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恋して動く君の時間  作者: 茉莉レイ


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第4話 感情と情報のギブ&テイク

「え、アイサ凄い上手!」


「本当か? それなら良かったよ」


 包丁の扱いが上手く、全ての野菜が均等に切られていた。


「前の家でも料理とかしてたの?」

 

「前の家は毎日出前というものを頼んでいたぞ」


「そうなの? それはそれでお金持ちだね」


 残念ながら私はそこまでお金に余裕がある訳ではないため、簡単に出前を頼むことができない。


「じゃあその、おばあという方の所でしか料理してないの?」


「そういえば前の前の家では料理はしてたな」


 前の前って、どれだけの家を転々としているんだこの子。

 この子の人生にすごく興味がある。

 しかし、簡単な話ではないだろうから深入りしづらい。

 出会ってすぐに聞ける話ではないだろう。


 そんな事を考えていたが、それだとまるでこれから仲良くなり、いつか聞くみたいではないか。

 

「色々と経験してきてるんだね」


「まあ経験と呼べるかは分からないが色々としてきたな」


 包丁の手が止まり考え事をしているようだった。

 過去の思い出でも頭に浮かべているのだろうか。

 

「凄いね!」


 何をしてきたかまでは聞かず、ただそう答えた。


「じゃあ、切ったのそこにまとめて入れちゃって!」


「分かった」


 ご飯が炊き上がるまでまだ50分もあるため、一度カットした野菜をまとめて冷蔵庫に入れた。



「お! そろそろご飯炊けるよ!」


「そうか。じゃあ野菜炒めを作ろう」


「うん!」


 私は冷蔵庫から野菜と豚肉の細切れを出し、調味料を合わせた。

 待っている間ネットで調べたため調合は完璧だ。


「炒めるのもできるの?」


「任せてくれ」


 そう言うとアイサはフライパンに肉を入れ炒めていき、肉の色が変わってきた頃に野菜を入れ、最後に調味料を入れた。

 アイサのフライパン捌きは完璧だった。

 手元だけなら中華のプロだろう。


「どうだ、こんなのでいいか?」


 私に味見させてくれた。


「んっ〜! 美味しい! 完璧だよ!」


「はっ、そうか。良かったよ」


 今まで笑った顔を見た事がなかったが、若干口角が上がっているように感じた。

 この子は感情がない訳ではない。感情表現が苦手なんだろう。

 私はそう思った。



「あ〜美味しかったね!」


「そうだな。悪くはなかった」


「何それ!」


 アイサの口調が面白く笑ってしまった。

 ウケを狙った訳ではないだろうが、それがまた面白く感じた。


 晩御飯を食べ終わったとほぼ同時にお母さんが帰宅した。


「ただいま〜」


「おかえり〜」


「その子が例の子?」

 

「そう! アイサって言うの!」


「初めまして、アイサと申します」


「凄い礼儀正しい子ね! 莉亜羅も見習いなさい?」


「もう、お母さんったら!」


 お母さんの冗談混じりの言葉に私は笑って返した。


「じゃあ、洗い物するね」


「いいのいいの! アイサちゃんと部屋でゆっくり遊んでなさい!」


「じゃ〜お言葉に甘えて!」


 

「初めまして、アイサと申しますって良かったよ! お母さんに好印象だね!」


 部屋に戻った後私はそう言った。


「何も意識的にした訳ではないのだがね」


「それでいいんだよ! それがいい!」


「そうか。というか君の名前は莉亜羅と言うのか」


 そうだった。名前を聞いただけで、私の名前は教えていなかった。


「あちゃ〜そういえば自己紹介まだだったね! 私は見上莉亜羅17歳だよ! 好きなように呼んでね」


「いい名前だな。私が今まで出会ってきた人達の中にはいなかった名前だ」


「本当! じゃあ覚えてくれる?」


「そこまで意識せずとも名前を覚えることは可能だよ」


「え、すっご! それ天才だよ! 才能だよ!」


「そうなのか? 才能とか言われてもよく分からないが」


 本当に謎に満ちてて面白い。

 いつか全部を知り尽くしたい。アイサの全てを。


「本当に話してて楽しいよ! 今までで一番だよ!」


「楽しい、か。私が知っている感情は退屈だけで、楽しいというものが分からない。楽しいなのかもしれないが、それをそれとして認識できてないだけかもしれない」


 最後の方は難しく何が何だか分からなかったが、きっと楽しい何かをした事がないという意味だろう。


「今私といるのも退屈?」


「確かに昨日まで退屈と思える事が多くあった。今はそこまで感じない」


「楽しい?」


「それは分からない。退屈でないことと、楽しいことは同じではないのだろ?」


 え、そうなの?

 退屈じゃないイコール楽しいだと思っていた私は浅はかなの?


 私は心の中でそう思った。


「まあ、とにかく! これからいっぱい楽しいを教えてあげるからさ! アイサの事をもっと教えてよ!」


「楽しいを教えるか。それはいいな。退屈でなくなるんだろ?」


「そうだよ! その代わりアイサも教えるんだよ!!」


「まあ教えても良い。ただ——」


 アイサは言葉を止めた。


「ただ?」


 そして私が再び言葉を引き出した。


「ただあまり人間が聞いて処理できるものではないだろう」


「何それ、それじゃあまるで、アイサは人間じゃないみたいだよ?」


「どうだろうな。そうだ、テレビを見せてくれないか。いつも見ているやつがあるんだ」


 話をぼかされてしまった。

 話したくないこともあるのだろう。詰め過ぎも良くない。


「え、どんなの?」


「音楽番組で、前のから今の曲まで色々と流してるやつだ」


「あ〜あれね! ちょっと待って」


 私はリモコンを手に取り、ボタンを押した。


「そうこれだ。助かるよ」

 

「音楽好きなんだね!」


「曲を聴くと色々と思い出せて退屈さが無くなるんだ」

 

 アイサはそう言いながらテレビを見ていた。

 そこで流れている曲は昭和の頃の曲だろう。私は知らない。


 しかし、それを一生懸命アイサは聴いているように見えた。

 きっと思い出の曲なのだろう。


「いい曲だね」


「この曲は昔住ませてくれていた人が聴いていた曲なんだ」


「そうなんだ! その人もこれ見てるといいね」


「——そうだな。見てるといいな」


 アイサはそう言った。

 はっきりとは分からないが、横から見える表情は少し寂しさを纏っているように感じた。

読んでいただきありがとうございます! 


ぜひ、面白い、先を読んでみたいと思っていただけましたら、リアクション、ブックマーク、コメント等していただけると励みになります!

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