第3節
~登場人物紹介~
道上 準貴:本作の主人公、高校一年生。イケメンだがオタク。
高橋 遥 :主人公の幼馴染。野球部マネージャー。
小室 江美:主人公の隣の席のクラスメイト。パソコン部。
喜田川 友哉:主人公の親友。黒縁メガネ。読み方は『ともや』
棚木 美月:準貴のクラスメイト。江美の親友。毒舌。
※この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません
「はぁー、楽しかった。あんたに友達ができて、少し安心したわ」
「お前は俺の姉ちゃんか何かですか?ってか、俺よりもよっぽどお前の方が喋ってた気がするけど」
「あれでも喋り足りないくらいよ」
「えぇ・・・」
駅のホームで電車を待っている間、遥とそんな会話をしていた。学校からの帰りは、函館からくる電車に乗るため、途中駅である五稜郭駅のホームで立って待っていないといけない。函館からくる上磯行きの電車は全て五番ホームに滑り込んでくるのだが、その待っている際、隣の六番ホームでは貨物列車や特急などがスピードを緩めることなく、ホームを駆け抜けていく。一応、「危ないのでお下がりください」というアナウンスは流れるのだが、どうにも危ない、すぐ横スレスレを通常速度で列車が通るのだから。
「ここのホーム、危ないよな。列車に体が少しでも当たったら、体ごと吹き飛ぶぞ」
「・・・」
遥がだんまりとしている。こいつが黙ってるとは珍しいが、まぁ聞こえてなかったのだろう。
「ねぇ、準貴」
「どした?」
「もしよ?仮にあんたが、なにか悩み事を抱えているときって、一番最初に誰に相談する?」
「唐突だな、まぁ俺の場合、親父は帰りが遅いから当てにならんし、母親はもう死んでるし、兄弟はいないし。そうだな・・・、悩みのレベルにもよるけど、きっと母親の仏壇に語りかけて終わりかな」
「そう、強いのね、あんたは」
「そうか? まぁもし本当にヤバくて、誰かに聞いてもらわないと死ぬってときは、友哉か信之助か、あるいはお前に聞いてもらうかな」
信之助、というのは小学校の頃からの同級生だ。野球部のときに仲良くなって、俺が途中でやめた今でも交流のある、というか連絡のつく親友の一人だ。高校に入ってからは少し疎遠になっているが、中学の頃の一番の親友と言ってもいいだろう。ちなみに彼のポジションは小学校の頃からずっと遊撃手ショートで、ピッチャーだった俺としては、試合中も、彼のプレイには何度と助けられている。いろんな意味で、信頼のおける友人の一人だ。
「そう、その友哉くんと、信之助の中に私がいることは、喜んでいいのかしら?」
もちろん、遥も信之助とは同級生だ。どのくらい交流があるのかは定かではないが、恐らくおしゃべりができるくらいの仲ではあるだろう。遥が呼び捨てで彼のことを呼ぶところあたりでそれは伝わってくる。
「喜ぶかどうかはお前次第なんじゃないか? まぁでも俺はお前と違ってあんまり話せる友達もいないからな」
「私も、そんな・・・、たくさんいるわけじゃないのよ」
「そうなのか? まぁ、そういったことを茶化さず、真面目に聞いてくれる人ってのは友人のなかのさらに一握りって感じなのか」
誰だって、楽しそうなことに興味を寄せ、苦しいことは避けて、見て見ぬふりをして、蓋をして過ごしていきたいと思うものだ。人間でなくても、そう思うはずである。誰だって好きで嫌な思いをしたいとは思うまい。
「ま、私がアンタを頼らないといけないことなんて、恐らく世界が破滅でもして、地球上にアンタと私しかいなくなったときくらいでしょうね」
「マジかよ。じゃあなんで、こんな質問したんだよ」
「ふふっ、気にしないで」
最後にはいつもの遥かに戻ったので、俺はこのときの遥を気にも留めようとはしなかった。
電車が五稜郭駅に到着し、いつも通りの風景を、いつも通り過ごした二人は、上磯駅に到着すると、それぞれの家に帰る、と言っても、遥の家と俺の家とはそれなりに近いので、当然家に着くまで、同じ通路で帰宅することになる。
「はぁ・・・」
「どうした?悩み事か?」
「いや、なんで帰りもあんたと一緒に帰ってるんだろうって。深刻な悩みでしょ?」
「失礼なやつだな。そうだ、帰りスーパー寄ってってもいいか?」
「別に構わないけど、私もお菓子でも買って帰ろうかしら」
「またなんか食べるのか、お前」
俺が彼女とおしゃべりをしながら、駐輪場に自転車を停めに行こうとすると、昨日の卵の女子高生が駐輪場から出て、ちょうど俺の横を通り過ぎて行った。恐らく買い物はもう終わったのだろう。見た感じ、昨日よりは少ないにしろ、それなりの買い物袋をぶら下げて、帰っていった。
「あれ、北高の生徒よね、三年生かしら?」
「多分な、俺、あの人と昨日もすれ違ったんだよな」
厳密には、少し会話もしたのだが、そこまで細かく伝える必要もないだろう。
「へぇ。あの人、なんていうか風紀の欠片もなかったわね。まぁ先輩たちは学校を出ればみんなあんなものなのかしら。あのスカート丈じゃ階段とかでパンツ見えちゃうじゃない」
