第9話 話し過ぎの自己紹介
「じゃあ明日の学校に備えてもう寝よっか」
「分かった」
いつもより少し早めに寝ることにした。
「アイサおはよ〜! 朝だよ〜!」
「おはよう莉亜羅」
「今日から高校デビューだけどどう? 楽しみ?」
「楽しみかは分からないが、未体験の行事だからな、きっと退屈では無いのだろう」
アイサはいつも通りだった。
「そういえば学年とかクラスとか聞いた?」
「ああ、それのことだが莉亜羅と同じクラスにしてもらったよ」
「え! それ出来るんだ! じゃあ、今日からクラスメイトだね!」
「確かにそうだな」
「こういう時はね、こういう顔してこう言うの。嬉しい! って」
私は口角を上げながら、自分ができる満面の笑みを見せてそう言った。
「こうか? う、嬉しぃ、!」
「そうそう! そんな感じ!」
分からないながらも頑張ってまねてくれた。
「嬉しいって言うのはね、望みが叶った時とか、誰かと何かを成し遂げた時、そして大切な人を笑顔にできた時とかに出る感情なんだよ」
「なるほどな。勉強になるよ」
アイサは熱心に感情について理解しようとしてくれていた。
きっと何もかもが分からないわけではない。不器用なだけなんだ。
そんなことを考えていると、お父さんの声がした。
「莉亜羅〜、アイサちゃん〜、学校遅れないようにな〜!」
「は〜い!」
もうお父さんが家を出る時間だった。
「じゃあ私達も朝ごはん食べて学校行こ!」
「そうしよう」
朝食を食べた後、準備を済ませ学校へ向かった。
「アイサは転校生としてくる訳だから今日は私と同じように行く訳じゃないよね?」
「ああ、まずはまた理事長室に行って、その後担任と会うらしい」
「自己紹介とか緊張すると思うけど、頑張ってね!」
「緊張が分からないが、頑張るよ」
私とアイサは駅から学校までの道を、そう会話しながら歩いた。
「じゃあ私は教室向かうからまた後でね!」
「ああ、また後で」
学校に着き2人は別々の方向へ向かった。
教室に着いたがいつもより少し早めに来たためあまり人がいなかった。
「おはよ〜香恋!」
「おはよ! 今日は早いね?」
「まあ、たまには!」
香恋に莉亜羅の事を話そうとしたが、パンケーキ屋前での事を思い出しやめた。
というかもしかしたら香恋、アイサの事が嫌いなのかも。
私は急に焦ってきた。
開幕早々喧嘩でもされたらどうしよう。
まあ、喧嘩と言ってもアイサからは何もしないだろうが。
「今度2人で一緒に出かけない?!」
あらかじめ香恋の機嫌をとっておこうとそう提案した。
「いいね! どこ行く?」
「プールか海とかは?」
夏休み中は暑過ぎたため、終わった後に行こうと考えていた。
「海は怖いからプール行きたい!」
「じゃあ決定だね!」
プールへ行くことになった。
香恋はいつも通り、ニコニコと可愛い笑顔を見せ、機嫌が良かった。
もうあんな怖い香恋を見たくない。
そんな事を考えていると次々と教室に人が入ってきた。
そろそろ朝のホームルームが始まるだろう。
と言うことはアイサもここに来る。
楽しみな気持ちと不安な気持ちが混ざり合っていた。
生徒達の後先生が入ってきた。
「皆さんおはようございます。今日なんですけど、なんと転校生が来てます!」
「え! 転校生?」
「お前知ってたか?」
「いや今聞いたよ」
先生の突然の言葉にクラス中がざわめいていた。
私は香恋の方を見た。
どんな表情をしているのだろうか。
周りの子達と話しているようで何ともないようだった。
このクラスで誰が来るか知っているのは私だけだろう。
「じゃあ、入って〜!」
先生がそう言うとクラスのみんなは静かになった。
教室に入ってきたのは水色の目をした黒髪の少女アイサだ。
それが誰か知っている生徒は、私と香恋だけだろう。
私はもう一度香恋の方を見た。
「え?」
私は思わず小さく声が漏れてしまった。
香恋は机に肘をつき、両手で顔を覆っていた。
その隙間から見えたのは目に涙を溜め込んだ香恋の悲しい顔だった。
どうしよう。やっぱりアイサが原因だったんだ。
この複雑な感情は何なのだろうか。今までの経験で処理しきれない。
「じゃあ自己紹介してみて!」
私の思考とは関係なしに先生はそう言った。
「私はアイサと言う名前だ。皆さんよろしく」
「なんか硬い自己紹介だな? 緊張してるのかな?」
「けどめっちゃ可愛くないか? 目綺麗だし」
男子達が小さな声で会話しているのが聞こえた。
アイサの口調の不自然さを容姿がかき消してるように思えた。
「あ、それと私と莉亜羅は友達で、一緒に住んでいる仲だ」
「へ?!」
いきなり私の名前を出され驚いた。
クラスメイト達に聞かれるのは構わないが、香恋の耳に入るのだけは避けたかった。
もう振り向くことすらできない。
悲しさか怒りかは分からないが、刺さるような圧を感じた。
きっと香恋からだ。
「見上さんあの子と知り合いなの?」
隣の田中さんが聞いてきた。
「え! あ、うん! 友達だよ!」
私の頭の中は混乱して、ただそう返すしかなかった。
「一緒に住んでるって言ったよな?」
「もしかして付き合ってるとか?」
後ろの方から男子達が小さな声でそう話すのが聞こえた。
聞こえてるよ全部……
「はい! そういう訳でアイサさんとみんなも仲良くするように!」
騒がしくなってきた生徒達を制御するかのように、先生はまとめ上げた。
ホームルーム後はみんながアイサの元へ行っていた。
私だけは香恋の元へ向かった。
「はあ、なんて話そう……」
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