第2節
~登場人物紹介~
道上 準貴:本作の主人公、高校一年生。イケメンだがオタク。
高橋 遥 :主人公の幼馴染。野球部マネージャー。
小室 江美:主人公の隣の席のクラスメイト。パソコン部。
喜田川 友哉:主人公の親友。黒縁メガネ。読み方は『ともや』
棚木 美月:準貴のクラスメイト。江美の親友。毒舌。唐揚げが好き。
学校から歩くこと五分、駅からほど近いマックに一行は到着する。外から見る限り、それなりに北高生で混み合ってはいるものの、ここの店舗、通称五駅マックは座席数が多いので、座れないということはまずないだろう。
店内に入ると、「ちょっとトイレ行ってくる」といって、先に友哉が店内奥へと進む。
「じゃあ俺が先に席取ってるわ」
「それなら、はい、カバン持って」
そういって遥が、あの重い野球部カバンをこちらに渡してきた。やれやれ、と思いながら俺も店内奥へと進む。女の子三人は、注文をするために、地味に混んでいる列の最後列に並んだ。俺はよさげの席を見つけ、適当に席同士をくっつけて五人座れるようにする。なんか文句を言われそうな気もするけれど、そのときはそのときか。と一人ぼんやりしていると、トイレから帰ってきた友哉が小声で話しかけてきた。
「おい、準貴。どういう風の吹き回しだよ」
「俺が聞きたい」
友哉がこう聞くのも無理はない。俺もなぜここにいるのか聞きたいくらいだ。ここまでの道のり、前方で女の子三人が楽しそうにおしゃべりしているのを後ろから二人で眺めながら、ついてきたのである。しかし、マックに来たのは実に久しぶりだ。家の近くにはこういったお店があまりない(なくはないが、少し不便なところにある)ので、この雰囲気には少しワクワクする。
「でも、俺久しぶりにマックに来たわ、何年ぶりくらいだろう」
「なんだよ、そんな珍しいもんじゃねぇだろマックなんて。でもここの食べ物って、ときどき無性に食べたくなるんだよな」
「ま、晩飯もあるし、軽くにするか」
「軽くって、どんくらい食べるのよ」
「まぁ、女性陣にもよるかな。だって、あいつらがセットとか頼んでるのに、俺だけポテトMサイズのみってわけにはいかないだろ?」
「そんな気遣わなくてもいいと思うけど、まぁ確かにな」
と友哉は少し苦笑いする。そうこうしているうちに、彼女らが注文した商品を持ってこちらに向かってきた。
「じゃ、俺らも行くか」
と言って席を立ち、レジへと向かう。そしてすれ違いざまにチラッと三人がどんなものを注文しているのかを確認する。
「なぁ、高橋さん、少なくとも三つはあったよな」
「うん、まぁこうなるとは思ってたけど」
確かに、三つあった。というのは当然ハンバーガーの数である、しかもポテトL付きで。
「今、午後の四時だよな」
「それ以上はもう言うな。倒されるぞ」
「倒されるって、マジかよ」
友哉が本気でビビッている。遥の奴、あぁ見えて結構食うからな。まぁスタイルもそこそこいいし、いって欲しいところに栄養が届いているのだろう。
レジに行くと、先ほ度に比べると、あまり混み合っていなかったので、すんなりと注文を受けることができた。
「あとの女の子二人は、まぁ普通だったな、少し安心したよ」
「で、結局なに頼むんだ?」
と友哉に聞かれたので、適当にセットとあと、ナゲットあたりを注文する。
「じゃ、俺はセットとシェイクで」
その後に友哉が注文を終えると、何故か友哉の方が先に出来上がる。
「先行ってるぞ」
「おう」
レジの前にいても邪魔なので、先に席に向かった。俺はというと、まぁナゲットがあるので、その分だろう、ちょっとだけ遅くに出来上がった。
「ってか、家に唐揚げの下準備したやつあったな」
と今更気が付く。今日の晩飯にしようと思っていたものだ。ナゲットも鶏肉だな、と少し後悔しつつ席に向かう。そして席に着くと、何故か手前側の椅子に遥一人、奥の備え付けの椅子に小室さん、棚木さん、友哉の順で座っている。なんだこの座席は、と疑問に思いつつ、普通に空いている遥の隣に腰を下ろすと、いきなり遥に横からど突かれる。
「アンタ、パソコン部入ったなら言いなさいよ」
「入ったの昨日だし、それにそういう話にならなかっただろ」
「ふんっ、まぁいいけど。どーせ、女の子ばっかりの部活に興味本位で顔突っ込んだんでしょ?」
そう遥が言うと、棚木さんが友哉のことを横目で見ながら追加で口添えする。
「ま、そこの男もそういう目的みたいだったし、別にいいんじゃない?」
そう言うと、何故か遥が諭したように、友哉に向かってフォローをする。
「大丈夫よ喜田川くん。準貴の場合、そもそも女の子が多いからって理由で北高の商業科選んでるからね。もうどうしよもないわよ」
もう否定するのも疲れてくる。
「それはそうと、喜田川くんって、今彼女いるの?」
「友哉でいいよ。中学の頃はいたんだけど、高校に入る前に別れたよ」
「喜田川のくせに生意気」
