57 結界装置作りと勉強会
神殿見学を終えて外に出ると、すっかり夜になっていた。
その夜は、皆で一つ屋根の下で眠ったのだった。
次の日、俺は久しぶりに忙しく働くことにした。
結界装置の子機を作って結界の範囲を広げて、土壌改良魔法陣を拡張しようと思ったのだ。
『魔導具をつくるわん?』
『手伝うわん?』
魔導具を作ろうと道具を出しているとコボルトたちが集まってきた。
ちなみにモラクスとペロは子供たちと遊んでいる。
「大丈夫、ありがとう。コボルトたちが金属インゴットを作ってくれたから作業が進むよ」
『よかったわん!』
コボルトたちは炉を作っただけでなく、金属の精錬も進めてくれていたのだ。
「みんなのおかげで金属を使って色々とできるから本当に助かるよ。ありがとう」
『ほめられたわん!』『うれしいわん!』
俺はコボルトたちを褒めて撫でまくる。
そうしていると、天才魔導具師であるカトリーヌがやってきた。
「私も見学させていただいてもよろしいですか?」
「もちろんだ。何か気づいたことがあったら言ってくれ」
カトリーヌならば、もっと効率的な作り方や改善点を思いつくかもしれない。
「まずは子機の中身から作っていくよ」
『すごいわんねー』
見学者がいるので、ゆっくり作る。
「なるほど、護符の神力をつなげるだけではなく、増幅させるのですね」
「そのとおり。ただつなげるだけだと、減衰しちゃうからね」
子機で中継させるたびに、護符の力を増幅させることで、結界範囲の拡張が可能になるのだ。
「どうかな? 作れそう?」
一つ作った後に俺が尋ねると、カトリーヌは真剣な表情で言う。
「難しいですが、恐らく可能です」
「さすが天才。師匠が認めただけのことはあるな」
見学しただけで、作れるようになるほど理解できたのだ。
魔導具のあらゆる理論が頭に入っていないと難しい。
『むずかしそうだわんね?』
「コボルトは器用だから、魔導具もつくれるんじゃないか?」
もし作れるなら俺の作業も大分楽になる。
『うーむ。むずかしいわんね?』『ぼくたち、精霊だわんし』
『魔法はつかえるわんけど……魔力回路とかさっぱりだわん』
「そんなものなのか。不思議だねー」
『不思議だわん!』
コボルトたちは建物や椅子や机、炉を作る事ができるが魔導具を作ることはできないらしい。
「じゃあ、この部分は作れそう?」
子機の外装部分を指さして尋ねる。
外装部分自体は魔導具ではない。魔導具の回路を覆って保護するためのものだ。
『そこなら作れるわん』『みててわん』
そう言って、コボルトはあっという間に作って見せた。
「すごいな。さすが手先が器用な大地の精霊だね」
『えへへ、ほめられたわん』
褒めて撫でながら、コボルトたちの作業を見てわかったことを整理する。
「コボルトたちは魔法を使って作るんだね」
『精霊だわんからねー』『特別な魔法だわん』
外から拠点を見たときに魔樹が生い茂っているように見える魔法も、特別な魔法だ。
「特別な魔法だから、魔導具を作れないのかもしれないね」
俺が魔導具作りに魔法を使うときは、行程を細分化して作っていく。
だが、コボルトたちは全体を一気に作っていくようだ。
まるで「そうあれかし」と思うと、その通りになるといった感じだ。
リラが精霊は神の力の擬獣化と言っていたことも、何となくわかる気がした。
「じゃあ、コボルトたち。これを六十個ぐらい作ってくれる?」
『まかせるわんね!』『たのしそうだわん!』
「では私は中身を作ってみますね」
「頼む。失敗してもいいし、わからないところがあったら言ってくれ」
「はい」
外装部分をコボルトたちに任せると、俺は子機の中身をどんどん作っていった。
カトリーヌも真剣な表情で、丁寧に子機の中身を作っていく。
「できました! 兄弟子。確認お願いします」
「ほいほい。…………さすが、カトリーヌ。見ただけで作り上げるとは」
魔導具作りを一度見ただけで再現するというのは、俺でもかなり難しいと思う。
「兄弟子が横で作られていたので、わからないときは参考にさせていただきましたし」
「それでも凄いよ」
「それにしても兄弟子はさすがの速さですね」
「慣れてるからね。カトリーヌなら、すぐにこのぐらいはできるようになるだろ」
カトリーヌが一個作った間に、俺は五十九個作っていた。
『そとがわできたよ!』『ほめてわん!』
「コボルトたちも早いな。えらいえらい」「えらいです」
俺とカトリーヌに褒めて撫でられて、コボルトたちは大喜びだ。
「じゃあ、組み立てていこうか」
『組み立てはとくいだわん!』『まかせるわんね!』
コボルトたちは魔導具の中身は作れなくとも、外側作りと組み立ては得意なようだ。
あっという間に組み立てていく。
「コボルトたち、手際が良いなぁ」
「さすがです」
『えへえへへわん』
コボルトたちのことを褒めて撫でる。
コボルトたちは精霊だが犬っぽいので、その都度手を抜かずに褒めてあげることが大切なのだ。
