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1484 青春白書  作者: 吉倉 光希
 第4章 「その願いの先に」
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第4節

道上 準貴:本作の主人公、高校一年生。イケメンだがオタク。

高橋 遥 :主人公の幼馴染。野球部マネージャー。

小室 江美:主人公の隣の席のクラスメイト。パソコン部。

喜田川 友哉:主人公の親友。黒縁メガネ。

棚木 美月:準貴のクラスメイト。江美の親友。毒舌。

池田 万理子:1年E組のクラス担任。教師。

 ラウンジから購買までは、ほぼ一直線で行けるのだが、途中の職員室からあまり目立たないようにするため、少し遠回りをしていく。話をしていて忘れていたが、既にチャイムは鳴っており、今は二時間目の途中なのだ。職員室を覗きたいのは山々だが、さすがに先生たちに見つかるのはまずいだろう。購買に到着すると、友哉は昼ごはんのパンを選んでいた。こいつは弁当だったり、パンだったりと、昼ごはんがランダムなのだ。本人いわく、「母ちゃんが寝坊したら、弁当は基本ない」と言っていたので、恐らく、お母さんの起床時間次第なのだろう。しかし、コンビニが普通に校内に店を構えている、というだけあり、品ぞろえはそこらへんにあるコンビニに勝るとも劣らない。ペットフードなんて置いてあるが、これは誰が買っていくのだろうか。少し不思議だ。コンビニ内をぶらぶらしていると、とあるものが目に留まる。


 「おーい、帰るぞ」


友哉が買い物を終えたらしく、こちらに近づいてくる。


 「なぁ、友哉」


 「ん?」


 「折り紙だな」


 「そりゃ見りゃわかるけど・・・」


 「・・・」


 俺がしばし見つめていたものはなんの変哲もない折り紙だ。入院中の人と折り紙、と言えば千羽鶴が連想される。もちろん、友哉もそれは理解しているだろう。しかし、千羽鶴を、これから手術を受ける人や、意識を回復してリハビリ途中の人に渡すというのと、意識不明の人に贈るのとでは、意味合いがほんの少しだけ違ってくる。後者であれば、ちょっとした覚悟をしなければならない、というのを俺も、そして友哉も何となくは感じ取っているのだろう。


 「お前の言いたいことは分かる。でももし仮に、仮にだぞ? その、遥ちゃんが、亡くなったとき、それはどーするんだよ。彼女のご両親とかには見てもらえるかもしれないけどさ、遥ちゃんが亡くなってしまったら、それは作った意味があるって言えるのか? あるいは、彼女が目を覚ますまで渡さない、っていう選択肢もあるにはある。けど、それはさすがに辛すぎないか? だって目を覚まさなかったら、その折った鶴、一体どうするんだよ・・・」


もちろん、製作途中に亡くなってしまうということだってあるはずだ。それに完成し、渡したところで、所詮は祈りのこもった折り紙だ。科学的根拠などどこにもない。仮にあるとすれば、皆が必至こいて、誰かのために、鶴を折る、そんな習慣が世界のどこかにあってもいいはずである。長い沈黙の後、再び友哉が口を開く。


 「せめて、遥ちゃんの容体が安定してきたらでもいいんじゃないか?」


しかし、そうではない、と俺は説明する。


 「そんな難しいことは考えてねぇよ。ただ単に、あいつの場合、折ってやんないと、目覚ましたときにがっかりするような気がするんだよ。『あんた、私のこと心配じゃなかったの?鶴の千匹や二千匹、折っておきなさいよ!』って怒られそうな気がしてさ。ただそれだけだ」


 「なんか、お前らしいな」


友哉は少し苦笑した後に、


 「わかった、俺も付き合うよ」


と賛同してくれた。


 「ありがとう、やっぱりわかってくれるやつがいるもんだな」


 「どういう意味だよ」


友哉の問いかけには聞こえないふりをかまし、購買で一袋だけ折り紙を買って教室に帰る。千羽鶴というのは、「たくさんの鶴」という意味合いなので、ぴったり千羽なければいけないというわけではない。極端な話、百羽とか、二百羽でも全然問題はないのだ。それに首は折らない方がいいとか、赤や黒はよくないとか、色々と決まり事があるという声もちらほらと聞くが、要するに気持ちがこもっていればいいと俺は思っている。


