第76話
「おい、だれか来るぞ!」
「顔をーー」
石造りの通路にこつこつと鳴り響く靴音を聞いて見張りが叫ぶが途中で無理やり黙らされた。
火薬庫を見張っていた8人はそこで死神を見た。
男だ、くしゃくしゃの黒髪を夜風になびかせながら片手にむき身の長剣を携えている。
「こ、こいつアダンだ!『薬の番人』の一人だ!殺せ!絶対に生かして帰すな!!」
「こっちの台詞だ。糞野郎ども」
それからは早かった。
剣術もくそもないとばかりに乱雑に振るわれたアダンの剣の前に見張りは次々倒され白かった石を深紅に染め上げた。
「俺はお前たちだけは殺す。何があっても、どんな罪をかぶろうとも」
「ひ、ひいい」
「じゃあな。あの世で総統によろしくと伝えてくれ」
かろうじて生き残った一人に、男は無情に剣を振り下ろした。
「さて、いよいよ大詰めだ。持てるだけ持っていこう」
火薬庫内部に入ったアダン。
当然のことだが中は小さめの樽に入れられた火薬で埋め尽くされていた。
そのうちの一つを手に取って残りの火薬は……
「この肥溜めに乾杯、二度と現れませんように」
己の手を酒杯に見立てて呷り樽の中身を床に盛大にぶちまける。
部屋中が火薬臭くなったところで外へと避難。
「あばよ」
近くにあったたいまつを部屋に投げこんだ。
「ヘルガ、見張りは俺たちがやってらァ。お前は休んでろ」
「断るわ。アダンが戦ってるんだもの。いつでも飛び出せるようにしておかないと」
「そうかい」
「言ってたら合図よ。行くわ」
バレリオとヘルガが話していると城壁の上から黒煙が上がるのが見えた。
「ようし……テメェ等突撃だ!!起きろ!行くぞ!!」
「突撃だ!!馬に乗れ!!早くしろ間抜け共!!」
そばに控えていたバレリオの側近とアルチュールが叫び、それに答えた兵隊が次々馬に騎乗する。
馬は少なくせいぜい300にも満たない数しかなかったがそれに乗る兵士たちは一騎当千のつわもの達。
役者に不足なし。
「後ろにいる奴らには一匹たりとも獲物はくれてやるな!食い尽くせ!!」
「突撃!!突撃ィッ!!」
そしてついに始まった。
そこに集ったすべてのムエルトの兵隊が前に前に駆け抜ける。
剣を、槍を、鎌を手に手に持ちやがて降るであろう矢の雨をも意に介さずに突撃、猛進する。
「俺たちの勝ちだ。いよいよ全部終わるぜ。アダン」
「一番槍は私が貰うわ」
先陣をきるのはヘルガだ。
布の鎧を身に纏い、切っ先の無い剣を半ば引きずるようにして敵の中心目掛けて真っ直ぐに駆ける。
「来なさいな。矢の雨鉄の雨降らせようがこの私を阻むことはかなわないわ」
爆発の混乱の最中、放たれた無数の矢が降り注ぎ駆けるムエルトの兵隊の身体を貫く。
だが誰も立ち止まらない、目の前の敵を目指し一歩、また一歩と前進する。
黒い波涛の如く、城壁の前の敵を次々になぎ倒していく彼ら。
戦いの決着は思いの外早かった。




