第3節
~登場人物紹介~
道上 準貴:本作の主人公、高校一年生。イケメンだがオタク。
高橋 遥 :主人公の幼馴染。野球部マネージャー。
小室 江美:主人公の隣の席のクラスメイト。
※この物語はフィクションであり実在の人物団体とは一切関係ありません
購買から戻り、やっとの思いで教室に入る。遥に去り際、「ま、頑張ってね」と応援される。なにを頑張れと言っているのか見当もつかないが、とりあえず自分の席である一番後ろの席にカバンを置く。既に、先ほど遥に話した隣の彼女は来てたみたいで、今はスマホをいじっている。
「勇気出して、名前くらい聞いてみるか」
ふと、こんなことを突拍子もなく思いついてしまう。そして遥が頑張れって言った意味をなんとなく理解する。遥も、仲が良いなら俺と彼女の仲を取り持つとかしてくれても良くない?そんな風に考えながら、彼は自分の席に着いた後、なんの前触れもなく横を向き、彼女に向かい
「お、おはよう」
と普通に挨拶をする。言われた側の彼女はというと、運よく気が付いてくれたはいいものの、「えっ、私に向かって今言ったの?」という具合にきょとんとしてる。うわ、死にたい(とは言っても、突然、突拍子もなく話しかけられたら、誰でもこうなるだろう)。なんか、絶対俺変な人だと思われてる。だが、「このままではまずい」と思い、もう一度、チャレンジしてみる。
「おはよう」
後半少し、後悔し、尻すぼみになってしまったが、彼女はやっと「あ、これは私に挨拶をしているんだ」と認識してくれたらしく、
「お、おはよう」
と不審がりながらも返してくれた。あぁ、なんていい人なんだ。もう俺これだけで満足なんで、今すぐここを立ち去りたいんだけど
「ええと、道上くん、だよね。前に一回、私に話しかけてくれたんだけど、覚えてる?」
なんと、彼女の方から話しかけてきてくれた。きっと女神かなんかに違いない。そう思いながら、以前に話した内容を思い出す。確か入学式当日に、俺が床に落ちたシャープペンを拾い上げ、隣の彼女に「これ君の?」と聞いたところ、「違うけど・・・」と答えられてしまった、そんなやりとりだった気がする。思い出しただけで死にたくなってくる。ちなみにペンはそのまま教卓の上に置いておいたはずだ。
「話したというか、話しかけたというか。よく覚えてたね」
「うん。そのことでずっと謝ろうと思ってて。あのとき私、冷たい返事だったよね」
「いやまぁ、自分のペンじゃなかったんだし、違うものは違うからね。冷たいだなんて、そんな」
「あのとき私、ちょっと緊張してたみたいで。ほんとごめんなさい」
「大丈夫、気にしないで」
本当はちょっと気にしていたことは秘密にしよう。彼女にも色々事情があったのだ。
「えっと、そうだね。今も突然声かけられてびっくりしちゃった」
「こっちこそ突然ごめんね、いきなりどうした! って感じだよね」
「そんなこと、ないけど。ごめん、ちょっとおかしかったかな」
少し微笑みながら、彼女は思ったことを口に出したようだ。やっぱり、まぁ彼女の言う通りなので返す言葉もない。俺がぼりぼりと頭をかいていると、ふふっ、と彼女が笑い出した。
「ごめんなさい、想像していたのと、あまりにも違う人だったから、ついおかしくて」
「さすがに笑いすぎじゃない?俺、傷ついちゃうよ?」
「ごめんなさい。えっと、そういえば道上くんって、下の名前、なんていうの?」
「道上準貴だよ、俺の方こそ、名前・・・、」
といったところで、はじめて彼女は自分の名前を相手に教えてないことに気が付く。
「えっと、小室江美です。江差の『江』に美しいで、江美です」
と、自己紹介をしてくれたところで、彼女はなにかツボにハマったらしく、また笑い出してしまう。
「道上君、名前も知らない女の子に、『おはよう』って、ハハハハハ」
「ひどい」
女神かと思っていたら、さすがにそれはなかったようだ。これはただの普通の女子高生だ。ものの数分で男子高校生の幻想は破壊されてしまったのだが、自分の責任、自業自得というやつだ。