「前からすっごく疑問なんだけど、スカートの丈ってそんな簡単に変えられるもんなのか?というか先輩方ってあれ、成長してスカートの丈が短くなってるとかじゃないよな?」
「当たり前じゃない。どれだけ脚伸びなきゃいけないのよ」
「じゃあどうやってスカートの長さって調節するの?」
「アンタ、そんなの知ってどうするのよ。女装でもするの?」
「単なる興味だよ」
「うーん、方法はいくつかあるんだけれど、普通に腕まくりの要領で、スカートを何回か折れば短くなるわ。でもそれだと限界があるから、ベルト使って高い位置で留めちゃうとか、履く位置を変えれば当然スカートの丈だって調節できるでしょ?ベルトだと、巻きすぎてダサくなることがないから結構使ってる人はいるわ」
「・・・、全然わからん」
「別に分かんなくてもいいのよ、さっきの先輩みたいな人だと、もしかしたらスカート自体を切っちゃう人もいるから、一概には言えないけど」
「スカートって難しいな」
「ちょっとしたオシャレよ。男子だって、腰パンしたり、ネクタイゆるくしたりするじゃない。それと同じよ。毎日ビシっと着ているアンタには分からないでしょうね」
そんなもん分かってたまるか、と思いつつ、遥はこういったことも馬鹿にせずきちんと教えてくれる。もう呆れられている、というのもあるのかもしれないが、そういった優しさは俺としてはありがたい。
「ホント、アンタっていいところ、顔だけよね。お父さんとお母さんに感謝しないと」
「・・・」
返す言葉もない。てかそれ今言う必要あった?
「俺ってそんな、いいところないか?」
「それを幼馴染に聞いちゃうあたり、もう終わってるわよ」
それもそうか。俺はスーパーでお菓子と、唐揚げに合いそうなでき合わせのおかずを買い、レジに並ぶ。遥はというと、買い物中、俺の買い物かごに自分の食べたいお菓子をポンポンと放り込んでくる。「立て替えておいて」とは言ってるものの、カゴのなか、もう既にお菓子だらけですよ、遥さん。
その後、俺たちは会計を済ませお店を出た。ちなみに俺は自転車だが、彼女は歩きなので、俺が自転車を押す形になる。なぜ自転車に乗らないのか以前、彼女に尋ねたところ、「行きはお母さんに駅まで送ってもられるから」とのことだった。俺は自転車に乗れば早いのに、わざわざ押して歩いているのだから、感謝してほしいものである。当人の遥を見てみると、なにか考え事をしているようだ。
「アンタのいいところね・・・」
「まだ考えてたのか、もういいって」
「ほんと、考えつかないわね」
もうこれ以上、俺の傷口をえぐるのはやめていただけないでしょうか。
「まぁ、えみりんが言ってたように、話せば悪い人じゃないって分かるんだけどね。アンタほかの人からすると、人見知りすぎて、どんな人かよく分からないのよ、きっと。それに人見知りを除いたとしても、アンタ、性格少し変わってるものね」
えみりんとは恐らく、小室さんのことだろう。こいつ、勝手にあだ名つけてるし。
「お前はいいよな、コミュ力高いし、友達いっぱいいるし、美人だし」
「・・・。こう、面と向かって、『美人』とか普通言わないからね」
「そうか?女子とかってよく『○○ちゃん可愛い』とか『○○先輩超カッコイイ』とか、言ってるだろ」
「それは意味が全然違うでしょ、ってか、そう言っておかなきゃマズいときだってあるのよ」
「めんどくせぇな」
「ほんと、女ってめんどくさいわよね・・・」
めんどくさいどころの騒ぎじゃないと思うが、同調するってことは、女性が生きていく上で大切なスキルなのかもしれない。俺が女子だったら(なんてことを考えたところで全く意味はないのだが)きっと周りと同調がとれずに、ぼっちどころか、いじめられているような気がする。男子の今でもちょっと危ういというのに。そんなことを考えながら家までの道のりを歩く。特に話すことがなかったので、長い沈黙が続いたのだが、遥が突然、ぼそっと口を開く。
「・・・、私、アンタの野球している姿は、嫌いじゃなかったけど」
「俺のいいところ探しは、もう終わりでいいって」
こいつもマメだな、と苦笑しつつ、適当に受け流す。過去のことを言ってたって仕方がないのだから。
遥の父が野球の指導者で、また、彼の兄が俺の野球部の先輩だったということもあり、俺が球場で彼女を目にするといったことは珍しいことではなかった。その影響からか、彼女が野球部のマネージャーをやる、というのは比較的自然な流れだったともいえる。どっちにしろ、俺が再びマウンドに上がるということは恐らくないだろう。
「マネージャー、楽しいか?」
俺としては、特に意図があったわけでなく、軽い気持ちで、思いつきで遥にこう尋ねたのだが、
「・・・」
しかし、何故か遥は歩みを止めて、その場で立ち止まってしまう。
「どした? 具合でも悪いのか?」
「いいえ、なんでもないわ。・・・マネージャーは正直辛いけど、いまが頑張りどきだから」
「そっか、一年生の今は一番大変な時期か。お疲れさん、頑張ってな」
「うん、ありがと」
その『ありがとう』は、今にも途切れそうで、あまりにも弱々しかった。




