58 お昼ご飯の準備
「すぐに食べられるものがいいよな」
お昼ご飯の時間まで、もうあまり時間はない。
手の込んだ料理を作っていたら、みんなお腹が空いてしまう。
「そうだな。簡単に……パンに具材を挟んでサンドイッチにするか」
焼いたパンの実に肉や魔トマトを挟むと美味しいのだ。
俺がパンの実と魔猪の肉を焼いているとコボルトたちがやってきた。
『家ができたわん!』『みてほしいわんね!』
「おお、ありがとう。速いね! 料理を終えたら直ぐ行くよ」
俺は料理の手を止めてコボルトたちを撫でまくる。
『ごはんつくるのてつだうわんね!』
『なにつくるわん?』
「サンドイッチだよ。手伝ってくれるなら手を洗っておいで」
『わかったわん!』
『サンドイッチってなんでサンドイッチっていうわん?』
手を洗いながらコボルトたちが尋ねてくる。
「わかんない。なんかサンドイッチを考えた人がそう名付けたんだって」
『不思議な言葉だわんねー』
「ねー。天才の考えることはよくわかんないね」
サンドイッチを考えた天才は、醤油や味噌の製法を考えたものと同じ説がある。
もし本当なら、さすがに天才過ぎるので、ただの俗説だろう。
仮に本当だとしたら、異世界からの転生者説が真実だった可能性も検討しなければなるまい。
俺とコボルトたちが料理をしていると、
「さすが、ティル。家を建てるのも速いわね」
神殿から出てきたリラがやってきた。
リラは毎日神殿で色々とやることがあるらしい。
どの都市の神殿でも偉い神官が毎日祈りを捧げていたし、リラもそうにちがいない。
「建ててくれたのはコボルトたちだよ」
「あら、そうなの? コボルトたち、お見事ね。神殿を建ててくれたときも速かったものね」
『ほめられたわん!』『やったわん!』
リラはコボルトたちを撫でまくる。
「神殿でのおつとめは終わったのか?」
「うん。料理を手伝うわね」
「助かる」
俺とリラ、コボルトたちでみんなのお昼ご飯を作っていった。
「ティル。メニューは?」
「魔猪肉と魔トマトのサンドイッチ。美味しいし手軽だしな」
「あ、それなら良い物があるわ。ちょっと待ってて」
リラは小走りで神殿へと向かう。
『……あれわんね?』
『あれだわん』
「あれってなんだ?」
『えっと、しろくて、おいしいものだわん』
白くて美味しいものとは何だろうか。
俺が少しの間考えていると、リラが戻ってくる。
リラは手に大きめのボールと瓶を持ってきていた。
「はい。今朝作ったモッツァレラチーズ。魔トマトと凄く合うの」
『ちーず、だいすきだわん!』
「そして、瓶に入っているのはバター」
『ばたーもすきだわん!』
「おお! チーズとバター。どうしたんだ?」
「しばらく、モラクスがいなかったでしょう?」
モラクスは俺たちと一緒にノエルを探しに行って拠点を留守にしていた。
「その間、モニファスのお乳を飲む子がいなかったから」
リラが絞って保管していたらしい。
「おおー。そうか、モニファスの牛乳か!」
まだまだ赤ちゃんのモラクスは、いつもモニファスのお乳を飲んでいる。
「モニファスは乳の出がいいらしいのよ。モラクス一頭だと飲みきれないみたいで」
だから、俺たちが留守の間、リラが乳を絞って魔法の鞄に保管していたらしい。
「リラも魔法の鞄を持っていたのか」
「そうなの。ティルのお師匠様に作ってもらったのよ」
リラは何でもないことのように言うが、師匠が魔法の鞄を作るのは珍しい。
恐らくリラは師匠にとても気に入られているのだろう。
「子供たちにも飲ませたいから、あとで加熱を手伝って。魔法がないと大変なんだから」
聖獣の乳であっても、絞る際に色々な病気の元が混じることがあるそうだ。
加熱することで、病気の元を殺すのだという。
「あー確かに。牧場で手伝いをしていたときにたくさんやったよ」
「そうそう、凄腕の魔導師がいるとすごく楽なのよね」
