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薬の番人、旅をする  作者: 田上 祐司
最後の戦い 編
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第72話

 「こりゃすごいな。どこまで続いてるんだ?」


 「わからんが間違いなくこの先にバレリオがいる。さっさと行くぞ」


 少年の家を後にして南に行くために交易道へと出たアダンとマブト。

 二人が見たのは南へと向かう武装した人間の数々。

 鉄鎧を付け長剣を帯びた騎士もいれば収穫用の大鎌を持った農民もいる。

 とにかく大量の人間が南を目指して歩いていた。


 「南端ってなると何日かかる?」


 「3日ってところだ。もともと南に進んでたのがよかったな」

 

 二人はその集団についていくことにした。


 




 歩き始めて二日目の夜。

 道端に所狭しと幕舎が立ち並んでいるなか、そのうちの一つにアダンたちはいた。


 「なあアンタら、なんで南に向かってる?」


 一緒に南に向かう人間になぜ向かうのか聞いてみた。

 荷車を引く彼らはかなりの量の食料を抱え、護衛には木の枝を尖らせただけの槍を持たせている。

 食料の運搬係だろう。


 「戦争さ」


 帰ってきた答えはこれ。


 「戦争?どこと?」


 「隣の国から流れてきた罪人共とだ。俺たちは正義の味方『ムエルト』様だぜ」


 「そうか、だがたかだか流れてきた犯罪者なんて数が知れてるだろ?こんな大所帯でやる必要なんてないはずだ」


 アダンの言葉に彼らは渋い顔をする。


 「それだがな、どうにも苦戦してるらしい」


 「苦戦?」


 「ああ、南には大きな港と都市があってな。そこに敵の拠点があるらしい。けど海の向こうから仕入れた最新型の武器や地形が邪魔で攻めきれないんだと」


 「ほう」


 「そこで俺たちの出番よ。数に任せて突撃して無理やりぶち破るのさ」


 「……そんなことしたら、あんたら死ぬかもしれないんだぞ?それでもいいのか?」


 「覚悟の上さ。それにムエルトには世話になってる。無視なんてできないさ」


 「そうか。邪魔したな」


 「ああ、兄ちゃんも死なないようにな」


 「ああ」


 穏やかな口調で語る彼らだったがその眼には一歩も退かないという確かな覚悟があった。

 バレリオが一体彼らにどんなことを吹き込んだのかは不明だが、よほど求心力があるのだろうことは見て取れる。


 「よう、葡萄酒もらってきたぞ。飲もうや」


 「ああ、ありがとよ」


 話がちょうど終わったころ、マブトが素焼きの器に葡萄酒を入れて持ってきた。

 口をつけて飲んでみるが、雑味がある。


 「不味いな」


 「贅沢ぬかすな」

 

 笑いかけながらマブトも一口飲む。


 「で?情報は手に入ったかい?」


 「まあな」


 「そうかい、んじゃこの戦いの後……それから先どうする?」


 「それから先?」

 

 なぜか照れくさそうにするマブト。


 「お前さん、今後の目標は?」


 「……無い」


 アダンがそう答えるとマブトは子供のように無邪気な笑みを浮かべながら瞳を輝かせた。

 

 「だったらよ。俺の国に来ないか?」


 「なんだって?」


 予想外の答えが返ってきた。


 「俺の国、盗みやらなんやら犯罪者が沢山いてな。けどいい奴らも沢山いる。俺の兄弟もだ。そこにお前が来たとしてもだれも気にやしないさ。きっとお前も気に入る。人として当たり前の幸せだって手に入るはずさ」


 「マブト……お前」


 「どうだ?まあこの戦いが終わってからだろうけどな」


 「……酒こぼしてるぞ」


 「何?うわっと本当だ!」


 「……ありがとうよ」


 聞こえるか聞こえないか、小さな声でアダンはそう呟く。

 そのあとに飲んだ酒は不思議なことに先ほどまで不味いと思っていたにもかかわらずとても美味く感じた。



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