「さて、子機を配置しに行こう」
「はい」『てつだうわん!』
俺はカトリーヌとコボルトたちに説明しながら子機を配置していく。
子機と子機の距離はおよそ三十メートルが限界だ。
そして、複数の子機とつながるように設置していく必要がある。
「複数とつながっていたら、一つが壊れても結界は維持されるからね」
「勉強になります!」『なるほどわんねー』
六十の子機を配置したことで、結界範囲を半径百二十メートルまで広げることができた。
「だいぶ土地に余裕ができたね。コボルトたち、自由に使っていいよ」
『やったわん!』『畑をつくるわんね!』
「畑を作る前に土壌改良魔法陣を描かないとね。だけど時間がかかるな……」
『ひろいわんからねー』
そんなことを話していると、カトリーヌを呼ぶノエルの声が聞こえた。
「かあさまー。こっちきてー」
「はいはい。今行きますよ。すみません。兄弟子。失礼します」
「ほいほい」
カトリーヌが去った後、俺はコボルトたちに言う。
「土壌改良の前に、あの辺りに家を建ててもいいかな?」
『いいわん!』『てぃるのおうちわんね?』『じるかが壊してしまったわんからねー』
初めて出会ったとき、ジルカは魔竜と戦いながら落下して、俺の家を壊してしまった。
『いえなら、たてれるわん!』『てぃるはまほうじんをかいてほしいわんね!』
「お、手分けして作業を進めるんだね。良い考えだ。助かるよ」
コボルトたちの建築技術は非常に高い。任せても安心だ。
『間取りの希望はあるわん?』
「前の家と同じで良いよ。あ、前よりも少し広い方が良いかな」
『わかったわん!』『まかせるわん!』
家の建築をコボルトたちに任せると、地面に土壌改良魔法陣を描いていく。
何度も描いているので難しくはない。だが、広いので時間がかかる。
「これから、もっと広くすることを考えると……」
俺の一生でできるとも思えないが、最終的に腐界を全て浄化することが目標だ。
そうなると、もっと効率的に魔法陣を描く方法を考えなければならない。
結界の子機もそうだ。より効率的で広い範囲をカバーできるよう改良した方が良いだろう。
「うーん。どうしたらいいだろうか……」
悩みながら俺は魔法陣を描き続けていった。
お昼頃になり、お腹が空いたので拠点の中心へと戻ることにした。
魔法陣は三割ぐらい描き終わったところだ。残りは午後にやれば良いだろう。
俺が戻ると、
『葉っぱの端が黒いのは毒草。赤いのは薬草』
「もっも」「ほえー」
モラクスの母、モニファスがミアを含めた子供たちに薬草の見分け方を教えていた。
モニファスは聖獣の中でも特に博識なのだ。
拠点内にはたくさんの草木が生えている。
それはコボルトたちが植えてくれた瘴気を出さなくなった魔草と魔樹なのだ。
その中には薬草だけでなく、魔メロンやパンの木、魔西瓜などの若木もある。
「なんかな? 葉っぱのはしがくろいとどくなのな? だけど、あかいと薬に――」
モニファスの言葉を、ノエルがフィロとカトリーヌに通訳しながら説明している。
「なるほど。モニファスさんは博識だなぁ。ノエルもモニファスさんの説明がわかって凄いよ」
「勉強になります。ノエルはモニファスさんの言葉がわかってすごいわ」
父母に褒められたノエルは嬉しそうだ。
「モニファス。以前父から黒と赤を混ぜると胃腸薬になると教わったのだが正しいか?」
そう尋ねたミアは真剣な表情だ。
『ただしい。胃腸薬になる』
「一度作ろうとして失敗してしまったのだが、どこが間違っていただろうか?」
『どうつくった?』
「まず、赤い葉の先端を――」
ミアの説明を聞いた後、モニファスは少し考える。
『手順が一つ抜けている。すりつぶす前に――』
モニファスは丁寧に説明し、それをミアをはじめとした子供たちは真剣な表情で聞いている。
エルフの里の大人たちは、子供たちに知識を伝えきる前になくなってしまった。
だから、ミアたちの知識には欠損が多いのだろう。
『あと、この毒草は、この細長い草と合わせると虫除けになる。作り方は――』
「も~」「わかった!」「わふ」「ぁぅ」「にゃ」
エルフの子らだけでなく、モラクス、ガルガル、ペロと子猫たちも真面目に聞いていた。
「ジルカたちはまだ見回り中かな」
朝食後、見回りに出たジルカとペリオス、ペリーナはまだ戻ってきていないようだ。
しかもジルカたちは見回りついでに食料も確保してくれるという。
「すごく助かるなぁ」
見回りも食料調達も、子供たちへの指導も、俺がしないといけないことだ。
中でも子供たちへの指導は、俺ではできないことをモニファスがしてくれている。
「モラクス、勉強したことを、後で俺にも教えてくれ」
『わかった。まかせて』
モラクスは鼻息をふんふんさせて、尻尾を振っていた。
そして、俺は勉強と建築作業を頑張るみんなのために、お昼ご飯をつくることにした。