 「母さんが、交通事故で死んだ後、俺ってば、何故か親父と鶴を折ってたんだよ」


 「亡くなった後に千羽鶴を手向けるのか。正直あんまり聞いたことないぞ」


 「まぁな。葬式で、花と一緒に千羽鶴を添えたら、親戚に少し変な顔されたけどな。でも気持ちが伝わっていればいいんだよ。それに俺の母親だ。俺がどうしようが勝手だろ」


 「なんつーか、それもお前らしいよ」


 「・・・、きっと当時の俺流の、気持ちの整理の仕方だったんだろうな」


 「昔じゃなくて、今もだろ」


その言葉もまた聞こえないふりをし、二人で教室まで戻る。ドアをあけると、まだ授業は始まっていなかったらしい。個々がスマホをいじったり、勉強したり、迷惑にならない程度におしゃべりをしたりしている。俺が席にいくと、小室さんと、棚木さんが出迎えてくれた。


 「おかえり、二人とも」


 「おかえりなさい」


 「おう、ってなわけで」


 「「鶴作ろうぜ」」


俺と友哉の突然の発言に、小室さんは少しきょとんとしており、棚木さんは、先ほどの友哉のような、少し困った顔をしたうえで、友哉と同じ質問をする。


 「あんたら、遥ちゃんに鶴を折るってことがどういう意味なのか分かってるんでしょうね?」


 「大丈夫、大丈夫。こいつはそんな生半可な気持ちで『鶴折ろうぜ』って言い出したわけじゃない。俺が証人だ」


彼女は、協力すればするほど、もしものときに背負う悲しみも増えるということを少なからず、察しているのだろう。しかし、友哉がよくわからない証人になってくれたこともあり、小室さんが、あっさり協力してくれるようだ。


 「一日も早く、意識取り戻してほしいもんね。私は協力する。友哉、準貴、頑張ろうね」


 「おー、ありがとう江美ちゃん、ところで江美ちゃん、俺たちのこと下の名前で呼び捨てで呼んでくれるようになったんだねー」


 「えっ、そうだったのか?」


全然気が付かなかった。別に上の名前で呼ばれようが、下の名前で呼ばれようが、俺だとわかれば反応できるので、別に問題はない。


 「ふふっ、友哉は気が付いてくれたけど、準貴は・・・」


 「あ、いや、気が付いてましたよ」


と少しだけ嘘をついてみる。


 「だいぶ前から、そう呼んでるのに、気が付いてくれないんだもん・・・。少しショックだよ」


 「ごめんごめん」


 「それより、いっぱい鶴作ろうね!」


 「おう」


可愛いな小室さん、今日もシュシュで結ばれている美しいポニーテールが魅力的です。俺と小室さんが、意気投合する中、友哉はというと、棚木さんの説得に尽力していた。


 「美月ちゃんもどう?ほれほれ、一枚どうぞ」


 「そこまで言われたら折るけどさ・・・。あんまり考えたくはないけれど、もしこれで遥が目覚めなかったら・・・、一体どーするのよ」


 「準貴が絶対目を覚ますって言ってるんだから、それを信じるしかないっしょ」


 「そんなこと言ってたの?珍しいわね、彼がそんな非科学的なことを言うなんて」


 「夫婦の絆なんじゃないの?」


 「なによそれ」


その後、四人で少しずつ鶴を折っていると、男子クラスメイトの一人が、「俺にも一枚もらえるかな?」と言ってきた。もちろん断る理由がないので、快く折り紙を渡す。それに続き、クラスの男子、女子が少しずつ協力してくれ、最終的には、クラス皆が折り鶴を始め、足りなくなった折り紙を、クラスの誰かが購買まで走っていき、買ってきてくれたりもしたのだ。こうしてクラス初の共同作業で、二時間目が終わる頃には百枚入りの折り紙の空袋が三つ、だいたい三百羽のつるができたのだ。


