第3節
~登場人物紹介~
道上 準貴:本作の主人公、高校一年生。イケメンだがオタク。
高橋 遥 :主人公の幼馴染。野球部マネージャー。
喜田川 友哉:主人公の親友。黒縁メガネ。読み方は『ともや』
※この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません
教室を出て、(というか引っ張り出され)未だに俺たちは一階へ続く階段を下っているところである。
「どこ行くんだよ」
「とりあえず、ジュースでも買うか・・・」
一応、今は休み時間だが、もう少しでチャイムが鳴り、二時間目が始まる。こんなことをしてていいのかと、そわそわしながら友哉の様子を伺う。彼はというと、一階のラウンジのスペースに着くやいなや、本当に飲み物を買うらしく、財布から小銭を出して、近くにある自販機で飲み物を買っている。
「ほらよ」
手渡されたのは、コーヒーだ。俺コーヒー飲まないんだけどな・・・、と思いつつ、プルタブを起こし、少し飲んでみる。
「苦っ、にがっ」
思わず二回言ってしまうほど、本当に苦い。缶の横を見ると「微糖」と書いてある。
「お前、それを苦いって言ってるようじゃまだまだお子様だな」
と言いながら、彼も俺と同じコーヒー缶を手に持っている。お前が飲める飲み物が、全てうまいとは限らないんだからな、呆れながらも二口目を飲んでみるも、やはり苦い。しかめっ面しながらコーヒーと戦っていると、友哉が少し真剣な顔で話始めた。
「教室だと、話しづらいこともあるだろ」
「まぁ、な」
まず何から話すべきだろう。と言っても、俺自身、そこまで詳しい情報を知らないので、全部話したところで、そこまで時間はかからないだろう。
「遥ちゃん、やっぱりお前に助けてもらいたかったのかね」
「・・・」
「って言っても、さすがに空メールじゃ分からんよな」
確かにその通りだ、と思いながら先ほどのメールの内容を確認する。題名は無題、本文は、
「本文、続いてるぞ」
「本当か、なに書いてあるのか」
「・・・」
二人が息を飲む中、一番下にあったものは
「絵文字かよ・・・」
「泣いてるな、この絵文字」
キャラクターが泣いている絵文字だった。先ほどは気が付かなかったが、空欄ではなく、改行を重ねて、一番下に絵文字が一つ、ぽつんと置かれているメールだったらしい。
「だとしても、わかんないよこれじゃあ」
「辛いってのは、なんとなく伝わってくるけどな」
と言いながら、友哉が少しニヤける。なにかおかしなところがあったのだろうか。
「いや、ただ遥ちゃんも、準貴本人の目の前だとやたら強気なのに、少しおかしくて」
「どういうことだよ」
「意外と不器用な人なのかもってこと」
「???」
「お前はいいよな、能天気で」
「ふざけんな、俺なりに真面目に考えてるんだぞ」
「すまんすまん」
友哉は少しおどけたふりをしてみせる。
「・・・野球部のマネージャーが、少し辛いって話は前から聞いてたんだ。でもそれが一ヵ月くらい前の話で、それがそんなに深刻な問題だとは思ってなかったんだよ」
「そっか、マネージャーの仕事が大変で、疲れてたのかもな、もしかしたら」
「うん、俺もそうなんじゃないかって」
恐らく彼女は、過酷なマネージャーの仕事に疲れてしまったのだろう。先輩しかいない、一番下っ端の一年生ということもあり、きっと俺たちでは想像できない苦労があったのかもしれない。でも、と前置きをしたあとに、友哉が口を開く。
「それで、自殺するか?そもそも自殺なのか?これは」
「うーん、生きるのに疲れた、ってなら自殺なんじゃないか?」
「それにしたって変だろ、いくら辛いとはいえ、死ぬほど辛かったら、マネージャを辞めればいいだけの話なんじゃないか?」
それに、と続けて友哉が話を続ける。
