第74話
(バレリオの野郎……随分焦って仕事したな)
現在のアダンはというと、マブトをバレリオ達に預けて単身松明輝く城壁を目指していた。
馬を使って側面に回り込み、そこから夜の闇に紛れて一気に城壁に登る。
後は城壁を破壊するなり暴れるなりすきにしてくれ。
これがバレリオから提示された作戦とも呼べないような作戦だ。
(それにしても、まさかヘルガどころかあいつらまで居るとはな)
同時刻、ムエルトの陣中にて。
「バレリオ殿、そちらの精鋭から突撃なされると?」
「そのつもりだ、今回の戦は俺達の物。俺達が先陣きらなきゃ意味がない。俺達親衛隊とヘルガで先に突撃、その後ろから貴方のお役目だ」
バレリオに苦々しい表情を浮かべつつ話しかけているのは初老の男性、阿片畑で子供を助けたシードル騎士団の団長であるアルチュール士爵だった。
「士爵殿」
「残念だが今は伯爵です。士爵はやめていただきたい。ああそうだ!アダン君に私そびれたものがあった!」
話をしている最中、アルチュールは声をあげた。
鎧で覆われた懐から必死に何かを出している。
綺麗に折られた紙に封蝋がされた手紙だ。
「なんだァ?そりゃ」
「ここにくる前、ある牧場で羊を買ったのです。その時に牧場主にアダン君の事を話したらこれを渡してくれと言われまして」
慌てた様子でアルチュールは周囲を見渡すが当然アダンは居ない。
どうしたものかと手紙に目を向けると……
「読んじまえ」
バレリオはそう言うが他人の手紙を読むのは気が引ける。
だが同時に興味もあった。
「神様お許しください」
手紙を開けて読んでみる。
『アダン、あの時は助けてくれてありがとう。どうせまだ何処かをほっつき歩いてるんでしょうから手紙を送ります。旅に疲れたり、悲しくなったり、逃げたくなったりする時はいつでもここに戻って来てください。ちょっぴりでも、私が貴方を癒せるように努力します。どうかご無事で。
貴方の カリーヌ』
二人は手紙を読んでお互いの顔を見合わせた。
「『貴方の』……なんだ?」
「『恋人』とでも書こうとしたんだろ。あの野郎……女作ってやがったのか。隅におけねぇ野郎だ」
「これを渡すためにも、帰ってきてもらわないといけませんな。バレリオ殿」
「あァ……ひっぱたいてやるぜ」
別の場所にて。
「…………………………」
一人無言で焚き火の前に座り込み、石で剣を研ぐヘルガの姿がそこにはあった。
『お前は俺達と一緒に正面から突撃してもらう。昔みたいに暴れてやれ!』
この場には居ないバレリオからの命令だ。
実にわかりやすい。
「……シーロが死んで、ロレッタが死んで。とうとう『薬の番人』は3人になっちゃったわね」
焚き火に照らして剣の研ぎ具合を確かめる。
(悪くないわね)
「……アダン、貴方は必ず生きて帰ってきなさい。私を殺せるのは貴方だけ、貴方を殺せるのも私だけなのだから」
剣をアダンが居る城壁に向け、届くわけもない声でそう言った。




