第2節
~登場人物紹介~
道上 準貴:本作の主人公、高校一年生。イケメンだがオタク。
高橋 遥 :主人公の幼馴染。野球部マネージャー。
小室 江美:主人公の隣の席のクラスメイト。パソコン部。
喜田川 友哉:主人公の親友。黒縁メガネ。
棚木 美月:準貴のクラスメイト。江美の親友。毒舌。
結局、学校に着いたのは一時間目が始まる時刻よりも少し遅かった。雨ということもあり、学校まで走る気力も湧かなかった。しかし、不思議なことに授業はまだ始まっていない。そしてクラスの皆が、俺が教室に入ってきた途端、少しざわついた気がする。なにかあったのか?と疑問に思いつつ、バッグの中に入っていたタオルで濡れた髪の毛を拭く。そして自分の席へと向かうと、小室さんが真剣な顔でこちらを見てくる。
「おはよう、小室さん」
「おはよう、準貴くん」
「授業まだ始まってないみたいだけど、なんかあったの?」
「準貴くん、まだ聞いてないの・・・?」
「お前、ツイッター見てないのか?」
友哉まで神妙な顔つきでこちらに近づいてきた。俺が遅刻してきたのがそんなに珍しいのか、それにツイッターなら昨日の夕方に見たのが最後だ。いつもなら朝の電車で見たりするのだが、今日は信之助とおしゃべりをしていたからか、スマホはほとんど触っていない。
「ツイッターか?昨日の夕方に見たけど、それ以降は」
「昨日の夜、五稜郭駅で事故があったらしくてな、人が線路に落ちたって」
「線路に落ちたなら上ってくればいいだけの話だろ。それにいま授業が始まってないのと何が関係してるんだ?」
俺が不思議そうにしていると、小室さんが彼女のスマートフォンの画面を見せてくれた。
「これがニュースの記事なんだけどね、線路に落ちたの、女子高校生らしいの」
「で、今朝から先生方が皆、忙しそうにしててさ。俺がさっき、学級日誌取りに職員室に行ったたんだけど、後にしてくれって言われちまって。池田先生、朝のホームルームにも来てないんだぜ。それで、今たまたま学校に来てないのが」
と友哉が言いながら、うちのクラスのひとつだけ誰も座っていない席を見る。
「遥、学校来てないのか・・・」
いやまさか、と思いつつ、五稜郭駅にビニールシートが張ってあったのを思い出す。そういうことだったのか。少しだけ嫌な予感がする。
「それでね、遥ちゃんにメッセージ送ってるんだけど、いまのところ誰も返事来てなくて」
「まさか、遥が線路から落ちたってのか、っていうかその女子高生、いまどんな状態なんだ?」
「ニュースでは、近くの病院に搬送されて、意識不明の重体って書いてあるけど・・・」
小室さんが不安そうにそう教えてくれた。三人で話していると、棚木さんも心配そうな面持ちで、こちらに近づいてきた。
「それに、遥ちゃん、ツイッターの更新が昨日の夕方で止まっているのよ。だから準貴が、なにか知らないかなって、みんなでずっと話してたんだけど」
「すまん、俺は特になにも。いま二人から初めて聞いて、驚いてるよ」
「そっか。お前も学校来るの遅いから、どうしたのかって話してたところでさ」
「俺はただ単に乗るバスを間違っちまって、てんやわんやだったんだ。それで学校遅刻って感じだ。でも確かに遥のやつ、いつも乗ってくる電車に乗ってこなかったから、おかしいなぁとは思ってたんだよ」
と三人に現状を報告しながら、スマホに目をやると、メールが数件来ている。
「・・・。親父じゃない人から?」
このご時世、メールを使う機会は昔ほど多くなくなった。今はメッセージで届くのが主体だ。メールといえば、親父か、あるいはスパムの類のものばかりなので、あまり目を通さないのだが、無題のが一件だけあったので、宛先を確認してみると、
「・・・遥から」
「!?」
三人だけでなく、クラスの皆が、俺の方を注目している気がする。
「受信日時・・・、昨日の夜だ。題名:無題 本文:空欄・・・」
「空メールってやつね・・・」
「あいつ・・・、ウソだろ?」
遥に限って、と言いかけた一瞬、今朝の信之助の言葉を思い出す。
『もしかしたら・・・、ってことも有り得るかもしれない』
最悪のシナリオが、頭をよぎる。もしかしたら、本当にもしかするのかもしれない。
「なぁ、小室、棚木、あいつ、野球部のマネージャーのことでなにか、相談したりしてなかったか?」
「特にそういった話は聞かなかったけど」
「わたしも」
二人がしばらく考え込んで、個々の答えを出すも、めぼしい情報は浮かんでこない。
「空メールって、なにか伝えたいことがあったんですかね」
小室さんがふとそんなことを口にする。画面を占める空白が今にもなにかを訴えかけてきそうだ。しかし俺にはそれが何かが、残念ながら今は分からない
「俺がもし、これを見て、なにかアクションを起こしていれば」
と言いかけたところで、友哉がそれを制止する。
「何言ってんだよ。今それを考えたところで、現状が変わるわけでもないだろうし、それにまだ遥ちゃんって決まったわけじゃない。気にし過ぎだよ」
「そうよ、友哉の言う通り。遥ちゃん、まだ家で寝ているだけかもしれないし。だから。ここで考えたって仕方がないわ」
棚木さんが少し優しい顔で友哉の言葉に追加する。
「・・・」
しかし、分かってはいても、やりきれない。そんな気持ちが自分の中を蝕んでいく。
長い沈黙を破ったのは、一時間目の終わりを告げる鐘だった。少し遅れて、担任の池田先生が教室に入ってくる。
「すまん、遅れた、申し訳ない。少し事情で立て込んでいてな。次の授業は国語の予定だが、それも一応自習だ。途中で別の教科の先生が来るかもしれない、そのときはその指示に従うように」
と告げた後、友哉に近づき、日誌を手渡す。
「はい、学級日誌だ。すまんなさっきは」
「いえ、でも先生。これって・・・」
友哉が不安を口にする。
「あぁ、恐らく君たちの思っている悪い予想は当たっているだろう。私たちもまだ詳しいことは把握しきれていない状況だ。もう少し待っていてくれ。分かり次第、必ず報告する」
と言い残し、足早に教室を去っていった。
「行っちゃいましたね・・・」
「悪い予想は当たってるって、本当なのかよ」
「そう言うってことは、きっと遥ちゃんなのね・・・」
「・・・」
先ほどの池田先生の言葉が、またさらに気まずい沈黙へと教室内を陥れる。
「あー、もうやめだやめだ。準貴、ちょっと付き合え!」
「おい、どこいくんだよ」
「外の空気吸いに行くんだよ」
「外雨だぞ?」
「うっせぇ、いくぞ」
「おい、ちょっと待てよ」
小室さんと棚木さんは、だいぶきょとんとした顔をしていたが、友哉はそんなことお構いなしだ。俺は教室から強引に引っ張り出されてしまう。




