第71話
『地獄で貴方を待ちますよ。師匠』
聞きなれたその声が夢の中で聞こえ、一気に覚醒。
アダンは誇りまみれのベッドから飛び起きた。
「起きたか、この寝坊助」
「ここは……」
上半身だけを起こして周囲を見渡してみる。
必要最低限のものしかない粗末な家。
そこにアダンとマブトは居た。
「夜明けか。結構寝たんだな」
「馬鹿、3日寝てたわ」
「ハッ!?」
マブトの言葉に動揺した。
「あ、やっと目が覚めたんだね。兄ちゃん」
3日も眠り続けていた事実に呆然としていると、扉を開けて入ってくる子供がいた。
手に持っている籠の中にはチーズとパン、塩漬け肉が入っているようだ。
「ご飯食べながらにしようか」
「……ああ、そうしよう」
アダンは彼の持ってきた食事に目が釘付けだ。
「で、僕を射ったのは兄ちゃんだよね?」
「やっぱりあの時の……」
林の中でロレッタと間違えて射った少年、それが目の前でチーズをかじっている彼だった。
「先に言っとくけど別に恨んではいないから」
「そうか……すまん」
「あのお姉ちゃんの話に乗ったのは僕だから。気にしないで」
「……その姉ちゃん、ロレッタは何か言ってなかったか?」
「いいや、何も」
「そうか」
伏目がちになるアダン。
そんな時、少年が何かを思い出した。
「あ、けど初めてそのお姉ちゃんに会った時、なんていうか……その」
「なんだ?」
「とても悲しそうな目をしてた。手も震えてたし」
「そうか……」
(ロレッタ、まじめすぎるな。お前って奴は)
ロレッタはアダンを倒すための手段として身代わりを作った、だが完全には良心が捨てきれていなかったようだった。
アダンとマブトは少しだけ笑みが浮かんだ。
「??」
「ああすまん。ありがとう。そろそろ出なきゃならんな。礼金は……」
「もう払ったぞ?」
「どこから?」
「お前の財布から」
いやな予感がする。
「あ、ああ……」
マブトから受け取った財布を見たとき、アダンは再び気絶した。
これからの旅に必要になる路銀すらきえていれば当然か。
「寝ちまった」
「疲れてたんでしょ」
「で、お前が言ってた南の話なんだが……」
「がふ、もがもががっふはふ」
「だめだ聞いちゃいない」
再び起き上がったアダンは少年が買ってきた食糧にがっついていた。
少量の葡萄酒、チーズ、パンと少年の家にあった麦で作った粥、それらをほぼ噛まずに無理やり腹に流し込む。
その食べ方といえば育ちがさしてよくないマブトですら引いてしまうほど。
とてもじゃないが褒められたものではない。
(靴にへそくりを隠しといてよかったぜ)
「ええいちっと手を置け!お前が寝てる間にいろいろ情報を仕入れてきたんだからな!」
「情報?なんだそれ」
ようやく手を止めたアダン。
「南にお前の仲間が集まってる」
「仲間だと?」
「バレリオだ。あいつが仲間を国中からかき集めて南端に送ってる」
「あいつが?」
バレリオ、硝子の街で再会した『薬の番人』の一人……
組織の残党を集めて新たに組織を作ったと話していたが。
「それだけじゃない。海上からもだ。海軍の船を借りてるらしい」
「借りる?そんなのできるわけ」
「それがどうやら本当らしい。なんなら兵器に物資も大量に借りてるみたいだ。他にも騎士団の人員、農民、軍人、傭兵、挙句の果てには学校の先生なんかも南に向かってる。関所も止められてないみたいだ」
「……バレリオの野郎、どんだけ組織を拡大したんだ?」
「行ってみようぜ。そうすりゃわかる」




