第1節
~登場人物紹介~
道上 準貴:本作の主人公、高校一年生。イケメンだがオタク。小柄。
高橋 遥 :主人公の幼馴染。元野球部マネージャーで現在、意識不明入院中。
道上 将貴:準貴の父親。スーパーバイザー。
※この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません。
千羽鶴を完成させた約一週間後の朝、俺は自室で目を覚ました。結局あれから遥の容体は回復することなく、いまだに意識不明の状態だ。彼女の事故のニュースは時間と共に少しずつ話題にならなくなり、当初に比べると、学校内の混乱もほとんどなくなっただろう。俺はというと、まだ朝の五時半なのに、目が覚めてしまった。今日は平日で通常通り学校はあるのだが、それにしても、五時半に起床にはさすがに早すぎる。理由はというと、自宅の一階がなにやら騒がしい。色々と物音がしたため、目が覚めてしまったようだ。めんどくさいなぁと思いながら一階に下りると、やかんに火がかけられている。だが人の姿はない。とりあえず、沸騰し、今にも焦げてしまいそうなので、ガスを止める。そこに脱衣所から親父が顔を出す。
「おう、火止めといてくれ」
「もう止めたよ。なにやってんだよ親父」
「風呂入ってたんだよ。あと俺の朝ごはん適当に作っておいてくれ」
「わかったよ」
と半ば呆れながら冷蔵庫を確認する。適当にトーストを焼いて、ベーコンと目玉焼きでも作るか。親父も風呂に入るか、やかんに火をかけるかどっちかにしろよ。家が火事になるぞ。俺の分の弁当と並行して親父の朝食を作る。と言っても親父の朝飯は、卵を割ってフライパンでベーコンと一緒に焼くだけだ。俺が料理をしている最中、親父は脱衣所を出て、居間で黙って新聞を読んでいる。スウェット姿の親父は、中肉中背でどこにでもいるそこらへんのおっさん、って感じだ。歳は確か今年で四十一だった気がする。
「あとコーヒーも頼むな」
「わかってるよ。そのためにお湯を湧かすのはいいけど、風呂入りながらは危険すぎるだろ」
とやかんを持ち上げてみると、一体何リットルの水を入れたのだというくらいの重さがある。コーヒー一杯にして入れる水の量が多すぎだ。
「どんだけ水入れたんだよ」
「やかんが焦げないようにな」
もうどうしよもない親父である。とりあえず、朝ごはんが完成したので、新聞を読んでいる親父のところへ持っていく。
「ほら、できだよ」
「おう、サンキュ」
親父は基本、料理が下手くそなので、俺が朝、こうやって朝飯を作ることがたまにある。どのくらい下手くそかというと、自分ではトーストとインスタントコーヒーくらいしか作れず、以前、目玉焼きでさえ、真っ黒に焦がしていたことがある。しかし、親父がこの時間にいるということ自体、極めて稀だ。
「今日仕事は?」
「今日は午後から仕事だ。午前中は休みなんだよ」
「じゃあ俺、急いで飯作らなくても良かったじゃねぇか・・・」
それを早くいってくれよ、と思いながら、親父が言葉を続ける。
「これから昼まで寝るんだ。その前に朝飯食わないと」
「俺の睡眠時間はいいのかよ」
親父は、「すまんすまん」と言いながら特に悪びれた様子もなく、再び新聞に目を移す。俺はというと、とりあえずいつものお弁当ができたので、トーストとウインナーを焼いて、久しぶりに朝飯を食べる準備をする。時間があるというのと、今更寝ても、微妙に眠いまま家を出ることになるので、少し早いがもう起きてしまうことにする。朝食が完成し、親父と同じテーブルに着いて朝飯を始める。テレビでは、美人なお姉さんが全国の天気を教えてくれている。
「おい、準。五稜郭駅で事故あったって、お前知ってるのか?」
「あぁ、事故ね。うちの生徒、ってかその女子高生ってのが遥なんだよ」
「遥ちゃんって、あの、お前のガールフレンドか」
「ガールフレンドじゃねぇけどな。でもその遥だ。まだ意識は回復していないんだけど」
「そうか・・・、遥ちゃんだったのか」
俺と遥は小さい頃からずっと仲が良かったため、親父は遥のことを俺のガールフレンドだとか、(言い方が少し古いのは許してやってほしい)お嫁さんだとか、そう言っていつも茶化してくる。親父は小学校からの付き合いである彼女のことをさすがに見知っているようで、遥、と言えばあの遥ちゃんか、という風に会話自体は成立する。しかし、少なくとも数年は挨拶どころか、お互い顔さえ合わせていないので、親父の脳内にいる遥は一体何歳なのか、どんな姿を想像しているのか、俺には考えることすらできない。
「遥ちゃんも、お前と同じ高校一年生だよな? 大きくなったなぁ・・・。昔よく二人で一緒に遊んで、遥ちゃん、『おとなになったらじゅんきくんとけっこんします』とか言ってたんだけど、お前、覚えてないだろ?」
「覚えてるわけないだろ、ってか遥も覚えてないに決まってるさ」
「そりゃあそうか。小学二年とか、そのくらいの話だもんな」
親父がケラケラと笑う。確かに俺らが覚えていなくとも、大人だった親父は鮮明に覚えているのだろう。あるいは生前の母が、親父にそう言っていたのかもしれない。
「そうか・・・、早く意識が戻ると良いな。どこに入院しているか聞いていないのか?」
「近くの函館病院だよ。まぁまだお見舞いとかは行ってないんだけどさ」
「お見舞いに行ってやれよ。もしあれなら車出してやるからさ」
「わかったよ。もし必要なら、そのときに声かけさせてもらうって」
そんなことを話しながら、俺も親父も朝食を済ませる。親父はこのまま部屋で寝るらしく、去り際「今日も晩飯要らないから一人で食ってくれ」と言い残し、そのまま自室へと姿を消した。