「それに、言い方は悪いけれども、本当に死にたいなら、ホームからわざわざ線路に落ちなくとも、もっと確実な方法はあっただろ」
「そうしたからには、なにかわけがあるってことか」
「ま、たまたま轢かれずに済んだって可能性もなくはないけどさ。それに部活で疲れてフラフラしてたところ、ホームから落下して、運悪く、意識不明の重体って可能性ももちろんある。だからこれも遥ちゃんに聞いてみるしかないのかもな」
まぁ確かに、と俺は同調する。このことに限らず、事件の真相は全て、遥に聞いてみなければ分からないのだから、俺たち今、あるだけの情報で、真相を予測することしかできない。
「・・・今日、別の高校の野球部の友達から、北高の野球部は少しいじめがあるって噂を聞いたんだ。でもそれは選手の話であって、マネージャはどうなのか、分からないんだけれど」
「選手同士のいじめってなると、ポジション争いとか、そういうのか?」
「まぁそんな感じ、先輩と後輩ってのが主な要因だろうけど」
「そんなの、野球部以外だって同じことが言えるだろ、サッカー部だって、バスケ部だって、下手したらパソコン部だって、一年でも上手なやつはレギュラーで、三年でも補欠のやつは補欠だ。あんまり関係あるとは思えないけどな」
「うーん」
「それに、だ。さっきの話は論点が少し違うにしろ、いじめが原因なら、そのいじめの元がなにかを考えないと意味がないだろ」
「それが選手の場合は、ポジション争いとか、レギュラー争いとか、そういったことが原因として挙げられるってことだよな」
「そうなるな」
いじめがあったのだとしたら、いじめの根本を考えなくてはならない。選手の場合、前述のように考えるのは比較的容易だ。しかし、その部活のマネージャーの場合を考えるとなると、少し意味合いが違ってくる。
「いじめの原因、か。考えられるとしたら・・・」
二人がしばしの沈黙の後、
「色恋沙汰・・・」
偶然か必然か、二人の声がハモる。
「気持ち悪いんだよ、ハモらせてくるな」
「こっちのセリフだバカ」
友哉の笑顔を見て、こちらも少し顔がほころぶ。野郎が二人同時に「色恋沙汰」と同じ言葉を発してハモってしまったら、どんな状況でも多少は笑ってしまうだろう。俺が不謹慎と思いながらも、話を続ける。
「あいつ、顔はいいからなぁ。先輩マネージャーと彼氏の取り合いでもしたのか?」
「まぁ、有り得なくはないから怖いよな」
「しかし、それが原因で自殺までするか?」
「分からんぞ、恋の恨みってのは恐ろしいからな」
自分で言って、少しだけ恐ろしくなる。確かにメンヘラという属性があるのは俺でも知っている。恋のライバルが現れたら、精神的に、あるいは物理的にそいつを攻撃し、闇に葬ってしまえ、という考え方である。確かにそうすると恋敵はいなくなるが、自分は犯罪者になってしまう。
「だから、自殺を自演させて、恋敵を消したってことか?」
「やめろよ準貴。おっかねぇよ」
この冗談は、普通に笑えないから困る。というのも、今の状況からすると、冗談ともいえないところがなによりも恐ろしいところである。先ほどの余裕はどこかへ消え、友哉が少し深刻そうな表情で口を開く。
「・・・もしかして、これが一番有力なのか?」
「そんなまさか、ドラマとかアニメとか、そういう話じゃないのかよ」
「でも、遥ちゃん、可愛いし。それに恋敵としては、仮に死にまでしなくても、怪我を負わせて学校に来させなくさえすれば、自然と自分と想い人の距離の方が縮まるってか」
「・・・それ以上はやめろ、俺たちが消される」
今少しだけ、ぞっとした感覚が背筋を伝った気がする。しかしまだ、これだと決まったわけでもないので、これ以上不用意な詮索は無意味なだけだと判断し、この話はいったんおしまいにする。
「腹減った、購買でも行ってから教室戻ろうぜ」
「おう、あの苦いコーヒーの口直しがしたい」
「まだまだお子様だな、お前は」




