友哉と棚木さんが追加する。結果的に皆に反対されてしまう形になった小室さんは、少ししょんぼりとしている。
「そっか・・・。じゃあ目が覚めたら、皆で行こうね」
「そうだな。それでいいと思う。小室さんの言う通り、本当は今行ってあげてもいいんだろうけど。俺、病院ってあんまりいい思い出がなくてさ、好きじゃないっていうか。それに、寝ている遥を見ても悲しくなるだけかなって。・・・ごめんな小室さん、自分勝手な考えで」
「いいの、いいの。私もできれば元気な遥ちゃんと会いたいし」
小室さんがにっこりと笑う。彼女が元気な遥に会いたいって言っているのに、あいつはいつまで寝ているつもりだろうか。小室さんを困らせるくらいなら、あいつを叩き起こしてやりたいくらいだ。そう無意味なことを思っていると、棚木さんがおもむろに口を開く。
「ところで、準貴、私たちのこと、いつまで上の名前で呼ぶつもりなの?」
「え?どうしたんだ突然?」
「私、準貴には美月って呼ばれてあげてもいいわよ。友哉のやつに言われるのはすごい癪だけど。ていうか友哉は私を名前で呼ぶの、うざいからやめろ」
「なんで俺と準貴でそんな扱いが違うのよー」
友哉がいつものように嘆く。まぁ俺は唐揚げがあったからなのか、何故かそんなに嫌われていない。同じ部活に同じタイミングで入ったはずなのだが。
「私、頭悪そうなやつに名前で呼ばれるの嫌いなのよ」
「美月ちゃん・・・」
小室さんももうフォローしきれずお手上げの様子だ。まぁここまできっぱり言う人も珍しいだろう。こんな人の友達をやっている小室さんを俺は少し尊敬する。
「まぁ、俺は確かにバカだけどよ。準貴だってそんな変わらないだろ」
「絶対そんなことないわよ。準貴、学力テスト何番だった?」
話の流れから、いきなりそんなことを聞かれてしまう。学力テストというのは、入学式直後に行った全学年共通のテストのことで、普通科、特進科、商業科共通のものだ。
「俺は・・・、確か学年で十位くらいだ。クラスでは二位だったよ」
「お前、裏切ったな!」
「ほら見なさい。彼の場合、少し話せば頭がキレる人だって直感ですぐわかるわよ」
友哉は俺が見た感じバカに見えていたらしい。本気で友哉が恨めしそうな顔をする。まぁ俺は学力に少し余裕をもってこの商業科に入学したから、こうなったのだろう。テストはそんなに自信はなかったものの、ふたを開けてみれば思ったよりも良かった、といった感じだ。
「準貴はあんたとは違うのよ」
「そういう美月ちゃんはどうだったんだよ」
「少なくとも、あんたよりは上よ」
「準貴よりは下だっていうのか」
「・・・準貴よりも上よ。残念だったわね」
「・・・」
俺も含め、三人が驚きの表情をする。俺がクラスで二番、で俺より上ってことは棚木さんが一番なのか。確かにそれでこの態度、と言われれば少し納得がいく。
「・・・」
「何よその顔」
友哉は完全に固まってしまったようだ。それほど衝撃的だったのだろう。まぁ小室さんは中学が同じということもあり知ってはいたはずだが、それでも少し驚いているようだ。
「美月ちゃんが頭いいのは知っていたけど・・・。クラスで一番だったんだ。美月ちゃんすごいね」
「そうよ。江美はバカなんだから。もうちょっと頑張りなさいよ」
「バカっていうなし。ちょっと調子が悪かっただけだもん」
美月ちゃんもどちらかというと友哉側の人間なのだろう。まぁ、なんとなくそんな予感はしていた。授業中、俺が隣をみると、よくノートにいたずら書きをしていたり、机に突っ伏しているのを、俺はこの二か月間、見てきている。
「それにしてもさ、美月は特進科に行くって選択肢はなかったのか?」
「あら、さっそく名前で呼んでくれちゃって。まぁ私のうち、母子家庭だから。すぐにでもアルバイト始めて少しでも家にお金入れたかったのよ。勉強しながらアルバイトも両立って辛いでしょ、だから少し高校のレベル落としたの。そういうこと。そういう準貴こそどうして商業科受けたのよ」