 「ありがとう、みんな」


俺が友哉と小室さんと棚木さんにそう言うと、


 「声が小っちゃいんだよ、みんな!準貴が、みんなありがとうだってさ!」


友哉が拡声器のようなみんなに伝わるような声で伝えてくれた。クラスの反応はというと、中には「せっかく勉強してたのに」といった顔の人もいたようだが、概ね「任せとけ」や「当然!」といったように、良い反応ばかりだったのはとても嬉しい。折り紙が苦手な人、得意な人は関係なく、みんなが協力してくれた。しかし、結果としてどこの机の上も折り鶴であふれかえっている。それをたまたま教室を通りかかった池田先生が、驚きと半分呆れた表情で、鶴たちが入る大きさのダンボールを持ってきてくれた。


 「自習と言っただろうに、教師の言うことを無視して、一体何やってたんだ」


 「仕方がないですよー、これも授業の一環です。道上くん提案のもと、皆で協力したんですよ!」


とクラスの最前列の女子が答えてくれた。あとから友哉から話を聞いたところ、このイケイケそうな彼女がクラス一可愛いと噂の秋月さんらしい。まぁ彼女らからすれば、楽しんだもん勝ち、というのもあるかもしれない。しかし、きっと、皆が少しでも遥のことを思って折ってくれたのであれば、それはそれでいいかな、と思えるようになった俺は、少しだけリア充に近づくことができたのかもしれない。

 その後、三時間目以降の授業は通常通り行われた。授業に来る先生が一様にして、遥の席を見つつ、黒板の横にあるダンボール一杯の鶴を見て驚きの表情をしていた。昼休みには、四人で放課後、残って残りの鶴を完成され、糸に鶴を通そうと計画を立てた。そして帰りのロングホームルームで、池田先生より、一連の騒ぎの報告があった。

昨晩、五稜郭駅で、線路に人が落ちてしまう事故が起きたということ、その人は打ち所が悪く、意識不明の重体で病院に搬送されたということ、そして、それが一年E組の高橋遥であるということ、そして彼女はまだ、意識を取り戻しておらず、彼女の両親から、ここ二、三日が山である、という連絡が学校の方に入った、ということだけだった。

 放課後、四人と数名、有志で集まってくれたメンバーで、鶴折り作業を再開した。各々がひたすら鶴を折り続けるというとても地味な作業だが、昼休みなどを使い、事前に作れていたので、そこまで苦労はしないだろう。そしてあまり大きすぎても、運ぶのが大変だということで、ほどほどの約七百匹で終わらせる、という結論に至った。黙々と鶴を折りながら、友哉が片手間で話しかけてくる。


 「なぁ、準貴。先生からの報告聞いたか」


きっと、彼は先生の『言い方』を気にしていたのだろう。俺もそこは気になっていたところだ。


 「もちろん。『事故』なんだってな」


 「なんか引っ掛かる気がするんだよなぁ」


 「まぁ、自殺って言い切ってしまうと、いろいろと問題があるんだろ。それに本人が目覚めてから、変わる可能性もあるから、どうしても断定はできないんだと思うよ」


 「そうだな、とりあえず、俺らは、鶴を作って、遥ちゃんの意識回復を願うしかないな」


 「おう」


小室さんも、棚木さんも、ほかのメンバーもきっと、同じことを思ってくれていると期待して、やっとの思いで綺麗に連なった千羽鶴が完成する。もう既に外は暗くなっており、校内に人の姿はほとんど残っていない。糸を通し終わった千羽鶴は、ひとまず教室に吊るしてある。明日、先生が病院に持って行ってくれるそうだ。作業を終え、それぞれが「お疲れ様」と労い合いながらそれぞれの帰途につく。


しかし、遥の意識は次の日も、その次の日も、山を越えたその次の日も、戻ることはなかった。

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