「ごめんなさい、私ね、道上くんがよく高橋さんと話しながら学校に来ているのを見て、あの人は私と全然違うタイプの人だって勝手に思ってたみたいで」
「あいつとは乗る電車が一緒でさ、まぁ幼馴染ではあるんだけど。だから学校まで一緒に歩いてきてるんだよね」
確かに、小室さんの言う通り、遥は見た目通り、おしゃべりも上手で誰とも難なくコミュニケーションがとれる方だ。だが彼女と一緒に登校している男子もまた、おしゃべりがうまいとは限らない。というか俺の場合、人見知りというか、初対面の人に話しかけるのが極端に苦手って感じか。
「そうなんだ。前、高橋さん、道上君からケーキ貰ったー、って言ってたから、一体どんな関係なのかと思って、不思議だったんだ」
「・・・それって昨日だよね? 昨日あいつの誕生でさ、だから購買でケーキ買って一応それが誕生日プレゼントってことだったんだけど」
「そうだったんだ。てっきり貢物かなんかなのかなぁって」
「俺らって、皆からどんな風に思われているのか、少し不安になってきたよ」
甚だ疑問に思っていると、彼女がさらっと
「えっと、私のイメージだと、女王様と召使いって感じだね」
と普通に思ってたであろうことを口にする。
「・・・」
百歩譲って、カップルみたい、と言われるのならまだわかるが、そうとも思われていなかったらしい。でもさすがに小室さんも言い過ぎたと思ったのか、慌てて言葉を付け加える。
「いや、でも二人とも、とっても仲良いよね!」
「それって、喜んでいいのかな?」
そう小室さんに尋ねると、愛想笑いをされてしまった。俺、もしかしてこの学級では、遥の召使いどころか、奴隷程度にしか思われてないのかもしれない。
「ま、遥のことはともかく、突然話しかけてごめんね」
「ううん、私も入学式のこと謝りたかったけど、全然話しかけられなくて。でもよかった、道上君、思ったより意外と普通の人だった」
「そりゃどうもありがとうございます」
少し皮肉っぽく言ってみたのだが、あまり彼女には効果がなかったらしい。こちらを向いて微笑んでいる。彼女は大人しそうに見えて意外と思ったことは口に出すタイプの人なのかもしれない。しかしながら、一次接触は最悪だったものの、思いのほかきちんとコミュニケーションがとれて少し安心する。内容的には見るも無残な感じではあったが。
彼女との会話を一旦中断し、教科書を取りにロッカーへ向かう。目的の教科書を探していると、友哉が怪訝そうな顔で話しかけてきた。
「お前、今日大丈夫か?」
「おう、友哉。なんだよ突然」
「いやだって、お前が隣の女子と話してるだなんて、大地震が起きるくらい有り得ないだろ。それにお前が他の女子と話すと、遥ちゃんが嫉妬するんじゃないのか」
「お前こそ、頭大丈夫か?」
しかしながら、彼がこういうのも無理はない。俺の方こそ、初めて遥以外の女の子と話したのだから。しかし、人というのは、きっかけさえあれば、意外と何でもできてしまう生き物なのかもしれない。女の子と普通に話すことだって、きっかけさえあれば、意外と普通にこなせるものである。それとあと、勢いや思いつきも大事だということを改めて思い知らされた気がする。
「お前、もしかして、小室さん狙ってたりするの?」
「そういうのじゃないよ。たださすがに、隣の席の人とも話せないって、人間的にまずいかなってふと思ったんだよ」
「お前にも、その手の危機感は一応あったんだな、少し安心したぜ」
「お前、心配したり、安心したり、大変なやつだな」
「誰の心配してやってると思ってんだよ」
別に頼んだ覚えはないのだが、俺はこれで一皮、人間として成長したんだと思う。他の人が難なくこなせることも、俺には難しく感じることだってある。たとえば、こう初対面の人と話すだとか。皆すごいよね、もうコミュニケーション検定有段者なんじゃない?
俺は友哉に「ありがとさん」と適当に返事をしつつ、教科書を持って席に帰る。隣の席では小室さんが友達と仲良く話している。ま、もう今日は頑張ったし、あとはゆっくりしよう、そう思い、少し早めの朝読書を開始する。




