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薬の番人、旅をする  作者: 田上 祐司
最後の戦い 編
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最終話

 アダンが火薬庫を破壊し、バレリオ達ムエルトが突撃。

 戦闘は夜明けまでにはすべて終結した。


 「残念だったな。マブト」


 「……ああ」


 薄暗い夜明け前、バレリオに渡された葡萄酒にマブトは口をつけた。

 二人が背中を預けて座っているのは城壁だった場所。

 正面には門があり侵入者を阻むような造りになっていたのだが……


 「アダンの野郎、やりやがる」


 「ああ、見事なもんだ」


 二人が視線を送る先、そこには大きく口を開けた城壁。

 アダンが盗んだ火薬で爆破したのだ。


 「それにしても信じられねぇなァ……確かにそれは本物なのか?」


 「ああ、アダンの死体だ。顔面はつぶれてたけど服はあいつが着てたものと一緒だ」


 「そうか……仲間が死ぬのはきついな。いつもどんな時もよ」


 「同意するぜ」


 爆発に巻き込まれたのだろう。

 城壁内部にアダンは吹き飛ばされて転がっていた。

 顔面がつぶれ手足があらぬ方向に曲がった状態で。


 「いつまでも落ち込んじゃいられん。俺は仕事に戻るぜ。残党狩りだ」


 「俺は行くよ。アダンちゃんの死体はもう見たくない」


 「そうか……いずれ葬式を挙げてやる。思いっきり盛大にな。その時はお前も来い、マブト」


 「ああ」






 ただ一人でバレリオ達から離れふらふらと歩き始めるマブト。

 海岸線を一人で歩いて歩いて歩き続けた。

 そうして城壁すらも見えなくなったところで……


 「そろそろ出てきていいんじゃないか?アダンちゃん」


 だだっ広い海岸、岩場が無数にあるのだがマブトはそのうちの一つに話しかけた。


 「もう俺以外に誰もいないぜ」


 「そうかい」


 岩がしゃべった。


 「ったく、ごまかすのに必死だったぜ。少しは俺の気持ちも考えろ」


 「いいだろうが別に」


 岩陰から現れたのは顔や服に泥を塗りたくったアダンの姿。

 

 「背格好がおんなじ男に自分の服着せて顔をつぶすか。ちゃちな偽装だ。すぐに気が付くぞ。早くずらかろう」


 「ああ、そのつもりだが……すまんなバレた」


 「ああ?」


 顔に付いた泥を拭うアダン、だったが二人の後方から歩いて追いかけてくる人間の姿が見える。

 切っ先の無い長剣を担ぎ血の付いた白金の髪をなびかせる女……


 「ヘルガね……もう見飽きたぜ。アダンちゃん」


 「なんだ?」


 「しっかりけじめつけてこい」


 「ああ」


 アダンはまっすぐ歩きだした。

 砂浜に足跡を残しながら、ゆっくりと……

 そしてお互いの手が届く距離まで近づいた。


 「……やっぱり生きていたわね。アダン」


 「ようヘルガ。なんでわかったんだ?」


 「死体に古傷がほとんどなかったもの。あなたを知っている人間ならすぐに気が付くわ」


 「そうかい。で?見逃してくれるか?」


 「見逃すわけないでしょう?」


 片手で構えられるヘルガの剣。

 斬ってみろと彼女の蒼の瞳が言っている。

 対するアダンは腰の長剣を抜き放って答えた。

 来い、と。


 「罠と暗器は使わなくていいの?アダン」


 「たまにはいいもんさ。剣を振り回すのは」


 お互いの切っ先が触れた。

 次の瞬間だった。



 『俺の勝ちだ』



 全身全霊を込めて勢いよく放たれるアダンとヘルガの二つの斬撃、そのどちらもがただの一振りで命を刈り取るもの。

 そして勝利したのは……アダンだ。


 「……やる、わね」


 「お前がさっきの戦いで消耗してなけりゃ負けてたさ」


 「ずるい男ね……わかっててやった」


 切り裂かれた腹から血を流し膝をつくヘルガ。

 不思議なもので彼女のその顔に憎悪や怒りの色は見えなかった。

 ただただ清々しい、そう思えた。


 「じゃあなヘルガ。俺は行く」


 うっすらと笑みを浮かべながら踵をかえして去っていくアダン。

 薬の番人は旅をする。

 どこまでも、どこまでも。


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