「俺は、まぁバイトしたいってのもあるし、あと高校入ってまで一生懸命勉強したくなかったって感じかな。あとパソコン好きだからその授業が多いってのも理由の一つだよ」
「あなた、やっぱり幼馴染の遥ちゃんと同じクラスになるため商業科受けたの?」
「ちげーよ。それなら特進に行って、同じ学校行ければそれでいいじゃねぇか」
「まぁ、それもそうね」
とりあえず今の説明で納得はしてくれたようだ。しかし、女の子を下の名前で呼ぶというのは少しだけ勇気がいる。まぁ慣れてしまえば遥のように普通になるのだろう。
「あの・・・、私も、名前で呼んでくれていいん・・・ですよ?」
小室さんがおずおずと小さな声でそんなことを言っている。
「なんで上から目線なのよ・・・」
美月が思わず突っ込む。
「あれ?ごめんなさい! えっ、えと、私も、ええと、名前で、呼んで・・・、呼んで、いただけないでしょうか?」
「・・・今度は丁寧過ぎない?」
江美も伝えたいことがあるようだが、言葉遣いがとっても不自然だ。まぁ言いたいことは伝わっているから大丈夫だけど。見ている分には少し可愛い。
「えぇー。わかんないよー」
「ほんとアホね。あんたは」
さすがにこれ以上困らせるのも気が引けるので一応フォローを入れておく。
「江美の言いたいことはちゃんと伝わってるから大丈夫、大丈夫」
「!? 準貴くん・・・! ありがとう!」
「名前で呼ばれたくらいでいちいち感動せんでも」
美月が呆れながらそう言う。いや、結構難しいよ?俺も言うとき心臓ドキドキだし。遥以外の女の子から名前で呼ばれるとか。(今朝の先輩はノーカウントで)江美はというと、今にも少しだけ泣き出しそうだ。ほんと可愛いなこの子は。ポニーテールふさふさしたい。そういった話をしている最中、さっきから友哉がやけに静かだ。
「友哉?どした?」
「いや、頭もいいし、顔もそこそこいいし。これで美月ちゃんスタイル抜群だったら、女子高生として最強だなって、・・・ぐへっ」
「死ね」
美月が思いっきり友哉の背中に向かって蹴りを入れる。友哉、それはさすがに失礼だろ。二人とも確かにスレンダーな、特に胸のあたりはストーンとしているが、それを本人たちの前で言ったらそうなるに決まっている。
「友哉くん、ひどいです・・・」
「江美ちゃんまで・・・、ぐへっ」
「死ね」
二人とも、スタイルのことはそれなりに気にしていたらしい。そう考えるとそれはそれでちょっとだけ微笑ましい。そうは思うがそれは決して口には出さないでおこう。俺だって、背が低いとか、そんなことを言われたら、少なからず凹むだろう。みんな違って、みんないいんだ。
「まぁ俺も背小さいって言われれば凹むし、あんまりそういうこと言うのはやめようぜ」
「えっ、準貴くんってそんなに小さい?」
「俺、身体測定で身長百六十五センチくらいしかなくてさ、両親の遺伝子を恨んでも恨みきれないよ」
と少し自虐気味に言ったのだが、それが少しまずかったらしい。江美がへぇー、そうなんだと言った後に、
「私ね、もうちょっとで百六十五センチなんだ。そっかー、小柄だね、準貴くんって」
「・・・」
まぁ彼女は思ったことを言っただけで、悪意はないということは伝わってくる。それにそもそも話題を振ったのは俺の方だし。けれどもその分、というのも言葉に悪意が無いからこそ、それは胸の奥深くに突き刺さるってもんだ。
「・・・あんた、それ友哉のこと言えないくらい失礼よ」
「そうかな?」
と言いながら江美が俺の顔を覗く。俺はというと、表情が顔に出てしまっていたのか、彼女は俺の顔を見て、少しぎょっとする。
「えっ、あっ・・・。ごめん。ごめんね、準貴。ごめんなさい・・・」
「今更遅いわよ・・・」
「大丈夫だよ、うん。大丈夫・・・」
「ドンマイ、準貴。まだ高校生だから伸びしろはあるよ」
と最後に美月に蹴られていた友哉にまで励まされてしまった。少し自分は背が高いからって、くそ。今日からカルシウムいっぱい摂って、早く寝ないとな。そう心に決めた。