棚木さんが、少し棘のある口調で言う。というか遥もなぜいきなりそんなことを聞くのか、俺は不思議でたまらない。それに友哉もすんなり答えててびっくりする。俺が一人で狼狽えている中、友哉が話を続ける。
「ホントは同じ高校受験して、一緒に合格しよう、って言ってたんだけど、彼女、北高合格できなくてさ、それでなんか結局最後は喧嘩別れって感じ」
「で、その彼女がツイッターのあの、女の子か」
友哉のツイッターを覗くと、たまーに女の子とのツーショットなどがあったのだが、それは元彼女だったのか。というか、あっさりとそういう話を暴露しちゃうあたり、大人だなみんな。と思いながら俺はジュースをちびちびと吸いはじめる。
「へぇー、そうだったんだ。まぁ男子として、女の子と付き合いたいって思うのは至って普通だと私は思うけどね。準貴、あんたもうちょっとしっかりしなさいよ」
「こいつの場合、草食系どころか絶食系男子だもんな。一生女の子と付き合えないんじゃないかって、友達として少し不安なくらいだよ」
「うるせぇ」
だが、友哉の不安もごもっともだ。なぜなら、自分でも少し不安に思っているからである。ま、一生独身でも、なんとかやっていけるくらいのスキルは身に着けておかないとな、と思っていると、意外にも、小室さんが俺をフォローしてくれた。
「じゅ、道上くんは、ちょっと人見知りでシャイなだけだよ。私も席が隣で、最初は話しづらいなぁって思ってたんだけど、普通に話してみたら楽しい人だし、きっと近いうちにいい人が見つかるよ」
「そうだといいんだけど」
なんだろう、この人、やっぱり天使なのかもしれない。うっかりときめきそうになる。だが俺は俺でそんなに頭がパラダイスでもないので、普通に小室さんの対応力について評価をする。
「ま、それは小室さんが優しかったからね。あんな話しかけ方したら、誰でも『は、何こいつ?』ってなるところ、ちゃんと全部聞いててくれたし」
「ふふっ、さすがに最初は笑っちゃったけどね」
「あんた、どんな話し掛け方したのよ」
「それはもう、言葉に表せないくらい、その、ひどいもんだよ」
「はぁ・・・、本当に大丈夫なの?」
「そうだ、皆でツイッターのアカウント、交換しない?」
突然、何を言い出すかというと、友哉がそんな提案をしてきた。
「いいわね、これで準貴くんのお料理全集が見られるわ。(友哉を見ながら)あんたのアカウントはいらないから、速攻でブロックするわ」
「ひどいよ美月ちゃん」
友哉が悲痛な叫びをあげる。
これをきっかけに、皆がスマホを取り出し、それぞれのアカウントを交換する。と言っても、俺は遥と、友哉のはすでに知っているので、小室さんと、棚木さんのを交換するだけだ。そして、なんだかんだ、ちゃんと友哉と交換してあげている棚木さんを見ると、少し安心する。
「えっと、どうやってブロックするのかしら」
「ほんと、遠慮ないね、美月ちゃんって」
友哉もここまでくれば、さすがに苦笑いだ。ぼやーっとスマホのツイッターを眺めていると、棚木さんがとあることに気が付く。
「あれ、今日って五月八日よね」
「うん」
「友哉、あんた今日誕生日じゃない」
「えっそうなの? おめでとう友哉くん」
遥がびっくりしながら、言う。
「遥ちゃんこそ、昨日おめでた」
「ありがと、よく知ってたわね」
知ってたも何も、お前の場合、プロフィール欄におもいっきり書いているからな。ってか、俺の買ったケーキをツイッターに画像と一緒にあげるのはマジでやめろ。遥は、少し小室さんとかの謙虚なところを見習った方がいいぞ、ホント。しかもその画像、「買ってもらっちゃった(絵文字)」というコメントが付けられていて、俺に、とは書いてないものの、自分で買ってないということは傍から見れば一目瞭然だ。そうなると、「そのケーキ、誰に買ってもらったの?」と聞いてほしいと言わんばかりのコメントであるということに気が付く。何が目的なんだこいつ・・・。そんなことを思いながら、マックで個々がそれぞれのツイッターをスマホで眺めながら、棚木さんがふと、こんなことを口にする。
「へぇ、遥ちゃんのあのチョコレートケーキ、準貴くんからのプレゼントだったんだ」
「私はスナック菓子かなんかでいいって、言ったんだけど、準貴がどうしてもケーキをプレゼントさせてくれ、って言うから、仕方がなく受け取ってあげたの」
まぁ、間違いではないが、もう少し言い方があるだろう。
「お前、語弊を生む言い方はやめろよ」
「えっ、否定はしないってことは、そうだったんだ。やっぱり・・・」
ほら、向かいで小室さんが信じ込んじゃってる。その「やっぱり・・・」のあとの含みには一体なにを言おうとしていたのかが、容易に想像がつく。
その後も小一時間ほど、高校生的な他愛もない会話を繰り広げ、その日はおひらきとなった。自分たちは、すぐ隣の五稜郭駅から電車に乗るので、友哉を含む三人とは、その場でお別れをした。




