第1節
~登場人物紹介~
道上 準貴:本作の主人公、高校一年生。イケメンだがオタク。
村瀬 信之助:準貴の小学校の頃の同級生。別の高校の野球部。
高橋 遥 :主人公の幼馴染。野球部マネージャー。
※この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません
遥と一緒に帰宅した日から、約一か月後、俺はというと、学校へ向かう電車に乗るため、上磯駅に着いたところだった。今年の暦はすでに六月に突入し、季節は春から夏へ向かおうとしている。今日は生憎の雨模様のため、家からここまで歩いてきた。一ヵ月の間、部活動にはそこそこ顏を出し、友哉にパソコンの基本的な操作を教えたり、部長さんといつものゲームで遊んだりしていた。部長さんには結局一度も勝ててない。やはりゴットハンドの異名を持つ彼女には敵わないのか。小室さんと棚木さんはというと、大抵、棚木さんのアルバイトの予定がない日に、二人でひょっこりと顔を出しては、先輩方に混ざり、みんなでおしゃべりをして帰るというのが日常的だった。その間、俺ら男子二人は、とてもガールズトークについていけるわけもなく、黙々とパソコンをやってたりした。真面目だね、俺たち。
駅に到着し、電車に乗り込むと、既に車内に一人、見知った顔のやつがいたので声をかけてみる。
「よぉ、元気にしてたか?」
「お前、生きてたのか」
音楽を聴きながら、窓際の席で黄昏ていた少年、彼が村瀬信之助。俺の小学校からの同級生で、今は俺とは別の高校に通っている。見た目はいかにも高校野球児といった感じで、程よく体が引き締まっているのが、制服の上からでもわかる。
「この電車に乗ってるなんて、珍しいな」
「寝坊したんだよ、もう学校には遅刻確定だ。それに雨だから自転車で学校まで行くってこともできないし」
信之助がいつも乗る電車は、恐らく、今停車している電車の一本前、始発電車であろう。それに乗らないと間に合わないところに学校があるのだ。
「お前んとこの学校、遠すぎ。アホじゃないのか」
「仕方がないだろ、推薦してくれたんだから、ありがたく思わないと」
彼は実をいうと、あまり頭はいい方ではない。中学の頃の学力テストでは、後ろから数えた方が圧倒的に早いくらいで、このままでは入る高校がないとまで言われていた。しかし野球の腕は確かなので、それを見越して、高校の方からスポーツ推薦枠として入学することが決まったのだ。
「どうだ、野球。楽しいか?」
「まぁ一年はさすがにキツいよ。でもそれも含めて練習だからな。今日は雨だから少し気持ち的には楽だよ。お前こそ、北高でピッチャーには戻らないのか?」
「だから、もうやらないって。決定事項なんだよ」
「もったいないなぁ。あのストレート、結局全然打てなかったしなぁ。いつか打ってやる!って思ってたらお前、野球やめちまうんだもん」
「仕方がないだろ、っつかあれはツーシームで、ストレートは俺の場合、別にちゃんとあるんだよ。何回言えばわかるんだ」
「はいはい、もうそれは聞き飽きたわ。ところで登校するときって、お前一人なの?」
「うーん、いつもなら遥がこの時間に来るんだけどな」
「相変わらず、ラブラブだなぁお前ら。結婚しちまえよ」
「・・・ぶち殺すぞ」
信之助はこういった風に、俺らのことを悪びれた様子もなく茶化してくる。しかし自分も慣れっこなので、さくっと流してその話題を終わりにしてしまう。車内にアナウンスが流れ、電車が発車する。結局遥は電車に乗ってこなかった。寝坊でもしたのだろう。
「はるって結局北高の野球部マネージャーやってるんだっけ?」
「そうらしいな。毎日夜遅くまで大変らしいよ」
「マネージャーは大変だぞー、下手したら選手より遅い、なんてこともざらだからな。それと、北高は毎年マネージャーが美人だって有名なんだぜ。練習試合なんかあれば、みんなで顔を一目見ようと、必死になって探すのが、うちの高校の恒例行事らしい」
「なんだよそれ。俺が選手なら、顔とか美人とかよりも、普通に気が利くマネの方が助かると思うけどな」
「そう言ったって、可愛くないよりは、可愛い方がいいだろう」
「失礼なやつだな、お前は」
信之助が見も蓋もないような発言をする。そりゃあ誰だって、顔が良い方が得に決まっているが、こういった仕事の場合、果たしてどうなのだろうか。
「あと、あんまり良くない噂ではあるんだけど、北高の野球部は選手同士でいじめがあるらしいからな。何年か前に、レギュラーになれなかった三年生が、同じポジションだった二年生をいじめて、それで市内の高校で少し問題になったんだとよ」
「それって、結局どうなったんだ?」
「なんだかんだありながらも、その二年生は試合には出たらしいぜ。でもその後、不登校になっちまったみたいで、原因を調べたらいじめの疑いが浮上してさ。その年は厳重注意で済んだっぽいけど。よかったな、お前、ピッチャーだったら確実にレギュラー争いに勝っちゃうだろ」
「それはもういいって、でも、その噂が本当だとしたら、笑えない冗談だな」
自分の高校の部活動にそんな過去があったとは驚きだ。噂にしては少しリアルな気もする。確かに野球部は先輩を敬って、後輩は先輩の指示に従う、といった習わし的なものはあるが、その生徒が不登校になってしまったのなら、それはもう立派ないじめだ。
「だからお前、マネージャーのはるに限ってそんなことはないとは思うけど、一応野球部だからな。一応気にかけてやれよ、未来の夫としてさ」
「一言余計なんだよ。でもあいつ、最近マネージャー少し辛いって言ってたな、もしかしたら、なにか関係あるのかもしれない」
「さすがに一般の生徒が、野球部マネージャーの部活での人間関係までは把握できないよな。でも選手とマネージャーじゃなくて、マネージャーとマネージャー同士、ってこと考えられるからな。もしかしたら・・・、ってことも有り得るかもしれない。お前がちゃんと相談乗ってやれよ?」
「・・・出来る限りのことはするよ」
そんな話や、あとは学校での授業の話、少しだけ変化球の話もしたところで俺は五稜郭駅に到着する。次の駅で降りる信之助に見送られながら電車を降りる。上磯駅を出たときより、雨足が少し強くなっている気がする。時折遠くで雷が鳴り、風も少し出てきた。六番ホームに張られている青いビニールシートが雨に打たれ、風にあおられ悲鳴をあげている。昨日、あんなビニールシートあっただろうか。ふと疑問には思ったが、それ以上の進展はなかった。俺は空を見上げ、これからどう学校へ行こうか少し考える。
「さすがにバス乗るか」
この天気では学校に行くまでに俺のビニール傘が壊れてしまいそうだったので、バスに乗って学校に向かうことにする。初めてバスに乗るけど大丈夫かな・・・、と少し不安になりながら、目の前に来たバスに乗る。案の定、俺は北高行とは真逆の方向のバスに乗ってしまう。途中で気が付いて降りたはいいが、それなりに学校から離れてしまったので、やけくそになりながら歩いて学校まで向かうこととなった。バスを待っていた時間も含めると、かなりの時間を浪費してしまった。この分で歩けば、十中八九遅刻だろう。
「ついてないな、俺」
ぼそっと独り言を言うが、それは虚しく雨雲の中に消えていくだけだった。




