第10話 今まで無かった新しい感情
涙は流れてないが悲しそうな表情だった。
「香恋……?」
「どうして言ってくれなかったの」
香恋は無表情で冷たくそう言った。
言ってくれなかったというのはどれについてだろうか。
アイサが入ってくること、私と友達になったこと、一緒に住むことになったこと。
考えれば考えるほど出てきてしまう。
「アイサと私が友達になったということ?」
私は最も無難で安全である回答を選択した。
「それもそうだし、他のも」
「他のこともそこまで深い意味はないからね!」
私は必死に伝えた。私の回答1つで香恋との関係にヒビが入ってしまう。
「ただの友達?」
「ごく普通の友達だよ! 家に泊めてるのは、何というか、あの子の家庭環境が良くなくて!」
「家庭環境?」
「あの子親いなくて、住む家なくて転々としてるの!」
親がいないかは分からなかったが、誤魔化すためにそう言った。
「それって莉亜羅がすることなの? 施設とかじゃない? 普通」
確かに香恋の言う通りだった。
普通の子なら私も施設に届けただろう。
けどアイサは違う。何となくだけど違うと思ったから私はそうしたのだ。
「あの子が抱えている事情もあるしさ。後なんかほっとけなくて」
「そっか、何か莉亜羅らしいね!」
今までの暗い雰囲気が吹き飛ぶような笑顔を香恋は見せた。
一体どんな心変わりだろうか。
香恋のあの暗さはきっと、嫉妬心から来てるものだと思う。
ということは、私とアイサはただの友達だと分かってくれたのだろうか。
「ありがとう! プール楽しみだね!」
「うん! 楽しみだよ!」
楽しい気持ちで終わらせるために私はそう言い、1時間目の授業の準備をするために自席へ戻った。
午前の授業が終わり昼休みになった。
「ん〜どうしよう……」
いつも香恋とお昼2人で食べていたが、今日はアイサもいる。
当然初めての高校で、どこに何があるかとか、どうすればいいかとか分からないだろうから付き添ってあげたい。
けど、そうなると香恋とアイサと3人で行動しなければならない。
そう頭を悩ませていると香恋が来た。
「どうしたの? お昼行こ?」
「あ、うん!」
「じゃあ、アイサちゃん呼びに行こ!」
私は驚いた。
香恋はアイサを認め、友達になろうとしてくれているんだろうか。
それなら私としても助かる。
「うん! 3人で食べよ!」
私はそう言いアイサの元へ向かった。
「アイサ〜! ご飯食べに行こ!」
肩を叩くと、アイサは振り向いた。
「どうしたのアイサ!」
アイサはげっそりと疲れたような表情をしていた。
「高校というものが、ここまで退屈だとは、思わなかったんだよ……」
初めての高校で、初めての授業できっとつまんなかったのだろう。
全て座学で、内容も難しいため仕方ない。
「まあ初日だしそんなもんだよ! 楽しいこともあるからさ! ね!」
「ああ、そうだな。お、君はあの時の」
「そうそう! 香恋も自己紹介して!」
「日比野香恋だよ。よろしくね、アイサちゃん」
「香恋か。いい名前だな」
「え?! あ、ありがとう」
アイサの突然の褒め言葉に香恋は驚き照れていたようだった。
本当にアイサって人たらしなとこあるよなと私は思った。
「じゃあ、仲良くなったことだし学食行こっか!」
「べ、別に仲良くなんて……」
「なんか言った?」
香恋の言葉をわざと聞こえないふりをした。
きっと今はまだ仲良い関係性ではないだろう。
けどいずれそうなってくれればいいなと思った。
「何でもない……」
「じゃあ行こっか!」
私はそう言い3人と共に学食へ向かった。
「今日結構混んでるね」
いつもより少し遅かったためなのか、券売機には列ができていた。
「ここには凄い人がいるんだな」
「学食はみんなに人気なんだよね! 安くて美味しいの!」
「そうなんだな」
アイサは初めてみたのか、周りを見渡していた。
「莉亜羅みて今日のおすすめ!」
「ビーフシチューオムライス! あれ美味しそうだね!」
「私あれにする!」
「じゃあ、私も!」
私も香恋と同じものにした。
「アイサはどうする?」
「私はうどんにするよ」
「うどんなら、ここ押して!」
券売機の使い方を教えてあげた。
「便利な時代だな」
便利な時代って、最近主流になってきてるけどそういう店行ったことないのかな?
「確かに便利だね!」
お昼ご飯を食べ終え午後の授業を受けに戻った。
午後の授業は情報と音楽の時間で、あっという間に終わった。
帰りのホームルームを終えた後、3人で集まった。
「じゃあ帰ろっか!」
「そうだな、帰ろう」
私とアイサがそう言った後に、香恋が口を開いた。
「ねえ」
「ん?」
「私も今日泊まりに行っていい?」
想定外の質問だった。
アイサを泊めてる以上、断ることは出来ない。
「うん、いいよ!」
「やった! 一旦家帰った後、着替えとか用意して向かうね!」
「分かった!」
そう話した後、駅へ向かいそこで別れた。
「今日は3人でお泊まりだね」
「そうだな」
「楽しみ?」
「少しな」
アイサは単調にそう返しただけではあったが、私はそれが嬉しかった。
分からないとしか言わなかったアイサはもういないのかもしれない。
「徐々に分かってきた?」
「うまく言い表せないが、今までと違う感覚なんだ」
「どんな風に?」
「何というか、胸の内側が熱を持つように感じるんだ」
それは私が思う楽しみとは違うもののようだった。
何のことだろうか。
「それは、楽しみとかではないと思うんだけど、どんなこと考えるとそうなるの?」
「3人で泊まるということを聞いた時に」
「ん〜そっか、何だろうね」
今の私にはその感情が何なのか分からなかった。
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