病気の元を殺す方法には色々ある。
一般的なのは六十度ちょっとで三十分加熱し続けるものだ。
他にも七十五度で十五分加熱したり、百二十度で数秒加熱する方法もある。
一般的な六十度ちょっとで三十分加熱する方法なら、魔法を使わなくてもできる。
だが、火加減が大変で面倒だ。
火が強くなり過ぎたら牛乳が変質して膜を張って、風味が変わってしまう。
だからといって、火が弱かったら意味がない。
「このチーズとバターは私が慎重に加熱処理した牛乳から作ったから安心して」
「おお、ありがとう」
魔法を使わずに均一に加熱するのは難しい。量が多くなるほど、難度はあがるだろう。
だから、皆に飲ませる分まではできなかったようだ。
「チーズとバター作りは、コボルトたちが手伝ってくれたのよ」
『がんばったわんね!』『とくいだわん!』
「コボルトたちもありがとう。すごくおいしそうなチーズとバターだね」
俺が褒めると、コボルトたちは嬉しそうに尻尾を振る。
「ティルが牛乳の処理をしてくれたら、料理の幅が広がるわね」
牛乳からは熟成させるタイプのチーズや生クリームも作ることができる。
牛乳を飲めば、子供たちの成長にも良いだろう。
「楽しみだなぁ。モニファス様々だね」
『たのしみだわんねー』『もにふぁすさまさまだわんね』
「そうね。あとは卵を安定的に手に入れることができれば、いいのだけど」
俺も卵料理は大好きだ。栄養価も高い。
「魔鳥の卵を探しに行くしかないか」
「きっと美味しいと思うけど、安定的に手に入れるのは難しいわよね」
「そうだなぁ」
魔鳥を探すのが大変だし、巣を見つけ出すのも大変だ。
巣を見つけたとしても、卵がいるとは限らない。
「どちらにしろ、暇になってからだなぁ」
「そうねぇ。フィロにいって卵だけ運んでもらおうかしら」
もしかしたら、それが一番確実かもしれない。
『いい匂いがしてきたわん!』
「そうだね。焼きたてのパンの匂いって最高だよな」
『さいこうだわん!』
パンの実を上手に焼くと、焼きたてのパンの香りがするのだ。
『おにくをはさんでいくわん?』
「その前に、一手間加えようとおもって」
俺は焼きたてのパンの実を、二つに割って魔法で表面をカリカリに焼いていく。
『ふわぁ』『こんがりしている匂いだわん』
「そして、これを塗っていくわ。みんなも手伝ってくれたバター」
そこにリラがバターを塗っていく。
「ねね、ティル。みんな。このバターの匂いをかいでみて」
「ん? お、ニンニクの匂いがするね」
『うまそうな匂いだわん!』『よだれがでるわんね!』
「そう、ガーリックバターにしておいたのよね」
どうやらリラはバターを小分けにして、ガーリックバターも作っていたらしい。
「食べる前からうまいってわかるぞ」
『楽しみだわんねー』
コボルトたちはよだれを垂らしながら、尻尾を振りまくっている。
「そうね、絶対美味しいと思う。コボルトたち。中に具材を挟んでいって」
『まかせるわん!』
リラがガーリックバターを塗ったパンにコボルトたちが美味しい魔猪肉とトマトを挟んでいく。
『チーズと魔レタスもはさむわんねー』
コボルトたちは器用にモッツァレラチーズをスライスし、レタスと一緒に挟んでいく。
「おお、ありがとう」
『魔猪肉は薄切りにして、しょうゆのソースであじつけしておいたわん!』
コボルトたちは醤油と料理酒や砂糖などを使って美味しそうなソースを作ってくれていた。
「おお、ありがとう。コボルトたちは料理得意なんだなぁ」
「とにかく手先が器用なのよ。それに鼻と舌もいいから料理人としても優秀ね」
『ほめられたわん!』『うれしいわんね!』
俺たちはどんどんお昼ご飯を作っていく。
食べ盛りの子供たちのために、食べきれないほどの量を作っていった。
余れば魔法の鞄に入れて、保存できるので無駄にはならないのだ。




