第5話 私と同じ学校通おうよ!
音楽番組が終わった。
「テレビを見るなら外より家で過ごした方がいいな」
「当然でしょ!」
「ああ、当然だな」
アイサはそう返してきた。
毎回このように返してくる。
癖なのだろうか。
「そういえば学校とか行ってないの?」
「学校か。行った事ないな」
もしかして、高校だけでなく、小学校や中学校も行ってないのだろうか。
不登校とか、退学とかではなく、そもそも入学すらしていないのかもしれない。
「そうなの? 私明日も平日だから学校あるんだけど、アイサはどうする?」
「私のことは気にしなくていいさ。また歩いてどこかへ向かうよ」
何ともないようにアイサはそう言ったが、それでいいのだろうか。
アイサから悲しさや、寂しさのようなものは感じない。
ただ、私は違う。可哀想だと思ってしまう。
勝手にこんなこと思うこと自体が失礼かもしれないが、そう思った。
「お願いあるんだけどさ」
「なんだ?」
「アイサも私と同じ学校通おうよ!」
何だか恥ずかしい気持ちもあったが、勇気を出してそう言った。
「私、通えるのか?」
私と違いアイサの感情は揺らいでいるようには見えなかった。
ただそこに疑問があるだけだ。
「私のお父さんそこの理事長とかなり仲良いからさ! 多分いけるよ!」
私が通っている高校は私立の名門校で入る方法は3つあった。
1つ目は試験、これは一般的な学力で入る方法。
2つ目は推薦、学業やスポーツで優秀な成績を収めてきた者が面接のみで入る事ができる。
3つ目はコネだ。学内で力を持つ者と親しい関係の者はこれで入る事ができる。
私は1つ目の一般入試で入学した。香恋は2つ目の推薦であった。
彼女はスポーツも勉強も優秀で校内1の天才であった。
アイサは3つ目で入学できるだろう。
「私にはあまり分からないが、それってズルではないのか?」
「まあ、そう言われればそうだよね」
運も実力の内というが、コネが実力だとは思わない。
私も実力で入ったためあまり好きではないが、それを考慮したとしてもアイサはコネで入れてあげたい。
勝手な想像でしかないが、彼女の人生は壮絶なものだろう。
少しくらいズルしたって誰も文句を言えるはずがない。
「まあズルしたっていいじゃん! 私と同じ高校行きたいでしょ?」
「確かに新たな発見がある可能性もあるからな、ズルしてみるか」
「よし決定! お父さん帰ってきたら話してみるよ!」
そう言うと同時に玄関のドアが開く音がした。
「ただいま〜」
「あ、噂をすればお父さん帰ってきた! 一緒に来て!」
「分かった」
アイサを連れてお父さんの元へ向かった。
「おかえりお父さん!」
「ただいま莉亜羅! お、その子が友達の!」
「初めまして、アイサと申します」
「アイサちゃんか! 莉亜羅と仲良くしてやってくれ!」
「そういえば、お父さんに話したいことが——」
アイサは別の高校の子で、いじめに遭ったことによって不登校になり学校に行けてないと嘘をつき、私と同じ学校へ行けるよう理事長に頼んで欲しいとお願いした。
「そっか、それは大変だったね。お父さんが責任持って伝えておくよ! 任せて!」
「ありがとう!」
受け入れてもらえて良かった。
嘘をついてしまったのは申し訳ないが、今日出会った謎の少女だなんて言うことはできない。
そんな少女を家に泊め、同じ学校に入れようとするなんて私は変わり者なのかもしれない。
出会って1日も経っていないが、アイサはそれほど魅力があったのだ。
私の部屋に戻った。
「良かったねアイサ!」
「まだ理事長に認められた訳ではないがな」
「まあ確かにね!」
アイサはいつでも冷静だった。
興奮したり喜んだりはせず、ただ事実と現状のみを咀嚼しているように感じた。
「莉亜羅何か気がかりな事があるのか?」
「え?」
「感情は分からないが、経験上分かるんだ。喫茶店で出会った時と家に着いてからとでは何だか雰囲気が違うんだ」
私の無意識下の感情をアイサは分かっていたのかもしれない。
考えないようにしていたが、通知音が鳴る度に香恋のことを考えていた。
「実はさ、パンケーキ屋さんにいた時の友達が様子がおかしくってさ。アイサの前で酷い事言ったりしてたよね、ごめん。けど、悪い子じゃないの」
「何か言ってたのか。気づかなかったよ」
あれ、私が余計なこと言っちゃったかな。
「まあ、莉亜羅はその子の事が心配なんだな?」
「うん。連絡くれてもいいのに」
「これがいわゆる恋ってやつか?」
「え?! 違う違う! 恋じゃないよ!」
「じゃあ何なのだ?」
何っていきなり言われても、どう表すのが適切だろうか。
「ん〜、友情? 友愛? 分からないけど友達とは仲良くいたいじゃん?」
「友達か。私にそう言えるような人がいただろうか」
「そんな悲しいこと言わないの! 私はもう友達だよ!」
「そうなのか?」
「友達じゃなきゃ泊めないし、学校に入れようともしないよ!」
全て本音だ。アイサとの隔たりを無くしていきたかった。
「友達か、何だか変な感覚だな」
アイサの頬が色づいているように見えた。
「もしかして嬉しいの?」
「分からない。けど今までとは違った感覚だ」
「とりあえず、分からなくても嬉しいって言ってみてよ!」
「友達になれて嬉しいよ」
私が勘違いしただけかもしれない。
私がそう言わせただけかもしれない。
それでもお互いに良い方向へ進んでいる気がした。
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